2020年 SFメディアで注目された25の話題 | VG+ (バゴプラ)

2020年 SFメディアで注目された25の話題

2020年話題になった記事をピックアップ

2020年は新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、人類にとって忘れがたい一年になった。そんな中でもSFに関する様々なトピックが登場した。2019年は『流転の地球』公開、MCUのフェーズ3完結、『三体』フィーバーに『ザ・ボーイズ』のヒット、『デス・ストランディング』発売など、SFに関する話題は盛り沢山だったが、2020年は一体どのような年になったのだろうか。バゴプラでは全てのSF関連ニュースをカバーできているわけではないが、それでも、いくつかの大きなニュースは押さえることができただろう。2021年に向けて、復習しておこう。

2019年の話題はこちらの記事から。

映画部門

1. 相次ぐ公開延期

2020年まで最も勢いがあったSFコンテンツは、おそらく映画だった。だが、今年最も苦しんだのは映画界だろう。コロナ禍にあって、期待のSF大作映画が次々と公開延期に。『DUNE/デューン 砂の惑星』『ブラック・ウィドウ』といった期待作が続々と翌年以降の公開に延期された。また、ピクサーの『ソウルフル・ワールド』やディズニーの『ムーラン』、韓国のSF大作映画『勝利号』などは劇場公開から動画配信プラットフォームでの公開に変更された。

そんな中でも奮闘したのはDC映画で、『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』『ワンダー・ウーマン1984』を劇場で公開。『ハーレイ・クイン』は緊急事態宣言前の3月20日に公開。シスターフッド映画として人気を集め、SNS上ではミソジニーについてのユアン・マクレガーのコメントに注目が集まった。

2. 『TENET テネット』公開

映画界に苦難が訪れる中、9月に公開されたのはクリストファー・ノーラン監督最新作『TENET テネット』。興行的には映画業界を再起動するには至らなかったが、圧倒的スケールの“SF映画”を劇場にカムバックさせ、映画ファンを喜ばせた。また、ドラマ『マンダロリアン』の音楽を手掛けたルドウィク・ゴランソンによるサントラは逆再生バージョンまで公開され、注目を集めた。

なお、日本国内では『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が歴史的大ヒットを記録。ジブリ映画『千と千尋の神隠し』を上回る国内の歴代最高興行収入を記録した。

3. 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』が再ブームに

映画館が苦戦する中、日本国内ではテレビ放映の映画がSNSを騒がせることが多くなった。中でも、日本テレビの「バック・トゥ・ザ・フューチャー」三部作の一挙放送は大きな話題に。バゴプラでの特集も注目を集めた。

4. 『ジョーカー』がアカデミー賞2冠

2019年に公開され、アカデミー賞11部門ノミネートを果たした映画『ジョーカー』から、アーサー役のホアキン・フェニックスが主演男優賞を、音楽を手掛けたヒドゥル・グドナドッティルが作曲賞を受賞した。ホアキン・フェニックスが同賞を受賞したことで、“ジョーカー”は『ダークナイト』でのヒース・レジャーの助演男優賞受賞と合わせて、アカデミー賞主演男優賞と助演男優賞をダブル受賞したキャラクターになった。

おまけ

2020年は、実写映画『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』も公開されたが、同作に出演したジム・キャリーが1998年公開の名作SF映画『トゥルーマン・ショー』の“その後”についてコメント。ジム・キャリーが考えるトゥルーマンの意外な末路は話題になった。

また、実写版『メタルギア ソリッド』の主演をオスカー・アイザックが務めることが発表され、2019年に大ヒットを記録した中国SF大作の続編『流転の地球 2』の製作が決定するなど、今後に向けて楽しみなニュースも数多く聞かれた。

小説部門

5. 中国SFの快進撃が続く

日本では3月にケン・リュウ編の中国SFアンソロジー第2弾 『月の光』が発売、6月には劉慈欣の『三体2 黒暗森林』、立原透耶編『時のきざはし 現代中華SF傑作選』が刊行された。10月には『S-Fマガジン』で中国SF特集が組まれている。そして、中国SFの金字塔『三体』が遂にNetflixでドラマ化されることも決定した。

また、郝景芳の『折りたたみ北京』も映画化が決定『最後の勇者』も映像化の報道が出ている。

6. 各SF賞発表

今年もSF各賞の発表が行われた。第40回日本SF大賞に選ばれたのは『宿借りの星』と『天冥の標』、特別賞に『年刊日本SF傑作選』が選ばれた。第51回星雲賞の長編小説部門には『天冥の標』が選ばれ、日本SF大賞とのダブル受賞を果たした。12月24日には、2019年のセンス・オブ・ジェンダー賞も発表されている。

英語圏のSF賞では、ネビュラ賞ヒューゴー賞ローカス賞の各賞の結果をご紹介した。

7. 中国以外の海外SFも充実

東京創元社からN・K・ジェミシン『第五の季節』、チャーリー・ジェーン・アンダーズ『空のあらゆる鳥を』、早川書房からメアリ・ロビネット・コワル『宇宙【そら】へ』など、SF各賞を受賞してきた重要作がリリースされた。また、早川書房から18年ぶりに年代別の海外SF傑作選が復活。橋本輝幸が編んだ『2000年代海外SF傑作選』『2010年代海外SF傑作選』が発売された。

この他にも、ピーター・トライアスによる「USJ」三部作完結編『サイバー・ショーグン・レボリューション』や、竹書房『シオンズ・フィクション イスラエルSF傑作選』など、注目の作品も続々刊行されている。

竹書房
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8. かぐやSFコンテスト開催

バゴプラが、第一回かぐやSFコンテストを開催。4,000字以内のSFショートショート作品を募り、英語と中国語への翻訳を賞品とした。海外に向けて作品を書いてもらうこと、短編で評価される場所を創り出すことを目的に実施し、審査員長・橋本輝幸、審査員・井上彼方、バゴプラ編集部のもとに416編もの応募作品が寄せられた。71作品に及ぶ選外佳作の選出と作品リンクの掲出、音声形式での選評の公開、筆者匿名での読者投票など、ウェブの特性を生かした新たな施作を次々と実行した。

第一回かぐやSFコンテストは、前年にスタートしたブンゲイファイトクラブで形成されたコミュニティや、既存のSFの書き手、新たな書き手、そして読み手が合流し、SNS上で大きな盛り上がりを見せた。そして、11編の最終候補作品から勝山海百合の「あれは真珠というものかしら」が大賞に選ばれ、佐伯真洋の「いつかあの夏へ」が読者賞に、大竹竜平「祖父に乗り込む」が審査員長賞、坂崎かおる「リモート」が審査員特別賞に選ばれている。勝山海百合「あれは真珠というものかしら」大竹竜平「祖父に乗り込む」は10月に英中訳が公開された。

もちろん、既存の公募SF賞も活発で、第8回ハヤカワSFコンテストでは十三不塔「ヴィンダウス・エンジン」と竹田人造 「電子の泥舟に金貨を積んで」 (出版時に『人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル』に改題) が優秀賞に選ばれ、第11回創元SF短編賞は折輝真透「蒼の上海」が受賞、第4回ゲンロンSF新人賞は榛見あきる「踊るつまさきと虹の都市」 が受賞、日経星新一賞は白川小六「森で」がグランプリを受賞している。

9. Toshiya Kameiが日本のSF掌編を世界へ

2020年は、翻訳者Toshiya Kameiが次々と日本のSF掌編を翻訳、海外媒体へ投稿し、発表されていった。麦原遼梶舟景司牧野楠葉佐伯真洋坂崎かおるら、数多くの作家が英語圏デビューを果たした。また、勝山海百合は800字以下で書かれた“てのひら怪談”の英訳が次々と海外の媒体で紹介されるなど、日本のSF作家が海外で活躍するための新たな道筋を示してくれた。

10. Kaguya Planet 始まる

これらの経験を経て、バゴプラではSF短編小説の定期掲載プロジェクト Kaguya Planet をスタート。3ヶ月の準備期間を経て、2020年12月27日に第一弾の4作品を公開した。先行公開された4作品は、揚羽はな「また、来てね!」、藤井太洋「まるで渡り鳥のように」、正井「宇比川」、蜂本みさ「冬眠世代」で、既にSNS上で話題を集めている。

Kauya Planetのコーディネーターを務めるのは、第一回かぐやSFコンテストで審査員を務めた井上彼方。Kaguya Planetの詳細はこちらから。

アニメ部門

11. 小松左京『日本沈没』が初のアニメ化

小松左京の名作SF『日本沈没』がNetflixでアニメ化されて7月に配信を開始した。アニメ『日本沈没 2020』を手掛けたのは、『DEVILMAN crybaby』を手掛けた湯浅政明監督。これに先駆け、6月には『小松左京アニメ劇場』のオンライン配信がスタート。12月には上田早夕里の解説が付いた『日本沈没』の新装版も発売された。2021年10月からはTBSで小栗旬主演の新ドラマ『日本沈没ー希望のひとー』が放送される。

12. 『攻殻機動隊 SAC_2045』配信開始

「攻殻機動隊」シリーズ最新作『攻殻機動隊 SAC_2045』が4月にNetflixで配信を開始した。シリーズ初の3Dアニメとして制作された同作は、神山健治と荒牧伸志がダブル監督を務めた。

また、Netflixで先行配信されたTRIGGER最新作の『BNA ビー・エヌ・エー』も2020年の話題作の一つ。バゴプラでは全話の解説記事を公開した。

13. 『鬼滅』フィーバー

前述の通り、『鬼滅の刃』が大フィーバーを巻き起こし、劇場版が国内興収の最高記録を達成した。実は、2月16日に発表された米アニメアワードでは、『鬼滅の刃』は最優秀作品部門を含む3部門を制覇していた。

14. 『映像研には手を出すな!』も話題に

SF作品として大きな注目を集めたのはアニメ化された『映像研には手を出すな!』。『日本沈没 2020』と同じく湯浅政明監督がアニメ化を手がけ、実写ドラマ化および映画化もされた。

15. 『打ち上げ花火』記事に大きな反響

8月、2017年に公開されたアニメ映画『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』が金曜ロードショーで放送。これに合わせてバゴプラで公開した記事「無批判なセクハラ描写に注意 アニメ映画『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』」に多くの反響が寄せられた。その多くは、メディアとして同作の問題点を指摘したことに対する好意的な反応で、同記事はバゴプラの年間最多アクセスを記録した。

ドラマ部門

16. 『ザ・ボーイズ』シーズン2、Amazonドラマの追撃

SFドラマでは、Amazonが奮闘。2月にAmazonスタジオがSF作品に“倍賭け”していることが明らかになると、4月にシモン・ストーレンハーグ原作のドラマ『ザ・ループ TALES FROM THE LOOP』を公開。5月にはコメディSFドラマ『アップロード ~デジタルなあの世へようこそ』の配信を開始し、一躍人気作品に。9月には人気ドラマ『ザ・ボーイズ』から待望のシーズン2が公開され、映画作品が影を潜めたエンタメ業界で一際輝きを放った。『ザ・ボーイズ』シーズン2は第7話が突如削除されたことも話題になった。

また、SF作家で翻訳家のケン・リュウ原作ドラマ『The Cleaners』の製作も発表されている。

17. 『マンダロリアン 』シーズン2、Disney+の台頭

日本ではディズニーの動画配信サービスDisney+が6月にスタート。これを機に多くのユーザーがドラマ『マンダロリアン』に触れ、10月より『マンダロリアン』シーズン2の配信が始まった。12月に最終話が配信され、既にシーズン3の配信に期待が高まっている。また、2021年からはMCU (マーベル・シネマティック・ユニバース) のドラマ作品『ワンダヴィジョン』が1月15日から、『ファルコン&ウィンター・ソルジャー 』が3月19日から、『ロキ』が5月から配信される予定だ。

18. 打ち切りの連鎖、Netflixの不安

Netflixは2020年も多種多様なSFドラマを届けてくれた。『サンガプ屋台』『保健教師アン・ウニョン』といった韓国のSF・ファンタジードラマも注目集めた。一方で気になったのは、SFドラマの相次ぐ打ち切りだ。新型コロナウイルス感染症の拡大後、『ノット・オーケー』や『ザ・ソサエティ』 『オルタード・カーボン』 『AWAY ー遠く離れてー』といった人気ドラマが相次いでキャンセルされた。『アンブレラ・アカデミー』『ストレンジャー・シングス』など、数々の人気SFドラマを生み出してきただけに、2021年の動向が気になるところだ。

ゲーム部門

19. 『サイバーパンク 2020』発売!

待ちに待ったSFゲーム『サイバーパンク 2020』が12月10日に発売された。発売後は多くのバグが発覚したため販売中止となり、返金の受付が始まったが、それでも多くのファンは同作に熱狂。中国でもローカライズに力を入れ、ゲームファンたちに受け入れられている。

トピック部門

20. #BLM との連帯

アメリカ黒人への不当な暴力に抗議する#BlackLivesMatterが拡がりを見せ、アメリカSFファンタジー作家協会 (SFWA) も黒人作家への支援を表明した。『不思議の国の少女たち』でネビュラ賞・ヒューゴー賞・ローカス賞の中長編小説部門で三冠を達成した作家、ショーニン・マグワイアが、黒人作家やトランスジェンダーの作家を支援することの重要性を発信するなど、SF界にも連帯の輪が広がった。マーベル、ディズニー、ワーナーなど、映画スタジオも連帯を表明、マーベルコミックスは黒人作家のコミック100作品以上を期間限定で無料公開した。

21. SFFH有志が日本学術会議への強制介入に抗議

11月に行われた米大統領選でジョー・バイデン候補が現職のドナルド・トランプ大統領を破って当選を果たすと、米SF界はお祝いムードに。一方の日本でも、安倍政権を引き継いで誕生した菅政権による日本学術会議への強制介入に抗議するSF・ファンタジー・ホラー関係者有志の声明が発表された。署名サイトでは、声明に賛同した関係者によるコメントも掲載されている。

22. 中国・北京に“SFシティ”構想

11月に開催された中国科幻大会にて、北京市が同市の西部に“SFシティ”を建設する計画を発表した。2021年末までにSFをテーマにした遊園地の建設完了も目指すという。日本では衝撃をもって迎えられたこのニュースだが、同大会では、2019年の中国におけるSF市場が1兆円規模に達していることが報告されている。

23. 日本SF大会が延期

毎年夏に開催されている日本SF大会が、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で延期に。福島で開催される予定だった “F-CON” は、2021年3月13日〜14日に開催されることになった。毎年日本SF大会で発表されている星雲賞は動画配信で発表されたが、授賞式は同大会にて行われる。なお、毎年秋に開催されている京都SFフェスティバルは、DiscordとZoomを活用し、完全オンラインで実施された。

24. 世界SF大会がバーチャル開催

ニュージーランドのウェリントンで開催される予定だった2020年の世界SF大会 (ワールドコン) 、CoNZealandはオンライン開催に。日本からは、小谷真理、勝山海百合、藤井太洋、橋本輝幸、八島游舷など、日本から多くのSF関係者らが企画に出演した。計600以上の企画がDiscordとZoomを活用して開催され、ヒューゴー賞の発表もオンライン配信で行われた。2020年は、ワールドコン以外にも複数のSFイベントがオンラインで実施され、藤井太洋や橋本輝幸らが積極的に登壇し、発信を行った。日本から海外のローカルなSFイベントに出席するファンも現れ、SFイベントの新たな可能性を示す一年にもなった。

25. 「世界SF作家会議」が放送

7月、フジテレビで「世界SF作家会議」が放送された。いとうせいこうが司会を、大森望が顧問を務め、新井素子、冲方丁、藤井太洋、小川哲の4人の作家が「アフターコロナの世界」をテーマに議論を繰り広げた。さらに、『三体』の劉慈欣が寄せたビデオメッセージも公開された。なお、放送日の7月26日は小松左京の命日であり、番組の最後には1970年に開催された国際SFシンポジウムに倣い、小松左京による趣意書を引用した共同宣言が読み上げられた。困難な時代にあって、「未来の文学」としてSFが持つ可能性が改めて提示されることになった。

おすすめインタビュー

最後にバゴプラが2020年に掲載したおすすめのインタビュー記事をご紹介する。2020年、バゴプラでは、SF同人誌を発行するSFGとの共同取材をスタート。『時のきざはし 現代中華SF傑作選』を編んだ立原透耶へのインタビューと、『ゲームの王国』で日本SF大賞を受賞し、『嘘と正典』で直木賞候補に選ばれた小川哲へのインタビューを掲載した。小川哲へのインタビューは、ライターの梅澤レナによるもの。どちらのインタビューも、翻訳や執筆についての具体的なエピソードを知ることができる。

 

2021年も、バゴプラでは最新の情報と独自の記事、そしてKaguya Planetから新たなSF短編をお届けしていく。

2021年も宜しくお願い申し上げます。

VG+編集部

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