「クワイエット・プレイス」シリーズ最新作
アメリカの田舎町を舞台に、音を立てると即座にクリーチャーが襲撃してくるという絶望的な設定のホラー作品として高い評価を受けた『クワイエット・プレイス』(2018)。その続編である『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』(2021)に続く「クワイエット・プレイス」シリーズ最新作として、2024年6月28日(金)に『クワイエット・プレイス:DAY1』が全国劇場公開された。
『クワイエット・プレイス:DAY1』は『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』の続編ではなく、『クワイエット・プレイス』の前日譚に当たる作品である。クリーチャーが空から降って来た日、大都市ニューヨークでは何があったのか。それをサミラと猫のフロドの視点から描いている。本記事では『クワイエット・プレイス:DAY1』のラストの解説と考察をしていこう。なお、以下の内容は本作の結末に関する重大なネタバレを含むため、必ず劇場で本編を鑑賞してから読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『クワイエット・プレイス:DAY1』の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
『クワイエット・プレイス:DAY 1』ラストネタバレ解説
最初の日
末期癌で麻酔の貼付薬が手放せないサミラは、小さなもみの木というホスピスで暮らしていた。周囲に悪態をつきながらもジャズピアニストだった父親との思い出の詰まったパッツィのピザという店に行けることを期待して、終末医療の一環としてマリオネットショーを観に、猫のフロドを連れてマンハッタンへ行きのバスに乗ることを決めた。
サミラの愛称はサムであり、猫の名前のフロドと合わせるとJ・J・R・トールキン原作の『指輪物語』の主人公たちの名前になる。これは『クワイエット・プレイス:DAY1』に『指輪物語』のオマージュがあることを監督のマイケル・サルノスキが公言しており、「その旅を通して人々が互いに支え合うことが、この作品の重要な部分です」と米Entertainment Weeklyのインタビューで回答している。
サミラはジャイモン・フンスー演じるアンリと出会っているが、彼は前作『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』で安住の地を築いていた島の長である。島の長はニューヨークから脱出するときに悲劇が起きたことを『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』で語っており、それを描いたのが『クワイエット・プレイス:DAY 1』だと考察できる。そうして語られていた通り、マンハッタンに隕石が降り注ぎ、クリーチャーが跋扈する地獄絵図と化していくのだった。
エリックとの出会い
クリーチャーが本土に上陸することを恐れた軍によってマンハッタンと本土を繋ぐ橋はすべて空爆されてしまう。さらに嵐が訪れ、生存者たちが絶望の淵に叩き落される中、サミラは最期の夢だった思い出の詰まったパッツィのピザを食べるという希望を抱いて猫のフロドと共に旅に出るのだった。
その旅に猫のフロド以外に新たな同行者が現われる。同行者の名前はエリックで、クリーチャーの襲撃を浸水した地下鉄に潜ることで生き延びた法律学専攻の学生だった。恐怖から生きる希望を失っていたエリックは、サミラのパッツィのピザを食べるという希望に自分も希望を抱くようになる。
サミラは末期癌によって全身に激痛が走り、苦しみ始める。末期癌によって全身に激痛が走り、叫びたくなってしまうという状況は『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』のエメットの妻を想起させる。エリックは薬を探しに街に出るが、そこで逃げ出したフロドを見つける。フロドは茸のような物の傍におり、その茸はクリーチャーたちの食糧になっていた。エリックはフロドを救いつつ、その場から脱出しなければならなくなる。
パッツィのピザ
何とか薬を手に入れて窮地を脱したエリックは、サミラに薬を渡してパッツィのピザに向かう。しかし、パッツィのピザは最初のクリーチャーの襲撃で全焼しており、サミラの思い出はすべて灰と化していたのだった。希望を失うサミラだったが、その希望はエリックに受け継がれていた。エリックはサミラの父親がピアノを弾いていた店に案内するように頼む。
そして、エリックは残っていた違うピザ屋のピザを一つ持ち帰ると、その箱にペンで「パッツィ」と書き、サミラと共に食べるのだった。エリックはマジックを披露するなどすると、サミラの顔に笑顔が戻っていく。そしてサミラは生きていることを実感するのだった。
末期癌の激痛により、マンハッタンの教会で寝込んでいたときにエリックの上着を借りていたサミラはエリックに自分の上着を渡す。上着を交換する形になったエリックとサミラはサウスストリートのシーポートから出ている避難船を目撃する。そして、サミラとエリックは避難船に乗る計画を立てるのだった。
生きている実感
この一隻だけの避難船は島の長が語っていた脱出する際の惨劇の船だと考察できる。『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』では、島の長は「最初の船が上手く岸を離れるのを見ると途端に我先にと船に乗ろうとしたよ。その時皆が大声を出した。その日は船着き場に12隻の船が停泊していたが、出たのは2隻だけ」と語っている。そのうちの一隻がこの船だと考えることができる。
サミラはフロドをエリックに託し、船着き場の近くに止められていた車を片っ端から壊し始める。そうすると車の警報が鳴り響き、クリーチャーたちが車へと引き寄せられていくのだった。エリックはその隙に堤防へと走り、クリーチャーに襲われる寸前のところで海に飛び込むことに成功する。クリーチャーたちは泳げないため、これ以上追ってはこず、サミラの勇気ある行動を船の上から目撃したアンリによって船が一時止まり、エリックは救出されるのだった。
エリックはフロドを抱きしめ、生き延びたことを実感するが、そのとき上着のポケットの違和感に気が付く。手を突っ込んでみると、そこにはサミラからの手紙が残されていた。それにはフロドの世話を頼むことと、エリックがサミラと行動を共にしたこと、そして生きている実感を与えてくれたことの感謝がつづられていた。
それをエリックが読んでいた頃、サミラは人のいなくなった街の真ん中で、iPodでニーナ・シモンの「フィーリング・グッド」をイヤホンで聞きながら歩いていた。そのiPodはスピーカーに繋がっており、笑顔のままサミラはイヤホンコードを引き抜き、大音量の「フィーリング・グッド」を響かせるのだった。その後ろにクリーチャーが忍び寄っていた。
『クワイエット・プレイス:DAY 1』ラストネタバレ考察&感想
生きている実感≠延命
アメリカの田舎町を舞台にしたのが『クワイエット・プレイス』と『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』だったのに対し、騒音の平均が90デシベル、絶え間なく悲鳴が響いているのと同じというニューヨークを舞台にした『クワイエット・プレイス:DAY1』。生きるために旅をしていた『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』とは異なり、『クワイエット・プレイス:DAY1』はピザを食べるために旅をするというのが驚きだ。
しかし、『クワイエット・プレイス:DAY1』は崩壊した日常の中でも日々の生活を行なおうとすることが重要だと伝えたいのだと考察できる。クリーチャーによって崩壊した世界でも、生きている実感を重要視することは終末医療におけるクオリティ・オブ・ライフを描いていると考えることができる。事実、詩人で主人公のサミラはホスピスで暮らす末期癌の患者である。
サミラの書いた詩「悪い計算」でも語られた通り、サラミはいつ死ぬかわからない状況で日々を過ごしている。そのような絶望的な日々の中でも生きている実感を追い求めることは希望に繋がるが、必ずしも延命に繋がるわけではない。生きている実感という希望と延命はイコールではないのだ。
ニーナ・シモン
サラミが最後に聞いていた音楽はニーナ・シモンの「フィーリング・グッド」である。ニーナ・シモンはジャズ歌手、フォーク、ブルース、R&B、ゴスペル歌手、ピアニスト、公民権活動家、市民運動家と複数の顔を持つ人物だ。
「ローリング・ストーンの選ぶ歴史上最も偉大な100人のシンガー」で第29位に選ばれたニーナ・シモンの歌う「フィーリング・グッド」は、黒人女性の力強さを歌った楽曲である。サミラは最期の音楽としてニーナ・シモンの「フィーリング・グッド」を選んでいるが、それはジャズピアニストであった父親の影響だけではなく、最後まで力強く生きていきたいという思いがあったからなのかもしれない。
それを踏まえるとラストシーンでもクオリティ・オブ・ライフが物語の軸として描かれていることが暗示されていると考察できる。『クワイエット・プレイス:DAY1』はサミラを通してクオリティ・オブ・ライフの重要性を描いた映画だと考察することができる。
人類にも反撃のチャンスが?
『クワイエット・プレイス:DAY1』では嵐をきっかけにクリーチャーが泳げずに溺れ死ぬという性質が明らかになった。それに加え、『クワイエット・プレイス』では人工内耳の雑音により、高周波を浴びるとクリーチャーの頭の甲殻が開き、銃弾でも倒せるようになることが明らかになっている。
これらのことから、「クワイエット・プレイス」シリーズの世界では人類にクリーチャーへの反撃のチャンスが浮かび上がって来たのかもしれない。今後の「クワイエット・プレイス」シリーズでは人類がクリーチャーに反撃する展開が描かれる可能性も考察することができる。
『クワイエット・プレイス:DAY1』は2024年6月28日(金)より全国劇場公開。
Source
Entertainment Weekly
『クワイエット・プレイス』はBlu-rayが発売中。
『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』はBlu-rayが発売中。
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