ドラマ『ザ・ボーイズ』完結
Amazonプライムビデオで2019年から配信されてきたドラマ『ザ・ボーイズ』は、2026年5月20日(水) 配信のシーズン5第8話でシリーズのフィナーレを迎える。ガース・エニスとダリック・ロバートソンによる同名コミックを映像化した大人気シリーズは、一体どんなラストを迎えたのだろうか。
今回は、ドラマ『ザ・ボーイズ』シーズン5最終回の第8話をネタバレありで解説&考察し、感想を記していこう。以下の内容は結末のネタバレを含むため、必ずプライムビデオで本編を視聴してから読んでいただきたい。また、自殺、性暴力、中絶に関する内容を含むため、ご注意を。
以下の内容は、ドラマ『ザ・ボーイズ』シーズン5最終回第8話の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
『ザ・ボーイズ』シーズン5最終回第8話「血と骨」ネタバレ解説&考察
父と息子、先輩と後輩
ドラマ『ザ・ボーイズ』全体の最終回となるシーズン5第8話の監督を務めたのは、第5話「それぞれの物語」に続きフィル・スグリッシア。ショーランナーのエリック・クリプキはシーズン1とシーズン4の最終回では自ら監督を務めたが、ラストは『スーパーナチュラル』(2005-2020) でもタッグを組んだフィル・スグリッシアに託したようだ。脚本は第5話のジュダリナ・ネイラと第6話のデヴィッド・リードの共同脚本となっている。
ドラマ『ザ・ボーイズ』シーズン5最終回では、ザ・ボーイズによるフレンチーの埋葬から幕を開ける。“肛門”に執着するフレンチーの遺書は、けれど恥部や汚いところも知っているから自分たちは家族なのだと記されていた。
これは、汚いところを積極的に描いていく『ザ・ボーイズ』というシリーズそのものにも当てはまるコンセプトだ。上辺だけのストーリーではないからこそ、私たち視聴者も『ザ・ボーイズ』を愛することができたのだ。
復活祭に合わせて自身が神であることを宣言しようとしているホームランダーは、ノルウェーで隠居しているライアンのもとを訪れている。ホームランダーはシーズン5第2話で父ソルジャー・ボーイを復活させた後、第3話で息子ライアンを勘当し、第7話でソルジャー・ボーイを再び冷凍睡眠にかけていた。
ホームランダーは父か息子がいなければ寂しいというのもあるだろうし、自分が息子か父でいなければアイデンティティの拠り所を失ってしまうのだろう。皆から“神”だと慕ってほしいという欲望もそうだが、他者との関係性の中でしか満たされないホームランダーの悲哀が、ここで表現されている。
ホームランダーはライアンに「お前と私の関係が大事なんだ」と呼びかけるが、ライアンは「孤独で惨めなクソ野郎」「人を怖がらせても神になんかなれない」と突き放す。この時のライアンはブッチャーっぽさもあるが、シーズン5はとにかくホームランダーがいかに惨めかをAトレインやソルジャー・ボーイ含め、色々なキャラに言わせていっている。
前話で合流したスピンオフドラマ『ジェン・ブイ』(2023-2025) のマリーとジョーダンは、スタジオから助け出した人々を匿っていた。ここで同作からようやくエマも登場。髪の色も変えて以前とは違う雰囲気を見せている。一方でケイトとサム、そしてマリーの妹のアナベスは登場せず、別で行動していることが示唆されている。
アニーがマリーたちに依頼したのは、助けた人々をカナダへ送り届けることだった。なお、トランプ政権下では、第一次政権発足時も第二次政権発足時も、米国からカナダへの亡命申請が急増している。
戦いたいと訴えるマリーに対し、アニーは憧れていたクイーン・メイヴに会った時の失望感に触れつつ、自分はできる限り光を灯し続けるために戦いに行くのだと説得する。マリーは前回、希望を失ったように見えたアニーに、かつて自分が「希望を持つことは世間知らずではありません」というアニーの言葉に影響を受けたと明かしていた。アニーは希望の光を灯し続けるために危険なミッションに挑むのだと言っているのだ。
『ザ・ボーイズ』シーズン5では、マリーをはじめとする『ジェン・ブイ』勢の期待していたような活躍は見られなかったが、アニーがかつての自分の姿と重なる「ウザい後輩」の姿を通して自分を見つめ直すことになった。
『ザ・ボーイズ』もまた、当初はメインストリームのヒーロー作品に噛み付く新人だった。今では他作品でもスーパーヒーロー産業を揶揄するような描写は増えてきた。アニーを通して『ザ・ボーイズ』というシリーズの今の立ち位置が描かれているようでもある。
シスター・セージの最後
大統領になったアシュリーはタービン用のチタンで作ったボールギャグ(口枷)をオー・ファーザーにプレゼント。これが重要なアイテムになるのだが、オー・ファーザーは想定していたより多くの人々が内心ではホームランダーは神ではないと考えていることに悩んでいる。一方のアシュリーも、前回喧嘩した後頭部が心を読む能力を使ってくれなくて悩んでいる。他者の心だけは操ることができないものなのだ。
シスター・セージはキミコをわざと怒らせることで、前回の実験で得たソルジャー・ボーイの能力を使わせることに成功。キミコの実験は成功しており、ビームを受けたセージは“世界一賢い”という能力を失うことになる。
「みんなと同じくらいバカ」になったと喜ぶセージ。「ありがとう」という素直な言葉も飛び出す。よっぽど”賢い”ことで苦しんできたのだろう。ここからの的外れ提案をしたりする“アホな”セージがなかなか良い。セージの発言だからこちらも思わず耳を傾けてしまうのだが、聞いて損した気分になるまでがセットで楽しい。
ザ・ボーイズは、ホームランダーによる生中継が行われるホワイトハウスに侵入することに。ジョン・F・ケネディがマリリン・モンローと会うために使っていた地下トンネルを使うという。史実としては、二人は不倫関係にあったが、地下トンネルの存在は都市伝説である。
こうしてザ・ボーイズは、ホワイトハウスでの「最後の戦い(One last go)」に挑むことになる。アホになったセージがオーランドの「ハリー・ポッター・ワールド」に行きたがるのは皮肉が効いている。ちなみにセージは、ユニバーサル・オーランド・リゾートにあるハリー・ポッターエリアのことを言っているものと思われる。
そして笑顔でシリーズから退場するセージ。この辺りから一人ひとりのキャラクターの命運が分かれていく。
イーロン・マスク登場?
ホワイトハウスでは、スターライターを工場で無給で働かせられないかと相談する“世界一の富豪”ヴァン・エリスが登場。ホームランダーを支持するキャップを被っており、自らのビジネスのためにホワイトハウスに近づく姿勢と合わせて、イーロン・マスクのパロディだと思われる。
また、オー・ファーザーはヴァン・エリスは子どもが17人いてアマチュアの宇宙飛行士だと説明している。イーロン・マスクは子どもが14人以上いるとされており、マスクが運営するスペースXは2021年に史上初の民間人(アマチュア)のみの宇宙滞在飛行を実施している。
オー・ファーザーは、彼を「アメリカの支配層」として話をするようホームランダーに勧めるが、これはもちろん逆効果。ホームランダーは自分が頂点でいたいからだ。
なお、オー・ファーザーが「トマスも疑った」と言うのは、イエスの十二使徒の一人であるトマスが復活したイエスを目撃するまでその復活を信じなかったという聖書のストーリーが元になっている。キリスト教者の間では「トマス=疑い深い人」という意味がある。
そしてここに現れたのはディープ。観ている方もため息をつくホームランダーと同じ表情になってしまう。ディープは十字軍の結成を提案するが、十字軍は「汝、殺すなかれ」という聖書の教えに反する行動を宗教的な“聖地の奪還”として正当化するために使われた名称だ。
オー・ファーザーがその件を指摘している間にホームランダーはヴァン・エリスを宇宙に追い出し、さらにディープを「最も尊敬できない人物」として、これまで殺さなかった理由を、自分がいかに無価値かを思い知らせるためだったと明かす。ホームランダーにもそんな戒め方ができたのかとも思うが、むしろディープはホームランダーにとってブッチャーとは逆の意味で特別な存在だったとも言える。
寝返ったのは…
ホワイトハウスに侵入するブッチャーにMMはバールを渡す。原作コミックの最終決戦でもブッチャーはバールを武器に使っている。一方のヒューイはキミコに「君は武器じゃない」と、ブッチャーの発言をフォロー。フレンチーを失っても全てを失うわけじゃないと勇気づける。戦いに出ることには変わりはないのだが、ヒューイのこうした優しさがザ・ボーイズを人間的なチームに押し留めている。
ホームランダーの生放送が始まり、教会では人々がサイキック=思想警察によって選別されている。ホームランダーの自分が神だという宣言に疑いを抱いた者は粛清される運命にある。
「I am your God.」というあまりに強い言葉。神の活動がその目で見れる時代だと紹介されるさなか、ザ・ボーイズは侵入を予想していたオー・ファーザーの策によって閉じ込められてしまう。ここで使われる対能力者用の高周波は、『ザ・ボーイズ』シーズン2最終回や『ジェン・ブイ』シーズン1最終回でも用いられたヴォート・ソニックだ。『ジェン・ブイ』シーズン2第6話ではゴドルキンの研究から生まれたことが示唆されていた。
アシュリーはここで遂に翻意すると、かつての反体制派であったアシュリーを推していた後頭部もアシュリーに協力する。ザ・ボーイズの地下トンネル通過を助けたのだった。体制内で流され、結果的に成り上がっていった人物が最終的に寝返る——王道の展開ではあるが、アシュリーがやると感慨深い。
スターライトが懲りないディープと対決する一方、ヒューイは天井の消火装置を起動させ、さらにブッチャーの声真似でオー・ファーザーを誘き出す。ヒューイは消火装置を「IGS300だ」と見抜いており、ここにきてヒューイが電化製品店で働いていたという設定が活きると共に、近くにいたヒューイだからブッチャーの声真似が上手いという点も重なって、『ザ・ボーイズ』最終回に相応しい演出が続く。
ヒューイを追ったオー・ファーザーは、能力の“スーパースクリーム”を発動するが、その瞬間、アシュリーからのプレゼントのボールギャグをMMにはめられ、自分の声の音圧で頭が吹き飛んでしまう。オー・ファーザー、シーズン5のみの登場だったが、印象的なキャラクターだった。R.I.P.。
ホームランダーの方は、演説原稿の「私は皆の父であり、皆は私の愛する子ども」という一文を読もうとして詰まってしまう。息子のライアンに拒絶されたホームランダーはこの文章を読めず、異端者には死あるのみ、永遠に支配は続き灰の神になると宣言してしまう。やはりホームランダーは、包摂ではなく恐怖でしか繋がりを作り出すことができないのだ。
ブッチャー vs ホームランダー
そこについに現れたブッチャー。「Daddy’s home.」のセリフが嬉しい。ホームランダーもお馴染みの「ウィリアム」呼びで応える。ブッチャーは「最終決戦か」と言っているが、英語では「Scorched-earth?=焼けた大地か?」と言っている。
ホームランダーが「約束」として言及したこのやり取りは、シーズン3第1話で二人がテーブルを挟んで対峙した時の会話を踏襲している。あの時、ホームランダーは「もしもお前と私が違う運命を共有していたとしたら?」と問いかけた上で、そこに待ち受けているのは「焼けた大地」「ショックと畏怖」「血と骨」「最後はどちらかだけが生き残る」と予言していた。ホームランダーは「楽しみにしてる」と言い残して立ち去っており、シーズン5最終回では遂に二人の戦いの結末が描かれる。
一方、アニーはディープのことを諦めず、ホームランダーから自由になるよう説得していたが、ディープはスターライトが現れて人生が台無しになったと、相変わらず人のせいにしている。元はと言えばアニーに性的行為を強要した自分が悪いのだ。
現実でも、世間に悪事を暴露された側が反省して新たな被害が生まれないように活動するようになるケースはほとんど見られない。開き直り、他人のせいにしてしまうから他者に大事にされることもない。「少しは責任を取ったら?」というアニーの言葉はもっともだ。
ディープは結局、アニーに海に飛ばされ、「アンブロシウスのかたき」として大ダコに殺されてしまう。アンブロシウスはシーズン4でディープと恋人のような関係を結んでいたが、第7話でセージはディープを尊敬していないと指摘したことでディープに殺されてしまった。以降、ディープは吹っ切れたように、ホームランダーに魚でも皆殺しにすると宣言していた。
ブッチャー vs ホームランダーにはキミコも合流。さらにライアンも加わりホームランダーを追い込んでいくが、キミコはなかなかビームが撃てない。大統領執務室で繰り広げられるこの戦いは、非常に見応えがある。
するとキミコはフレンチーの姿を見て、あるべき怒りを持てないと相談するが、フレンチーは、強さの源は怒りだけじゃないと助言する。キミコはこの言葉を受けて胸のビームを発動。ライアンとブッチャーが押さえるホームランダーにビームを撃ち込んだのだった。
これでホームランダー、ライアン、ブッチャーの三人が能力を失うことになった。力を失ったホームランダーは、目からビームを撃とうとしても、飛ぼうとしてもうまくいかない惨めな姿を見せている。
その姿を見たブッチャーは、これが「ショックと畏怖」だと指摘。ホームランダーとの素手での殴り合いを「血と骨の戦い」と表現する。つまり、シーズン3第1話でホームランダーが予言した「焼けた大地」「ショックと畏怖」「血と骨」をクリアし、「最後はどちらかだけが生き残る」だけが残った状態だ。
能力を失っても単純にフィジカルが強すぎるブッチャー。「フレンチーの分」と言って一発だけ殴るのかと思いきやそのままパンチを連打してホームランダーをダウンに追い込む。命乞いを始めるホームランダーだったが、その様子は全米に中継されている。
生放送でクソを食べるから助けてくれと惨めな命乞いをするホームランダーだったが、無視された末に「俺はホームランダーだ(I am the Homelander.)」と、「私はアイアンマンだ」と全く同じだが完全に真逆の状況での最後の一言が飛び出す。
ブッチャーは「お前は何者でもない」と言い放った上で、「ベッカの分」としてバールをホームランダーの額に突き刺すと、そのまま脳をテコの原理で頭をぶち破って勝負あり。状況は異なるが、原作コミックの演出を踏襲した展開でホームランダーの最期が描かれた。
遂に決着。ドラマ『ザ・ボーイズ』シーズン5最終回第8話で、ブッチャーはホームランダーを殺すという目的を達成したのだった。
ブッチャーとヒューイの決着
だが、『ザ・ボーイズ』最終回はこれで終わらない。まずはアシュリーが記者会見で、ホームランダーがホームランダーの精神が深刻な状態にあったこと、それを察知したアシュリーがCIAに対処を命令したことを説明。ザ・ボーイズの行動はCIAによる作戦遂行ということになったようだ。
ただ、アシュリーは議会の全会一致で大統領の職を解かれたという。英語では「impeached」という言葉が使われており、すなわち“弾劾された”ということだ。「スキャンダルにまみれた初の女性大統領」という報道は某国の首相の未来を思わせる。
米国の歴史上、弾劾訴追されたのはアンドリュー・ジョンソン、ビル・クリントン、ドナルド・トランプ(2回)のみで、いずれも上院で無罪となり罷免されていない。なお、リチャード・ニクソンは再選に向けた盗聴などの工作が明らかになったウォーターゲート事件に際して、弾劾が確実になった時点で辞任した。
MMがキミコに吸わせる高級そうな葉巻は、エドガーからもらったものだろうか。ザ・ボーイズの一同は幸せそうな表情を浮かべているが、ブッチャーにテラーと三人で暮らさないかと誘われたライアンは、ブッチャーを拒絶。ブッチャーとホームランダーは同類だと突き放すのだった。
ホームランダーの脳を開いたブッチャーにドン引きしたというのもあるかもしれない。「関係を終えたい」とまで言われたブッチャーは、さらに愛犬のテラーが冷たくなっているのを発見する。寿命だったのだろう。テラーを演じた犬のベントレーもシーズン5の撮影後に亡くなっている。R.I.P.
ホームランダーは倒したものの、守るものを失ったブッチャー。やはり保管していた対能力者用のウイルスを手に、次の行動に出る。テレビではスタン・エドガーがヴォート社の暫定CEOに復帰しており、ヒーローとの関係を見直すと表明している。それはつまり、今後もヒーローを利用していくという宣言とも捉えられる。
ブッチャーの動きに気づいたヒューイは、ひとりブッチャーが乗り込んだヴォート・タワーの会議室へと向かう。ブッチャーはやはりウイルスを拡散して世界中の能力者を消そうとしていた。最後に待っていたのはヒューイ vs ブッチャーだったのだ。
ブッチャーからすればライアンは能力を失ったが、ヒューイからすればアニーやキミコは能力をもったままだ。ブッチャーがウイルスを拡散すればいずれヒューイの大切な人も死ぬことになるだろう。
ブッチャーは、ヴォートがある限り次のホームランダーが現れると予言。能力者を終わらせないといけないとして、スプリンクラーを通して全フロアにウイルスを撒くと主張する。一方のヒューイは、自分が炭鉱のカナリアにならなくてもブッチャーは自分で思いとどまれると説得する。
「あんたは怪物じゃない。辛かっただけだ」というヒューイの言葉が優しすぎて涙が止まらない。妻に先立たれ、その息子に拒絶され、愛犬もこの世を去った。ブッチャーは孤独の中で極端な選択肢を選び取ろうとしている。ヒューイにはそれが分かっている。
ブッチャーがウイルス散布のトリガーを引こうとした時、ヒューイの顔に亡き弟のレニーの顔が重なり、指がトリガーから離れる。その瞬間、ヒューイはブッチャーに発砲。ブッチャーは「これしかなかった」と言葉を漏らす。
ヒューイによるブッチャーとの決着は、原作を一部踏襲した展開なのだが、やはりブッチャーはヒューイに自分を殺してほしかったのではないだろうか。そうすることでしか、ブッチャーが背負った呪いを終わらせる術はなかったのかもしれない。
ブッチャーは最後に、ヒューイに「レニーそっくり」と言って息を引き取る。このシーンは、哀しいという気持ちよりも、「お疲れ様」という気持ちが上回った。呪いと戦い続け、呪いと生き続けたブッチャーは、さらなる呪いの拡散をヒューイに止めてもらい、正しい死に際を迎えたのだ。
ラストの意味は?
ザ・ボーイズは、ベッカの隣に作られた墓の前でブッチャーを追悼。ヒューイはブッチャーを「ヒーロー」と表現する。そしてキミコは一人で、MMはライアンと、アニーはヒューイと次の人生に向けて歩み出す。
流れる曲はビリー・ジョエル「Piano Man」(1973)。ビリー・ジョエルはヒューイが好きなアーティストとして言及されてきたが、この曲はビリー・ジョエル自身がまだ売れていない時期にピアノを弾いていたバーで様々な人と交流していた様子が歌われている。
興味深いのはこの曲の中で、よく冗談を言っていたバーテンダーの“ジョン”が、“ビル”に「この場所を抜け出せたら映画スターになれるのに」と言っていたというエピソードが紹介される点だ。ビルというのはビリー・ジョエルのあだ名だが、ビリー・ブッチャーのファーストネームと同じで、ジョンというのはホームランダーの本名と同じだ。二人は、この世界に居場所が見出せなかった二人でもあった。
その後、MMは、モニークと小さな結婚式を挙げている。ジャニーヌとライアンと4人で生きていくことになるようだ。まぁ、ライアンが一緒に生きていくならMMが一番安心ではある。あんなに小さかったジャニーヌもすっかり大きくなっている。
キミコはフランスのマルセイユで、フレンチーが将来飼いたいと言っていた犬と共にカフェでフランスのお菓子であるマドレーヌを食べている。キミコはシーズン5の初登場時にもマドレーヌを子ども達に振る舞っていた。
ヒューイは大統領に返り咲いたボブ・シンガーから電話を受ける。そういえばボブ・シンガーは大統領に当選した後、ニューマン副大統領を殺した犯人として逮捕されていた。これを主導したのはセージだったが、ニューマン殺しはブッチャーの仕業だったという証言がサミールあたりから取れて釈放されたのだろうか。
シンガーは能力者が野放しになっているから能力者管理局を復活させるので、ヒューイに局長になってほしいと連絡する。かつてニューマンが担っていたポジションだ。
しかし、ヒューイはビジネスを始めたとしてこれを断ると、“キャンベル・オーディオビジュアル”という店へと入っていく。シーズン1第1話で電化製品店で働いていたヒューイは、自分の店を持ったのだ。
そこには妊娠したアニーの姿が。ヒューイが生姜関係のものばかり買ってきているのは、生姜の成分が吐き気などのつわりの症状を緩和させる効果があるとされているからだ。アニーはかつて中絶した経験があったが、ホームランダーがいなくなった世界で、今度は産むことに決めたようだ。
二人は結婚はしないようだが、それもまた二人らしい自由なあり方で良い。そして、ヒューイがオーディオビジュアル(音響と映像)関連の店をやっている理由は、警察無線を傍受してアニーが出向くという新たなヒーロー活動のカムフラージュの意味もあったようだ。
二人は店の外に出ると、ヒューイはアニーのお腹の中の子どもに「ロビン」と語りかける。シーズン1第1話で亡くなったヒューイの恋人ロビンと同じ名前だ。二人は路上でキスを交わすと、再びビリー・ジョエル「Piano Man」が流れると、アニーはヒーロー活動のために空に飛び立ち、ヒューイの笑顔でドラマ『ザ・ボーイズ』は幕を閉じる。
このラストシーンは、シーズン1第1話でヒューイとロビンがビリー・ジョエルについて話している時にAトレインがロビンを轢き殺した場面を敢えて想起させるようにしている。原作コミックのフィナーレも、まさかあの悲劇がもう一度起きるのか? とハラハラさせる展開となっており、それを踏襲した演出になっている。だが、もう心配はない。二人には幸せな未来が待っている。
ドラマ『ザ・ボーイズ』シーズン5最終回第8話のミッドクレジットシーンでは、これまでのドラマの撮影の裏側を捉えた写真が紹介される。スタントを含むキャストや裏方のスタッフ達の姿が捉えられており、『ザ・ボーイズ』を作ってくれてありがとうという気持ちになる。
ここで流れる曲はFlogging Molly「If I Ever Leave This World Alive」(2002)。「この世界から生きて出ることができたなら」「すべてがおかしな状況になっても、私はここにいるから泣かないで」「でも彼女は私がいなくなっても平気だと言った」「だから大丈夫なはずだ」と歌われている。
ドラマ『ザ・ボーイズ』シーズン5最終回第8話ネタバレ感想&考察
最後に残ったのは
ついに幕を閉じたドラマ『ザ・ボーイズ』。思っていたよりも希望に溢れたラストが待っていた。ホームランダーとブッチャーは共に死ぬであろうことは予想できたけれど、ブッチャーがホームランダーのために命を捧げるような展開は回避され、ホームランダーには完全な敗北が用意されていた。ブッチャーもヒューイから仕方なく殺されるというのは、考え得る死に方の中で最善の道だったのではないだろうか。
アニー、メイヴ、セージを除くセブンメンバーは死亡し、セージとメイヴもソルジャー・ボーイの力で能力を失っている状態だ。一方で、スタン・エドガー率いるヴォート社は復活し、シンガー大統領によると能力者達は好き勝手やっているという。ホームランダーという圧倒的強者が去り、多少はあった秩序も乱れてしまっているようだ。
また、最終回には冷凍保存されたソルジャー・ボーイは登場しなかったが、ホームランダー亡き今、エドガーの手中にあると考えてよいだろう。やはり『ザ・ボーイズ』の世界は完全に終わりを迎えたわけではなく、ヴォート社を中心として続いていくのだろう。だから制作陣は、「ザ・ボーイズ」フランチャイズをVCU(ヴォート・シネマティック・ユニバース)と呼ぶことにしたのだ。
『ザ・ボーイズ』はブッチャーらザ・ボーイズメンバーの物語でもあったが、結局は人々の欲望を食らい尽くそうとする資本主義社会と営利企業がより上位のテーマとして存在している。ブッチャーが言ったように、ヴォートがある限り、“次のホームランダー”が生まれるのだろう。
翌週水曜日には、『ザ・ボーイズ』と同じくソニー・ピクチャーズ・テレビジョン製作の『スパイダー・ノワール』が、SSU(ソニー・スパイダーマン・ユニバース)の一環としてAmazonプライムビデオで配信されるのはなんとも皮肉なものだ。
ラストが希望であったことの意味
ともあれ、『ザ・ボーイズ』が希望あるラストを描いたことには、様々な理由があると考えられる。原作がそうなっているということも理由だが、一つには、このクソッタレな現実の中で、希望を描くことこそが抵抗となるという“ホープパンク”の考え方があるのだろう。一周してそれは『スーパーマン』(2025) をはじめとする近年の物語の潮流と一致するものだ。
ドラマ『ザ・ボーイズ』が登場した2019年は、MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)の全盛期で、映画『アベンジャーズ/エンドゲーム』の興行収入が一時的に歴代最高を記録した年だった。そんな時代に資本主義と共犯関係にある堕落したスーパーヒーローを描く本作は刺激的で、存在そのものがメインストリームへの抵抗でもあった。
ところが、コロナ禍を経てスーパーヒーローの映像コンテンツの世界は一変する。DCEU(DCエクステンデッド・ユニバース)は立て直しを迫られてDCU(DCユニバース)として再出発、MCUも全盛期のような興行収入や盛り上がりは見られなくなってしまった。
バゴプラ(このサイト)でも、MCUドラマの記事のPV数は2021年頃の5分の1程度に留まるケースも出てきた。一方で『ザ・ボーイズ』はシーズン数を重ねてもPV数を維持しているか伸ばしており、ついにシーズン5は最近のMCUドラマと比べて倍近いPV数を記録している。『ザ・ボーイズ』はMCUを凌駕したのだ。
『ザ・ボーイズ』は他作品にも影響を与えるようになり、パンクな新人はいつの間にかメインストリームに立つベテランになっていた。資本主義は回転が早い。後進にその後ろ姿を見られることになった『ザ・ボーイズ』が、その露悪さとシニカルさを乗り越え、最後に希望を描くことは、ある種の使命であったようにも思える。
現実を笑い飛ばしたり、皮肉ったり、罵倒しても良いが、最後には前を向いて現実を変えていかなければならない、そんなメッセージが込められた最終回だったような気がした。ブッチャーなら「考えすぎだ」と言うだろうけど。
VCUの今後は?
VCUの今後については、1950年代を舞台にソルジャー・ボーイやストームフロントが登場し、ヴォート社の起源に迫るドラマ『ヴォート・ライジング(原題)』が2026年3月に撮影を終え、2027年の配信を控えている。米国での『ザ・ボーイズ』シーズン5最終回の映画館上映では最後に『ヴォート・ライジング』の予告編が流されたそうで、制作は順調に進んでいるようだ。
また、メキシコを舞台に『ザ・ボーイズ』シーズン5のその後を描くドラマ『ザ・ボーイズ:メキシコ(原題)』も制作が進められている。こちらはMCUスペシャルドラマ『ウェアウルフ・バイ・ナイト』(2022) で主演を務めたガエル・ガルシア・ベルナルと、スター・ウォーズドラマ『キャシアン・アンドー』(2022-2025) で主演を務めたディエゴ・ルナが製作総指揮を務める。
残念ながら『ジェン・ブイ』には2シーズンで終了という判断が下っており、VCUが今後も継続されるかどうかは、『ヴォート・ライジング』と『ザ・ボーイズ:メキシコ』の人気次第ということになりそう。「ザボ」のオリジナルメンバーが強いのは確かだが、流石に妊娠したアニーのそばにいるために政府入りを拒否したヒューイがスピンオフに駆り出されるようなことはないと願いたい……。
『ザ・ボーイズ』の7年を振り返る
せっかくなので、7年に渡り『ザ・ボーイズ』を追ってきた思い出を少しだけ書いておきたい。先に書いたように、最初はMCUへのカウンターとして登場した『ザ・ボーイズ』だったが、コロナ禍の巣篭もり需要もあって、あれよあれよと人気作になっていった。
一方で、現実世界ではパンデミックに二度のトランプ政権を経験し、ショーランナーのエリック・クリプキ自身は2024年に父の死を経験している。そのすべてが『ザ・ボーイズ』のテーマに詰め込まれ、シーズン2からはコロナ禍で毎週更新されるエピソードを皆で観て、泣いて笑って楽しんできた(そういえば、シーズン1の記事が第1話と音楽の解説しかないのは、全話一斉配信だったからだ)。
シーズン2第7話では、日本配信でモザイクの消し忘れに伴い一時配信が停止されるという事件もあった。シーズン2の振り返り番組『Prime Rewind: 「ザ・ボーイズ」の裏側』は楽しかった。ホームランダーの新人時代も描かれたアニメ『ザ・ボーイズ ダイアボリカル』(2022) の存在も忘れてはいけない。
シーズン3第2話でホームランダーが「キャンセルされた」と言い、“キャンセル・カルチャー”という言葉の文脈に乗っかろうとした際には、この言葉がオルタナ右翼の人々によって使われるものであることが周知された。ポップカルチャーが現実に影響を与える好例だった。
シーズン3後とシーズン4後に配信された『ジェン・ブイ』は、若いヒーローたちの成長譚と、本編からのゲスト登場という新しい楽しみ方を提供してくれた。やっぱりオリジンを知っていると愛着が湧くもので、ジェン・ブイ勢は絶対にフランチャイズで再登場させてほしい。
2024年配信の『ザ・ボーイズ』シーズン4最終回は「暗殺実行」というタイトルがつけられていたが、配信4日前にドナルド・トランプ大統領候補(当時)が狙撃される暗殺未遂事件が発生し、「シーズン4 フィナーレ」に改題されたこともあった。この辺りから現実が『ザ・ボーイズ』を凌駕し始める。
『ザ・ボーイズ』と現実が接近していく一方で、フレンチーを演じたトメア・カポンが、パレスチナの人々が虐殺される中で、親イスラエルの立場を貫いたことは批判を呼んだ(この件については、シーズン4第2話の記事に詳しい)。ユダヤ系アメリカ人であるエリック・クリプキが結局最後まで『ザ・ボーイズ』でイスラエルの問題を扱えなかったことは、批判されて然るべきだし、同時にどんなクリエイターにも限界があること(身内には甘くなること)が示された。
その一方で、リスタートしたDCUの『スーパーマン』(2025) がイスラエルを想起させる侵略者を描いた。シーズン5ではホームランダーの『スーパーマン』パロディポスターが何度も登場したが、このような状況ではそれも“冷笑”のように感じられた。DCUが描けたものが『ザ・ボーイズ』に描けなかったという事実は、やはり乗り越えられていくべき存在となった『ザ・ボーイズ』の現在地を示しているようでもある。
そして、個人的なことだが、7年間記事を書いていく中で、後半はホームランダーのように他者のケアが苦手だったり、自分本位で行動してしまうという、現実に存在する人間の特性や傾向について勉強する機会が増えた。
そうすると、最初は完全悪に思えたホームランダーも、やはり何らかのしんどさを抱えて生きているという風に思うようにもなった。これは作品ではなくて観る側に変化があったという長期シリーズならではの出来事なのだと思う。
他者のことを気遣ったり、優先したりすることは、とてもエネルギーのいることで、そうしたくてもできない人もいる。ホームランダーにはスーパーパワーがあったから脅威だっただけで、筆者は現実でその特性だけを見て「ホームランダーのような人」と切り捨ててしまわないようにはしたい。その点を踏まえても、アントニー・スターが演じたホームランダーが、21世紀最高級の悪役だったことは確かだが。
最後に
最後に、『ザ・ボーイズ』の記事をバゴプラで読んでくれた皆さんにお礼を伝えたい。毎回長い長い文章を読んでくれた皆さんのおかげで、記事を書き続けることができました。毎度文脈だらけの内容で、時には書くのが辛くなることもあったけれど、記事を待っててくれている皆さんのおかげで完走することができた。
また、膨大な参照が込められた『ザ・ボーイズ』自体が、映像作品を見た後にテキストを読んで理解を深めるという営みを促進してくれたように思う。『ザ・ボーイズ』の記事を通してSNSでたくさんの繋がりが生まれ、孤独な時間が少なくなった。また、実際に外で知り合った人からも「『ザ・ボーイズ』の記事読んでます」と言ってもらうことが日増しに増え、大きな励みになった。
実は、この『ザ・ボーイズ』シーズン5最終回の配信日にも記事を読んでくれているという方からあたたかいメールをいただき、泣きそうになった。SNSでも、対面でも、メールやお問い合わせでも、『ザ・ボーイズ』を通して話しかけてくれた全ての方に感謝したい。
そしてもちろん、『ザ・ボーイズ』の原作を邦訳で出版しただけでなく、ドラマ配信と共にSNSで盛り上げてくれたG-NOVELSさんにも感謝を。アメコミ翻訳を出していれば、映像化された時に売れるのだという前例を確固たるものにするべく、未読の人は原作の『ザ・ボーイズ』をゲットしよう。
長めのエンドロールになってしまったが、スピンオフドラマや他の作品の記事でもお会いできることを願っている。ブッチャー役のカール・アーバンが主演を務める映画『モータルコンバット/ネクストラウンド』は、2026年6月5日(金) の日本公開を予定している。
そして、アニーたちが見せてくれた希望を現実の社会にも持ち込めるよう、日々の行動や発信を行っていきたい。「現実が『ザ・ボーイズ』を追い抜いた」とは、シーズン5で囁かれた評価だが、この言葉を前向きな意味で使える日が来るまで、私たちは現実でザ・ボーイズのように戦い続けよう。
ドラマ『ザ・ボーイズ』とスピンオフドラマ『ジェン・ブイ』はAmazonプライムビデオで独占配信中。
『ザ・ボーイズ』原作コミックの日本語版は、G-NOVELSから発売中。
電子書籍でも購入できるので、最終回の演出について引用元をチェックしてみよう。
『ザ・ボーイズ』シーズン5第7話の解説&考察はこちらから。
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