Contents
『魔女の宅急便』の声優キャストは?
1989年に公開されたスタジオジブリの映画『魔女の宅急便』は、宮崎駿監督にとって『天空の城ラピュタ』(1986)以来の新作長編映画として制作された作品だ。角野栄子の同名児童文学をベースにした『魔女の宅急便』は1989年の邦画ナンバーワンヒットを記録した。
映画『魔女の宅急便』以降、スタジオジブリはアニメーターの正社員雇用を進め、次作の高畑勲監督作品『おもひでぽろぽろ』(1991)からは声優は俳優を中心とした起用が進められることになる。また、日本テレビが製作に加わったのも『魔女の宅急便』からで、『魔女の宅急便』はまさにジブリの転換期に制作された作品と言える。
今回は、ジブリ映画『魔女の宅急便』に出演した声優キャストたちを紹介していこう。今振り返れば、『魔女の宅急便』には大物声優が多数出演している。意外な名前も見つかるかも?
ジブリ映画『魔女の宅急便』に出演した声優キャストまとめ
キキ/ウルスラ役 高山みなみ
主人公のキキと、キキに助言をする絵描きのウルスラを演じ分けたのは高山みなみ。当時はまだデビューして3年目という新人だった。それにもかかわらず、13歳の悩める魔女と森に籠もって絵を描く女性の2人を演じ分けてみせた。今でこそ『名探偵コナン』(1996-)のコナン役などで有名だが、デビューした頃から素晴らしい才能を見せている。
キキは13歳で魔女の慣わしとして独り立ちをすることになる。母親のコキリの「薬を作る魔法」には興味を示さず、魔女として出来ることは「箒に乗って空を飛ぶ魔法」だけである。そのため、居候先のグーチョキパン店で空を飛ぶことを活かして宅急便の仕事を始めた。明るく前向きで、魔女の黒い装束しか衣服を持っていないことを気にする、都会に憧れるなど年相応の性格。最初は空を飛ぶことだけが自分の取り柄だと思っていたが、様々な経験を通して成長していくキキの姿を当時の高山みなみが見事に演じている。ちなみに、キキのモデルになったのは鈴木敏夫の13歳の娘である。
高山みなみは他にも天道なびき役で出演した『らんま1/2』(1989-1992) や前述の『名探偵コナン』などで、『魔女の宅急便』に出演した山口勝平との共演も多い。多くの長寿アニメに関わっていることから、共演の多い林原めぐみから長寿アニメにしたければ高山みなみを起用すればいいと言わしめるほど。
ジジ役 佐久間レイ
猫のジジの声を演じたのは佐久間レイ。ジジはキキと同い年の黒猫で、生意気な性格をしている。映画『魔女の宅急便』の後半からは、キキはジジと喋ることができなくなるが、この難しい役を佐久間レイが見事に演じ、今ではジジは最も有名なジブリキャラクターの一人(一匹)となっている。
ジジの声を演じた佐久間レイは、『それいけ! アンパンマン』(1988-)のバタコさん役や、『らんま1/2』のシャンプー役などで知られる。1965年生まれで、2024年現在で59歳を迎えているが、長きにわたってバタコさん役を演じ続けている。
コキリ役 信沢三恵子
キキの母親で「箒に乗って空を飛ぶ魔法」と「薬をつくる魔法」を扱う魔女のコキリを信沢三恵子が演じた。信沢三恵子はキキが宮崎駿に「島本須美と信沢三恵子がいれば、ぼくのヒロインの声優はこと足りる」と言わしめた人物。宮崎駿作品では、同監督の実質的なデビュー作品である『未来少年コナン』(1978)でラナ役を演じている。
コキリは、「薬をつくる魔法」に興味を示さず、魔法の継承者が減っていることを嘆いている。その一方で、キキの独り立ちを心配するなど、キキにとって魔女の師匠というだけではなく母親としても大きな存在だ。現在の職業は町の薬剤師だが、若い頃はコキリも魔女の伝統通り他の町からやって来た。独り立ちをするキキに自分の使っていた大きな箒を渡すなど、キキのことを心配しながらも独り立ちを後押している。『魔女の宅急便』本編で名前が呼ばれることはなく、コキリという名前は自宅前の「魔女にご用の方は ベルを鳴らしてください コキリ」という案内から確認できる。娘を心配しながらも応援する微妙な親心を信沢三恵子が見事に演じている。
信沢三恵子は声優以外にも実写作品でも活躍しているほか、『野球狂の詩』(1977-1979)の水原勇気役など、多くの作品でアニメの声優を務めてきた。一方で、『未来少年コナン』のラナ役を光栄に思っている発言をしているなど、ラナ役に思い入れがあることで知られる。
おソノ役 戸田恵子
パン屋のおかみである、おソノの声を演じたのは戸田恵子。おソノはキキに住み込みの仕事をオファーしたり、キキとトンボが仲良くなるように計らうなど、豪快かつ親切な人物として描かれる。慣れない街で独り立ちするキキを支える重要な人物でもある。
戸田恵子は名声優/俳優で、『魔女の宅急便』が公開された1989年の4年前にあたる1985年からアニメ『ゲゲゲの鬼太郎』第3期の鬼太郎役、1988年から『それいけ! アンパンマン』のアンパンマン役を演じている。近年では、2022年にリメイクされた『うる星やつら』であたるの母の声を演じている。
なお、『魔女の宅急便』ではキキを支えるキャラクターを演じたが、同年公開のサンリオ映画『キキとララの青い鳥』ではキキの声を演じている。
トンボ役 山口勝平
飛行クラブに所属している空を飛ぶことを夢見る眼鏡をかけた少年トンボを演じたのは山口勝平。山口勝平と高山みなみと言えば『名探偵コナン』でコナンと工藤新一を共に演じたことでも有名だ。デビューは1988年であるため、山口勝平も当時新人だった。山口勝平の息子も声優であり、娘も噺家であるなど、家族そろって声を仕事にしている。
トンボは愛称で本名はコポリ。空を飛ぶキキを見かけて興味を持って話しかけるが、煙たがられる。男女関係なく友人が多く、キキに煙たがられても気にしていなかった。飛行クラブでは人力飛行機の制作をしており、夏休みの間に完成させることが目標である。「メガネの少年」という役は、『ONE PIECE』(1999-)のウソップ役や『犬夜叉』(2000-2010) の犬夜叉役などで知られる山口勝平にとっては、今振り返れば珍しい役だったと言える。なお、『魔女の宅急便』でキキ役を演じた高山みなみとは、主人公の早乙女乱馬役を演じた『らんま1/2』でも高山みなみと共演している。山口勝平は2017年からは落語家としても活動している。
老婦人役 加藤治子
キキにニシンとカボチャのパイの配達を依頼した老婦人の声を演じたのは加藤治子。老婦人は都会で成長していくキキに大きな転機が訪れるきっかけになった人物。その優しさの大きさゆえにその後の展開にキキは衝撃を受けることになるのだが、加藤治子はその優しさ溢れる老婦人の声を見事に演じている。
加藤治子は松竹少女歌劇団の出身で、舞台俳優からテレビドラマに映画まで幅広く活躍した。ジブリ作品には『魔女の宅急便』から日本テレビの出資が入っているが、加藤治子は「火曜サスペンス劇場」など日テレの作品にも数多く出演している。2004年に公開された宮崎駿監督の『ハウルの動く城』では魔法学校の校長であり王室付きの魔法使いであるマダム・サリマンの声を演じた。2015年に92歳で逝去した。
バーサ役 関弘子
老婦人に仕える使用人バーサを演じたのは関弘子。バーサは魔女についてひいお婆さんから聞かされていた人物で、数少ない魔女が多くいた時代を知る人物でもある。冒険が大好きで、キキから預かった箒にこっそり跨ってみているシーンも描かれる。
関弘子は劇団俳優座の第1期生で、劇団青年座の立ち上げにも参加した。能など様々な舞台演劇に挑戦し、発声などの演技指導も行なっていた。1981年に近松門左衛門の原文での語りで第16回紀伊國屋演劇賞を受賞している。吹き替え声優としても活躍したほか、スタジオジブリ作品では『紅の豚』(1992)でバアちゃん役を演じている。2008年に78歳で逝去した。
オキノ役 三浦浩一
キキの父親であるオキノの声を演じたのは三浦浩一。オキノは、娘のキキの独り立ちを快く送り出す優しい父で、自分のラジオもキキにあげるなど良好な関係を築いている。車でキャンプの道具を借りて帰ってくるなど、アウトドア派な一面も見られる。
三浦浩一は俳優として活躍しており、司馬遼太郎原作のNHKドラマ『風神の門』(1980)では霧隠才蔵役で主演を務めている。2013年のドラマ『半沢直樹』では、東京中央銀行の高木専務取締役を演じている。
フクオ/警官/アナウンサー 山寺宏一
フクオはグーチョキパン店の亭主で、無口ながらもキキを見守る大人の1人。警官は街に慣れていないキキが交通事故を起こしかけたのを注意した人物。アナウンサーは飛行船の様子を実況していた。これら3人の人物は同じ声優が担当している。
それは七色の声を持つとされる山寺宏一である。実写から海外アニメーション映画、ものまね、MCと多彩な才能の持ち主である山寺宏一だが、声優デビューは1985年であるため『魔女の宅急便』の公開当時はまだ新人であった。山寺宏一は『それいけ! アンパンマン』ではチーズ役とジャムおじさん(二代目)を演じており、バタ子さん役の佐久間レイと、アンパンマン役の戸田恵子など、『魔女の宅急便』は『アンパンマン』のメイン声優が勢揃いしている作品でもある。
マキ役 井上喜久子
マキ役を演じたのは井上喜久子。マキは、キキが「魔女の宅急便」を開業したばかりの時に甥への誕生日プレゼントの配達を依頼したお客さんだ。上品なマダム然とした人物で、キキも緊張した様子を見せるのだが、1988年のデビュー直後だった井上喜久子が見事な演技でマキを演じている。
井上喜久子はここからスター声優の道を駆け上がっていくことになるのだが、『おジャ魔女どれみ』(1999-2002) ではマジョリカの母マジョリリカ役を演じている。『魔女の宅急便』が公開された翌年には、庵野秀明総監督のアニメ『ふしぎの海のナディア』でナディア役を演じた。その後も『らんま1/2』の天道かすみ役や、「メタルギア ソリッド」シリーズのサニー役やザ・ボス役を演じたことでも知られる。
飛行船「自由の冒険号」の船長役 大塚明夫
飛行船「自由の冒険号」の船長の声優を務めるのは大塚明夫。今でこそ「メタルギア」シリーズのスネーク役や「ルパン三世」の二代目次元大介役などで有名だが、声優デビューは1988年であるため、『魔女の宅急便』公開当時はこちらも新人である。このことからも『魔女の宅急便』が後の有名声優たちが沢山出演していることがわかる。
大塚明夫が演じる船長が操縦する「自由の冒険号」はテレビ中継されるほど立派な飛行船だったが、時計塔にぶつかるという大事故を巻き起こしてしまった。ここでの飛行船の事故の挙動は、世界中の有名な事故の数々を混ぜ合わせたものである。大塚明夫は、近年ではNetflixアニメ『鬼武者』(2023)で主演を務めたほか、『僕のヒーローアカデミア』(2016-)のオール・フォー・ワン役、『ヴィンランド・サガ』(2019-2023)のトルケル役など、海外でも人気の作品に多数出演している。
ジブリ映画『魔女の宅急便』では、このほかにも、宮崎駿監督の前作『となりのトトロ』(1988)でメイ役を演じた坂本千夏が、序盤にキキがおしゃぶりを届ける赤ん坊の役を演じている。また、高畑勲監督、宮崎駿脚本作品『パンダコパンダ 雨ふりサーカスの巻』(1973)でパン役、『となりのトトロ』でカンタの母役を演じた丸山裕子が女性と少年の役でエキストラ出演している。
『魔女の宅急便』の声優陣は、今振り返れば非常に豪華な面々によって演じられていたことが分かる。各キャラクターの声優を意識しながら『魔女の宅急便』を観てみると、また違った楽しみ方ができるかもしれない。
ジブリ映画『魔女の宅急便』はBlu-rayが発売中。
角野栄子の原作はKindleで配信中。
久石譲が手がけた『魔女の宅急便』サントラ音楽集は発売中。
『魔女の宅急便』ラストの解説&考察はこちらから。
『アーヤと魔女』の声優まとめはこちらから。
『となりのトトロ』の声優まとめはこちらから。
『風の谷のナウシカ』の声優まとめはこちらから。
『もののけ姫』の声優まとめはこちらから。
『君たちはどう生きるか』のネタバレありの声優紹介はこちらの記事で。
『君たちはどう生きるか』のネタバレ解説はこちらから。