ネタバレ解説&考察『君たちはどう生きるか』ラストの意味は? 宮﨑駿は何を伝えたかったのか | VG+ (バゴプラ)

ネタバレ解説&考察『君たちはどう生きるか』ラストの意味は? 宮﨑駿は何を伝えたかったのか

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映画『君たちはどう生きるか』公開

スタジオジブリ最新作にして宮﨑駿監督の10年ぶりの新作となる『君たちはどう生きるか』が2023年7月14日(金) より劇場で公開された。本作について事前に公開された情報は最小限で、予告編やキャストの発表もないまま劇場公開の日を迎えている。

今回は、ついに公開された『君たちはどう生きるか』について、特にそのラストにおいてどんなメッセージが込められていたのかを解説および考察していきたい。なお、以下の内容は本編の結末に関する重大なネタバレを含むため、必ず劇場で本作を鑑賞してから読んでいただきたい。

ネタバレ注意
以下の内容は、映画『君たちはどう生きるか』の結末に関する重大なネタバレを含みます。

映画『君たちはどう生きるか』ラストをネタバレ解説&考察

『君たちはどう生きるか』の物語

映画『君たちはどう生きるか』の舞台は、戦時中の1944年東京大空襲で起きた(2023年8月11日追記:公式パンフレットでは単に「火事」と表記されている)火災で母を失った牧眞人(まひと)は、父と共に疎開(空襲に備えて他の地域に移ること)して東京を出る。そこで、父の子を妊娠した母の妹・夏子と共に新しい暮らしを始めることになるのだが、眞人は夏子のことを新しい母だと認めることができない。お手伝いのキリコとの会話でも「夏子おばさん」と距離を置いた呼び方を使っている。

そんな中、失踪した夏子を追って塔のある森へ入った眞人とキリコは、大叔父から支持を受けたアオサギの“案内”によって“下”の世界へ行くことになる。「母君が待っている」と告げるアオサギに夢中になっていた眞人が失踪した夏子を追うことにした動機は、本の山の中から吉野源三郎の小説『君たちはどう生きるか』(1937) を見つけ、それを読んだことだった。

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『君たちはどう生きるか』には母から未来の眞人へというメッセージが書かれており、それは昭和12年秋(1937年)に書かれたものだった。1937年は『君たちはどう生きるか』が新潮社から刊行された年であり、日中戦争に突入した時期でもある。父が戦闘機工場を営んでおり戦争の恩恵を受けていた眞人は、社会と個人は繋がっていると考える社会科学を取り扱ったこの小説を読んで涙を流している。

小説『君たちはどう生きるか』では、主人公のコペルが友人たちとのエピソードと叔父からのノートの助言を通して世界を知っていく。一方、宮﨑駿監督の映画『君たちはどう生きるか』では、ファンタジー世界での冒険を通して世界の仕組みを概念として知っていく展開になっている。

若き日のキリコに助けられ、アオサギとも和解した眞人は大叔父が住む異世界で夏子を捜して旅を続ける。炎を操るヒミから与えられた食事を頬張るシーンや、『崖の上のポニョ』(2008) で米林宏昌が手がけた“海”を思わせる水の表現、『もののけ姫』(1997) や『千と千尋の神隠し』(2001) にも通じる躍動感ある“走り”のシーンなどは、ジブリらしい映像表現が盛りだくさん。『君たちはどう生きるか』では宮﨑駿監督は絵コンテしか手掛けていないとされており、確かな“継承”が見てとれる。

産屋の意味

インコたちから助けてくれたヒミと共に眞人は夏子の元に辿り着くが、そこは意思を持った「石」に囲まれた産屋(うぶや)だった。産屋というのはかつて出産時の血が“穢れ”とされて忌み嫌われていた頃に、産婦が人から離れて過ごすために用意されていた場所のことだ。出産が近づいた夏子は自ら、下の世界の産屋に入ってしまったのだ。夏子は、血を流して帰ってきた眞人の“不幸”が自らの“穢れ”のせいだと考えたのかもしれない。その背景には眞人が男性であり、一家の“長兄”であるという背景もあったのだろう。

だが、眞人の頭の怪我は自分でつけたものだった。それは、戦争の恩恵を受けて裕福な家庭で育った眞人が同級生たちとそりが合わず、取っ組み合いの喧嘩になった結果、「自分でこけた」と言い訳するためにつけた傷だ。そして、親に聞かれた時も、キリコに聞かれた時も自分でつけた傷だと言えず嘘をつき続けた悪意の印だった。

小説『君たちはどう生きるか』では、貧富の問題も扱われる。主人公のコペルもまた知識階級の家庭の子どもであり、自分と異なる立場にある人々に思いを巡らせる展開がある。小説を通して社会の構造が個人の行動や生き方にどんな影響を与えるのかということを学んだ眞人は、自らの悪意を受け止め、その悪意をきっかけに産屋に入らざるを得なくなった夏子に対する責任を感じたのではないだろうか。

眞人はそこで初めて夏子のことを「母さん」と呼び、夏子を母と認める。下の世界に来る前にはキリコに「夏子おばさん」と言っていたが、ここでは夏子を「夏子母さん」と呼ぶのだ。

悪意と向き合うこと

眞人は産屋に入るという禁忌を侵したことで、下の世界を治めるインコの大王に目をつけられ、捕えられたヒミは大王によって大叔父の元へ届けられる。「本を読みすぎておかしくなり、姿を消した」と言われていた眞人の大叔父は、空から降ってきた隕石を囲う塔を作り、石と契約して海のあるこの世界を作り出していた。

大叔父は、積み木でこの世界のバランスをとっていた。大叔父は石との契約によって血縁関係がある者にしかその仕事を継ぐことはできないといい、より良い世界を作るために眞人にその役割を継いでもらおうとしていた。キリコ、夏子と共に父の待つ現実に帰るのか、それとも世界のバランスを保つためにここに残るのか、眞人は選択を迫られることになる。

眞人は、一度は積み木を「墓と同じ石」「悪意がある」と拒否する。確かにそれ自体が自立して育っていく木とは異なり、積み木とはすでに切り取られた過去の積み重ねでしかない。ラストで再びヒミと共に大叔父の前に現れた眞人は、改めて大叔父との問答に臨むことになる。

大叔父は、今度は「悪意に染まっていない石」を差し出す。旅をして見つけた13個の石を3日に一つ積み上げろと言っており、単純計算で39日間かかることになる。悪意のない平和な世界を作るよう促す大叔父に対し、眞人は自らの頭の傷を指して、これが自分の悪意のしるしだと主張する。自分には悪意のない世界を築く資格はない、だから元の世界に帰ると言うのだ。

眞人は、傷について父に聞かれた時は一人でこけたと嘘をつき、キリコに聞かれた時には絆創膏が取れたと誤魔化していた。だが、この場面では初めてその傷が自分の悪意を示していると認めたのである。

そして、戦争が続く世界に戻っても、キリコやアオサギのような友達を見つけると言う眞人の姿勢は、友人を大切にすることを掲げた小説『君たちはどう生きるか』のメッセージに則ったものだ。小説版では「すべての人が友達であるような世界が来ないといけない」というメッセージが最後に掲げられる。

「世界は良くなっていく」という希望的な観測で締められた小説に対し、宮﨑駿監督は、世界に広がる、そして自分の中にある「悪意」から目を逸らさずに、それと向き合うことを求めているように感じられた。

大叔父は何を言っていたのか

では、大叔父がこだわっていた「積み木」と「世界」とは、何を意味していたのだろうか。これは恐らく、「創作活動」の比喩だったのではないだろうか。大叔父は現実の世界を離れて「創作」に閉じこもってしまったのだろう。積み木というのは、誰にでもできる原初的な創作活動であり、現実の世界が戦争へ向かっていく中で、大叔父は創作=フィクションの中で平和な世界を作ろうとしていたのではないだろうか。

創作を次の世代に継がせようとする老人としての大叔父には、宮﨑駿監督自身の姿が投影されているように思える。かつて、『紅の豚』(1992) では主人公ポルコに「飛べない豚はただの豚」と言わせたが、『君たちはどう生きるか』では、年老いたペリカンが「翼が折れた、もう飛べぬ」と言うシーンがあった。大叔父の自分の塔はもう支えきれないという言葉は、宮﨑駿監督の創作活動に対する率直な思いだろうか。

創作=フィクション=空想でこそ理想を描くべきだが、「これから」を生きる眞人は創作に使われる材料を墓石=過去の積み重ねだと言い、それよりも現実と向き合うと言う。大叔父が世界を巡って拾ってきてくれた綺麗な石を引き継ぐよりも、まずは自分の悪意を受け止めて、現実世界で友人を作ると言う。

その決断は、ジブリの制作部を解散して、本作にも参加している米林宏昌監督を中心としたスタジオポノックが新たに結成されたジブリ史にも通じるものがある。

空想よりも現実を、宮﨑駿監督はそんなメッセージを『君たちはどう生きるか』に込めたようにも思える。それでも、この世界を壊すのは、「石ころ」と言って創作を軽んじ、性急な態度で勝手に積み木を触ってそれを崩してしまった権力者、大王だった。

『君たちはどう生きるか』では、子どもの頃には見えた空想の世界が大人になると忘れてしまうという描写が繰り返し見られた。創作に執着する老人の大叔父と、空想の世界が見えながらも、成長するために外の世界に出ようとする子どもの眞人。二人は決して対立関係にあるのではなく、「君たちはどう生きるか」という問いと選択を実行していく関係にある。

ラストの意味

大叔父の世界が壊れゆく中、眞人は扉を通って元の世界へと戻る。だが、ヒミとキリコは別の扉から外の世界に出ることになる。ヒミとキリコは過去の世界から来ていたため、眞人と共に1944年に帰るわけにはいかないのだ。そしてここで、ヒミはやはり眞人の母の若い頃の姿だったことが明確に示される。眞人の母は小さい頃に塔に入り、一年間もこの世界にいた。

キリコも同様に塔の中の世界で暮らしていた人物で、眞人が塔に入ろうとした時に塔の事情をよく知っていたのはそのためだった。また、1944年のキリコが下の世界に行ったときに姿を消したのは、昔のキリコと存在が被ってしまうからだろう。

眞人がアオサギ、夏子と共に外の世界に戻ると、アオサギは眞人に塔の中の記憶があることに驚く。眞人は若い頃のキリコからもらったキリコ人形のお守りと、丘で拾った“積み木の石”を持ち帰ったことで記憶が継続していたのである。それでも、アオサギはその記憶もいずれ忘れると言い切る。眞人の母もまた塔の中に消えた1年間の記憶はなくなっていたと言及されており、幼い眞人との出会いも記憶に残っていないのだろう。そして共に喧嘩をして冒険をしたアオサギは、眞人の最初の友人になったのだった。

日本の敗戦から2年が経ち、眞人の一家は東京へ戻ることになる。眞人は新しい時代を、戦後の日本を生きていくことになる。それでも、眞人は自分に影響を与えた小説、『君たちはどう生きるか』はカバンに入れている。同時に、眞人はポケットに手をやるのだが、2年が経ち東京へ行くことになってもまだ積み木を持っていることを示唆している。眞人は完全に創作を否定したわけではない。創作に背中を押され、現実を受け止めてより良く生きることを選んだ。その影響を受けた作品と共に新しい世界に歩み出すのだ。

創作は現実を生きていくためのヒントを与えてくれるもの——このラストからそんなメッセージを読み取ることができる。そんな作中のメッセージと共に、宮﨑駿が創作を続け、このメッセージをファンタジーという形で届けていること自体が、創作の力を信じるという決意表明だったようにも思える。

エンドロールの意味

エンドロールで流れる『君たちはどう生きるか』の主題歌は米津玄師「地球儀」。「時に人を傷つけながら」「この道の行く先に誰かが待ってる」と、眞人が最後に至った答えに基づく歌詞が歌われている。

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最後に「君たちはどう生きるか」と問いかけた小説『君たちはどう生きるか』の叔父さんとは違い、映画『君たちはどう生きるか』の大叔父は眞人に「どう生きるか」の答えを提示し、血縁主義の“引き継ぎ”をお膳立てした。だが、小説『君たちはどう生きるか』を読んでいた眞人は、自分で答えを出すことを選んだ。そんな“叔父と大叔父”の重要な違いが、エンディングで改めて示されたように思える。

また、エンドロールでは宮﨑駿の名前は最後に「原作・監督・脚本」として控えめに登場するだけだった。ジブリから独立してスタジオポノックを立ち上げた米林宏昌監督もスタッフに名を連ねていたが、制作の中心を新しい世代に託したことも、眞人に選択を託した作中の展開に重なるものがある。

この“ジブリ映画”を観た現代の子ども達はどのように生きていくことになるのか。願わくは、少しでもマシな世界で、多くの選択肢を持てるように、そして創作の力を信じられるように、大人の責任を果たしていきたい。『君たちはどう生きるか』は、そんな風に思わせてくれる作品だった。

映画『君たちはどう生きるか』は2023年7月14日(金) より全国の劇場で公開中。

スタジオジブリ公式サイト

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北米での公開を控え、プロデューサーの鈴木敏夫は本作に込められた意味を語った。その内容はこちらの記事で。

『君たちはどう生きるか』の声優紹介はこちらから。

キリコについての考察はこちらの記事で。

『君たちはどう生きるか』の「鳥」についての考察はこちらから。

『君たちはどう生きるか』に登場した場所の解説&考察はこちらから。

『君たちはどう生きるか』のもう一つのメッセージについて論じたネタバレ感想はこちらの記事で。

『君たちはどう生きるか』に登場した二冊の本についての考察はこちらから。

 

『風の谷のナウシカ』の声優キャストまとめはこちらから。

『となりのトトロ』の声優キャストはこちらの記事から。

『天空の城ラピュタ』の声優キャストはこちらから。

『借りぐらしのアリエッティの声優キャストはこちらの記事から。

齋藤 隼飛

社会保障/労働経済学を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で4年間、教育業に従事。アメリカではマネジメントを学ぶ。名前の由来は仮面ライダー2号。編著書に『プラットフォーム新時代 ブロックチェーンか、協同組合か』(社会評論社)。
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