映画『デッドプール&ウルヴァリン』公開
MCU映画第34作目『デッドプール&ウルヴァリン』が、2024年7月24日(水) に日本の劇場で全世界最速となる公開を迎えた。本作は、旧20世紀フォックス(現20世紀スタジオ)が映画化の権利を持っていたX-MENキャラクターのデッドプールとウルヴァリンがタッグを組んだ作品。2019年にマーベル・スタジオの親会社であるウォルト・ディズニー社が旧20世紀フォックスを買収したことで、マーベルきっての人気キャラのMCU合流が実現した。
ライアン・レイノルズ演じるデッドプールことウェイド・ウィルソンと、ヒュー・ジャックマン演じるウルヴァリンことジェームズ・“ローガン”・ハウレットは、どんな化学反応を見せてくれたのだろうか。そして、MCUの未来を背負った『デッドプール&ウルヴァリン』は、今後のMCUにどのような影響を与えることになるのか。今回は、『デッドプール&ウルヴァリン』のラストをネタバレありで解説&考察していこう。
以下の内容は、映画『デッドプール&ウルヴァリン』の結末に関する重大なネタバレを含むので、必ず劇場で本編を鑑賞してから読んでいただきたい。また、本作は15歳以上を対象としたR-15指定の作品となっている。露骨な残虐描写や流血描写、性的な描写が登場するのでご注意を。
以下の内容は、映画『デッドプール&ウルヴァリン』の結末に関する重大なネタバレを含みます。
Contents
『デッドプール&ウルヴァリン』ラストはどうなった?
アース10005のデッドプール
映画『デッドプール&ウルヴァリン』の主人公デッドプールことウェイド・ウィルソンは、アース10005で中古車販売員として暮らす人物だった。『デッドプール2』(2018) のラストでタイムトラベルを行い、作中で死んだ仲間達を蘇らせた後の世界線であることには変わりないようだが、ここでのウェイドは既にデッドプールとしての活動をやめてしまっていた。
ちなみにウェイドは2018年にアース616でアベンジャーズの面接に落ちた6年後にアース10005の世界に来ている。ウェイドがタイムスリップでアース616を訪れたのか、元々ウェイドはアース616でデッドプールとして活動していたのかという点は考察ポイントでもある。
TVA(時間変異取締局)の職員であるミスター・パラドックスは、アース10005が消滅することを知っており、デッドプールだけをMCUのメインユニバースであるアース616へ送ろうとしていた。アース10005が消滅する理由は、「アンカー(英語ではアンカー・ビーイング)」と呼ばれるそのユニバースの重要人物が死んだからであり、そのアンカーとはウルヴァリンことローガンだった。
ここで『デッドプール&ウルヴァリン』は映画『LOGAN/ローガン』(2017) とリンクする。映画『ローガン』のユニバースはアース10005とされており、同作のラストでウルヴァリンが死んだことによって、アース10005は消滅することが決まったのだ。メタ的に考えると、ウルヴァリンの死を描いたことで、アース10005のユニバースは20世紀スタジオ的にもディズニー的にも“用無し”になったと言え、故に消えゆく運命となったのだろう。
愛する人々を守りたいデッドプールは様々なユニバースを巡ってようやく一人のウルヴァリンを捕まえ、アース10005へと連れていこうとするが、あえなくミスター・パラドックスに“虚無”へと送られてしまう。ユニバースが消えゆくこと、虚無がどういう状況にあるかということについては、ドラマ『ロキ』(2021-) のシーズン2で起きたことと関わりがある。
『ロキ』とのつながりについては、長くなるのでこちらの記事で解説している。
虚無に現れたヒーロー達
簡単に言うと虚無は、各ユニバースに危険をもたらすとTVAが判断した存在が送られる場所で、ゴミ溜めのような場所である。デッドプールはそこでプロフェッサーXの双子の片割れであるカサンドラ・ノヴァと出会うと、彼女の力を使ってアンカーであるウルヴァリンと共に元のユニバースに戻ることを画策する。デッドプールは自分の世界に帰るために、ウルヴァリンの世界の過去を修正できると言って、過去に闇を背負ったウルヴァリンを説得したのだった。
デッドプール&ウルヴァリンは、旅の中で映画『ブレイド』(1998) のウェズリー・スナイプス演じるブレイド、映画『デアデビル』(2003) および映画『エレクトラ』(2005) のジェニファー・ガーナー演じるエレクトラ、そしてチャニング・テイタム演じるガンビットと出会う。チャニング・テイタム版ガンビットはかつて単独映画の制作が予定されていたが、ディズニーによる20世紀フォックス買収に伴いプロジェクトが精査された際に企画が打ち切られている。
そして遅れて登場するのが、『LOGAN/ローガン』で登場したダフネ・キーン演じるX-23ことローラである。予告編でもその姿を見せていたローラだが、演じているダフネ・キーンは当時11歳で、『デッドプール&ウルヴァリン』の公開時点では19歳になっている。
『LOGAN/ローガン』でのX-23ことローラの設定についてはこちらの記事に詳しい。
ローラもまた単独映画制作の計画が進められていたが、ディズニーによる20世紀フォックス買収に伴い計画はたち消えになっている。つまり、ここで登場したのは、いずれもMCUの台頭によって“なかったこと”になったヒーロー達ということである。
映画『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』(2022) ではパトリック・スチュワート演じるプロフェッサーXが登場し、映画『マーベルズ』(2023) にはケルシー・グラマー演じるビーストが登場した。だが、MCUではマハーシャラ・アリ主演の『ブレイド』の新作映画の制作が進められ、エロディ・ユン演じるエレクトラが登場するドラマ『デアデビル』(2015-2018) はリブートされてMCUに正式に合流することになった。
X-MENがMCUに合流しようが、今後活躍するチャンスがないかに思われていたヒーロー達が“虚無”に現れ、ヒーローになれなかったデッドプール&ウルヴァリンと共闘するのが本作の胸熱ポイントだ。
カサンドラとの決戦
カサンドラ軍との決戦は激アツで、特に、『LOGAN/ローガン』と同じピンクのサングラスをかけて戦うローラ、やっぱり主役級のカッコよさを見せるめちゃくちゃキマってるガンビットが最高。サイキック能力の影響を受けないジャガーノートのヘルメットを奪取するために戦う。ちなみに原作コミックでも、ジャガーノートは義兄弟のプロフェッサーXからの干渉を受けないようにヘルメットを被っている。
ローラ達が広場で戦う中、ウルヴァリンはカサンドラ・ノヴァの力でその過去を知られることになる。ウルヴァリンはX-MENへの加入を誘われていたが断り続けていたところ、ある日X-MENが襲撃され、酔ってX-MENのもとへ戻った時には全員が死んでいたのだという。襲撃された日にローガンは助けを求められながら逃げ隠れていたことも示唆されている。X-MENの屍を見たウルヴァリンは殺戮に手を染め、X-MENが世界から嫌われる原因にもなってしまったという。
ローラとデッドプールのコンビプレーでジャガーノートのヘルメットを被せてカサンドラを追い詰めたが、ウルヴァリンはカサンドラを殺すことを拒否。ヒーローになることを拒み続けたウルヴァリンだったが、「チャールズ(プロフェッサーX)のために」とカサンドラを信じる道を選んだのだ。ちなみに『デッドプール2』でも、デッドプールが「悪人でも殺さない」というX-MENのルールを教えられる場面がある。
vs デッドプール・コープス
ウルヴァリンとカサンドラは、プロフェッサーXが二人を愛していたと確かめ合った後、『デッドプール&ウルヴァリン』はクライマックスへ。カサンドラがドクター・ストレンジから奪ったスリングリングを使ってポータルを開き、二人はアース10005へ行くことに成功する。オレンジの輪っかを通ってユニバース間を移動できるのは流石にカサンドラの力によるものだろう。
アース10005に戻ったデッドプールとウルヴァリンだったが、カサンドラはミスター・パラドックスがスパイだったパイロを使って自分を殺そうとしたことを知り激怒。虚無を気に入っていたカサンドラはミスター・パラドックスと不可侵条約を結んでいたが、それが破られたのだ。
カサンドラはアース10005にやってくると、ミスター・パラドックスが開発させていたタイムリッパーを使って虚無以外のユニバースを全て消し去ろうとする。“タイムリッパー”はMCUで初めて登場したマシーンだが、「タイム(時間)」と「リップ(引き裂く)」という単語から、時間軸を破壊する装置であることが分かる。一方で序盤では「時間加速機」と呼ばれており、カサンドラはタイムリッパーのエネルギーを利用して時間軸を破壊しようとしていた可能性もある。
かつてのTVAは神聖時間軸(アース616)から分岐した時間軸を剪定していたが、『ロキ』シーズン2以降はそうではなくなった。ミスター・パラドックスは自らの手でその仕事をやろうとしていたのだが、怒ったカサンドラによって全ての時間軸を剪定されそうになっているのだ。
これを止めようとするデッドプール&ウルヴァリンに虚無から送り込まれたのは、レディ・デッドプールを筆頭としたたくさんのデッドプール達だ。女性のレディ・デッドプールに頭だけのヘッドプール、子どものキッドプールに犬のドッグプールも。
この面々は原作コミックでデッドプールが様々なユニバースのデッドプールを集めて結成する“デッドプール・コープス”のメンバーだ。『デッドプール&ウルヴァリン』ではデッドプールと対決することになったが、今後はチームアップもあり得るかも?
このシーンの見どころはウルヴァリンがついにコミックでお馴染みの黄色いマスクを被るところだ。実写版ではあの黄色いマスクだけは被らないのではないかと見る向きもあったが、ついにあのマスクを被ると、デッドプールと共に最高のアクションを見せてくれた。
けれど、デッドプール達は不死身。倒しても立ち上がるデッドプールと戦い続けても意味はないと思われたが、そこに現れたのはデッドプールの親友のピーターだった。アース10005のピーターは『デッドプール2』で登場。何の能力もなかったがXフォースに加入しており、『デッドプール&ウルヴァリン』ではヒーローをやめたウェイドと一緒に中古車販売の仕事をしていた。
加えて、ピーターはデッドプールのスーツを自分のロッカーに保管しており、ウェイドがヒーローとして帰ってくることに期待をかけていたことが、本作でウェイドを立ち直らせるきっかけになった。このシーンでピーターが着ているのは、そのロッカーに入っていたウェイドの以前のコスチュームだ。ピーターは、ロッカーの中身をウェイドに見せた際に「僕が着るわけじゃない」と言っていたり、自転車で退勤していた時に「僕たちデップーだろ?」と言っていたり、地味にスーツを着る伏線を張っていたことが分かる。
この場面ではピーターがウェイドを仲間だと言い、他のデッドプール達もそれを受け入れる。ピーターは全てのユニバースでデッドプールの相棒だったのだ。ちなみに原作コミックでは、ピーターことピート・ウィスダムはイギリスの諜報機関のエージェントでミュータントでもある。確かデッドプールとの関係は薄かったはずで、この設定は映画オリジナルのものと思われる。“スパイダーマンの身近な人の死”のように、“ピーターがデッドプールの相棒になる”はどのユニバースでも避けられない出来事だったのだろう。
クライマックスで流れた音楽は?
そして、『デッドプール&ウルヴァリン』はいよいよ最終決戦へ。すでにタイムリッパーに手を突っ込んでいるカサンドラを止めるには、誰かが装置の道管の間に入ってショートさせるするしかない。デッドプールとウルヴァリンは共に身体が急速に回復するヒーリング・ファクター(治癒因子)という能力を持っているとはいえ、今回ばかりは物質と反物質の衝突によって原子レベルまで粉々にされてしまうという。
ウルヴァリンはここで人々のために犠牲になることを選ぶ。デッドプールが旅の道中で言っていた「根拠のある希望」とは、「ウルヴァリンがいれば世界を救える」というものだったが、ウルヴァリンは「それは嘘じゃなかった」と言うのだ。デッドプールの仲間達の写真をウェイドに返し、自分には何も残されていないからと犠牲になることを決めたウルヴァリン。デッドプールがかけた「君が最高のウルヴァリンだ」という言葉がニクい。
しかし、デッドプールはウルヴァリンを部屋から締め出して自分が犠牲になろうとする。「マーベルの神だから」と言っているが、英語では「Marvel Jesus(マーベルのキリスト)」と言っていて、これはキリストが自ら犠牲になって人類の罪を償ったという聖書のストーリーをベースにしている。
ところが、デッドプール一人では道管の間の距離が足りず、ウルヴァリンが突入し、二人は手を繋いで共に媒介になる。この時流れている曲はマドンナの「ライク・ア・プレイヤー (Like a Prayer)」(1989)。「あなたのパワーを感じる」「私があなたを導く」と歌われているこの曲は、ショーン・レヴィ監督とライアン・レイノルズ、ヒュー・ジャックマンが楽曲使用の許可をもらうために直接マドンナに会いに行ったといい、最高の場面で使用されている。
ここでウルヴァリンが焚き火の前でローラと交わした会話が回想で描かれる。劇中でこのシーンが最初に映し出された時は、ウルヴァリンは「俺に頼るのは間違いだ」と言い、ローラは「いつもそう言うね」と言ったところでシーンが終わっていた。しかし、この回想シーンでは、ローラが続けて「そうじゃなくなるまで (until you weren’t)」と付け加えていたことが明かされている。
確かにどのユニバースのウルヴァリンも無愛想で気難しく、最初はチームに加わろうとしなかったが、いつも最後には誰かのためにヒーローになった。加えてここでウルヴァリンはデッドプールの仲間の写真を拾っている。目の前にまだ救える誰かがいることに気づいたのだろう。
一方のデッドプールは、ヴェネッサに言われて以降、アベンジャーズの面接でも言っていた「誰かを救いたい」という願いを、自分の都合ではなく、世界に必要とされて叶えることになる。カサンドラから言い当てられた、自分の中にある「自分は役立たず」という思いを乗り越えて、デッドプールはウルヴァリンと共にタイムリッパーを破壊してカサンドラを倒したのだった。
デッドプールの望み
ドラマ『ロキ』にも登場し、TVAのリーダーとなったハンターB-15が残されたミスター・パラドックスのもとに登場。パラドックスが今回の事件の発端となったことの証拠がなく、B-15が困っていたところに登場したのはデッドプールとウルヴァリンだった。二人とマドンナが揃えば最強ということ以外、特に理由は説明されなかったが生き延びることができたらしい。能力が抑制されない限りは本当に不死身ということなのだろう。
パラドックスは逮捕されることになり、アース10005は消滅を回避。デッドプールはB-15に二つのお願いをする。一つは、虚無にいたメンバーを元のユニバースに帰してやること。もう一つはウルヴァリンがいた世界の過去を修正することだ。前者についてはB-15は「やってみる」と回答するも、後者については「過去があるから今の彼がある」とアドバイスする。
このB-15の二つの判断は一貫している。共に「過去をなかったことにする必要はない」というポリシーに従っているからだ。先に述べた通り、虚無にいたメンバーは20世紀スタジオで“なかったこと”にされたヒーロー達だ。元のユニバースに戻すということは、ヒーロー達は今後も元の世界で生き続けられることになる。
ウルヴァリンについては、これまでもウルヴァリンは大事な人を失ってから誰かを助けられるようになっていた。『LOGAN/ローガン』では、1年前に“ウェストチェスターでの事件”でプロフェッサーXと共にX-MEN全滅を経験していたが、最後にはローラを救うことになっている。
救った相手に救われること
デッドプールは、もう会えなさそうな雰囲気のウルヴァリンを引き留め、ドッグプールと共に家に連れ帰る。ラストシーンは冒頭と同じくデッドプールの仲間達が揃うホームパーティーだ。そこにはローラの姿も。ローラは元々アース10005の人物なので、ローラがここにいるということは、虚無の面々は無事に元のユニバースに帰されたと考えられる。大人になったローラが、ローガンと笑顔で時間を過ごすことができている。これは泣ける。
そしてウェイドは「マーベルの神」になることよりも、大切な人たちが周りにいることが大事だと思い至るようになる。最後にヴェネッサは「忙しくしてた?」とウェイドに聞くと、ウェイドは「あぁ、君のために」と答える。ウェイドが何か意味のあることに取り組むことに期待していたヴェネッサは、詳しく話さなかったとしても、ウェイドが世界を救ったと勘付いたはずだ。
そしてウェイドは、自分は世界を救うタイプのヒーローじゃないが、最高な瞬間は「救った相手に救われること」と語って『デッドプール&ウルヴァリン』の本編は幕を閉じる。ウェイドはウルヴァリンを救い、ウルヴァリンに救われた。仲間を救い、今は仲間の存在に救われている。上から目線のヒーローではなく、助けを必要とする等身大のヒーローとしてのデッドプールの姿が、そこにはあった。
エンドロールの映像の意味は?
『デッドプール&ウルヴァリン』は、MCU映画にしては珍しくミッドクレジットシーンはなし。しかし、エンドロールで旧20世紀フォックスのマーベル作品のメイキング映像が流れる。しかも流れている曲は懐かしのグリーン・デイ「グッド・リダンス (Good Riddance)」(1997) だ。一部の人にとっては2000年代のアメコミ映画の思い出が蘇る演出となっている。
この曲では「新しいターニングポイントだ、道はまた分岐していく」「時間が君を導いてくれる」「ベストを尽くすんだ、理由は聞かないで」「予測できないけれど、最後には良くなる」と歌われている。映し出される映像は、今では消滅したシリーズの映像ばかりだけれど、そこに映るキャスト達の笑顔は本物だ。
MCUでキャプテン・アメリカことスティーブ・ロジャースを演じたクリス・エヴァンスが映画『ファンタスティック・フォー 超能力ユニット』(2005) でヒューマン・トーチことジョニー・ストームを演じた時の姿も見られる。リブート版『ファンタスティック・フォー』(2015) で同役を演じたマイケル・B・ジョーダンへの繋ぎが美しい。『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』(2009) に出演した時のものと思われる若き日のライアン・レイノルズがウェイド・ウィルソンについて「自分に似ていると思ってた」と語る場面も。
このエンディングは、『デッドプール2』のラストとは対照的な演出だ。『デッドプール2』ではタイムマシンを手に入れたデッドプールが『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』のデッドプールを殺しに行くなど、過去の出来事を“なかったこと”にしてハッピーエンドを迎えた。『デッドプール&ウルヴァリン』のラストは、過去の良い思い出にスポットライトを当てて「なかったことにしなくていい」と語りかけているような演出だった。
『デッドプール&ウルヴァリン』は、20世紀フォックスのディズニーへの合流にあたって、ある意味で過去の作品やファンの思い出に対して筋を通すような作品であり、これまでのキャストとファンへのプレゼントのような作品だったと言える。資料映像の最後には、20世紀スタジオになる前の20世紀フォックスのロゴが映し出されている。
ポストクレジットシーンの意味は?
『デッドプール&ウルヴァリン』にはポストクレジットシーンも用意されていた。前回の『マーベルズ』は音だけだったので、MCUでは久しぶりにしっかり目のポストクレジットシーンが入ることになる。再び登場したデッドプールは、クリス・エヴァンス演じるジョニー・ストームがカサンドラに殺された件について語り出す。
劇中、デッドプールがカサンドラにジョニー・ストームがカサンドラの悪口を言っていたと告げ口をして、ジョニー・ストームは皮を剥がれて殺されてしまったのだ。そのシーンでは、ジョニー・ストームは悪口を言っていないと徹底して否定していたので、随分とかわいそうな印象を受けた。せっかくクリス・エヴァンスが出演したのに、ということも相まった感情だが。
しかし、デッドプールが証拠として再生した動画の中では、ジョニー・ストームはデッドプールがカサンドラに告げ口した悪口を一言一句そのまま発言していたことが発覚する。そもそもジョニー・ストームは『ファンタスティック・フォー』でも傲慢な性格のキャラクターだ。ちなみに演じているクリス・エヴァンスも2015年にブラック・ウィドウのことを「アバズレで尻軽」と発言したことがあり、後に謝罪している。
デッドプールの“潔白”(?)が証明されたところで、『デッドプール&ウルヴァリン』は本当の本当に幕を閉じる。では、ここからは本作の感想を記して、MCUの今後について考察していこう。
【追記:読者の方より、このポストクレジットシーンに登場したカメラがドラマ『シー・ハルク:ザ・アトーニー』のK.E.V.I.N.ではないかという投稿をいただき、追加で考察記事を公開しました。詳細はこちらから。】
『デッドプール&ウルヴァリン』ネタバレ感想&考察
ヒーローの“やり直し”
映画『デッドプール&ウルヴァリン』は、数多くのキャラクターがカメオ出演したお祭りのような作品だった。過去の作品やキャラクターをないものとせず、使い捨てにしないという姿勢は、映画『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(2021) でも見られたものでもある。
『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』は、スパイダーマンのMCU合流によって過去のものとなってしまったソニー作品に敬意を払うつくりだったが、『デッドプール&ウルヴァリン』も、ディズニーによる旧20世紀フォックスによって完全に過去のものとなったキャラクターを救済するような作品だった。
『デッドプール&ウルヴァリン』が明確に異なるのは、本作があくまで“ヒーロー”の物語である点だ。『ノー・ウェイ・ホーム』の公開時には、ヴィランに更生のチャンスを与えるというコンセプトもあったが、本作はヒーローになれなかったウルヴァリンとデッドプールが再びチャンスを掴もうとする物語になっている。
共に「やり直せる」というテーマが通底しており、また「キャンセルカルチャーへの抵抗」とか言い出す人たちも現れそうだが、『デッドプール&ウルヴァリン』は“必要とされて英雄的な行いをしてこそ評価される”というストイックな基準を設けている点が特徴的だ。過去の罪や不甲斐ない自分を受け入れた上で、それを“なかったこと”にせず、それを背負い、命を賭してでも行動すること——。デッドプールの軽口で誤魔化されそうになるが、本作はかなりマッチョでストイックな“正義”のお話だったと言える。
『シークレット・ウォーズ』につながる?
個々のキャラクターのテーマについて語る場は個別の記事に譲りたい。気になるのは『デッドプール&ウルヴァリン』のラストを受けて、今後のMCUがどんな方向に進んでいくのかという点だ。
『デッドプール&ウルヴァリン』自体は、MCUのメインユニバースであるアース616とは異なるアース10005が舞台になっていたこともあり、単体で完結する内容になっていた。今後、デッドプールとウルヴァリンがMCU作品に出てきても出てこなくても問題ない内容になっていたことは確かだ。
一方で、ニュー・ラインシネマ製作の『ブレイド』や旧20世紀フォックスの『デアデビル』、「X-MEN」シリーズの世界もMCUと同じ世界(の別のユニバース)であったことがしれっと認められたことは注目に値する。過去に作られたほとんどのマーベル映画はMCUと同じ世界で、時間軸の分岐が異なるだけという解釈ができるのだ。
今回、デッドプールはエレクトラ、ブレイド、ガンビット、ローラを元のユニバースに返した。カサンドラを恐れて虚無で生きてきた4人は、デッドプールへの恩ができたはずだ。この物語は、2027年5月7日全米公開を予定しているアベンジャーズシリーズ第6作目『アベンジャーズ:シークレット・ウォーズ(原題)」へと繋がっていくのではないだろうか。
『シークレット・ウォーズ』では、マルチバースのスーパーヒーロー達が集結する展開が予想されている。その時、デッドプールが憧れのアベンジャーズ側につくのであれば、『デッドプール&ウルヴァリン』でデッドプールが救ったヒーロー達はアベンジャーズを助けるはずだ。もちろんウルヴァリンも。
アース10005にいるデッドプールは、そんな風にしてマルチバースの仲間達を増やしていくのではないだろうか。もっとも、その結果アース616のアベンジャーズと敵対することになると、とても厄介なことになってしまうが……。一方で、ミスター・パラドックスが序盤に言っていた、デッドプールが崇高な使命を果たすことになるらしい、という話が今回のアース10005の救済のことではないとすれば、デッドプールは将来的にMCUで大きな仕事を果たすことになるかもしれない。
MCUとX-MENの今後
もう一点気になるのは、「X-MEN」シリーズが今後のMCUでどう展開されていくかということだ。『マーベルズ』のミッドクレジットシーンではビーストとX-MENのものと思われる施設が登場した。モニカ・ランボーが別のユニバースに飛んでしまい、その先の施設でビーストと出会ったのだ。
だが、『LOGAN/ローガン』で描かれた通り、アース10005では2004年から25年間ミュータントは誕生しておらず、2028年にX-MENはプロフェッサーXとウルヴァリンを残して全滅している。つまり、『マーベルズ』のラストで登場したユニバースはデッドプール&ウルヴァリンがいる世界とは違うユニバースであることが分かる。
今後、MCUで「X-MEN」のストーリーラインが進められていくなら、モニカ・ランボーが飛ばされたユニバースを軸に進められていくことになりそう。ということは、『デッドプール&ウルヴァリン』ではX-MENのMCU合流は思ったよりも進まなかったことになる。
とりあえず、MCU映画は2025年2月14日公開の『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』、同5月2日全米公開予定の『サンダーボルツ*(原題)』、同7月25日全米公開予定の『ファンタスティック・フォー(原題)』が控えている。前2作はサディアス・ロス新大統領を中心とした現代のアメリカ政治が中心の物語となりそうだが、『ファンタスティック・フォー』については1960年代の別ユニバースが舞台になるとの情報もある。
配信では、2024年9月19日(木) より、『ワンダヴィジョン』(2021) のその後を描くドラマ『アガサ・オール・アロング』が、2024年中に別のユニバースのスパイダーマンを主人公としたアニメ『ユア・フレンドリー・ネイバーフッド・スパイダーマン(原題)』が、2025年3月にチャーリー・コックスのデアデビルが復活するドラマ『デアデビル:ボーン・アゲイン(原題)』が配信される。
おそらくMCUとしては、今までのキャラクターのストーリーを焦らず着実に進めつつ、年一くらいで別ユニバースの物語も描き、「X-MEN」のストーリーラインはゆっくり育てたいというところだろう。米時間7月25日から28日にかけて開催されるサンディエゴ・コミコンでの発表も注視しつつ、しばらくは『デッドプール&ウルヴァリン』の物語を考察していこう。
『デッドプール&ウルヴァリン』は2024年7月24日(水) より全国の劇場で公開。
原作コミックでのウルヴァリンとデッドプールの物語も掲載! デッドプール30周年の歴史を振り返るムック本『デッドプール 30th Anniversary Book』は、7月26日(金) 発売。
『デッドプール&ウルヴァリン』のオリジナル・サウンドトラックは発売中。
ダニエル・ウェイ&スティーブ・ディロンによるコミック『デッドプール VS. ウルヴァリン』は、吉川悠による邦訳版が発売中。
『デッドプール』『デッドプール2』は2枚組のBlu-rayコレクションが発売中。
ポストクレジットシーンのもう一つのセオリーはこちらの記事で。
デッドプールとソーの関係についての解説と考察はこちらから。
ライアン・レイノルズはデップーとウルヴァリンが抱える問題を「恥」と話した。詳しくはこちらから。
『デッドプール&ウルヴァリン』時系列の解説はこちらから。
チャニング・テイタムは『デッドプール&ウルヴァリン』出演後にガンビット単独映画への意欲を明かした。詳しくはこちらから。
ケヴィン・ファイギは旧「X-MEN」シリーズと深い繋がりがある。ミュータントのMCU合流についてファイギが語った内容はこちらの記事で。
ローラの『LOGAN/ローガン』と原作における設定と演じたダフネ・キーンについてのまとめはこちらから。
これまでの映画作品におけるウルヴァリンの活躍はこちらの記事にまとめている。
ヒュー・ジャックマンが復帰を決めた経緯と理由について語った内容はこちらの記事で。
映画『ザ・マーベルズ』ラストのネタバレ解説はこちらから。
ヤング・アベンジャーズのメンバー予想&考察はこちらの記事で。
ドラマ『ロキ』シーズン2最終話第6話のネタバレ解説はこちらから。
映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』ラストのネタバレ解説はこちらから。
映画『アントマン&ワスプ:クアントマニア』ラストとポストクレジットの解説はこちらから。