映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』日本公開
ミシェル・ヨー演じる中国移民の女性が、マルチバースを行き来して戦いを繰り広げる映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』、通称「エブエブ」が2023年3月3日(金)より日本で劇場公開された。 ダニエル・クワン&ダニエル・シャイナート監督(通称「ダニエルズ」)が手掛け、アカデミー賞で最多10部門11ノミネートを果たした本作は、既に全世界で興行収入100億円超の大ヒットを記録している。
その中心に立っているのが、『エブエブ』の日本公開時点で60歳になる主演のミシェル・ヨーだ。『ポリス・ストーリー3』(1992)、『007 トゥモロー・ネバー・ダイ』(1997)、『グリーン・デスティニー』(2000)、『クレイジー・リッチ!』(2018)、『シャン・チー/テン・リングスの伝説』(2021)など、数々の作品での名演で知られるミシェル・ヨーにとって、SFもカンフーアクションも目新しいものではない。
だが、『エブエブ』は一味違う。俳優としてキャリアを積んできたミシェル・ヨーの人生をメタ的に描く側面もあり、主人公のエヴリン・ワン・クワンはミシェル・ヨーだからこそ演じられるキャラクターになっていると言っても過言ではない。
ミシェル・ヨーがエヴリンを演じた意味
そのミシェル・ヨーは、3月に入ってから米人気トーク番組の『ザ・レイト・ショー・ウィズ・スティーヴン・コルベア』(2015-)に出演。『エブエブ』での数々の受賞とアカデミー賞ノミネートを経て、改めて自身が本作で主演を務めた意味を語った。
人気司会者のスティーヴン・コルベアに「(制作時から)何か特別なものを作っているという感覚はありましたか?」と問われたミシェル・ヨーは、こう答えている。
台本を読んだ時からこれは本当に素晴らしいものになると分かりました。宝石の原石のようでした。馬鹿げていて、変わっていて、素敵なものでした。しかし、私の胸に響いたのは、この平均的で歳をとった移民の女性がアメリカンドリームを生きようとして惨めにも失敗しているという点でした。ダニエルズ(監督)はこの女性に、並外れた存在になる機会を、スーパーヒーローになる機会を与えたんです。この女性は私たちの母や叔母のような人間です。(会場から喝采)
また、スティーヴン・コルベアに「あなたは、この役は自分の人生でずっとリハーサルしてきた役と仰っていました」と過去の発言をピックアップされると、その真意を語っている。
先ほどあなたが言ったように、この映画は少なくとも5つのジャンルが含まれています。サイエンス・フィクション(SF)、コメディ、ドラマ、ロマンス、愛。私は何年にもわたってそれらを経験してきたので、全てを寄せ集めていく感覚でした。若い人にはその全てを満たすことはできないと思います。しかし、私の年齢なら「6-0」です。(会場喝采)
「6-0」というのは、ミシェル・ヨーの年齢が60歳であることと、テニスにおいて一方的な試合展開でセットを取った場合に「6-0」というスコアになることがかかっている。加えて、海外ではテニスにおいて「6-0」でセットをとることを「ベーグル」と言うのだが、『エブエブ』においてもベーグルがキーアイテムになることをかけたトリプルミーニングになっている。「60歳は新たなプライムエージ(労働統計における働き盛りの人)です」と宣言し、会場からは歓声があがった。
「ミシェル」が「エヴリン」になった理由
『エブエブ』の主人公エヴリンは、当初設定されていた名前はミシェル・ヨーの名前をとったミシェル・ワンだったことは、これまでにも語られてきた。その名前は最終的には「エヴリン」に変更されたのだが、それはミシェル・ヨーからのリクエストだった。ミシェル・ヨーはその経緯をこう話している。
(『エブエブ』では、)8つのマルチバースを行き来しなければいけません。そして全てのユニバースにそれぞれの語られるべき物語があります。エヴリン・ウォンとは誰なのか? それが鍵になるので、確固たる基盤が必要です。台本を受け取った時、ダニエルズ(監督)——私の愛しの男の子たち——に「名前を変えなきゃいけない。ミシェルと呼ぶべきじゃない」と言いました。
そしたら「せっかく書いたのに(泣)」って(笑) ダニエル・クワン大好き(笑) 私は、この女性の声が聞かれるべきだし、姿が見られるべきだと言いました。もし彼女をミシェルと呼べば、観客は「ミシェル(・ヨー)が歳をとった移民の女性を演じてる」って思ったまま観るでしょう。それだとミシェルのままなんです。
私はエヴリンに、彼女自身の声を持たせる必要がありました。なぜならこの世界には多くのエヴリンがいて、それぞれが認識され、声を聞かれ、スーパーヒーローになれるチャンスを得るべきだからです。
ミシェル・ヨーにしか演じられない役でありながら、ミシェル・ヨーはこの主人公を自分だけのものにしなかった。世界中の“エヴリン”が自分の姿を重ね合わせられるように設定を変更させたのだ。
ミシェル・ヨーは、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』でのエヴリン役で全米映画俳優組合賞の主演女優賞とスタント・アンサンブル賞、ゴールデングローブ賞の最優秀主演女優賞(ミュージカル/コメディ部門)をはじめとする数々の賞を受賞している。日本時間3月13日(月) 発表のアカデミー賞の結果にも注目が集まるが、ミシェル・ヨーとエヴリンは既に多くの“エヴリン”のユニバースを救ったはずだ。
追記:アジア人初となるミシェル・ヨーの主演女優賞を含む『エブエブ』の第95回アカデミー賞7冠の報はこちらから。
映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』は2023年3月3日(金) より、全国の劇場で公開。
『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』公式サイト
『エブエブ』のサントラは配信中。
Source
The Late Show with Stephen Colbert
【ネタバレ注意!】『エブエブ』ラストの解説&考察はこちらから。
【ネタバレ注意!】ミシェル・ヨーと監督が続編およびスピンオフについて語った内容はこちらから。
ミシェル・ヨーも出演した映画『シャン・チー/テン・リングスの伝説』のレビューはこちらから。
『エブエブ』と同日公開の映画『フェイブルズマン』のネタバレ感想はこちらの記事で。