清水崇監督による最新作『あのコはだぁれ?』
「呪怨」シリーズで知られる清水崇監督の最新作となるホラー映画『あのコはだぁれ?』が2024年7月19日(金)より劇場で公開された。主人公の君島ほのかを渋谷凪咲、その教え子の三浦瞳を早瀬憩、ほのかの恋人である七尾悠馬を染谷将太が演じるなど、豪華キャストで製作されたこの夏注目のホラー映画だ。
『あのコはだぁれ?』は、2023年公開の清水崇監督作品『ミンナのウタ』のDNAを引き継ぐ作品として紹介されていた。今回は、『あのコはだぁれ?』のラストに注目しつつ、『ミンナのウタ』との繋がりについても合わせて解説&考察していこう。
なお、以下の内容は本編の結末に関する重要なネタバレを含むため、必ず劇場で『あのコはだぁれ?』を観てから読んでいただきたい。また、本記事は虐待と自殺に関する内容を含むのでご注意を。
以下の内容は、映画『あのコはだぁれ?』および『ミンナのウタ』の内容に関するネタバレを含みます。
『あのコはだぁれ?』ネタバレ解説&考察
高谷さなをめぐる物語
主人公・君島ほのかの恋人・七尾悠馬が交通事故に遭うところから始まる『あのコはだぁれ?』の物語。ほのかが受け持った補習の授業にいないはずの生徒が現れ、その生徒を馬鹿にした小日向まりが転落死したことで、32年前の事件へと繋がっていく。
ほのかの周囲の人間を次々と死に追いやっていく「あのコ」の正体は、かつて両親に殺されたとされていた高谷さなだった。高谷さなの目的は、皆を自分の世界に惹き込むために魂の音を集めること。ソニーのテープレコーダーで人が死ぬ瞬間の音を集めており、過去には祖母や同級生の茂美を死なせてその音を録音していた。
『ミンナのウタ』との繋がりは?
高谷さなは『ミンナのウタ』に登場した少女の幽霊で、「『ミンナのウタ』のDNAを引き継ぐ作品」という触れ込み通り、『あのコはだぁれ?』と『ミンナのウタ』は直接繋がっている物語だった。『ミンナのウタ』は、GENERATIONS from EXILE TRIBEのメンバーである小森隼が30年前のカセットテープを見つけ、ラジオの収録中に少女がカセットテープが届いたかと小森に語りかけると、直後に小森が失踪するという展開で幕を開ける。
そこで調査を依頼されたのが『あのコはだぁれ?』にも登場したマキタスポーツ演じる探偵・権田継俊だ。権田はその少女の正体が高谷さなであること、さなが「自分の歌をみんなに届けて、みんなを私の世界に惹き込むこと」を夢にしていたこと、そしてさなが自分の同級生であったことを突き止めた。
『あのコはだぁれ?』では、権田は32年前に転落事故が起きた学校の校長・川松から依頼を受けるが、『ミンナのウタ』では権田が川松校長にさなについての情報を聞いていた。校長からは優秀な探偵と思われているようだが、今回の権田は『ミンナのウタ』高谷さなとは関わりたくないと考えている様子だ。
居酒屋のシーンでは、権田は隣に座る客に「あとは頼んだ」と言って立ち去っていたが、この客は『ミンナのウタ』にも本人役で出演したGENERATIONSの中務裕太だ。同作の「取り込まれますよ」というセリフを再度放ち、君島ほのかに気味悪がられている。
『ミンナのウタ』で中務裕太は最初にさなの弟を目撃しており、後に述べるように奇しくもその恋人であるほのかを引き止めようとしていたのだ。中務裕太の警告は高谷さなの恐ろしさを知るからこその警告だったが、ほのか達は前作に登場したカセットテープを権田から受け取り、事件の真相に近づいていくことになる。
さなの目的は?
『あのコはだぁれ?』のミステリーは、なぜ高谷さなが現代によみがえり、ほのかの周りの人々を殺していったのか、ということだ。権田は『ミンナのウタ』での経験から、高谷さなの目的は恨みではなく、夢や希望に根ざしているから厄介だと語っていた。だが、『あのコはだぁれ?』における高谷さなの目的は別のところにあったように思える。
『あのコはだぁれ?』の終盤、ほのかは事故にあった恋人の悠馬がさなの弟だったことを知る。さなの弟の「としお=俊雄」は『ミンナのウタ』にも登場していたが、『あのコはだぁれ?』では、両親がさなを殺した容疑で逮捕された後、施設に入り、名前を「七尾悠馬」に変えて成人していたことが明らかになった。悠馬のスケッチブックに描かれていた絵は高谷家の階段の絵であり、幼い頃の記憶を絵にしたものと思われる。
悠馬は冒頭で「会わせたい人がいる」としてほのかを呼び出したが待ち合わせ場所で車に撥ねられ、瞳がいた自動販売機まで飛ばされてしまった。その自販機の下にはさながいたのだが、この演出は『ミンナのウタ』でさなが同級生達にノートを自販機の下に隠されていた(と、さなは主張している)ことがベースになっている。
ほのかが改めてその場所を見にいくと、さながいた自販機の下には悠馬が用意していた婚約指輪が落ちていた。悠馬はあの日、ほのかにプロポーズをしようとしていたのだ。この時点で、さなは弟の彼女であるほのかに嫉妬していたと考えられる。悠馬を意識不明の重体に追いやり、婚約指輪を自販機の下に隠したという状況証拠が揃っているからだ。
悠馬が「会わせたい人がいる」と言ったのは、ほのかに(死んだ)さなを紹介したかったのかもしれない。今回の事件は、悠馬がほのかを姉に紹介しようとしたが故に起きた悲劇だったのだろうか。
ほのかvsさな
『あのコはだぁれ?』のラストでは、ほのかが高谷家を訪れ、最終決戦に挑む。さなに「あなたはもう死んでいる」と告げて、成仏を促すのだ。確かに死んでなお恋人との関係に介入してくる義姉がいるのは困りものだ。日付と弟の名前を告げて悠馬を連れていこう(殺そう)とするさなに、ほのかは「あなたには渡さない」と戦いを挑む。
ところが、さなの部屋にいたのは三浦瞳で、かつてのさなのように掃除機のコードで首を絞められていた。さなが再びレコーダーに殺しの宣告を録音しようとすると、ほのかは自ら日時と自分の名前を叫んでそれを上書きする。ほのかと瞳は学校の屋上に飛ばされ、ほのかは32年前に茂美が転落した日のように屋上から落ちそうになる。瞳はあの日手を離して茂美を死なせたさなのポジションにおり、ほのかを助けようとするも徐々にさなに意識を乗っ取られてしまうのだった。
このピンチに助けに来たのは悠馬と、あの日屋上にいた少女時代の瞳の母だった。意識不明になった悠馬の元には、母の詩織が繰り返し現れており、我が子を思う詩織が悠馬を助けたのだろう。最後には詩織も登場し、さなの意識を瞳から引き離して去っていった。その頃、施設にいた詩織は息を引き取ったのだった。
詩織はさなと共に成仏したのだろう。『ミンナのウタ』でも怪演を見せた山川真里果の名演は『あのコはだぁれ?』でも光っていた。『あのコはだぁれ?』は母と娘を中心にした話で、さなと詩織、瞳とその母はそれぞれ娘の責任を取る母と、最後に娘に寄り添う母の姿を示していた。いずれにせよ母の責任が強調されているため、もう少し自由な母親像もあってよいと思うけれど。
ちなみに『ミンナのウタ』では、さなは詩織に「産まなきゃよかった」と言われたと語っている(これもさなの主張)ほか、茂美の死に際してはさなに手をあげている。この時は、妊娠している息子を殺されて恨んでいたのか、それとも詩織に問題があったのかは曖昧なままにされていた。だが、『あのコはだぁれ?』では、さなの弟は死んでいなかったことが明らかになったと思われるので、さなの嫌疑は一つ晴れたと言ってもよいだろう。
こんなに曖昧な言い方になってしまうのは、悠馬=俊雄の名前の由来が「呪怨」シリーズの佐伯俊雄から来ているからだ。悠馬も佐伯俊雄のように怨霊的な存在なのだとすれば、さなの弟はやはり胎児の時に殺されており、ほのかの前に現れた悠馬はさなと同じような怨霊だと考えることもできる。
『あのコはだぁれ?』の公式パンフレットによると、詩織の布団に潜り込んださなは弟の心音を録音していただけだったが、詩織はさなへの恐怖によるストレスから破水してしまったのだという。続けて「第二子[仮名:俊雄]死産……!?」と書かれており、やはり事実は曖昧なままだ。
ちなみに悠馬役を演じた染谷将太は『あのコはだぁれ?』公開前夜祭イベントで、8〜9歳の時に「呪怨」の俊雄役のオーディションを受けて落ちたことを明かしている。『あのコはだぁれ?』では、晴れて大人になったさなユニバース版“俊雄”を演じることになったのだ。
ラストの意味は?
学校には平和が戻り、クラスでは、ほのかが代役を務めていた産休中の塚本先生が無事出産したことが報告される。しかし、ここからがまさかの展開。ほのかと瞳が転落死した茂美とまりへ献花をしていると、そこに悠馬が現れる。すると悠馬は「いつもありがとう」という謎の言葉を瞳にかけ、婚約指輪を取り出して眺め、その場を去るのだった。
ほのかは驚き、自分の指につけられていた指輪を見ると、それが消えていくのを目にする。そして、まりと茂美の献花の中に、「ほのか先生」の文字を見つけるのだった。さなは部屋での決戦で瞳を殺そうとしたのではなく、初めから「2024年7月27日、君島ほのか」と唱えていたようだ。実は、ほのかはこの時に既に死んでいたのである。
その証拠に、屋上のシーン以降はほのかが他の誰かとコミュニケーションをとっている描写がない。ほのかは病院で意識を取り戻した悠馬にハグしているが、その時も反応がないのだ。悠馬が瞳に「いつもありがとう」と言っていたのは、瞳が死んだほのかのためにいつも献花していたからだろう。川松校長の前に死んだ茂美が現れた時も同様に献花に対するお礼を言われていた。
明確に説明されているわけではないが、弟を渡すまいという今回の高谷さなの目的は達成されたようだ。そして、扉の向こうに消えたすりガラス越しの瞳の姿が、さなのシルエットのようになっている。おそらく、さなは瞳に乗り移り目的を達成したのだろう。詩織はさなを連れていけなかったようだ。さな強い。ピアノを一緒に弾いて、忘れ物のノートを届けてくれた瞳はさなに気に入られてしまったのだと考えられる。
エンドロールでは、登場人物たちのその後が描かれる。『ミンナのウタ』でも見られた描写だが、さなに殺されたかに思われた人々は、ほのかとまりを除いてみんな生きていた。校長もタケルも蓮人も大樹も中村先生も。さなの行動原理は意外と分かりやすく、弟を取られそうになったほのかと、直接自分を馬鹿にしたまりだけを殺したようである。
『ミンナのウタ』では、角田凛が最後に唯一さなに寄り添ったことで、さなは成仏したように見えた。『あのコはだぁれ?』では、瞳が最初からその役割を果たしており、さなは「vs ほのか」という別の目的を果たすことになった。ゆえに、まり以外の犠牲者が出ずに済んだのだろう。
エンディングで流れる曲はヒグチアイ「誰」。本作のために書き下ろされた楽曲で、「二人 時に似たような匂い」と、瞳とさなの関係を示唆する歌詞となっている。
『あのコはだぁれ?』感想
映画『あのコはだぁれ?』は、ホラー映画としてはおそらく初めて“映適マーク”の認証を受けている作品だ。映適マークとは、制作現場における適正な労働環境への取り組みが認められた作品が取得できる認証で、特殊メイクや特殊な環境での撮影が必要とされるホラー映画で認証を受けたことの意義は小さくない。
その上で、『あのコはだぁれ?』は単体で楽しめる作品になっていつつも、『ミンナのウタ』も観ていると「さなユニバース」として楽しめる作品になっていた。主演の渋谷凪咲と早瀬憩をはじめとした新たな俳優陣も見事な演技を見せていて、ホラー作品としての完成度は非常に高かったように思う。
GENERATIONSとのコラボという形で幕を開けた本シリーズは、『あのコはだぁれ?』ではより一層さなのオリジンを深掘りすることで、ホラーシリーズとしての今後に更なる期待を持たせてくれた。入り口は広く、出口は見えないほどに深く——。1年以内に2作品というハイペースで公開された「さなユニバース」、気が早いかもしれないが次回作にも期待したい。
映画『あのコはだぁれ?』は2024年7月19日(金) より劇場公開。
『ミンナのウタ』はBlu-ray、DVDが発売中。配信でも視聴できる。
『あのコはだぁれ?』オリジナル・サウンドトラックは発売中。
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