『あのコはだぁれ?』公開
清水崇監督によるホラー映画最新作『あのコはだぁれ?』が2024年7月19日(金) より劇場で公開された。「呪怨」シリーズで知られる同監督による『ミンナのウタ』以来の新作で、“ホラーの夏”を彩っている。
『あのコはだぁれ?』は『ミンナのウタ』の「DNAを引き継ぐ作品」とされており、事前に発表された登場人物の中には、『ミンナのウタ』で鮮烈なデビューを果たした少女の幽霊“高谷さな”の名前もあった。では、『あのコはだぁれ?』と『ミンナのウタ』にはどのような繋がりがあり、“高谷さな”とは一体誰なのか。今回は両作で描かれた“高谷さな”のmの語りを比較しながら考察してみよう。
なお、以下の内容は本編の結末に関する重要なネタバレを含むため、必ず劇場で『あのコはだぁれ?』を観てから読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『あのコはだぁれ?』および『ミンナのウタ』の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
『あのコはだぁれ?』と『ミンナのウタ』はつながってる?
映画『あのコはだぁれ?』は、公開前には明言されていなかったように思われるが、2023年に公開された映画『ミンナのウタ』の続編とも呼べる作品だった。もちろん『あのコはだぁれ?』単体でも楽しめる作品に仕上がっているが、“ユニバースもの”として観ることでより楽しめる仕掛けがふんだんに仕込まれていた。
『ミンナのウタ』は2023年8月に公開された作品で、GENERATIONS from EXILE TRIBEの7人が本人役で主演を務めた。同作のストーリーは、高谷さなが作った呪いのメロディーを聴いたGENERATIONSのメンバーが次々と失踪していくというもので、「GENERATIONS vs 高谷さな」と言っても過言ではない異例の作品だった。
『ミンナのウタ』が巧妙だったのは、GENERATIONSにスポットライトを当てながらも、貞子や伽椰子に続く、“高谷さな”というホラークイーンを誕生させたところだ。『あのコはだぁれ?』の公式パンフレットによると、清水崇監督は高谷さなを中心とした設定年表を作りつつ、はっきりさせない部分を作り、混沌を狙ったと語っている。今後の高谷さな作品でも徐々にピースが埋められていくような、そんな作りになっていると考察できる。
『あのコはだぁれ?』と『ミンナのウタ』の繋がりをネタバレ考察
糸井茂美の事件
『あのコはだぁれ?』には冒頭から『ミンナのウタ』に共通する演出が含まれていた。『あのコはだぁれ?』の冒頭では、1992年6月23日に糸井茂美が屋上から落下して死亡した事件が描かれた。これは『ミンナのウタ』でも語られていたことだが、『あのコはだぁれ?』では状況がより詳細に描かれている。
『ミンナのウタ』では川松校長が当時の記憶を辿って語っていただけだったが、『あのコはだぁれ?』では、前川妙子、三浦唯、糸井茂美が高谷さなに詰め寄っていたこと、奇妙な突風が吹いて茂美が屋上から落下しそうになったこと、さなが「最後の音を聞かせて」と言い、“音”を録音するために茂美の手を離して落下させていたことが明らかになった。
妙子、唯、茂美は、さなに「何でありもしないこと言えるの?」と詰め寄っており、さなの虚言を指摘しているようにも思える。そして、『あのコはだぁれ?』には生き延びた前川妙子と三浦唯が生徒たちの保護者として登場。息子の前川タケルと娘の三浦瞳は、現代に再び現れたさなの呪いに巻き込まれていくことになる。
さなへのイジメ
『ミンナのウタ』では、川松校長は妙子、唯、茂美がさなをいじめていたのかどうかの判断がつかなかったと話していた。『あのコはだぁれ?』では、さなの机に落書きされた「殺人ソングつくるな」という文字を若き日の川松が消そうとしている姿が描かれた他、さなの上履きに画鋲が仕込まれ、それをそのまま履いて血だらけで歩き回るさなの姿も。
『あのコはだぁれ?』だけ観ると、さなへのいじめはあったように思えるが、『ミンナのウタ』では妙子、唯、茂美は川松に対してそれを否定している。「あの子変です、全部自分で——」と言いかけて、屋上からのさなの視線を察知して口を閉じたのだ。ノートの件も画鋲の件もさなの自作自演なのだとしたら、相当根が深そうだが……。
『あのコはだぁれ?』では、茂美の転落死後に妙子と唯が学校に来れなくなる中、さなが平然と学校に来ていたため、周囲から気味悪がられていたとされている。『ミンナのウタ』では、さなは母・詩織から「産まなきゃよかった」と言われたと主張しているが、本当のところは分からない。事実としてあるのは、茂美の死に際して川松が家庭訪問した際に詩織がさなに平手打ちをしたということだけだ。さなの異常性が先か、周囲の反応が先かという問いは、“さなユニバース”であえてぼかされているところでもある。
悠馬=俊雄の描写
『あのコはだぁれ?』におけるドンデン返しは、渋谷凪咲演じる主人公・君島ほのかの恋人・七尾悠馬が、さなの弟・俊雄が大人になった姿だったということだ。だが、そのヒントは冒頭から散りばめられていた。
まず、『ミンナのウタ』に登場する俊雄少年は横縞=ボーダーのTシャツを着ていたが、『あのコはだぁれ?』の悠馬も冒頭でジャケットの下に横縞=ボーダーの服を着ている。悠馬が意識不明となった後、ほのかは悠馬が務めていた養護施設に出向くが、そこで登場した写真の少年はよく見ると俊雄に似ている。施設内の悠馬の部屋では、さな死亡の現場となった高谷家の階段の絵が描かれたスケッチをほのかが見つけるなど、様々なヒントが示されている。
『ミンナのウタ』では俊雄についてほとんど語られることはなかったが、『あのコはだぁれ?』では、俊雄=悠馬が養護施設で育ち、そのまま施設に残って住み込みで職員として働いていることが明かされた。
そして、悠馬が車で轢かれたシーンでは、さなが悠馬を自販機の下に引き摺り込むシーンも。これは『ミンナのウタ』で妙子、唯、茂美にノートを自販機の下に隠されたというさながノートを取ろうとしている姿を再現したものだ。同作の回想シーンでは、川松先生がノートを取ってあげていたが、現代のシーンでは佐野玲於が自販機の下に頭を突っ込むさなの姿を目撃している。
『あのコはだぁれ?』では、後に明らかになるが、さなはここで悠馬がほのかのために用意していた婚約指輪を奪って自販機の下に隠しており、同じことを弟の悠馬=俊雄にしていたことが分かる。弟を取られたくないという思いか、はたまた幸せになろうとする弟への嫉妬心からの行動だろうか。
ラジオ番組宛の封筒
悠馬の事故現場に立ち会った早瀬憩演じる三浦瞳は、学校でさなと出会う。さながピアノを弾いてところに合流し、続きを弾いてあげると二人は連弾を始めるのだ。このシーンでピアノの上に置かれていたのは、さなのノートとラジオ番組宛の封筒である。
ノートは『ミンナのウタ』の回想で自販機の下に隠されていたもので、封筒については「PABラジオ『J-POPタウン』おたより係さま」と書かれており、『ミンナのウタ』の冒頭でGENERATIONSの小森隼が倉庫で見つけたものであることが分かる。その封筒には30年前に届いたカセットテープが入っていたのだが、そのカセットテープこそ、『あのコはだぁれ?』でさなが「最期の音」を集めていたカセットテープなのだ。
『ミンナのウタ』では、探偵の権田がこのカセットテープのB面に、さなが「最期の音」を集めていたことを発見した。封筒については、権田もGENERATIONSのメンバーも、そこに書かれていた住所を辿って高谷家に辿り着いた。
『あのコはだぁれ?』では、封筒はまだ新品であり、さながラジオ番組宛にテープを送る前のものであることが分かる。ピアノの連弾を終えたさなはノートと封筒を置いて消えたが、瞳はこれを持ちかり、補習の日にさなに返したことで交友を深めている。さなにとっては大切な封筒とノートだったのだ。
家庭訪問で明らかになる新事実
ほのかが高谷家に家庭訪問に訪れるシーンでは、『ミンナのウタ』で描かれなかった、さなの新たなオリジンが明らかになる。それは祖母に関するものだ。『あのコはだぁれ?』でさなの母・詩織がループするのは『ミンナのウタ』と同じ演出だが、『あのコはだぁれ?』では奥の部屋で横たわっている祖母・トヨが登場する。
さなはトヨの面倒を見ているようだが、さなは布巾の水を絞るとカセットレコーダーの録音をオンにして「1992年8月11日、おばあちゃん、高谷トヨ」と声を吹き込み、祖母の顔に濡れた布巾を置く。つまり、さなは祖母トヨの「最期の音」も録音していたのだ。
このシーンでほのかが食べた菓子の賞味期限は「92年8月13日」となっているため、ほのかはさなが祖母を手にかけた日に迷い込んだものと思われる。さなが弟・俊雄の名前を吹き込んで詩織のお腹を叩いたのは92年9月2日、さなの名前を吹き込んで両親に自分を殺害させたのが92年9月23日なので、さなは1ヶ月と10日の間に立て続けに家庭内で「最期の音」をとっていたようだ。
ちなみに茂美の転落死は92年6月23日なので、何らかの理由で、夏以降にさなの矛先が家庭内に向いたものと思われる。それはもしかすると、生まれてくる俊雄に執着する母・詩織への嫉妬心に由来するものなのかもしれない。詩織が妊娠したことで、さなが祖母の世話をせざるを得なくなったという背景もあったのだろうか。
この家庭内の問題が重要なのは、『ミンナのウタ』では、高谷さなの動機は恨みではなく、自分の音楽についての夢と希望だから厄介だということになっていたからだ。『あのコはだぁれ?』でも権田はそう主張しているが、本作では弟・俊雄=悠馬をめぐるさなの嫉妬心が事件の根底にあったように思える。
警告する中務裕太
『あのコはだぁれ?』には、『ミンナのウタ』から川松校長や探偵の権田継俊が登場するが、唯一GENERATIONSのメンバーでカメオ出演を果たしているのが中務裕太だ。中務裕太は『ミンナのウタ』で、メンバーの中でも霊感が強い人物として登場し、さなや俊雄、詩織の姿も目撃していた。こういうことに慣れているのか、妙に冷静な姿を見せている。
『あのコはだぁれ?』では、権田がいた居酒屋で登場。川松校長が店に現れると、権田は「頼んだ」と中務裕太の肩を叩いて逃げ出す。中務裕太は、ほのかの腕を掴むと「とり込まれますよ」と忠告を与える。『ミンナのウタ』では中谷家でも滞在していたホテルでも詩織のループにハマった中務裕太だからこその忠告だったと言える。
荒んだ権田継俊
その探偵、権田継俊は『ミンナのウタ』では事件を解明する中心的な役割を果たしたが、『あのコはだぁれ?』では荒れた姿を見せている。『ミンナのウタ』のラストではGENERATIONSのマネージャー角田凛がさなに寄り添い、さなは角田の胸にカセットレコーダーを残して消えた。どうやら権田はこのカセットレコーダーをテープと一緒にゴミ処理場に隠していたようで、ほのか達にこれを渡している。
しかし、『あのコはだぁれ?』では権田はもう本件に関わりたくないと思っているようだが、権田は前回テープの録音を聞いた時に入っていなかった音が新たに録音されていることに気がついた。それは悠馬が車にはねられた日の音であり、権田がカセットレコーダーを隠していたにもかかわらず、録音が続けられていることが明らかになっている。
なお、権田は『ミンナのウタ』で、クラスは違ったが高谷さなの同級生であったこと、茂美の転落死の事件で高谷さなが噂の中心にいたこと、今回の事件で自分が高谷さなに呼ばれている気がするということを語っていた。それで権田は川松校長に話を聞きに行くのだが、その時見せてもらった赤い表紙の卒業アルバムは、『あのコはだぁれ?』でも瞳とタケルが親から拝借して高谷さなの写真を確認している。
権田を演じたマキタスポーツはパンフレットで、『あのコはだぁれ?』での権田は以前より堕落した生活を送っているイメージの見た目になっているとしている。『ミンナのウタ』では妻子とうまくいっていない様子が描かれていたが、『あのコはだぁれ?』でも妻子がいると主張しており、まだ関係は続いていることがうかがえる。
決戦の違い
『あのコはだぁれ?』のラストの決戦は、『ミンナのウタ』を踏襲して高谷家が舞台になる。『ミンナのウタ』ではGENERATIONSメンバーが次々と消え去った末に、角田凛が「彼女に寄り添ってあげることってできないのかな?」と思い至り、高谷家へと向かった。そこで権田らは両親を利用して首吊りを実行し、自分の「最期の音」を録音しようとする過去のさなの姿を見た。角田は階段から落ちるさなに抱きついて一緒に階段から滑り落ち、さなは涙を流しながら笑顔を見せて、失踪した面々は戻ってくることができた。
一方、『あのコはだぁれ?』の場合は主人公ほのかが悠馬の病室で養護施設の子どもがさなの絵を描いていたことで危機感を感じ、悠馬を連れて行かせないと、さなに“勝負”を挑む。寄り添った角田と対決を選んだほのかが迎えた結末の違いはご存知の通り。新たなホラークイーンは子どもらしい無邪気さを持ちながら、立ち向かってくる相手には徹底して対抗する頑固さも持ち合わせているようだ。
“高谷さな”とは誰なのか
こうして見ていくと、『あのコはだぁれ?』と『ミンナのウタ』を通して、高谷さなという人物の人となりや特徴が徐々に分かってくる。『ミンナのウタ』では、“いじめ”を通して川松の注目を集めていたさなだったが、『あのコはだぁれ?』では瞳という友達を作り、弟の悠馬をほのかに渡すまいとする姿が描かれた。
『ミンナのウタ』では、魂の音を集めて、自分の歌を皆に聞いてほしいという“夢と希望”への執着が呪いへと発展したが、『あのコはだぁれ?』では弟をはじめとする家族への執着が事件の発端になったように思われる。“呪いの音楽”とカセットテープを操るというのが高谷さなの特徴だが、それ以上に“他者への執着”が、さなの魅力にもなっている気がする。
『ミンナのウタ』では、角田が寄り添ったことで全員を元に戻し、GENERATIONSのライブで観客に自分の歌を唄わせることで満足していたようだった。『あのコはだぁれ?』でも、最後には自分を馬鹿にした小日向まりと、弟を奪い合って対決した君島ほのかを除いて全員を元に戻している。なので、現代においては大量殺戮に及ぶような大きな脅威になる存在ではないように思える。
一方で、家庭や学校、ラジオの向こうのアイドルといった他者との繋がりの中で、自らが執着するものに着実に手を伸ばしていることも確かだ。本当に敵対した相手には容赦はなく、婚約目前だったほのかにとっては迷惑すぎる義姉だった。GENERATIONSに対してもそうだったが、さなは等身大のホラークイーンであるが故に、私たちの生活を壊しにくる恐ろしさがある。
忘れてはいけないのが、両作で高谷さな役を見事に演じた穂紫朋子の演技力だ。これからも毎夏くらいのペースで穂紫朋子の高谷さなが見られることに期待したい。次は一体どんな物語で高谷さなの歌を聞くことになるのか……。まずは『ミンナのウタ』と『あのコはだぁれ?』で高谷さなのことをより深く理解して、続編を待とう。
映画『あのコはだぁれ?』は2024年7月19日(金) より劇場公開。
『ミンナのウタ』はBlu-ray、DVDが発売中。配信でも視聴できる。
『あのコはだぁれ?』オリジナル・サウンドトラックは発売中。
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