ディズニープリンセスを代表する『シンデレラ』を実写化
2024年4月26日(金)よりDisney+でディズニープリンセス最新作である『ウィッシュ』(2023)が配信開始される。それと同日の金曜ロードショーで、『シンデレラ』(2015)が放送される。シャルル・ペローの童話「シンデレラ」とディズニーを代表するアニメ映画『シンデレラ』(1950)の実写化作品である実写映画『シンデレラ』は童話の「シンデレラ」に現代風の解釈を加えたものとなっている。
本記事では実写映画『シンデレラ』について解説と考察、感想を述べていこう。なお、本記事は実写映画『シンデレラ』のネタバレを含むため、本編視聴後に読んでいただけると幸いである。
以下の内容は、実写映画『シンデレラ』の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
実写映画『シンデレラ』で描かれる新解釈「シンデレラ」
想像力豊かなエラ
エラは想像力が豊かな子で、動物たちのお世話をして過ごしていた。彼女は両親からプリンセスのように扱われており、フェアリーゴッドマザーの存在を信じて疑わないほど、純朴な少女だった。商人の父親は海外にいることが多く、家を空けることも多かった。それでもエラのことを愛しており、家に帰るたびにお土産を持ってきてくれる。
幸福を絵にかいたような家族だったが、その幸福は突如として終わりを告げた。エラの母親が不治の病に倒れた。そして「勇気と優しさを忘れないこと」という人生の教訓を遺して、母親はこの世を去ったのだ。エラは母親の言葉を忘れずに成長し、想像力豊かな女性に育ったがエラの父親は人生に変化を求め、再婚した。その相手は亡くなった絹織物組合の会長のトレイメイン卿の妻だった。エラは父親の幸福を信じ、父親の判断を受け入れる。
そうして、エラは家に継母と2人の義理の姉を迎え入れたが、義姉は傲慢な性格だった。継母はよく言えば快活な女性だったが、悪く言えば派手好きな性格だった。毎晩のようにパーティーを開き、そこではポーカーなどギャンブルに興じる日々を過ごしていた。
継母はエラの父親がエラに亡き前妻の影を見ていると感じ、嫉妬している。それとも、父と娘の間の深い絆に入ることが出来ず、除け者にされていると感じたとも考察できる。それを思わせるに、継母はエラに母親とは呼ばせず、マダムと呼ばせるように徹底していた。
エラに対する継母のネグレクトが始まった。エラは屋根裏へと追いやられ、父親のいない日々を孤独に過ごすことになる。しかし、エラは寂しくはなかった。エラは家畜やネズミといった動物に語りかけ、使用人たちと共に仲良く家事をしていた。毎日のようにエラの父親から手紙が届き、エラはそれを心の支えとしていた。だが、ある日の午後、エラの父親の急死の一報が届く。
継母たちは身の破滅だと騒いでいたが、エラの父親はエラと約束した最初に自分に触れた枝を最期に送るなど、深い愛を遺していた。商人の父親が死に、贅沢な日々は続けられなくなっていく。継母は使用人に暇を与え、エラはその代わりに忙しく家事に追われる毎日を過ごした。継母は寂しさを忘れるには家事に勤しむのが一番と言い、エラが担う家事の量は日に日に増えていく。エラはネズミと話し、寂しさを紛らわせていた。
屋根裏は隙間風が酷く、それによる寒さを紛らわせるためにエラは暖炉の燃え残りで暖を取って寝ることも多くなった。これ以降、エラは顔に灰や煤を被っている状況が続く。「シンデレラ」は原義では「灰かぶり」を意味している。そのため、灰や煤にまみれたエラの状況を強調した演出が行なわれたと考察できる。実写映画『シンデレラ』では、「シンデレラ」という名前は意地悪な義姉に名付けられたものとなっている。
見習いキットとの出会い
また、実写映画『シンデレラ』のオリジナル展開として、エラは「シンデレラ」と名付けられたことをきっかけに現状に嫌気がさし、馬に乗って森の中に逃げ込む場面が追加されている。そこで狩りをしていたキット王子と出会うのだ。シャルル・ペローの童話の「シンデレラ」では、王子とは城の舞踏会で出会い、そこで王子が恋に落ちるが、実写映画『シンデレラ』では王子とエラの出会いを深掘りしている。
エラは狩りの獲物になっていたシカを救う。そして、シカとエラが、目と目があったとき、シカにはこの世で果たさなければならない役目がまだあると感じたと語る。エラはシンデレラとなった自分の状況と、ブラッド・スポーツの獲物になっていたシカにシンパシーを感じたと考察できる。
ブラッド・スポーツはシンデレラの舞台となった時代の王族にとっては最大の娯楽の1つで、必須技能とも言える。しかし、アメリカのコメディアンのポール・ロドリゲスはブラッド・スポーツをこう評する。「ハンティングはスポーツじゃない。参加していることを片方は知らないのだから」と。
ブラッド・スポーツに興じていたキット王子は、自分は王子とは名乗らずに宮殿で働くキットとしてエラと関係性を深めていく。そして、動物を友として愛するエラの影響を受けて、シカを殺さずに去るのだった。エラもまた、キット王子に名前を名乗らない。名前が持つ力は強い。エラは、もしシンデレラと名乗ってしまったら、自分が家事をするだけの存在になってしまうと咄嗟に思ったと考察できる。
優しさと勇気、ちょっぴりの魔法
フェアリーゴッドマザー
キット王子は国民たちに娯楽を与えるため、妃を選ぶ舞踏会に国民たちを招待するという異例の発布を出す。この発布を聞き、意地悪な継母と義姉は王子の妃になれるかもしれないと喜ぶが、エラは見習いのキットと再び出会えるかもしれないと喜ぶ。この描写によってエラは人を身分や称号で判断するのではなく、人柄で判断していることが強調されていると考察できる。
エラは継母がエラを屋根裏に追いやったときに渡した裁縫道具で、エラの母親の遺したドレスを直す。その形見のドレスで舞踏会に向おうとするエラだったが、ドレスは意地悪な継母たちによってズタズタに引き裂かれてしまう。それによって舞踏会に行くことが出来ないことが決定的になったエラの心は、とうとう折れてしまう。
そのとき、エラは屋敷の傍で老婆と出会う。飢えている老婆に1杯のミルクを振る舞うエラだったが、彼女こそフェアリーゴッドマザーだった。子供を喜ばせるための空想だと思っていたフェアリーゴッドマザーが実在の人物だと知り、エラは困惑する。
フェアリーゴッドマザーはカボチャを馬車に、ネズミを馬に、トカゲを従者に、ガチョウを御者に変える。そして破かれた形見のピンクのドレスを直して、水色のドレスに変えてみせた。ドレスに見合うガラスの靴を用意すると、フェアリーゴッドマザーはエラを宮殿の舞踏会に送り出した。しかし、最後にフェアリーゴッドマザーは、真夜中の12時を知らせる鐘の音と共にすべての魔法がとけることを忠告した。
宮殿の舞踏会
宮殿の舞踏会では、キット王子がエラを探していた。それを国王は見透かしており、一度会っただけの人物との結婚にやはり懐疑的な態度を示している。それに対してキット王子も初めて会う王女と結婚することも変わりないと返すが、国王は王女と結婚することで国家の安寧が保たれると説く。多数の安寧と、個人の幸福。その2つが天秤にかけられることが、実写映画『シンデレラ』の重要な要素となっていると考察できる。
遅れてやってきたエラを見て、キット王子は最初のダンスを申し込む。そのダンスに皆が見惚れる。興味深いことに長男キット王子を演じたリチャード・マッデンは『ゲーム・オブ・スローンズ』(2011-2019)でウィンターフェルを治めるスターク家のロブ・スタークを演じ、そこでは戦争に有利に働く貴族相手ではなく、自分の愛する女性を選んで結婚したため、命を落とす役を演じている。
キット王子は政略結婚を拒み、エラを位の高い女性だと考えている。しかし、サラゴサ(現在のスペイン・アラゴン州サラゴサ県)の王女のシェリーナとの政略結婚を約束してしまった大公は焦る。その話を聞きつけた意地悪な継母はその秘密を知り、この舞踏会が国民のご機嫌取りだと失望し、それを利用しようと画策していた。
エラとキット王子の幸福な時間は長くは続かない。12時を告げる鐘の音が近づき、エラは急いで舞踏会から帰ろうとする。そこで国王とぶつかってしまったエラは、国王にキット王子が心の底から父親を尊敬している立派な人物であることを伝えるのだった。階段から駆け降りる際、エラは片方のガラスの靴が脱げてしまう。これが有名なシンデレラを象徴する場面に繋がる。
キット王子はエラを追いかけようとするが、大公がキット王子を外におびき出すための罠かもしれないと言って止める。大公の追手を巻くことに成功するエラたちだったが、すべての魔法が解けてしまう。泥の中に突っ込んでしまったエラは雨を浴びながらも笑顔で家路につく。エラはガラスの靴を父親の遺品と一緒に隠し、日記に舞踏会での出来事を両親に向けて語るように詳細に書き記すのだった。
父親としての遺言
国王の病状は悪化する一方で、それでも国王は王国の未来を憂いていた。国王は命令でシェリーナ王女と結婚しろと言ったらどうするかとキット王子に尋ねるが、キット王子は断ると返す。他国に依存するのではなく、国民一人一人が優しさと勇気を持てば国は守られるというエラの教えが正しいとキット王子は語るのだった。それを聞き、キット王子が一人前になったことを確かめると、国王は安心したように永遠の眠りについた。
国王は最後に国王としてではなく、父親として打算ではなく、愛する人との結婚をすべきだという遺言を残す。キット王子はそれを聞き、喪が明けると愛するエラを探し出そうと躍起になった。エラもキット新国王に会いに行こうとするが、意地悪な継母が先回りしており、エラにキット新国王に会いに行きたければ自分を官長にするように命令するのだった。そして、エラがそれを断るとガラスの靴を叩き割った。
意地悪な継母はエラを屋根裏に閉じ込める。継母がこれまでエラに虐待していた理由は、エラが清らかで純真な性格の持ち主だったからであり、一種の自己嫌悪からきていたものだった。意地悪な継母はガラスの靴のかけらを土産に大公に取引を持ち掛ける。意地悪な継母は自分には伯爵夫人の地位を、娘には何不自由ない結婚を要求した。
大公はエラがもうキット新国王に会いに来ないと確信し、キット新国王に国家の安寧のため、シェリーナ王女と結婚するように迫る。それでもエラに会おうとするキット新国王に対して大公は、エラと再会できなければシェリーナ王女と結婚するという約束を取り交わす。
大公はガラスの靴の持ち主を探してみせるが、それはすべてキット新国王にエラがいないことを示すためのパフォーマンスでしかなかった。何故ならば、大公はエラの所在地を知っており、エラが屋根裏に監禁されていることも知っていたからだ。
想像力豊かなシンデレラ
シンデレラとキット新国王
エラが靴を履かないまま、大公が屋敷から引き返そうとした瞬間、ネズミたちが窓を開けて思い出に浸るエラの歌声が外に聞こえるようにした。それによって屋敷にもう1人、娘がいることをキット新国王の忠臣である大佐が知る。大公はそれを無視して引き返そうとするが、ガラスの靴の持ち主を探す一団の中にキット新国王が忍び込んでいた。そして、エラにガラスの靴を履かせるように命じた。
意地悪な継母が母親としてそれを止めようとするが、これまでの行ないからエラは意地悪な継母を母親とは認めない。そして、エラはシンデレラとしてキット新国王に会い、ガラスの靴を履くのだった。ありのままの自分を見せることが不安になるエラだったが、キット新国王はありのままのエラを受け入れると約束する。そして、キットはまだ国王としては見習いの自分も受け入れてほしいと告げるのだった。
透き通ったガラスの靴は何も隠さないことを意味し、ありのままの自分を受け入れてもらうことへの不安と、それこそが真実の愛であることを実写映画『シンデレラ』では象徴していると考察できる。また、シンデレラは最後に継母を許すが、崩れ去った継母が大公など共に永久に国から去った理由は、シンデレラを虐待していた理由と同じく自己嫌悪から来るものだと考察できる。
すべての人が想像力と優しさ、そして勇気を持てば世界は良くなると説いた実写映画『シンデレラ』。今のディズニーはそれを描けているだろうか。Disney+で2024年4月26日(金)より最新作『ウィッシュ』(2023)が配信される。それを見て、また判断していきたい。
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