ネタバレ解説&感想 実写版『リトル・マーメイド』ラストの意味は? 原作アニメとの違い、親世代へのメッセージを考察 | VG+ (バゴプラ)

ネタバレ解説&感想 実写版『リトル・マーメイド』ラストの意味は? 原作アニメとの違い、親世代へのメッセージを考察

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実写映画版『リトル・マーメイド』公開

1989年に公開されたディズニーのアニメ映画を実写化した『リトル・マーメイド』が、2023年6月9日(金) より、日本でも公開された。本作の指揮をとったのは、『シカゴ』(2002) や『パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉』(2011) といった作品で知られるロブ・マーシャル監督。歌手としても活動するハリー・ベイリーが主人公のアリエル役を演じる。

実に34年の時を経て実写化された『リトル・マーメイド』。今回は、ラストの展開を中心に、本作に込められた意味を解説&考察していこう。なお、以下の内容は重大なネタバレを含むため、必ず劇場で本編を鑑賞してから読んでいただきたい。最高の体験になることは保証しよう。

ネタバレ注意
以下の内容は、映画『リトル・マーメイド』の内容に関する重大なネタバレを含みます。

実写映画版『リトル・マーメイド』ラストをネタバレ解説

原作アニメからの変化

実写映画版『リトル・マーメイド』は、大筋は原作アニメに忠実ながらも、要所で今求められているメッセージを加えていく仕様になっていた。中でも大きな変更点は、ノーマ・ドゥメズウェニ演じるセリーナ女王の登場だろう。エリック王子の母として登場したセリーナ女王は、アリエルを閉じ込めようとするトリトン王と対の存在として描かれた。

また、メリッサ・マッカーシーが名演を見せたアースラは、トリトン王の妹という原作アニメで取り下げられた設定が復活し、トライデントを巡って力と支配を求める“似たもの兄妹”として描かれた。『リトル・マーメイド』は全編を通して美麗な映像とダイナミックな楽曲で生まれ変わると共に、一層深いメッセージを届けてくれた。

原作からの改変という点で興味深かったのは、アースラとアリエルの“契約=呪い”に、「三日目の日没までにキスをしなければ人魚に戻る」という内容に加えて、アースラがこっそり「キスの件について忘れる」という呪いを盛り込んでいた点だ。実は、アースラは契約するときに「記憶と声を失う」と唱えている。

この設定は、物語の後半に生き物たちの声が聞こえるはずのアリエルに「キス・ザ・ガール」の歌詞の内容が入ってこないという演出に一役買っている。呪いを解くのは「真実のキス」でなければならず、エリック王子にだけその選択権があるという状況では、アリエルはエリックを“誘惑”せざるをえない。原作アニメではどちらにとっても不幸だった状況は、生き物たちだけが盛り上がっているロマンチックな展開に生まれ変わったのだ。

セリーナの檻

二人はとても良い感じになるのだが、この後で強調されるのはエリックの母セリーナの過保護さだ。エリックは幼い頃に船が難破してこの国に流れ着き、セリーナの養子になったのだった。原作アニメになかったこの設定が付け加わったことで、エリックが同じく海から流れ着いた(ように見えた)アリエルに対して親近感を抱く展開がより自然なものになった。また、アリエルも自分と同じように外の世界のものをコレクションしていたエリックに、更に心を寄せていくようになる。

二人の共通点は外の世界に対する好奇心だったが、トリトンとセリーナは過去の経験から外の世界に対する恐怖と憎悪を抱いていた。トリトンは妻(アリエルの母)を人間に殺されたことから人間を蔑み、セリーナは国の人々が次々と海難事故に遭っていることから海の神を恐れていた。

トリトンはアニメ版同様、反人間の姿勢を隠そうとしないが、本作では、妻が人間に殺されたというアニメ『リトル・マーメイドⅢ はじまりの物語』(2008) で描かれたエピソードも明かしている。セリーナの恐怖については、ほかでもないエリック自身が海難事故に遭っていたという背景もあるだろう。

セリーナがエリックを心配して外出禁止を徹底しようとする一方で、エリックは自分が生まれながらの王家ではないことをアリエルに明かす。エリックは閉ざされた国を統治するよりも、外の世界へ踏み出して、人々と交流し、世界を繋いでいくことがしたかったのだろう。

アースラを倒すのは…

クライマックスは、アニメ版と同じくアースラが化けたヴァネッサがアリエルの声を使ってエリックを騙し、更に魔法をかけて結婚式をあげさせようとする。エリックに落ち着いてほしいセリーナはこの結婚を反対できないのだが、この危機を陰ながら助けるのが実写版では首相という設定になっているグリムスビーだ。セバスチャン、スカットルとの協力プレーで婚約指輪を紛失させた活躍は見事だった。

グリムスビーは、終始エリックのことを心配しながらも、外の世界に出ていくこと自体を邪魔することはなかった。そこには、子どものことを気にかけながらも、自由と選択を尊重する“親”としての姿が見てとれた。

だが、奮闘虚しくアリエルとエリックのキスは間に合わず、アリエルは人魚の姿に戻ってしまう。エリックはアリエルが人魚でも気に留めなかっただろうが、ここで効いてくるのがセリーナ女王の存在だ。国家元首であるセリーナが海の神々に恐れを抱いていることで、人間側の視点においても、人間と人魚の間には大きな壁が存在しているのだ。

アリエルを人質にとったアースラはトリトンからトライデントをゲット。このとき、アースラは序盤の曲に引っ掛けてトリトンを「哀れな人(Unfortunate Soul)」と呼んでいる。トリトンが無力化された後、エリックが海に助けに来るが、アースラが巨大化するというのはアニメ映画版と同じ。だが、実写版で大きく変更された展開は、アースラを倒すのがエリックではなくアリエルになったという点だ。

アニメ版ではエリックが難破船を操作してその船首をアースラに突き刺すのだが、実写版ではその役目が丸々アリエルに置き換わっている。アニメ版のアリエルは、その好奇心と行動力に反して、冒頭でエリックを救ったこと以外は無力な存在として描かれていた。父に追い詰められ、精神的にも物理的にも王子様に救われる“プリンセス”という立ち回りを求められていたのだ。

だが、実写版『リトル・マーメイド』では、エリックとアリエルは外の世界に憧れているという共通点によって互いに救われた。そしてアリエルは愛するエリックと、妻を殺されてから意固地となった父を救うために自らアースラに立ち向かう。

親世代の改心

アースラが倒された後、アニメ版では復活したトリトンが改心してアリエルに足を与えるのだが、実写版ではもう一展開用意されている。アリエルとの再会を求めるエリックに対し、セリーナ女王は「私たちの住む世界は違う」と告げる。“敵”と思われる存在を倒してもハッピーエンドにはならない。

なぜなら、真の問題は人間の心にあるからだ。種族の違いによって二人は引き裂かれ、落ち込むアリエルの姿を見て、トリトンはトライデントの力を使ってアリエルに足を与える。これはアニメ版と同じ展開だ。自分の都合で娘を縛ることをやめて、アリエルの希望と選択を尊重するトリトンの改心だ。

アリエルが人間になることを選んだことで、セリーナも「誤解していた」と、海に対する恐れが偏見に変わっていたことを認める。アリエルを縛っていたトリトン王、エリックを縛っていたセリーナ女王という“親世代の改心”こそが本作のテーマとも言える。

最後の祝祭感に溢れたシーンは、アニメ版の「パート・オブ・ユア・ワールド」ではなく、「キス・ザ・ガール」のBGMが流れている。また、このシーンはアニメ版の結婚式から二人の出航を祝う式に変更されている。結婚がゴールではなく、新しい世界を見ることが二人のスタートなのだ。

原作アニメでは、最初に歌われる「パート・オブ・ユア・ワールド」の「地上の世界の一部になりたい」、次に歌われる「あなたの世界の一部になりたい」に続き、ラストでは「今こそ私はあなたの世界の一部になれる」と歌われていた。だが、二つの世界を対等に見て、互いが歩み寄って新しい時代を歩むという本作のコンセプトにおいては、「ユア・ワールド(あなたの世界)」という区切り方すら不要なものにも思える。

故に、セリーナ女王は二人を「世界を変えて」と言って送り出す。二人に新しい時代を切り拓いていくことを託すのだ。国のことも考えるようエリックに釘を刺しておくことも忘れていないが、映画『ブラックパンサー』(2018) で描かれた、外の世界を拒絶するのではなく、外の世界へと開いていく姿勢と重なるものがある。分断とヘイトの時代にこそ、求められていたメッセージだったように思う。

別れと和解

アリエルはセバスチャン、スカットル、フランダーに別れを告げるが、「コーラル・ムーン」には戻ってくると約束する。コーラル・ムーンとは、冒頭で紹介されたアリエルの姉妹たちが7つの海から帰還するイベントのこと。アニメ版ではコンサートという設定になっていたが、実写版では7姉妹の歌は描かれず、それぞれの持ち場である海から帰省するタイミングでアリエルが地上に夢中になっているという設定に変更されていた。

このラストの場面でコーラル・ムーンについて触れられた理由は、アリエルは6人の姉と同じように自分の“持ち場”に旅立っていったということを強調するためだろう。アリエルは海の中ではなく、海上・地上を見守り、探索する立場に立ったと考えられる。つまり、足の生えた人間にはなったが、他の姉妹たちと同じ使命を全うするということでもある。

アリエルは、かつてエリックからもらった小さな人魚の人形=“リトル・マーメイド”をセバスチャンらに預けて船出を迎える。そして、ここに登場したのはトリトンだ。二人を見送り現れるのはアニメと同じ展開だが、実写版では新しいセリフが付け加えられている。アリエルが「耳を傾けてくれてありがとう」と言うと、トリトンは「声を出すことを諦める必要はなかったはずなのに (You shouldn’t have had to give up your voice to be heard.)」と返すのだ。

つまり、アースラは契約でアリエルから声を取り上げたが、アリエルの話に耳を傾けなかったという意味では、トリトンもアースラと同罪ということだ。いくら声を出せたとしても親が聞く耳を持たなければ意味がない。アリエルは、声を持っていても聞かれないのなら、声を捨ててでも行きたい世界に行くと決めたのだろう。アースラと契約するときには、セバスチャンも「戻れば惨めな一生を過ごすことになる」と同意していた。

乗り越えなければいけない壁

ここでも親世代の反省が描かれているが、更に感動的なのは肌の色が違う6人の姉妹をはじめとする人魚たちがアリエルを見送るために海上へと出てくるシーンだ。人魚の社会も、海面に近づいてはいけないというルールを変えることにしたのだ。それは、かつてトリトンの妻が海上で命を奪われたことから設けられたルールだが、作中では、アリエルは一人の人間がやったことであり、人間全体を恨んではいけないとトリトンに説いていた。

このシーンは原作アニメにもあったが、実写版では肌の色の多様性に加え、背後では地上の人間たちも船出を祝っており、あらゆる種族の壁を越えていこうというメッセージが読み取れる。とりわけ、本作では白人のエリック王子が黒人のセリーナ女王に拾われて養子になったという設定が、作品にある種の一貫性をもたらしている。首相のグリムスビーを演じるアート・マリックもパキスタン生まれであり、エリックはこの国においては人種的にはマイノリティですらある。

序盤には、アリエルが「(トリトンとは)肌の色しか違わないのに」と肌の色の違いに言及するシーンもある。トリトンとエスニシティが異なる娘たちのバックグラウンドは劇中で描かれることはなかった。だが、「親子=血のつながりがある」と考えて血の繋がりにしか親子関係を見出せないような凝り固まった考え方も、人魚特有の事情がある可能性を想像しないことも、本作が乗り越えていこうと訴えている“偏見”の一つだと言えるだろう。

また、実写版『リトル・マーメイド』では、黒人のハリー・ベイリーが主演に選ばれ、この起用をめぐっては世界で差別発言が飛び交うことになった。世界にはまだまだ差別が温存されている。重要なのは、ロブ・マーシャル監督が本作におけるアリエル役のオーディションを「あらゆる人種の候補者」を対象に行ったと米Varietyに語っているという点だ。人種とは関係なく最も良いパフォーマンスを出せる俳優をキャスティングしたということであり、その姿勢は本作のテーマから一貫している。

日本ではこの事実には触れずに、「配慮によって黒人俳優が選ばれた」と、自分の考えをあたかも事実かのように扱って発信しているメディアも多い。ロブ・マーシャル監督は歌と演技についてハリー・ベイリー以外は「誰も設定したハードルを越えられなかった」と、米Deadlineに語っている。作者の説明を無視して、人種を理由に「贔屓があった」「実力じゃない」と断定することは、端的に言って差別である。

実写版『リトル・マーメイド』のフィナーレは非常に感動的だった。だが、『リトル・マーメイド』に向けられた攻撃をはじめとする現実の状況を踏まえると、考え込んでしまう。私たち親世代の人間は、自分たちの世代が醸成した偏見や好き嫌い、差別を次の世代にも残していくべきなのだろうか。自分が姿を重ね合わせるべきなのは新しい時代を作っていくアリエルやエリックなのか、それとも自分の価値観を押し付ける親になりながらも、耳を傾けてそれを乗り越えたトリトンやセリーナなのだろうか。

エンディングで流れるのは…

なお、最後にアリエルは涙を流すが、これは実写版『リトル・マーメイド』の冒頭で示されたハンス・クリスチャン・アンデルセンの『人魚姫物語』(1837) からの引用である「人魚は涙を流せない。だから余計につらかった」という言葉を踏まえたものになっている。アリエルは涙を流したが、それは哀しみの涙ではなく、次の世界へと進むための涙だった。

エンドロールで流れる曲は、原作アニメと同じく「アンダー・ザ・シー」だ。アニメ映画版ではアカデミー歌曲賞と作曲賞を受賞した名曲だ。

映像では、さまざまな海の生き物だけでなく、アジア風の傘や南米の楽器など、世界中のアイテムが登場する。世界は海で繋がっているということを思い出させてくれるし、人間の文化と海の生き物が共存するというメッセージも感じ取れる。

実写映画版『リトル・マーメイド』ネタバレ感想

次回作に期待!

実写版『リトル・マーメイド』は、未来への希望を強く打ち出した傑作だった。ディズニーの実写映画では、貧困とフェミニズムをテーマにした『アラジン』(2019) に続く名作の誕生と言える。現在、ディズニー・スタジオでは超実写版「ライオン・キング」シリーズのフランチャイズ化に向けた動きが始まっているが、『リトル・マーメイド』についても次回作に期待したい。

アニメ版ではアリエルの娘の物語を描く『リトル・マーメイドII Return to The Sea』(2000)、アリエルと姉妹たちの過去を描く『リトル・マーメイドIII はじまりの物語』が制作されている。こちらも実写化されることを願おう。

アースラにも光を

一方で、悪役に徹していたアースラに救済が用意されていなかった点は残念だった。やはり“倒される魔女”としての役割が固定されていたように思える。というのも、アニメ版「リトル・マーメイド」シリーズにおけるヴィランは一貫して“魔女的な女性”に固定されているのだ。

今回は、トリトンの妹でかつて王室にいたアースラが王国から追放されたことが明かされたが、その背景も気になった。アースラを憎悪から救えなかったトリトンは赦されたが、アースラは赦されることなく退場している。好演が光ったメリッサ・マッカーシーによって再演されることに期待したい。

なお、アースラのオリジンを描いた書籍は、講談社KK文庫から『みんなが知らないリトル・マーメイド 嫌われ者の海の魔女アースラ』(2019, 著 セレナ・ヴァレンティーノ, 訳 岡田好恵) と、『もうひとつの『リトル・マーメイド』 アースラの秘密の恋』(2022, 著 ローリー・ラングドン, 訳 岡田好恵) が刊行されている。

アースラ&ヴァネッサのスピンオフについての情報と考察はこちらの記事で。

続編についてハリー・ベイリーらが語った内容はこちらから。

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実写映画『リトル・マーメイド』は2023年6月9日(金)より全国の劇場で公開。

『リトル・マーメイド』公式サイト

実写版『リトル・マーメイド』で流れた曲の解説はこちらから。

アニメ映画『リトル・マーメイド』で流れた曲のまとめはこちらから。

実写版『アラジン』のネタバレ解説はこちらの記事で。

実写版『アラジン』の全曲解説はこちらから。

齋藤 隼飛

社会保障/労働経済学を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で4年間、教育業に従事。アメリカではマネジメントを学ぶ。名前の由来は仮面ライダー2号。編著書に『プラットフォーム新時代 ブロックチェーンか、協同組合か』(社会評論社)。
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