シーズン4第7話ネタバレ解説『ザ・ボーイズ』ブッチャーの顔、クリスマスの決戦 あらすじ&考察 | VG+ (バゴプラ)

シーズン4第7話ネタバレ解説『ザ・ボーイズ』ブッチャーの顔、クリスマスの決戦 あらすじ&考察

© Amazon Content Services LLC

『ザ・ボーイズ』シーズン4第7話はどうなった?

Amazonプライムビデオの人気ドラマ『ザ・ボーイズ』シーズン4がいよいよ佳境に入っている。スーパーヒーローもの全盛の2019年に配信を開始した本作も、次のシーズン5でフィナーレを迎えることが発表済み。今後もスピンオフ作品は作られていくということだが、異色のスーパーヒーローシリーズが一つの区切りを迎えようとしている。

今回は、ドラマ『ザ・ボーイズ』シーズン4第7話をネタバレありで解説&考察していこう。以下の内容は本編のネタバレを含むので、必ずAmazonプライムビデオで本編を鑑賞してから読んでいただきたい。また、本作は視聴対象が18歳以上の成人向けコンテンツになっている。露骨な残虐描写や流血描写、性描写が含まれるのでご注意を。

ネタバレ注意
以下の内容は、ドラマ『ザ・ボーイズ』シーズン4第7話の内容に関するネタバレを含みます。

『ザ・ボーイズ』シーズン4第7話「インサイダー」ネタバレ解説

標的にされる「アンティファ」とは

『ザ・ボーイズ』シーズン4第7話のタイトルは「インサイダー」。シーズン4でずっと暗躍していたスパイもとい裏切り者について、物語が大きく動き出す。加えて、大統領暗殺の1月6日(大統領選の結果の認証が行われる日)の約2週間前が舞台になるシーズン4第7話は、ヴォート・スタジオプレゼンツのクリスマス特別番組「アベニューV クリスマス・スペシャル」のリハーサルシーンで幕をあける。

久しぶりの登場でまた成長したような気がするライアンくん(気のせい?)は、パペットのスープスとの会話劇を繰り広げている。Aトレインのパペットは「反ファシズムがね……」と言っているが、英語では「ANTIFA(アンティファ)」と言っている。

ANTIFAは反ファシズムの運動を展開する個人や集団を指す言葉で、対象がかなり広範囲であるため、オルタナ右翼が“敵”の総称として便利に使用している。2020年に反人種差別デモが拡大した際には、当時のドナルド・トランプ大統領はこれにANTIFAが関与しているとして、旧Twitterで「ANTIFAをテロ組織として認定する」と予告。だが、FBIの調査では“ANTIFA”の関与は認められず、実現していない。このシーンでもAトレインのパペットは、ANTIFAを「見分けがつかず、どこにでもいる」と言い、恐怖を煽っている。

自分の家族がそうかもしれない、怪しければ通報を、と呼びかけるまさにファシズム的な曲が歌われると、ライアンは思わずこれを止める。両親を通報しようという内容に納得がいかないのだ。映画『X-MEN』(2000) の冒頭では、身近な人がミュータント=能力者かもしれないとして民衆の恐怖を煽るシーンがあったが、『ザ・ボーイズ』では逆に能力者の脅威となる人々を通報しようという呼びかけがなされている。

反ユダヤ主義とNFT

ヴォート・タワーでは、アシュリーがヴォートの広報からユダヤ教街堂に謝罪して和解したと報告している。シーズン4第2話でファイアクラッカーがユダヤ教の成人のお祝いを「シオニスト組織」と発信したことの後処理を進めたのだろうか。前回のラストで母乳が出せるようになったことで、ファイアクラッカーとホームランダーの距離は近くなっている。

ちなみに保守派が反ユダヤ主義を露呈して謝罪するというのはお決まりのパターンだ。イーロン・マスクも2023年11月にXで反ユダヤ主義の投稿に賛同して批判を集め、ユダヤ系と強い繋がりを持つ広告主たちが撤退すると、同月にイスラエルを訪問してネタニヤフ首相と会談し、2024年1月にアウシュビッツと欧州ユダヤ人協会を訪問した。特に信念に則って主張をしているわけではなく、隠しきれない差別心を露呈しながら、強い者には服従するというのが、いつもの行動パターンである。

アシュリーはホームランダーのNFTを販売すると報告。ご存知の通り、NFTとはブロックチェーン技術を利用した代替不可能なデータのことで、この世に二つとないID付きのデジタルアイテムを発行することができる。このシーンでは、ドナルド・トランプ前大統領がNFTのトレーディングカードや自身が逮捕された時のマグショットのNFTを発売して荒稼ぎしていることをネタにしているものと思われる。

アシュリーは「画像を買えばコミュニティに入れる」と説明しているが、英語では「単にJPEGを買うわけではなく、コミュニティに入れる」と、NFTを「JPEG」と言って揶揄っていることが分かる。トランプもまたNFT購入者と一緒に夕食をとるという特典を設けている。

前回のテックナイトの集会で大統領暗殺計画についてスピーチを迫られたニューマンは、その内容をヒューイが取り付けた盗聴器で盗聴されていた。ホームランダーが机に叩きつけたのはその盗聴器だ。ブッチャーを殺さねばと焦りを募らせるホームランダーに対し、セージはCIAと揉められないと主張。ホームランダーとセージ、軍部と官僚の衝突だ。

ファイアクラッカーは、スパイと疑われたキャメロン・コールマンの死で5,000万ドルの枕の広告料が飛んだと主張。英語では「キャメロンはマイク・リンデルとゴルフしてた」と言っている。マイク・リンデルは大手枕会社マイピローの創業者で、右派メディアのインタビューに登場した際にトランプが敗れた大統領選挙が不正選挙であったという陰謀論を展開した。まさに『ザ・ボーイズ』な人物だ。

これに対してセージは「デイジーダックが計算してる」と皮肉っているが、「デイジーダック」は注目を集めようと振る舞う人物を指すスラングとしても使われる。一方のホームランダーは、前回脳を撃たれて役立たずになったセージに対する信頼を失っており、スパイについてはセージに任せず、暗殺者の準備を指示するのだった。

ディープは自著の『静かなる海の深淵へ』から詩をタコのアンブロシウスに読んであげてイチャついている。シーズン4ではほとんど何もしていない気がするディープだが、「大変な日だった。後で頭とお尻を刺して?」というテキストを受け取る。ホームランダーから突き放されたセージからのメッセージだろう。

ディープは「『ハニーボーイ2』は良くなってきた」と脚本の相談があると言い、アンブロシウスを残して出ていってしまう。シーズン4第3話では、ディープは『ハニーボーイ2』への出演を誘われていると話していた。

ブッチャーの変化

アニーは母にセドナ(アリゾナ州)に移るよう説得していた。その間、ヒューイはパソコンにヒューマンの盗聴データを移し、このパソコンを金庫に保管している。保守派のクリスチャンであるアニーの母は、アニーが中絶したことに怒っている。もうこの人は別に助けなくてもよいのではないかとも思うが、ヒューイがスターライトのコスチュームを捨てずにとってあることから、スターライトとしての影響力についても懸念している。

ヒューイはスターライトのコスチュームを改めて捨てるが、アニーは中絶した理由を「終わりゆく世界で子どもを産みたくなかった」と説明する。絶望的な世界で生まれてきた子どもを幸せにできる自信も確約もない……。とても重い言葉だ。「何から始めればいい?」というアニーの言葉は、多くの人が抱えているどうしようもなさを表現している。それに対してヒューイは「一つずつやろう」と語りかけるのだった。

セージは人目につくところで暗殺者に書類を渡し、Aトレインはその情報をザ・ボーイズに密告していた。セージはコスチュームのままだし、カメラを持ったAトレインの方に顔を向けているし、明らかに怪しいが……。その情報を得たザ・ボーイズにもう一つの情報が転がり込む。ブッチャーがやって来て、ウイルス開発についてメンバーに明かしたのだ。

この時、初めてザ・ボーイズメンバーの前にジョー・ケスラーが現れている。ジョー・ケスラーは前回のラストでブッチャーにしか見えない幻覚であることが明らかになった。一方で、ジョー・ケスラーの言葉はブッチャーの心の奥底にある本音/欲望とも言えるもので、シーズン4第7話ではケスラーが人前でも登場することで、ブッチャーの心の声や葛藤が可視化される演出が採用されている。

ブッチャーはケスラーの反対を押し切って、サミール・シャー博士の足を切り落として死を偽装したことも、ホームランダーを殺せるほどに強力なウイルスを作ればパンデミックが起きてしまうと言うことも、全て正直に話す。パンデミックによる大量虐殺を起こそうとしているのかと詰め寄るメンバーに対し、ケスラーも「それが望みだろ」とブッチャーに囁く。しかし、ブッチャーは「それは望まない」と否定し、ウイルス開発を自らの手から離すことをチームに告げる。

ブッチャーは前回のラストでサミールからウイルスを悪人の手に渡せないと言われたことを、自分なりに受け止めたのだろう。それに、自分がずっと存在しないケスラーと会話していたことも理解し、そらサミールも怖がるわなと思い至ったのかもしれない。適任な人間に席を譲れると言うのはリーダーとして大事な能力だ。

ブッチャーが引き継ぎを頼んだのは前々回自首して投獄されていたフレンチーだった。マロリーが釈放させたらしい。マロリーもブッチャーに甘いよねぇ……まぁ、フレンチーに対する気持ちもあるのだろう。ここでMMは、前回面会を断っていて気まずそうなフレンチーとキミコにコンビを組ませてウイルス班に任命する。シーズン4第5話では、MMはキミコにフレンチーとの関係について声をかけ、キミコは「私には話してくれない」と答えており、二人の間に距離があることを知っている。鈍感なのではなく、あえて二人を組ませたものと考えられる。

ブッチャーは、殺すのはホームランダーとニューマンだけだと確認。ケスラーは「臆病者」と罵るが、キミコ&フレンチーはウイルス開発、それ以外のメンバーは暗殺者追跡へ。シーズン4第7話は基本的にこの布陣で物語が進んでいく。

クリスマスは家族の時間

ライアンは自宅で大量のクリスマスプレゼントの中から、「Don T. Beakunt」という人物からの個包を見つける。この名前はブッチャーの口癖である「cunt」を用いた「Don’t be a cunt(間抜けになるな)」と読み替えることができる。そのブッチャーからの贈り物は、ベッカとブッチャー、そしてブルドックのテラーが映った写真だった。久しぶりのテラー! でかくない?

アメリカではクリスマスは家族と過ごす日であり、商業施設も早い時間に閉まってしまう。クリスマスだけど家族が一緒にいられない中、ブッチャーは最低限善くあろうと努力していることが分かる。この気持ちはライアンに届いたはずだ。

MMはモニークのところへ行くとして、ザ・ボーイズの指揮権をブッチャーへと返す。前話でパニック発作を起こしたことが理由だと話しているが、ブッチャーの態度の変化も踏まえてのことだろう。やっぱりこの二人の間には信頼がある。ちなみにブッチャーは一度は拒否しているが、ケスラーは喜んでおり、心のどこかでリーダー復帰には嬉しい気持ちがあることが分かる。

MMはモニークに娘とベリーズへ飛ぶように言う。ベリーズとはメキシコ、グアテマラ、ホンジュラス、そしてカリブ海に囲まれた中央アメリカの小国で、リゾート地としても知られる。勝っても負けてもまずいことになると話すMMに、モニークは3人で逃げて家族で過ごそうと話す。MMはMMで、家族との幸せと任務の間で選択を迫られることになる。

罪悪感との戦い

テレビでは、キャメロン・コールマンの死が報じられている。ヴォートらしく、「ワクチンの犠牲」になったということにされている。トランスヘイトに反ワクに反ユダヤ主義と、本当によく揃っているが、これが現実と変わらないというのが恐ろしいところだ。

アシュリーのもとに現れたAトレインは、コールマンがスパイではなかったとバレたことを報告。アシュリーは一応形だけのCEOではあるらしく、優秀な助手のグレゴリーを逃すためにクビにしたという。アシュリーはAトレインを守るためにコールマンをスケープゴートにしたことに罪悪感を感じていたのだ。

「ここにいると簡単にバケモノになる」と話すアシュリーは、昔住んでいたイタリアのフィレンツェに逃げたいと話す。ちなみにアシュリーがAトレインに「あなたはパスポートいらないか」と言っているセリフは、英語で「あなたなら走って——(You just run——)」と続くので、Aトレインは走ればいいからパスポートは必要ないか、という意味で言っている。Aトレインはアシュリーにしっかりするよう一喝してオフィスを去るのだった。

暗殺者宅を訪ねたブッチャー、アニー、ヒューイだったが、二手に分かれて一人になったブッチャーの前にジョー・ケスラーが現れる。ケスラーはブッチャーが能力者に甘くなったことを指摘し、シーズン3第5話でクイーン・メイヴと関係を持ってからかと皮肉る。

「なぜライアンを信じる?」というケスラーの問いについに反応したブッチャーは、「ベッカと約束した」と答える。それがブッチャーの最も大きな原動力だ。ケスラーはベッカが生きていた頃のブッチャーの不貞も指摘し、「ベッカが生きていた頃は何もしてない」と耳の痛いことを言う。だがこれもブッチャーの心のどこかで抱えている罪悪感なのだろう。

セージからファイルを受け取っていた暗殺者の部屋に入った一行は、部屋の中で要人警護のファイルを見つける。シンガーがスピーチを行う会場で計画は遂行されるようだ。この部屋のクローゼットの中にいたのは傷だらけの女性だったが、ナイフを取り出すとダッシュで逃走してしまう。途中ですれ違った黒人の老婆の腕を掴むと、この人物は逃走しながら肌を引きちぎり、先ほどの老婆へと姿を変える。暗殺者の正体はシェイプシフターだったのだ。

逃げるか、戦うか

家に戻ったMMはフライトのチケットを印刷していた。今どきオンラインでチェックインが普通なので、そこに現れたAトレインは英語では「87歳か?」と皮肉っている。ブッチャーらが暗殺者のもとへ突入していたのを見ていたAトレインは、同行していないMMのもとへやって来たのだ。

国外に出て家族と過ごそうとしているMMに対し、Aトレインはまだ終わりじゃないと訴えかける。シーズン4第6話では、Aトレインはパニック発作になったMMを病院に運び、その姿を見ていた少年から憧れの眼差しを受けていた。偽物ではないたった一つの善行、その時だけは自分を嫌いにならずに済んだ、それはMMのおかげだとAトレインは話す。

シーズン4第2話では、Aトレインに接触したMMはAトレインを脅迫するのではなく、Aトレインの内面を信じて、扱いへの不満とやっていることへの罪悪感を指摘した。トッドの殺害にも関わったAトレインだったが、そこから行動し続け、変わり続けている。だから、そのきっかけを作ってくれたMMに最後まで戦ってほしかったのだろう。

戦いは終わらない、父も祖父も殺されたと食い下がるMMの言葉も重い。この国で黒人男性として生きるということは、公権力からの暴力に晒される大きなリスクを背負っているということでもある。スーパーパワーを持っているかどうかの違いはあるが、Aトレインも同じアメリカ黒人男性として理解できるところはあるだろう。

MMは、今や自分もボロボロで、家族以外は何も残っていないと話す。それでも、Aトレインは「ベリーズに行っても逃げられない、次はどこに逃げる?」と、逃げ続ける人生を選ぶことに疑問を投げかけるのだった。

第3のスパイ

サミール博士がウイルスの開発を進める中、キミコはソルジャー・ボーイが表紙のマガジンを読んでいる。テイクアウトの食事を持ってきたフレンチーは、博士に遠心分離機の調整を提案するなど、得意の化学の知識を披露している。ちなみにここでフレンチーは「必要は発明の母(Necessity is the mother of invention.)」という諺を「必要は発明の人妻(Necessity is the MILF of invention.)」と言い換えている。

「90年代のゴミみたいな曲が好きなんだな」と言ってフレンチーがかけた曲は、クレイジー・タウンの「バタフライ」(2000)。女性に語りかけるチャラい内容の曲だが、「君を隣に置いておくためなら何でもやる」というラインは、サミールにとっては恐ろしいフレーズでもある。

サミールは、ヴィッキー、つまりニューマンにはウイルスを使わないことを確認すると、フレンチーは少ししてから首を縦にふる。ブッチャーが標的を「ホームランダーとニューマン」と言っていたのを思い出したのだろう。この反応にサミールは不信感を募らせることになる。

ホームランダーはライアンからパペットショーについての相談に留守番電話で答え、我慢してやってくれと頼む。ホームランダーの最大の関心事はスパイの容疑者で、ファイアクラッカーが見つけ出したその人物は、ウェブウィーバーだった。ウェブウィーバーは前回、ブッチャーから薬の提供を受ける代わりに情報を差し出していたことが明らかになっていた。

巧いのはスパイが本当にAトレイン以外にもいたということで、ナーバスになり糸を放出し続けるウェブウィーバーがうまく証言できない状況と合わせて、どんどん容疑が固まっていく。ただ、シーズン4第3話でAトレインがMMに情報提供をした“アイスリンクの密会”についてはウェブウィーバーは知らないはず。

ホームランダーはこれについても聞くが、コミュニケーションがうまくいかず、ウェブウィーバーが「私じゃない」と言い出した時にはもう遅かった。ホームランダーはウェブウェイーバーに、その身体を縦に引き裂くという残虐な鉄槌を下すのだった。

未来をどうするか

キミコはフレンチーから手渡されたクリスマスプレゼントを開封することなく、面会で会ってくれなかったことを非難する。キミコは、フレンチーがアニーに話したことを手がかりに、フレンチーがコリンの友人の死に関わっていたことを見抜いていた。いつも自分を責めて助けを求めないフレンチーに、ついにキミコは声が出なくなった背景を話し始める。

何度かフラッシュバックで登場していた、光解放軍の収容所での最初の夜、キミコは音を立てずに敵を殺す訓練を受けさせられていた。キミコは少女同士で殺し合いをさせられ、以降、声を出すことを許されたが話すことができなくなったという。フラッシュバックの中では、キミコが再会して「大嫌い」と言われたタラの顔を切り付けるキミコの姿も映し出されている。タラの顔の傷はこの時につけられたもののようだ。

キミコもフレンチーも過去の行いから自分自身を憎んでいる。互いに「自分を責めないで」とは言えるが、ほかでも自分がその状態から抜け出すことができないでいるのだ。お互いに互いを憎まないように言い合い、肩を寄せた二人は、やっと自分たちをどう許せるかを話すことに。ウイルスが完成したらサミール博士を逃す——それも償いの一つだろう。二人はようやく過去を悔いることから、「これから何をすべきか」という問いに踏み出すことができたようだ。

ディープは帰宅後、タコのアンブロシウスに寿司が食べたいと言われ、「ビンナガの虐殺に加担できない」と拒否する。ビンナガは北大西洋と南大西洋の個体群が絶滅危惧に指定されている。この会話をきっかけにディープとアンブロシウスは口論に。セージとの関係も指摘され、アンブロシウスからセージはディープを尊敬していないし利用されているだけと言われたディープはついにアンブロシウスの水槽を壊してしまう。ディープにとって図星なところもあったのだろう。

アンブロシウスはドアの向こうで息絶えてしまうのだが、まあまあ時間がかかり、ディープは時間を持て余している。何度か引き返せるタイミングはあったがディープはアンブロシウスを助けておらず、その場の感情でやったわけでもなさそう。もう面倒くさくなってしまっていたのだろう。

それでも、この出来事がディープにとって大きな転換点になるということに違いはなさそう。タコのアンブロシウスを切り捨てたのはセージの存在があるからだろうし、能力者として能力者のための戦いに身を投じる決意を固めたのだろう。吹っ切れた様子のディープは、ホームランダーから直々に指令を受け、魚でも皆殺しにすると宣言。ある任務へと向かうのだった。

クリスマス決戦

暗殺者に手を切られて病院へ行くと言っていたはずのヒューイは、ニューマンのもとを訪れていた。お菓子を食べて最後の説得を試みるのだ。「これは政治」とホームランダーとの同盟を正当化するニューマンに対し、ヒューイは英語で「ミット・ロムニーと組むのとはわけが違う」と言っている。ロムニーは2012年にオバマに敗れた共和党の大統領候補で、2020年の上院でのトランプ大統領弾劾裁判では、共和党議員としては唯一有罪票を投じている(2024年で政界引退)。

ニューマンはやはりテックナイトの刑務所を利用した収容所の話は知らなかった様子。テックナイトの館での録音を持っているヒューイだが、MMがAトレインにやったように、脅すのではなくヒューイの知るヴィッキーが1%でも残っているのならまだ立ち止まれると説得する。ニューマンがこの訴えに応えることはなかったが、父ヒューの死についてお悔やみを述べる。善なる心を信じたヒューイの行動は、ニューマンに届いたのだろうか。

アニーとブッチャーがザ・ボーイズのオフィスに戻ると、そこで待ち伏せていたのはディープとブラック・ノワールだった。計画を盗聴されたホームランダーはザ・ボーイズを直接滅ぼすべく殺害指令を出したのだ。クリスマスの決戦。『ザ・ボーイズ』では珍しい展開だ。

ディープはまたもブッチャーのイギリス訛りの英語をバカにすると、アニーには「最初にお前が俺をキャンセルしようとした時から〜(First, you tried to cancel me,)」と言いがかりをつける。性暴力を告発されたことを「キャンセルしようとした」と言ってしまえるディープのクズさがよく表現されている。一方で、「お前の真実や物語など尊重してたまるか」というセリフには、ミソジニストたちの本音が詰め込まれていると言える。

ディープvsアニー、ノワールvsブッチャーの戦いが始まるとノワールは過眠症を発症する。新人ノワールはセブンの会議中でも突然眠ってしまっており、それが伏線になっていたようだ。能力が使えないアニーとブッチャーが追い込まれると、ブッチャーはケスラーにエゼキエルにしたことをやるよう頼むがそれも発動せず。危機的な状況を迎えるが、二人を救ったのはAトレインだった。

Aトレインが公にディープとノワールと対峙するということは、もう引き下がれないということを意味する。Aトレインはディープにずっと嫌いだったと伝えると、ノワールは本気を出して空を飛ぶ。これも前回ノワールがセブンを辞めると言っていた時に「空も飛べるのに」と愚痴っていたことがベースになっている。

そこに現れてガトリングをぶっ放したのはMMだ。Aトレインと一緒にオフィスまで来たのだろう。ノワールを窓から撃ち落とすと、Aトレインとアニーはディープにボコボコにし、アニーは円盤をディープの顔面に投げつける。このシーンはMCU映画『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016) で盾を突き立てたキャプテン・アメリカや、それをオマージュした『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(2021) のスパイダーマンのアクションのオマージュだと思われる。

去る人、残る人

ザ・ボーイズのオフィスはボロボロに。長らく使ってきたオフィスの終焉は、物語が大きく進む予兆でもある。ザ・ボーイズを一時的な勝利に導いたAトレインはこの場を去り、アシュリーのもとへ。自分が裏切り者だと知られたAトレインは最後にアシュリーに逃げようと誘いに来たのだ。

逃げたがっていたアシュリーに与えられた最後のチャンス。しかし、アシュリーは一歩を踏み出すことができなかった。人は長く同じ環境に留まり続けると、チャンスが来ても抜け出せなくなってしまうものだ。

アシュリーが見つめる視線の先には、若い頃の自分の写真があった。場所はアシュリーが戻りたがっていたイタリアのフィレンツェで、髪型はコーンロウ、服にはキューバ革命の指導者チェ・ゲバラが描かれている。自由だった若き日の自分の姿を見て、アシュリーは微かな笑みを浮かべている。

ブッチャー、MMとバーで酒を飲むアニーは、グレーの髪の人物から写真撮影を求められる。ブッチャーは、戦いの中で叫んだケスラーという名前についてアニーから聞かれるが、これには答えない。そして、MMはモニークに一緒に行けないと電話をかける。繰り返しになるが、アメリカではクリスマスは家族と過ごす日であり、そのクリスマスの夜に家族と離れることを告げることの意味は重い。MMは家族のために戦いを選んだのだ。

Aトレインが裏切り者だったと知ったホームランダーは落ち込んでいる。ファイクラッカーはそれを「あの人たちの生まれつきの欠陥です」と人種差別で片付け、Aトレインが家族ごと消えたことを報告。一方のセージはディープたちにブッチャー殺害を指令したことに怒っている。Aトレインが裏切り者だったと知っていたと主張するが、あんなに目立つ場所で暗殺者と会っていたことも踏まえると、これはあながち嘘ではなさそう。ブッチャーたちに流したのは偽情報なのだという。

セージは全ては計画通りだと主張するが、ホームランダーはセージにクビを言い渡す。セージは邪魔者を殺していっても「この世で一人だけは倒せない」と言い残す。おそらくホームランダーはこれをセージのことだと受け取ったが、セージはホームランダー自身のことを指していたのかもしれない。ホームランダーの弱点は自分の制御ができないということにあるからだ。

セージはクイーン・メイヴのノートを机に残して去っていく。おそらくここに計画が全て書かれており、ホームランダーはセージが計画通りにことを運んでいたことを知るのだろう。ホームランダーはファイアクラッカーの母乳の誘惑に揺らぎながらも、これを拒否して一人になる。せっかくセブンも揃ってきたのに、またどんどんと人がいなくなる。ホームランダーの悲しき性だ。

傷だらけのディープとブラック・ノワールは、クビになって去ろうとするセージと出会う。ここで二人はセージが二人ともと関係を持っていたことを知るのだが、どうやらノワールとはロボトミー手術をせずに関係を持っていたということが分かる。ディープは、関係を持つにはロボトミーで知能を低下させないと無理だとセージに思われていたということだ。

ちょっとヤバい足切断シーン

ウイルス開発班では、ウイルスが完成したというサミール博士がキミコの左足に注射を刺して逃亡。キミコに対能力者用のウイルスが使われるという最も恐れていたことがシーズン4第7話で起きてしまった。この展開を考えると、ウイルス開発班はキミコとアニー以外がよかったのかもしれない……。

ここでフレンチーはウイルスが回るまでにノコギリでキミコの足を切り落とすことに。『ザ・ボーイズ』歴代でも上位に入るグロシーンで、ちょっとこれも直視できない……。こんな状況でキミコはフレンチーからのクリスマスプレゼントを開封し「君は最高」と書かれた蜂のぬいぐるみを手にする。ぬいぐるみに書かれている「Bee’s knees」は直訳すると「蜂の膝」だが、スラングで「最高」という意味になる。

このシーンで流れている曲はLEN「Steel My Sunshine」(1999)。「もしあなたが私の太陽を盗むなら、私の足元を照らし続けて」と歌われている。

間一髪でキミコは助かり、小さい足も生えてきているから次週には足も戻っているだろう。問題はウイルスだが、ウイルスに感染したキミコの切り落とした足が残っている状態だ。羊の頭からウイルスを取り出したのだからキミコの足からでも取り出せるだろうと、フレンチーがその仕事に任命される。なんだかヤバいものが出来上がりそう……。

ここでフレンチーは、ホームランダーは無理でもニューマンを殺すウイルスくらいは作れそうと話す。ここで思い出されるのが、サミール博士がフレンチーに「ヴィッキーは殺さないよな?」と尋ねたシーンだ。フレンチーが少々間をおいて頷いたことがサミールの裏切りを触発した可能性もあるが、サミールにキミコを殺されかけたフレンチーはニューマンを容赦なく殺すだろう。一方でニューマンもサミールが足を切り落とされてウイルスを開発させられていたことを知るはずで、シーズン4最終回では憎しみの応酬が繰り広げられることになるかもしれない。

ローテンションなムードの一同に、MMは「ようやってる」と労うと、「大統領は殺させない」と宣言。目標を明確にし、フレンチーにウイルスを改良するよう具体的な指示を出す。ザ・ボーイズを活気づける副船長として見事な役割を果たしてみせるのだった。

ライアンの言葉とブッチャーの顔

ライアンはクリスマス番組の本番前、ホームランダーからの「我慢してやってくれ」という留守電を聞いて落胆していた。ブッチャーとホームランダーは同じくクリスマスなのに一緒にいれない家族だが、二人のライアンとの向き合い方は全く異なる。ホームランダーはあくまで自分事が最優先なのだ。

番組が始まると、パペットたちの歌で福祉の利用者、教師、社会主義者、科学者、性的少数者が槍玉に挙げられ、通報を呼びかけられる。生放送中にこの歌を止めたライアンは、カメラに向かって「家族は敵じゃない」と語りかける。亡くなった母はクリスマスが好きで、映画『愛と追憶の日々』(1984) を見るのが好きだったと語る。そして、夫のブッチャーを愛していたとも。

ライアンは、母からは正直であれと言われた、「だから……」の言葉の先は言わないまま立ち去ってしまったが、この中継を見ていたホームランダーの顔には怒りが浮かんでいる。そして、ブッチャーの見たことのない嬉しそうな顔! こんな表情できるのかこの人。

ブッチャーは空想のケスラーにドヤ顔で「これがあの子を信じる理由だ」と、嬉しそうな顔で「負け犬め」と言い放つが、よく考えなくても独り言なので、なかなか怖い光景だ。勝ち誇ったブッチャーだったが咳が悪化すると、その場に倒れ込んでしまう。そして、ブッチャーの意識下にあるはずのケスラーが嫌味な表情を浮かべるのだった。

家に帰ったヒューイの前に現れたのはスターライトのコスチュームを着たアニーだった。そして二人はコスチュームのまま交わることに。再びアニーが妊娠する布石かと思いきや、夜中に起きたアニーは金庫からヒューイのパソコンを盗み出す。このパソコンは冒頭でヒューイがニューマンのデータを移していたものだ。そう、これは本物のアニーではなく暗殺者のシェイプシフターだったのだ。

本物のアニーは監禁された状態で目を覚ます。そこでアニーを見たのは、先ほどのバーで写真を撮ってほしいと言い寄ってきた女性の抜け殻だった。シェイプシフターはあの後、アニーを誘拐してアニーに成り代わっていたのだ。偽物のアニーが世の中に解き放たれるという、更に最悪な展開を迎えて、ドラマ『ザ・ボーイズ』シーズン4はいよいよ最終回へと突入する。

『ザ・ボーイズ』シーズン4第7話ネタバレ考察&感想

『ザ・ボーイズ』シーズン4第7話は、第6話よりは政治色は抑え目で、各キャラクターの物語を畳む方向でストーリーが展開していったように思う。ラストではザ・ボーイズメンバーが再結集したように思われたが、アニーが偽物と入れ替わるというまさかの展開に。タイトルの「インサイダー」はセブンのAトレインから、ザ・ボーイズの偽アニーへとシフトした。

加えて、ホームランダーとのパパレースに勝利したブッチャーだったが、意識を失い、一方で本体が意識を失ったにもかかわらずジョー・ケスラーには意識があるという奇妙な状況が映し出されていた。やはりジョー・ケスラーは、ただの妄想というより、ブッチャーの皮下を蠢いていた寄生虫がその本体なのではないだろうか。

となるとブッチャーもケスラーに乗っ取られるなんてことになると、チームはアニーとブッチャーを欠くことになる。ケスラーがエゼキエルにやったようにブッチャーの身体を使って能力を発揮できるのだとすれば、ブッチャーの真の欲望を達成するために能力者を殺しまくる可能性もあるだろう。フレンチーはフレンチーでウイルス開発に取り掛かっているし、これ本当にあと1話、1時間くらいで終わる……?

クリスマス回という視点で見ると、シーズン1ではその8年前にヴォートのクリスマスパーティでベッカ、ブッチャー、ホームランダーの三人が会した様子が描かれた。それからしばらく(13年くらい?)経ち、ライアンは家族の大切さ、家族が遺した言葉を大事にすることを世界に発信した。家族の温もりを知らないホームランダーが、ライアンにひどい仕打ちをしないかどうかが心配だ。

ホームランダーもホームランダーで、味方がどんどんいなくなっていく。登場人物が減っているのはシーズンフィナーレにとっては好都合かもしれないが、ここでスピンオフドラマ『ジェン・ブイ』(2023-) からV52エキスポにも登場したケイトとサムを呼び出す展開にも期待したい。

気になるのはセージが用意している本当の計画について。ブッチャーたちは偽の情報を掴まされているというが、一番恐ろしいのはザ・ボーイズが大統領暗殺の濡れ衣を着せられてしまうことだ。

暗殺者はシェイプシフターだし、要人警護のファイルもザ・ボーイズの手元にあるし、対能力者のウイルス開発はしているし、結構危ない状況では……。セージがホームランダーに「今はCIAと揉められない」と言っていたことも、ロバート・シンガーを排除した後にCIAにザ・ボーイズを逮捕させるためだったのかもしれない。

果たして、1963年のケネディ大統領暗殺以来となる米国大統領暗殺は実行されてしまうのか。シーズン4最終回の配信を楽しみに待とう。

ドラマ『ザ・ボーイズ』シーズン4はAmazonプライムビデオで配信中。

原作コミックの日本語版は、G-NOVELSから第6巻まで発売中。

誠文堂新光社
¥3,300 (2025/02/14 21:56:47時点 Amazon調べ-詳細)
¥3,960 (2025/02/14 19:53:03時点 Amazon調べ-詳細)

 

『ザ・ボーイズ』シーズン4第8話のネタバレ解説&考察はこちらから。

シーズン4第6話のネタバレ解説&考察はこちらから。

シーズン4第5話のネタバレ解説&考察はこちらから。

シーズン4第4話のネタバレ解説&考察はこちらから。

シーズン4第3話のネタバレ解説&考察はこちらから。

シーズン4第2話のネタバレ解説&考察はこちらから。

シーズン4第1話のネタバレ解説&考察はこちらから。

 

『ザ・ボーイズ』シーズン3最終話のネタバレ解説&考察はこちらから。

スピンオフドラマ『ジェン・ブイ』シーズン1最終回のネタバレ解説&考察はこちらから。

 

『ザ・ボーイズ』のシーズン5での終了についてエリック・クリプキ監督が語った内容はこちらの記事で。

『ジェン・ブイ』シーズン2についての情報はこちらから。

「ザ・ボーイズ」フランチャイズの更なるスピンオフ展開についてはこちらの記事で。

齋藤 隼飛

社会保障/労働経済学を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で4年間、教育業に従事。アメリカではマネジメントを学ぶ。名前の由来は仮面ライダー2号。 訳書に『デッドプール 30th Anniversary Book』『ホークアイ オフィシャルガイド』『スパイダーマン:スパイダーバース オフィシャルガイド』『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース オフィシャルガイド』(KADOKAWA)。正井編『大阪SFアンソロジー:OSAKA2045』の編集担当、編書に『野球SF傑作選 ベストナイン2024』(Kaguya Books)。
お問い合わせ
¥3,300 (2025/02/15 02:17:26時点 Amazon調べ-詳細)
社会評論社
¥1,650 (2025/02/14 22:37:06時点 Amazon調べ-詳細)

関連記事

  1. 「レマー・ホスキンスを見て」『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』脚本家がレマーに込めた想いを語る

  2. 今度はタイムトラベル!? ドラマ『ロシアン・ドール』シーズン2は4月20日配信開始 日本語予告も公開 あらすじは?

  3. 『LOST』脚本家が語るショーランナーの10の心得 作家も共感「小説家にも言えること」

  4. 第7話ネタバレ解説&考察『アガサ・オール・アロング』神回! ラストの意味は? リリアは何を言っていた?