シーズン3第7話ネタバレ解説『ザ・ボーイズ』中絶規制の思想、陰謀論者の言葉 あらすじ&考察 | VG+ (バゴプラ)

シーズン3第7話ネタバレ解説『ザ・ボーイズ』中絶規制の思想、陰謀論者の言葉 あらすじ&考察

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『ザ・ボーイズ』シーズン3第7話はどうなった?

Amazonプライムビデオでナンバーワンの人気を誇るSFドラマ『ザ・ボーイズ』は、2019年にシーズン1、2020年にシーズン2、そして2022年に待望のシーズン3の配信が始まった。ようやく配信されたシーズン3だが、あっという間に最終話目前の第7話を迎える。早くも物語はクライマックスへと突入していく。

注目の「ヒーローガズム」回を終え、シーズン3第7話ではどのような展開が描かれたのか。今回も各シーンを解説していく。以下の内容はシーズン3第7話のネタバレを含むため、必ずAmazonプライムビデオで本編を鑑賞してから読んでいただきたい。

また、本作は視聴対象が18歳以上の成人向けコンテンツになっている。露骨な残虐描写と性描写に加え、今話には自殺に関する描写も含まれるので注意していただきたい。

ネタバレ注意
以下の内容は、ドラマ『ザ・ボーイズ』シーズン3第7話の内容に関するネタバレを含みます。

『ザ・ボーイズ』シーズン3第7話「過去との対峙」ネタバレ解説

今回も冒頭に注意書き

『ザ・ボーイズ』シーズン3第7話は、「ヒーローガズム」回に続いて鑑賞にあたっての注意書きから幕を開ける。今回も字幕がないので、以下に訳文を掲載しておこう。

本シリーズは、自殺を含むセンシティブな問題を扱っており、性的で露骨な描写、タブーとされる描写も含まれます。生きている人間や動物が傷つけられたり強制されたりしているということはありません。視聴者の自主的な判断を強くお勧めします。

近年、ハリウッドではエピソード内に自殺や虐待に関するシーンが含まれる場合に、視聴者をフラッシュバックから守るために、そして作品が自殺や自傷の後押しとなるのを防ぐために、冒頭に注意書きを表示し、適切な相談先を案内する慣行が定着しきつある。

冒頭に注意書きを置く配慮はディズニー傘下にあるMCUのドラマシリーズでは採用されておらず、批判もある。一方、『ザ・ボーイズ』もシーズン2第2話のストームフロントが自殺する回では注意書きはなかったので、第7話ではより明確な描写が含まれることを示唆している。

陰謀論者の言葉 その1

シーズン3第7話冒頭の振り返りは、シーズン2で登場した父ブッチャーがレニーの死に言及するシーンや、ヒューイがVの摂取をきっかけにアニーとの距離ができていった経緯、ブラック・ノワールの“脱走”、Aトレインの危機にスターライトの告発が映し出される。

ヴォート参加のニュース番組VNN(ヴォート・ニュース・ネットワーク)では「スターライト 根拠のない主張を続ける」と報じられ、新CEOに就任したアシュリーが弁明している。司会のコールマンは「反逆罪では?」と指摘しているが、ニューヨークでは反逆罪は15-40年の懲役、または無期の懲役と10万ドル(約1,000万円)が課される。

告発の内容を否定するアシュリーにコールマンは「スターライトのヒステリーですか?」と聞き、すぐに「Another woman」から始まる文章で「ホームランダーに捨てられた女性が〜」と続けている。スターライトが男性であれば言われなかったであろう「ヒステリー」という言葉を、アシュリーは「or(あるいは)」から始まる文で「話題を逸らしたいのかも」とかわしている。

そしてアシュリーはシーズン2に登場した光解放軍の人身売買にスターライトが関わっているというヴォートのセオリーを紹介する。そこにはキミコの写真も映し出され、テロップには「ハリウッドのペドリングに協力?」と書かれている。

ペドリングとは、「小児性愛者の集団」を意味する言葉。確かに、#MeToo以降、ハリウッドでは『スタンド・バイ・ミー』(1986) のコリー・フェルドマンや「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズのイライジャ・ウッドらがハリウッドに蔓延る小児への性的虐待を告発している。

一方で、「ペドリングが世界を支配している」という言説は陰謀論者(Qアノン)の中ではお決まりの説になっている。民主党とハリウッドが影の政府(ディープステート)を通して世界を支配しているというのが陰謀論者の主張だ。

英ガーディアンのモイラ・ドネガン記者は2020年9月に「Qアノンの陰謀論者たちは巨大なペドリングを信じている。真実は哀しい」と題した記事で、“無力な声を代弁している”という立場を取りたがるのは中絶の権利を否定する精神構造と似ていると指摘している。自らを加害者ではなく“力なき者の擁護者”だと思いたいということである。

ヴォートがテロップの小さな字で「ハリウッド・ペドリング」という字を入れた理由は、保守派、特に陰謀論者へのアピールが多分に含まれるということだ。

英雄を作り、それを売る

髭を剃っている時代のソルジャー・ボーイが歌っている曲はオリジナルロバート・ミッチャム「From a logical point of view」(1957)。

この曲をプロデュースしたというレジェンドが喋り出してからは歌詞の日本語字幕はカットされているが、ソルジャー・ボーイは続けて「あなたは陽気で愉快でゲイかもしれない」「理論的な観点で言えば」「あなたより醜い人と結婚した方がいい」と歌っている。

ヒューイはソルジャー・ボーイを旧知の仲であるレジェンドのもとへ連れてきたようだ。レジェンドは、ソルジャー・ボーイは第二次世界大戦末期のノルマンディー上陸作戦では何もしておらず、ドイツではデモ隊への放水や学生運動の弾圧に加担し、延いてはケネディも暗殺したかもしれないと話す。

レジェンドの「アメリカ人は自分がヒーローだと信じたいから不都合な真実を隠し、神話を作る」とは、真理をついたセリフだ。そうして生まれたのがトランプ政権であり陰謀論者なのだが、レジェンドが指摘しているのは、アメリカは歴史的にそれをやってきたということ。そして、「それを売って富を得た」と、メディアやエンターテインメントの罪を指摘することも忘れていない。

現実のアメリカでは、2022年6月24日に人工中絶の権利を否定する最高裁判決が下された。これは、トランプ前大統領が公約通りに中絶反対の立場を取る3名の人物を最高裁判事に指名したことで生まれた結果だ。メディアがトランプフィーバーを煽り、多くの人がトランプに一票を入れた結果が、妊娠の可能性がある人の身体の自由を奪うことになった。『ザ・ボーイズ』は現実でも起きている。

ハワード・ヒューズとは

ベッドでコトに取り組むソルジャー・ボーイに怒るレジェンドはベッドに「二人のジャクリーンとの思い出」があるとして、スミスとビセットの名前を挙げている。

ジャクリーン・スミスはアメリカの俳優で、ドラマ版『チャーリーズ・エンジェル』(1976-1981) のケリー・ギャレット役で知られる。ジャクリーン・ビセットはイギリスの俳優で、アカデミー外国語映画賞受賞作の『映画に愛をこめて アメリカの夜』(1973) での主演などで知られる。スミスとビセットの名前を挙げたレジェンドは、ドヤ顔でヒューイの方をチラ見している。

一行の次のターゲットは、ペイバック元メンバーのマインドストーム。ヒューイとブッチャーがソルジャー・ボーイの元チームメイトへの復讐に協力するというのが同盟の条件だ。廃屋を移り住んでいるというマインドストームは、他者の思考が読めるが故にパラノイドになっているという。

ソルジャー・ボーイは「尿は貯めないがハワード・ヒューズ」と例えているが、ハワード・ヒューズは20世紀を代表する富豪で、変人として知られる。マーティン・スコセッシ監督、レオナルド・デカプリオ主演の映画『アビエイター』(2004) でその半生が描かれ、同作はアカデミー賞5部門を受賞した。強迫性障害に苦しみ、トイレではなく自室で用を足して数十本の牛乳瓶に尿を溜め込む姿も描かれている。

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マインドストームのことを「正気じゃない(クレイジーだ)」と言うソルジャー・ボーイに対して、レジェンドは「クレイジーじゃない、躁鬱病だ」と割とまともなことを言っている。ヒューイは、マインドストームを見つけるために、躁鬱の薬として用いられるリチウムが売られている薬局をあたることを提案する。

シーズン3第7話のタイトルロゴが現れる場面で流れている曲はREO スピードワゴン「涙のフィーリング」(1984)。ソルジャー・ボーイの時代である80年代からの選曲で、この場面では「この気持ちにはもう耐えられない」というフレーズの箇所が使用されている。

中絶規制と保守派の妄想

クイーン・メイヴはホームランダーに監禁されていた。ブッチャーとソルジャー・ボーイの件にメイヴが絡んでいると踏んだホームランダーだが、シミやニキビ跡を隠すコスメのコンシーラーを使っていることを指摘されてしまう。前回ラストのホームランダーは、鏡に映る顔にできたアザを見つめていたようだ。

ホームランダーは、ソルジャー・ボーイとブッチャーは「カウンテスと7人のヒーローを殺した」とメイヴに訴える。第6話ラストではスターライトは「12人のヒーローと市民が犠牲になった」と話しており、非能力者をカウントするスターライトとヒーローしかカウントしないホームランダーの姿勢が明確に示されている。

そして、生き残ったヒーローたちの能力が奪われていることも明かされた。やはりキミコが能力を失ったのはソルジャー・ボーイの力だったようだ。そして、能力に固執するホームランダーと、能力を失いたいと思っているメイヴの違いも明確に。だが、能力者同士で白人同士であるメイヴとの子どもが欲しいと思っているホームランダーは、メイヴの卵子を採取すると言い放つのだった。

現実においては、前述の人工中絶の規制を支持する最高裁判決の翌日、共和党のメアリー・ミラー下院議員が、選挙集会にてトランプ前大統領の目前で「トランプ大統領のおかげで白人の命が勝利をおさめた」と発言した。

保守派の中には、人工中絶を阻止することが白人人口の増加に繋がるという無茶苦茶な論を立てる人もおり、その背後にはディープステートがアメリカの白人を他の人種に置き換えようとしているという陰謀論が存在する。

『ザ・ボーイズ』では、ホームランダーは「卵子を採取して強制的に体外受精させる」という暴挙に出ようとしている。「神がそれを許さなければ事故が起きる」というのは、受精しなかった場合にメイヴは殺されるということだ。

ホームランダーがメイヴに「強制的に子どもをつくる」と言い放つ展開。本来その人のものであるはずの身体を、どのように扱うかを他者が決定する姿勢は、まさに中絶を禁止しようとする保守派の思想を象徴している。

現実において中絶に関する判決が下った矢先の配信であり、タイムリーではあるのだが、中絶、つまり妊娠の可能性がある人の自己決定権をめぐる問題は、トランプが中絶反対論者を最高裁判事に指名することを大統領選の公約に入れる程には根深い問題だ。

『ザ・ボーイズ』は時事の話題に乗っかるということではなく、アメリカと社会が直面する現実の問題に向き合っているからこそ、現在進行形の問題とリンクするテーマが語られることになるのだろう。

ノワールの過去

キミコ&フレンチーはアニー&MMに合流。これは心強い。MMは部屋にオバマ元大統領の写真を飾っており、ラッパーのDMXのTシャツを着ている。DMXは2021年4月に薬物の過剰摂取に起因する心臓発作で50歳の若さで亡くなったばかり。

ブッチャーチームの方は、車のトランクを開けるいつものショットがソルジャー・ボーイとの3ショットになっている。新生ザ・ボーイズはこちらの方なのだろうか。

マインドストームは目を合わせると思考が読まれると助言するソルジャー・ボーイだが、PTSDを和らげるためにマリファナを吸引している。先日、ウクライナではPTSD治療のために医療用大麻を合法化する法案が提出されたばかりだ。「クスリに頼ることは責められない」と言うブッチャーは、またもヒューイと即効性Vを接種するのだった。

廃墟と化したバスター・ビーバー ピザ・レストランに現れたのはブラック・ノワール。バスター・ビーバー ピザ・レストランはスピンオフ番組『Seven on 7』でもCMが流れており、2月にはヴォートのYouTubeチャンネルやTwitterでもCMの映像が配信されていた。その際にショー・ランナーのエリック・クリプキはこのピザ店が「シーズン3のストーリーで重要になる」と予告するツイートをしている。

廃墟で缶詰のビーンズを開けたノワールの周りには、アニメの動物たちが集まってくる。ヒーローガズムよりも群を抜いて狂気じみた映像が流れる。ノワールを本名の「アーヴィング」で呼ぶ動物は、9歳の頃にルイス・フランケルを麻痺してこの店舗のボールプールに隠れた記憶を掘り起こす。

ここで触れられている「ラゴスの虐殺」というのは、1960年代後半にナイジェリアのビアフラ戦争で起きたイボ族の虐殺のことだろうか。イボ族はナイジェリアからビアフラ共和国として分離独立したが、戦争で200万人ものイボ族が命を失い、1970年にナイジェリアに再併合された。なお、シーズン3第1話では大統領候補のロバート・シンガーがエドガーにブラック・ノワールのラゴスでの行動は戦争犯罪にあたると指摘している。

ザ・ボーイズのそれぞれ

マインドストームの領域に入ったブッチャーは罠にかかり、悪夢に閉じ込められる。そこにはシーズン2第7話にも登場した母の姿があった。同話では、ブッチャーは母の「最初で最後のお願い」として癌に罹患した父と話し合いの場を持っている。

悪夢の中には、弟のレニーと遊んでいたビリーが父に虐待を受けながらもレニーを守る姿があった。シーズン2ではビリーが父に「怪物め」と言い放つと、父は「お前も同じだ」と応答した。この会話の中では「俺たちをよく叩いた」「だがお前は強くなった」という応酬もあり、ブッチャーが虐待を受けて育ったことが明かされていた。

ブッチャーは悪夢の中で、その父の言葉通り、我が子を殴る若き日の父の姿を自分に重ね合わせている。銃を持つレニーの姿もフラッシュバックするが、シーズン2ではレニーは銃を口に当てて自殺したことに言及されている。

ウィードを吸うフレンチーはヒーローガズムを逃したことを悔いていたが、ラボの実験映像でソルジャー・ボーイを眠らせたのがハロタンではないことを見抜いていた。乱雑でフラフラなフレンチーに相変わらず神経質なMM。なんだかんだ二人は互いをカバーし合う存在だ。

アニーに治療してもらうキミコが観ている映像は映画『フラッシュダンス』(1983) のテーマ曲マイケル・センベロ「Maniac」で主演のジェニファー・ビールスが踊る場面。「彼女はフロアの上で熱狂してる」と歌われており、キミコは第5話の空想で実現したミュージカルが忘れられない様子だ。

キミコが取り出した巨大なウイスキーはカークランドブランドのもの。カークランドは大型スーパーチェーンのコストコのプライベートブランドである。売ってる物すべてがでかいことでお馴染みのコストコで買ってきたようだ。

キミコはアニーと巨大ウイスキーを回し飲みすると、コンパウンドVで能力を取り戻したいと言い始める。キミコの力は戻っていなかったらしい。一度は頼みを断ったアニーだったが、キミコは事前にスマホに書いていた手紙をアニーに呼んでもらう。キミコが誰かにお願いをするのは珍しい。

ハニティーに出演

ソルジャー・ボーイは現代でマリファナが合法化されていることに驚いている。アメリカでは18州で合法化されており、ニューヨークは2021年3月に合法化が実現した。ソルジャー・ボーイはブッチャーの“吸引力”に言及する際に英語で「フーバーデラックス並みか (like a Hoover Deluxe.)」と言っているが、フーバーは1908年創業で今もアメリカで愛されている掃除機メーカーだ。

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流石にセクハラにキレるヒューイに、ソルジャー・ボーイは“過去の栄光”を持ち出すが、真実を知ったヒューイは毅然とした態度を見せる。そんなヒューイに対して、ソルジャー・ボーイは暴力をチラつかせて黙らせることしかできなかった。これもまたよくある光景である。

自室でカッサンドラを誘うディープが聞いている曲はエクストリーム「More Than Words」(1990)。「言葉以上のもの」をテーマにしたラブソングだ。

「ハニティー」への出演が決まったというディープ。保守派のFOXニュースでショーン・ハニティーが司会を務めるニュース番組『Hannity』(2009-) のことだろう。ショーン・ハニティーは熱心なトランプ支持者として知られ、トランプにメディア対策の助言を行なったとも言われている。

ショーン・ハニティーはメディアを通して、バラク・オバマやヒラリー・クリントンについての陰謀論を展開した他、ずっと民主党が世界を支配していると思っているディープステート論者でもある。レジェンドの言う「それを売って富を得た」人間の一人だが、殺害事件を絡めた行き過ぎた陰謀論の主張によってFOXニュースからのスポンサーの大量降板を招いたこともある。誤報を報じることも多く、保守派からも批判される人物だ。

ディープはヒーローガズムから連れてきたタコのアンブロシウスをパートナーに加えるが、これが原因でカッサンドラと仲違いすることに。アンブロシウスを「それ (it)」と呼ぶカッサンドラをディープは注意しているが、英語では「代名詞を間違えるな (Get your pronouns right.)」と言っている。日本語でもそうだが、代名詞の性別を間違えることは非常に無礼で、場合によっては差別にもあたる。ディープは海の生き物の権利は尊重できるようだ。

カッサンドラはディープのためにヴァッサー大学の職を離れたと言っているが、ヴァッサー大学はニューヨークの老舗私立大学で、大山捨松が日本人女性として初めて卒業したアメリカの大学としても知られる。

ディープは自分の才能を「恐るべき英知」と言われたとしているが、英語ではそれを言った人物を「デイヴ・エガーズ」としている。デイヴ・エガーズは作家、編集者、事前事業家として知られる。モーリス・センダックの絵本を映画化した『かいじゅうたちのいるところ』(2009) の脚本とノベライズも手掛けている。

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エディ・マーフィ起用の裏で

ブラック・ノワールは空想の中でアニメ化された過去の記憶を観ている。ブタのガンパウダーはタカのソルジャー・ボーイに殴られている。ヒツジのブラック・ノワールは当時は喋れていたようで、「『ビバリーヒルズ・コップ』の出演がなくなった」と落ち込んでいる。

映画『ビバリーヒルズ・コップ』はソルジャー・ボーイが失踪する1984年公開の映画。主人公アクセルを演じたエディ・マーフィにとって初の主演映画だが、ノワールの降板で当時俳優としては新人だったコメディアンのエディ・マーフィが起用されたという設定のようだ。

ソルジャー・ボーイはドン・シンプソンにノワールを降板させるよう言ったらしい。ドン・シンプソンは『ビバリーヒルズ・コップ』のプロデューサーで、キミコが観ていた『フラッシュダンス』のプロデュースも手掛けている。あの『トップガン』(1986) もドン・シンプソンがヒットさせた作品だ。

自分以外をスターにしたくないソルジャー・ボーイは、歯向かうブラック・ノワールに一方的に暴行を加える。ペイバックも相当な強権政治が敷かれていたようだ。クリムゾン・カウンテスの「皆があんたを嫌いだった」という言葉の意味がよく分かる。こうしてノワールはソルジャー・ボーイへのトラウマを植え付けられたのだろう。

やばい人たち

ブッチャーはまだ悪夢を見ている。若い頃のビリーは勉強はできていたが、父と比べる教師に対して感情を抑えきれず、暴行を加えていた。それを止めたのはレニーだったが、ビリーは反射的にレニーに手を出してしまう場面では、いつもブレーキになってくれていたヒューイを殴ったときの記憶がフラッシュバックしている。

その後、ジ・イギリスという感じのパブで父は二人に「沈むか、泳ぐかだ」というシーズン2第7話と同じ言葉をかける。なお、父はビリーがよく使う「oi」を使ってレニーに話しかけている。「クソとして生きたくないだろ」と、ビリーの暴力を肯定してレニーを蔑み酒をあおる父の姿を、ビリーは今の自分と重ね合わせている。

ソルジャー・ボーイとヒューイは、サマリタン・エンブレイスの施設へ行く途中というシスターと神父と遭遇。サマリタン・エンブレイスはシーズン1でエゼキエルが率いていた宗教団体だ。ソルジャー・ボーイはブレインストームの手先だと判断すると二人を射殺。PTSDであることを否定するものの、完全に聖職者殺しの証拠が路上に残ってしまっている。

大統領候補のロバート・シンガーの選挙集会に登場したホームランダーは、スターライトが最近少女の避難施設を開設したことと人身売買に関与しているという噂を結びつけた文字通りの“陰謀論”を展開。観客の中にはMMの娘ジャニーヌと保護者のトッドの姿もある。

応援演説なのにメディアを煽りながら陰謀論を用いたスターライト批判を繰り広げるホームランダーに聴衆の反応はイマイチ。拍手しているのは白人だけだ。しかもホームランダーはソルジャー・ボーイの幻覚まで見る有様。コントロールを失っていくホームランダーが牧場の牛の搾乳をしている場面で流れる曲はトミー・ジェイムス&ションデルズ「Crimson And Clover」(1968)。

歌詞が「もし彼女がこっちに歩いて来てたらなぁ (Well if she come walkin’ over)」と歌われたところでニューマン議員が入ってくる丁寧な演出。ニューマンがソルジャー・ボーイが現れたことを認めて事態を掌握するよう助言。エドガーのもとで育った政治家である。ニューマンの首を絞めるホームランダーだったが、ニューマンはスターライトにやったように交渉材料を持ってきていた。

Aトレインの試練

Aトレインは一命を取り留めていた。アシュリーはブルー・ホークを殺したのはソルジャー・ボーイという筋書きを立て、ブルー・ホークの心臓をAトレインに移植。ヒーローとして復活し、スターライトとの対立を演出する気でいた。

レイシストの心臓を移植されるという屈辱。ヘイトクライムによって兄を半身不随に追い込んだブルー・ホークと一生ともに生き続けることになるなんて。しかもアシュリーは『トレーニング・Aトレイン』という伝記映画を作ると言っているが、その内容はサウスサイドのギャングスターだったAトレインがトム・ハンクス演じるコーチに更生してもらうという内容だ。

白人が黒人をコーチするという典型的な物語になっている上、アシュリーはトム・ハンクスが「より文明的な生き方を教える (teaches you a more civilized way.)」と言っており、黒人文化を馬鹿にしている。

映画のタイトルはデンゼル・ワシントン主演の『トレーニング・デイ』(2001) から取ったものと思われるが、こちらは黒人刑事が白人の新米をコーチする真逆の設定になっている。脚本家として挙げられているジュリアン・フェロウズは映画『ゴスフォード・パーク』(2001) でアカデミー脚本賞を受賞しているが、イギリス白人で作風も全く違う。

陰謀論者の言葉 その2

テレビではラマー・ビショップの副大統領候補選出について報道されているが、テロップには「スターライトはアドレノクロムを摂取してる?」と表示されている。アドレノクロムは単に止血作用がある化合物なのだが、陰謀論者の間では「子どもの脳から採取される若返り薬」という設定になっている。

ディープステートは小児性愛者の集団であり、ハリウッドの俳優たちは子どもの脳から採取した若返り薬(アドレノクロム)を使用している、という陰謀論を踏まえたテロップなのだ。テレビ局はもちろんヴォート・ニュース・ネットワーク。ヤバすぎる。

理科系に強いフレンチーはソルジャー・ボーイを眠らせたのはロシアの強力な神経剤であるノビチョクだと指摘し、ガスではなく蒸気で霧散しただけだと暴き出す。

MMは娘のジャニーヌがトッドとホームランダーと写っているインスタのポストを見て家を飛び出す。シーズン3第5話ではMMはトッドに「Facebookで繋がってたっけ?」と言われていたが、娘とはインスタで繋がっているようだ。

「守りたい」という言葉

キミコはフレンチーをダンスに誘い、アン・リバーンが歌う「Dream a Little Dream of Me」(2019) で踊る。1931年に発表されたドリス・デイの同名曲のカバーだ。

Vの効果がなくなったことで初めてフレンチーの身体に触れた感覚を味わえるようになったというキミコだが、アニーにコンパウンドVを手に入れてもらうことになったと明かす。キミコとマルセイユに行く約束をしていたフレンチーは必死に止めようとするが、キミコは、アニーに見せた「私の選択」について書かれた手紙を見せる。

かつてはVを打たれたことを憎んでいたが、善悪はVには関係なく、能力を使う人次第ということに思い至ったキミコ。フレンチーを失いかけたことで、愛する者ために能力を善いことに使いたいともう一度Vを手に入れることを決意したのだった。これこそが、『ザ・ボーイズ』の世界には存在しなかった真のヒーローの考え方であり、それを最初に獲得したのがキミコだというのがとても良い。

キミコにとって、フレンチーは唯一の家族。守りたいという気持ちを素直に吐露するキミコと、痛めつけられて利用されてきた人生の中で「守りたい」と言ってくれる人が現れたフレンチー。思わず涙が出てしまうシーンだ。

ブラック・ノワールの決意

キミコの気持ちを受け、忍び込んだヴォート社でコンパウンドVを手に入れたアニー。V24は一瞥しただけだったアニーだが、「3〜5投与で死亡する」というメモを見つける。ヒューイはまだしもブッチャー はかなり危険領域に入っていると思われる。

ブラック・ノワールの回想は続いている。1984年、ニカラグワでエドガーからセブン入りの打診を受けるノワール。ジョナー・ヴォーゲルバウム博士がソルジャー・ボーイの代わりとなる子どもを誕生させたのだ。ヴォートは、ホームランダーが幼い頃からホームランダーをリーダーに据えたセブンの結成を計画していたということである。

そして、ソルジャー・ボーイをはめたのは他でもないヴォートとエドガーだったことが明らかになる。エドガーが打診していたのは、ガン・パウダーを除くペイバックメンバーでソルジャー・ボーイを襲撃する作戦だった。

ソルジャー・ボーイを戦闘不能にしてソ連に差し出したのはペイバックメンバーだったのだ。この時、ブラック・ノワールはソルジャー・ボーイから顔面の左半分を大火傷させられ、の脳味噌まで飛び出している。よく生きていたものだ……。

「勇敢さは恐れを知ること」と語り部のビーバーから言われたノワールは、心を決めるのだった。

ブッチャーの「愛する人」

トッドのもとへ来たMMは、ソルジャー・ボーイが狙っている中でホームランダーのいる集会へジャニーヌを連れて行ったことを叱責するが、「危険は無い」と、まるで「コロナは嘘」のような言い分を披露する。MMの「ホームランダーはありもしない話をして君のようなバカを洗脳する」というセリフは痛烈だ。しかしMMは口論の末トッドを殴り倒し、その姿をジャニーヌに見られてしまう。

コンパウンドVを手に入れたアニーだがホームランダーに見つかる。いつもの相手をコントロールしようとする文言と脅しを並べるホームランダーだが、「メイヴは礼節を学んでる」「スーパーソニックを殺した夜をよく覚えている」「ヒューイがどうなるか伝えた」といった内容を隠し撮りされ1億9,000万人に配信されてしまう。

気付いた時には慌てて「セリフの練習」ということにしたが、セブンをやめたスターライトとセリフの練習をしていたというのは無理がある。

ソルジャー・ボーイとヒューイはマインドストームを発見。しかしヒューイはテレポート能力を使ってマインドストームを連れ出すと対話を試みる。キミコがフレンチーにそう言ったように、ヒューイはブッチャーを「家族」だと言い、ブッチャーを助ければマインドストームを逃すと約束する。

若き日のビリー・ブッチャーは弟レニーを置いてイギリス軍に入隊しようとしていた。虐待父のもとに取り残されたことで、レニーはこの後半年間殴られ続けることになる。ブッチャーはシーズン1でもシーズン2でも仲間を巻き込むことを避けようとして単独行動に走ることがあった。

過去の自分に「行くな」と声をかけるが、過去を変えることはできない。レニーが死を選んだのは6ヶ月後のこと。レニーは現在のブッチャーに「ずっとそうだった」と、レニーやベッカ、そしてヒューイと、「怪物になるのを防ぐ最後の善人を」死に追いやってきたと指摘する。これはブッチャーの夢であるため、ブッチャー自身がそのように感じていたのだろう。レニーの言うブッチャー が「愛する人」の中にヒューイが入っていたのが印象的だ。

レニーが自殺したところでブッチャーは目を覚ますと、思わずヒューイに謝罪する。ヒューイはマインドストームを逃がそうとするが、そこにやってきたのはソルジャー・ボーイ。ヒューイを殴ったソルジャー・ボーイをブッチャー はビームガン飛ばしで牽制する。

ソルジャー・ボーイはマインドストームから裏切りについての事実を聞き出すと、キャプテン・アメリカばりの“盾殴り”でマインドストームを殺す。袋を被せたとはいえ、グロすぎる……。

ヒューイはブッチャーがイギリス人なので晩ご飯はイギリス料理のフィッシュ&チップスでいいか聞いている。優しい。悪夢を引きずり、一人涙を流していたブッチャーは、アニーから聞いたV24の危険性をヒューイに伝える……かと思いきや、いつも通りの声をかけることしか出来ない。

アニーはヒューイを守ることを宣言すると、キミコにコンパウンドVを渡す。愛する人を守りたい気持ちは同じなのだ。フレンチーにVを打ってもらったキミコはみるみるうちに怪我が回復。完全復活を遂げる。

衝撃の事実

一方、ホームランダーは「ミネソタ州オルドリッチ郡道2号線715」というメモを見ながらアニーに配信された動画についてアシュリーと話していた。そこに電話をかけてきたのはソルジャー・ボーイ。

かつてフォーゲルバウム博士の遺伝子研究に協力したというソルジャー・ボーイは、精子提供の際にペントハウス誌1980年6月号のダニエル・ジュノーを使ったというが、調べてみたところ確かに同号にはダニエル・ジュノーが表紙に起用されている。

そしてソルジャー・ボーイは衝撃の事実を明かす。提供された精子で1981年の春に誕生したのはホームランダー。ソルジャー・ボーイはホームランダーの父だったのだ。まさかの「スター・ウォーズ」的展開。そしてホームランダーが求め続けてきた“父”の登場。何より、ザ・ボーイズに最大の危機が訪れる可能性を残してシーズン3第7話は幕を閉じる。

今話はエンディングの歌はなし。その代わり、ポストクレジットシーンのおまけがある。ブラック・ノワールのアニメーションに登場したバスター・ビーバーのキャストが挨拶をしてくれる。

『ザ・ボーイズ』シーズン3第7話まとめ

最終話目前で衝撃の展開を迎えた『ザ・ボーイズ』シーズン3。この展開が厄介なのは、ソルジャー・ボーイやホームランダーのような人たちこそ血縁を大事にするからだ。一方で、ザ・ボーイズの方は血がつながっていない者同士で絆を確かめ合う回でもあった。あとは二つに分かれたザ・ボーイズが一つになれるかどうか……。

キミコについての描写からは、ソルジャー・ボーイのビームは永久に能力を奪うということも分かった。その力の源は何なのだろうか。また、ソルジャー・ボーイを倒したのは武器ではなく、ペイバックメンバーだったということも分かった。

となれば、ソルジャー・ボーイを倒した兵器とされていた「BLCレッド」とは何だったのだろうか。レッド=赤=紅=クリムゾン、ということでクリムゾン・カウンテスと関係があるのかとも思ったが、BLCレッドはロシア側でソルジャー・ボーイに付与された“能力抹消能力”と関係があるのかもしれない。

そして、ヴォートはソルジャー・ボーイを殺すのではなくロシアに引き渡しており、そこには見返りがあったはず。あるいは、ヴォートがスーパーヒーロービジネスを持続的なものにしていくために、ソ連側にヴィランや対スーパーヒーロー兵器を作る“素材”を提供したかったのだろうか。

歴史はさておき、現状はかなり勢力図がはっきりしてきた。スターライトに振られたニューマン議員はホームランダー側へついた様子。最後にホームランダーが見ていた住所のメモは、ニューマンが牛舎で渡したものだろう。ライアンの住所だろうか。

民衆は、アニーのトラップによってホームランダーから離れたことだろう。だが、ソルジャー・ボーイとホームランダーのタッグはウケが良さそうだ。問題は、ブラック・ノワールがどっちにつくかということ。

スピンオフアニメではホームランダーを新人時代から支えてきた人物であることが明かされたが、ソルジャー・ボーイが元ペイバックに復讐を誓っている以上、ソルジャー・ボーイとホームランダーが組めば両者に挑む他ない。ザ・ボーイズと一緒に戦ってほしいところだが……。

あとは最後の最後まで、エドガーとメイヴの復活に期待したい。『ザ・ボーイズ』は既にシーズン4への更新が決定している。ブッチャーもホームランダーも生存ルートだとは思うのだが、最後まで何があるか分からないのが『ザ・ボーイズ』の醍醐味。シーズン3最終話となる第8話の配信を心して待とう。

ショーランナーのエリック・クリプキが語ったシーズン3におけるキャラクター配置の意図はこちらの記事で。最終話の予習にどうぞ。

ドラマ『ザ・ボーイズ』シーズン3はAmazonプライムビデオで独占配信。

原作コミックの日本語版は、G-NOVELSから発売中。

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第6話の解説はこちらから。

第1話の解説はこちらから。

第2話の解説はこちらから。

第3話の解説はこちらから。

第4話の解説はこちらから。

第5話の解説はこちらから。

シーズン3までの経緯とスピンオフ番組の内容、アニメ版の注目エピソードはこちらの記事で。

 

『ザ・ボーイズ』はシーズン4の製作も発表されている。

シーズン2最終話のネタバレ解説はこちらから。

齋藤 隼飛

社会保障/労働経済学を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で4年間、教育業に従事。アメリカではマネジメントを学ぶ。名前の由来は仮面ライダー2号。 訳書に『デッドプール 30th Anniversary Book』『ホークアイ オフィシャルガイド』『スパイダーマン:スパイダーバース オフィシャルガイド』『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース オフィシャルガイド』(KADOKAWA)。正井編『大阪SFアンソロジー:OSAKA2045』の編集担当、編書に『野球SF傑作選 ベストナイン2024』(Kaguya Books)。
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