『ジェン・ブイ』シーズン1最終話はどうなった?
2023年9月からAmazonプライムビデオで配信を開始したドラマ『ジェン・ブイ』は、人気ドラマ『ザ・ボーイズ』のスピンオフで、スーパーヒーローを目指す能力者の若者たちが通うゴドルキン大学を舞台にした作品だ。『ザ・ボーイズ』本編からのゲストキャラも続々登場するファンにはたまらない作品となっており、既にシーズン2への更新が発表されている。
今回は、ドラマ『ジェン・ブイ』シーズン1最終回となる第8話の各シーンをネタバレありで解説&考察していこう。なお、第8話は視聴対象が18歳以上になっており、露骨な残虐描写が含まれる。また、第8話については自殺と学校内での暴力事件が扱われるため、視聴と記事の閲覧には注意していただきたい。また、以下の内容はネタバレを含むので必ずAmazonプライムビデオで本編を視聴してから読んでいただきたい。
以下の内容は、ドラマ『ジェン・ブイ』最終回第8話の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
『ジェン・ブイ』第8話「ゴドルキンの守護者たち」ネタバレ解説
ケイトとエマを止める
ドラマ『ジェン・ブイ』シーズン1最終回となる第8話では、冒頭に英語で学校内での暴力が扱われると警告が出されている。大学のキャンパス等、学校内での銃乱射事件をはじめとする暴力事件はアメリカで多発しており、フラッシュバックが起きる可能性もあることから、この注意が入れられている。日本でも学校内での事件というのは存在するので、やはり警告には日本語字幕が欲しいところだ。
インディラ・シェティ学長を殺したケイトは、「あなたのためにやった」と主張する。ヒーローになるというケイトは、それに同調したサムと共に森を開放するという。サムもまた反対するエマに「君のためでもある」と発言。最終回では、大人が不在になっていく中、「あなたのため」という支配のための言説がここに来て多用されることになる。
サムという最強のカードを得たケイト。サムは実験台にされていたという過去から非能力者たちを憎んでいる点が厄介だ。エマはサムを捕まらせたくないため、マリー、ジョーダン、エマは3人でケイトとサムを止めることに。最終的にこの3人のチームになった点は興味深い。マリーは自傷の、ジョーダンはセクシュアリティの、エマは身体に関する悩みをそれぞれ抱えていたからだ。
「あなたのため」
一方、前回父のポラリティが倒れたアンドレは、医者から「能力を使うたびに神経が断裂している」という事実を知らされる。つまり、同じ能力を持つアンドレにも同じことが起きることが考えられるのだ。神経は再生しないため、医者は今後能力の使用は禁止だと言う。
アンドレとポラリティの持つ磁力を操る力は、マーベルコミックでは最強級の「X-MEN」に登場するマグニートーに似たものだ。しかし、「ザ・ボーイズ」ユニバースではアンドレとポラリティは力を使うほど摩耗するという弱点が設定された。巧妙なツイストだ。
アンドレは病院のベッドに横たわる父に「どう見える?」と言われ、「鋼の男(マン・オブ・スティール)」と、DCコミックスのスーパーマンの別名を使ってお世辞を言っている。ポラリティは息子のアンドレにコスチュームを継がせることを告げると、森のことを知りながら協力したことを謝罪。しかし、その言い訳は「お前を守るため」というものだった。
保護と支配を履き違えた大人の決まり文句は「あなたのため」。そうして育てられた若者たちは、自分が大切にしているはずの相手にも同じ言葉遣いで支配の手を伸ばそうとする。
結果、ポラリティの口から出てきた言葉は「ヴォートに従え」というものだった。続く「お前が家族を支える」というセリフは、父から息子に繋がれる家父長制の象徴ような言葉だ。大企業や組織に従うこと、それが家族の中で引き継がれるという、おおよそスーパーヒーローとは思えない苦しい現実が横たわっている。
次のセブン
ゴドルキン大学では、ヴォート社CEOのアシュリー・バレットが会議を仕切っていた。ゴールデン・ボーイとニューマンの件で入学申請が減っているため、誰かをセブンに入れて大学の人気を高めようというのだ。現在、セブンは『ザ・ボーイズ』シーズン3終了時点でホームランダー、ディープ、Aトレインの3人のみ。クイーン・メイヴは死んだことにして引退し、スターライトは正式にザ・ボーイズに加わった。4つも席が空いているのだ。
ランキング1位のアンドレは、アシュリーから「成績はひどい」と言っているが、資料を見るとGPAは「3.3」となっている。アメリカの大学のGPAは最高で4.0なのでそんなに悪くはないが、優等生はオールAでGPA4.0をキープするというイメージが強いため、アシュリーの態度は否定的になっている。
白人の役員が「画面上では肌が暗い」とセブン入りを否定すると、アシュリーは「人種差別発言はやめて」と制止する。しかし、この言葉も怒りがこもったものではなく、誰かに聞かれたらまずいという程度の態度だ。相変わらずのヴォートクオリティである。
ケイトのリーダーシップ
その頃、ケイトとサムは地下にある森の全てのドアを開放。サムの腕力とケイトのテレパス能力は相性が良い。助けられた能力者の一人は、最後に外の日を見たのは「江南スタイル」が流行った頃と話す。PSYの「江南スタイル」が流行ったのは2012年ごろなので、10年以上ここにいたことになる。相当な憎悪が蓄積されているだろう。
そして、サムは森の中でルークの幻覚を見ることになる。もちろんこれはサムの心の中の声であり、「こんなことは望んでいないはず」と声をかけるルークは、サムの中の良心の象徴だと言える。ルークは『ジェン・ブイ』第1話で死ぬことになったが、サムが生き続けている限りはサムの幻覚として登場することになるのかもしれない。
ケイトとサムらは、ウィルスの実験台にされた能力者たちを発見。第7話にも登場したアンディの骸を見つける。ケイトは感染した能力者たちを前に、解放したメンバーに向かってスピーチを打つ。「あなた方は劣っていない。奴らより優れている」というリーダーシップに溢れる演説を披露したケイトは、その後に看守に手を食べさせる残虐な指示を出しており、あらゆる面で着実にホームランダーに近づいていると言える。
解放された能力者たちはキャンパスにいる非能力者たちを襲撃していく。ルーファスが動画を撮ろうとしている場面から流れる曲はリアーナの「Desperado」(2021)。「私の欲しいものはここにはない。だけど一人になりたくない」と歌われており、能力者たちを代弁するような歌詞として受け取ることができる。
解放された能力者は非能力者の非常勤講師を見つけて襲撃開始。非常勤講師は能力者でなくても良いようだ。英語ではこの非常勤講師はマーケティングの授業の担当と言っている。なかなか能力者だけで人材を揃えるのは難しいのだろう。
エマに起きた異変
会議では、トランスルーセントの後継として27位のマーベリックが推されている。推しているのは先ほどアンドレに差別発言をしていた役員だ。意外と順位が高いマーベリックは、トランスルーセントの息子だということが明かされている。寮長になっているのは親の七光りなのだろうか。アシュリーは「父親似の変態なら却下」と、シーズン1第1話でトイレで覗きをしていたトランスルーセントのことに言及している。
ケイトは道具を使って能力者を殺していたマーケティング部門のジェフを捕捉すると、その道具を使って自らの頭を吹き飛ばさせる。ここではジェフのスマホが使われたのだろう、誰が配信しているのか分からないというところが味噌になる。
大学での凶行が外部にも発信される中、P・J・バーン演じるアダム・バークの授業に場面は映る。乱入してきたサムにアダム・バークは「ジョシュ・ハートネットは彼より存在感があった」と言うが、ジョシュ・ハートネットは実在の俳優だ。近年では映画『オッペンハイマー』(20239 にアーネスト・ローレンス役で出演。ドラマ『ダイ・ハート』(2020-) に続き、Amazonオリジナルの映画『ダイ・ハート』(2023) に本人役で出演している。
アダム・バークは非能力者なのでサムに襲われるのだが、ここに止めに入ったのはエマだった。しかし、サムは「僕を救うなんて自己満足だ」とエマを突き放す。「僕のように過ごせば僕のようになる」と言われれば何も返すことはできない。それは対話を拒む言葉だ。
エマは「何が最善か」を考えるよう求めるが、サムは「その最善は君にとってだ」と取り合わない。今度はエマの方が「あなたのために危険を冒した」と言うが、サムは「君は好かれるために何でもする。ヒーローじゃない」と突き放して去っていく。すると、涙を流しているエマは嘔吐していないのに身体が小さくなってしまう。
エマは物理的に質量が軽くなるだけでなく、精神的に大きな喪失を感じた場合も身体が小さくなるのかもしれない。だとすれば、大きな自尊心を得た時には巨大化するという可能性もある。サムがエマに人に好かれようとしていると指摘した通り、エマがこれまで何も食べずに巨大化できていない理由は自己肯定感の問題なのかもしれない。
アノ人を召喚
ようやくケイトからの電話に出たアンドレは、森が開放されたことを聞き大学へ向かう。一方のサムは再び妄想のルークに咎められる。ルークは第6話で性行為をした時にサムがエマの中に出したことを指摘。これは後々のシリーズで重要な要素になるかもしれない。サムは自分の良心であるルークを排し、ケイトの何も感じなくなる催眠を受け入れる。これでサムは殺戮マシーンと化してしまった。
キャンパスでの殺戮が続く中、マリーはインディラの部屋から寮にシャッターを下ろす機能を作動し、さらに能力者だけに効く音波がスピーカーから流される。アシュリーたちがいる会議室に逃げ込んできたのはアダム・パーク。「小児がん基金のトイレでしたこと」を話すと脅してドアを開けさせているが、これは『ザ・ボーイズ』シーズン3第1話で二人が情事に耽っていたことを指している。
音波装置が破壊されると、アシュリーはホームランダーとヘリを呼ぶよう指示し、さらにこの暴動を止めた者をセブンに入れるよう指示する。アシュリーはマリーに電話を入れると、脱走した学生を止めれば妹の会わせると約束。アシュリーもまたマリーの家族の背景を知っていた。なんだか誰もがマリーの妹について知っている気がする。
大学内の電波が繋がらなくなり嘆くジャスティンは、「人知れず死ぬなんて冗談じゃない!」と叫んでいるが、英語では「私たちが死んだら誰がそれを知るの? (Who’s gonna know if we die?)」と言っており、自らの死まで配信しようとしていたことが窺える。
vs マーベリック、vs サム
アシュリーら理事を迎えに来たヴォートのヘリは能力者によって墜落させられそうになるが、これを止めたのはアンドレだ。アンドレは第7話ですでに父の能力の暴走を止めるために能力を使っておりかなり消耗している様子だ。その事情を知らないマリーは、「一緒にゴドルキンの守護者になる」と励ましている。
一方のケイトも能力の使いすぎで消耗している様子だ。ケイトとアンドレの共通点は能力の使いすぎで消耗するという点だろう。この辺りはうまくチート能力に制限をかけて調整している。なお、ケイトは立ち去る直前に「父親みたいになりたい?」と意味深な言葉を投げかけている。
ケイトを止めに来たマーベリックは一瞬でケイトの操り人形になり、マリーの前に立ちはだかる展開。しかもまあまあ強い。トランスルーセントの透明化能力は単なる透明化ではなく、皮膚を炭素系メタ物質に変化させ、光の反射で皮膚を周囲と同化させるものだ。そのため、皮膚は特殊で刃物や銃を弾くことができる。
見えない強敵との戦い挑むことになったマリーだったが、前回ヴィクトリア・ニューマンから教わった血中の物質を読み取る能力の使い方を試す。すると、マリーからはマーベリックの血管が見えるようになり、マリーはヘリの羽根でマーベリックをぶん殴って勝負あり。初めてマーベリックの姿が露わになる。やはりアンドレを差別した理事が推していただけあり、案の定白人である。
ジョーダンは理事を守ってヘリの中へ避難させるファインプレーを見せた一方、アンドレはケイトに「1人なら失敗するが、2人なら解決できる」と説得。ケイトはここで手を差し伸べるが、アンドレはケイトを信じることができず、その手を取ることができなかった。本当に愛情があり、素手でその手を握ったインディラとは対照的だ。そして、愛情があることがいつも正しいわけではないのだ。
そして始まったのはサム vs アンドレ。第1話ではアンドレはサムを捕まえており、その時以来の対峙になる。あの時は、ケイトにサムの記憶を消されていたから誰か分からなかったのだろう。サムに殴られるアンドレが言う「兄弟同然だった! (You were like my brother)」は、映画『スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐』(2005) でオビ=ワン・ケノービがアナキン・スカイウォーカーに言った「兄弟だと思ってた! (You were my borther!)」を想起させる。こちらはお兄ちゃんが一方的にやられているが……。
アンドレは追い詰められながらも、警備員のスタン警棒を能力で引き寄せると、自分ごとサムを感電させて相打ちに持ち込む。賢い判断だ。
能力覚醒、そして降臨
マリーは、妹が誇れるヒーローになりたかったがもうどうでもいい、ただ「いい人でいたい」とケイトを説得しようとする。しかし、ケイトはマリーはもう人ではなく「製品(プロダクト)」だと言い放つ。そうしている間に、能力者たちに襲撃されたジョーダンを守るため、マリーは離れた位置にいる能力者の心臓を掴むように攻撃することに成功。さらに、血まみれになったキャンパスで他者の血を操ることに成功する。
これまでは自分の血を操っており、故に限界があったが、こうなれば血が流れる凄惨な(いかにも「ザ・ボーイズ」フランチャイズらしい)現場であればあるほど力を発揮できるということになる。おそらく愛するジョーダンの危機に能力が覚醒したのだろう。他者の血を自在に操れるようになったマリーは、ジョーダンに手を伸ばしたケイトの腕を咄嗟に破壊。ニューマンの頭爆破と同じ技が使えるようになったのだ。
怒涛の展開に拍車をかけるのは、先ほどアシュリーが呼んだホームランダーの降臨だ。まさかまさか、最終回で『ザ・ボーイズ』からコイツがやってくるとは。もはやスピンオフの『ジェン・ブイ』を最後まで観た視聴者へのご褒美ですらある。
不協和音の音楽と共に降り立ったホームランダーは、“一番怖い先生”というより、暴力団の頭になったマジモンのOBが喧嘩を止めに来たような、背筋が凍るような恐さがある。キョトンとした顔で現場を見回したホームランダーは、一瞬で状況を判断し、有無を言わさずマリーを「ケダモノ (animal)」と呼ぶと、マリー目掛けて目からビームを放つのだった。
ほとんどセリフのない中で起きた悲劇だが、状況は巧妙に作り出されている。あの現場にいたヴィランはケイトだが、ケイトだけが白人で、理事たちを助けたジョーダンとマリーはそれぞれアジア系と黒人だった。あらゆる文脈を無視し、有色人種が優位な状況に立っているとあれば加害者だと決めつけて暴力で制圧するのは、米国内で起きている警察による暴力そのものだ。
圧倒的な暴力装置の象徴であるホームランダーが話を聞かずにその力を行使し、ここまで8話にかけて築き上げたストーリーを全て掻っ攫っていってしまう点も、抗いきれない権力の強大さと理不尽さ、そして暴力性を象徴している。このようなレベルの権力に接してきたというのが、アメリカの人々の実感なのだろう。
American Kids
そして、ヴォート・ニュース・ネットワークではキャメロン・コールマンがニュースを伝える。なんと、12名が死亡した今回の事件では、マリー、ジョーダン、エマ、アンドレの4学生が凶行に及んだことにされている。そして、それを止めたとされているのは今回のエピソードタイトルである「ゴドルキンの守護者たち(ガーディアンズ・オブ・ゴドルキン)」で、そのメンバーはケイト・ダンラップとサム・リオーダンと紹介されている。ホームランダーの介入によって全てが反転してしまったのだ。
若いの白人の男女二人がヒーロー扱いされ、「国民の価値観や生き方を守っている」と紹介されているのを観て、ホームランダーは悪い役の時の北野武のような笑みを浮かべている。ホームランダーは裁判中の身であることが想像できるが、本人にとってはこのようなちょっとした“制圧”がガス抜きになっているのだろう。
そして、マリーはジョーダン、エマ、アンドレがいる部屋で目を覚ます。マリーはホームランダーのビームを食らいながら生きていたのだ。アンドレは英語で「他のやつなら死んでた (Anyone else would be in the gournd)」と話しており、高度な治療などではなくマリー自身の力で生き延びたことが示唆されている。
マリーには、防御においても特殊な力があるのだろう。だとすればニューマンもホームランダーには簡単に倒されない相当な強者だということになるが。そしてマリーは、この部屋にはドアがなく、普通の病院ではないことに気づく。「ここはどこ?」と問いかけたところで『ジェン・ブイ』シーズン1は幕を下ろす。
エンディング曲はザ・マフス「Kids in America」(1995)。「古くて汚い窓から外を見てる/街に向かう車が急いで走ってる/私は不思議に思ってそれを一人孤独に見てる」という冒頭部分が歌われたところでミッドクレジットシーンが挿入される。
地下の森に懐中電灯を持って登場したのはブッチャーだ。なんとなんとスピンオフの『ジェン・ブイ』で、ホームランダーとブッチャーが『ザ・ボーイズ』から登場という贅沢な展開に。しかもホームランダーは空から聴衆の前に降り立ち、ブッチャーは一人地下を歩いているという対比がたまらない。
部屋の中を見たブッチャーの言葉は、「見事なクソどもだ (What a buch of cunts)」。ブッチャーなりの褒め言葉であると思われる。おそらく第7話で元CIA副長官のグレイス・マロリーが電話をかけた相手はブッチャーだったのだろう。ウィルス開発の話を聞いてこの場所を訪れたと見られ、ブッチャーはまだまだスープスたちを倒す気でいるように思われる。少なくとも、確実に『ジェン・ブイ』シーズン2と『ザ・ボーイズ』シーズン4への布石が敷かれた。
そしてエンディングは再び「Kids in America」に戻る。「私たちはアメリカのキッズ」と繰り返し歌われるこの曲は、アメリカのバンドであるザ・マフスのカバーバージョンが起用されている。しかし、元の曲はイギリス人のキム・ワイルドが1981年に発表した曲だ。イギリス人が「私たちはアメリカのキッズ」と歌う皮肉も混じった曲だったが、まさにイギリス人のブッチャーの登場によって、アメリカのキッズであるマリーたちとイギリス人であるブッチャーの物語が交差する演出になっている。『ザ・ボーイズ』と『ジェン・ブイ』の本格クロスオーバーが早く訪れることを期待せずにはいられない。
『ジェン・ブイ』最終話第8話ネタバレ考察&感想
「ザ・ボーイズ」フランチャイズに新機軸
最後に『ジェン・ブイ』最終回の感想と今後についての考察を記していこう。ドラマ『ジェン・ブイ』自体は、能力者の立場から教育機関の闇を暴いていく物語で、『ザ・ボーイズ』ではスーパーヒーローたちの腐敗が強調されが、本作では能力者たちを支配しようとする非能力者たちの闇が強調された。
ホームランダーをはじめとする能力者たちが権力を握っていく中で、次世代の能力者たちをコントロールしようとする大人たちという負のスパイラル。マリーらから見れば能力者たちを始末しようとするブッチャーらはインディラと何の違いもないヴィランということになる。スピンオフで若き能力者たちの視点を描くことによって、そうした立場の違いを改めて提示することに成功したと言える。
マリーたちはどうなる?
まず『ジェン・ブイ』はすでにシーズン2に更新されることが発表されている。今回の展開を見るに、マリーたちのその後を描く展開になりそうだ。言うてもマリーはまだ1年生。あと3年は大学生活の時間がある。『ジェン・ブイ』ではマリーたちを中心にした物語を描いていくことになるだろう。
気になる今後については、ラストシーンの考察から始めるべきだろう。4人は窓がない部屋に監禁されているようだったが、注目はエマがフラペチーノのような飲み物を飲んでいることだ。余裕そうな姿を見るに欲しいものは与えられているようで、拷問などを受けているわけではないことが分かる。
天井には唯一の出入り口と見られるハッチのような扉も見える。また、監視カメラも複数あり、ベッドも医療用の高価なものであることから、何らかの組織が手配していることは明らかだ。普通に考えれば4人はヴォートによって保護されているのだろう。特に磁力を操れるアンドレへの対策として、マーベルのマグニートーが金属のない部屋に収監されたような扱いを受けている可能性が高い。
ホームランダーは偏見と勘違いによってマリーを攻撃したが、マリーらが理事を救ったことはアシュリーを始めとする幹部連中は皆知っている。だが、民間人を殺したとして裁判中のホームランダーが英雄であるはずのマリーを攻撃したとなれば、裁判は不利になる。ゆえにホームランダーの行動に合わせてストーリーを作ったものの、ヴォート社としてはマリーらに恩があるため悪いも扱いもできないという状況なのではないだろうか。
恩義の問題だけでなく、マリーにはヴィクトリア・ニューマン議員という力強いバックが存在していることも影響していそうだ。だが、ここに4人をずっと置いていても状況は変わらない。4人は新たな実験に参加させられるか、闇の特殊部隊になるのだろうか。それとも大逆転のシナリオを誰かが考えるか。4人は果たして、キャンパスに戻ることができるのだろうか。
セブンはどうなる?
気になるのはケイトとサムだが、セブンに現在4人もの空きがあることから、二人を気に入ったホームランダーが飛び級でセブン入りさせる展開もありそうだ。サムはヒーローになりたがっていたし、あっさりホームランダーになびくことになりそう。ケイトはまた誰かの下につくことに反発もあるかもしれないが、いざとなればホームランダーすら操れるという余裕が背中を押すことになりそうだ。
『ジェン・ブイ』が上手かったのは、セブンに4つの席が空いている状態で、ケイトとサムの暴走を止める面々が4人になっていた点だ。順当にいけばこの4人がセブンの席に収まると思いきや、全く逆の結末が用意されていたのだ。
ケイトとサムがセブンに入るとして、まだ2つの席が残っているが、その一つはトランスルーセントの息子であるマーベリックに与えられることになるのではないだろうか。一応マリーと戦ったので、事件の当事者として祭り上げることもできる。
『ザ・ボーイズ』シーズン3では、ホームランダーが息子のライアンを引き取り、父としての道を歩み出した。ライアンを将来的な後継者にしたいのであれば、トランスルーセントの席をマーベリックに継がせるという形で、保守的な「白人の父から子へ」という形の前例を作ろうとしても不思議ではない。
だがそうなると、先に触れた負のスパイラル、復讐の連鎖が再び始まる。なぜならトランスルーセントはAトレインに恋人を殺されたヒューイが最初に爆破して殺した能力者だからだ。ザ・ボーイズに父を殺されたマーベリックがセブン入りを果たすなら、父を殺したヒューイに復讐するという逆転の物語が始まることになるだろう。
なお、「人類との共存を求めるミュータントと、ひどい経験を経て人類を支配しようとするミュータントの対立」や「復讐の連鎖」といった展開は他のスーパーヒーローものでやり尽くされているものではある。それでも、「ザ・ボーイズ」フランチャイズでは視聴者に対して、最初に非能力者であるザ・ボーイズに愛着を持たせていることから、能力者たちのあらゆる典型的なストーリーも、反転した物語のように感じることができる。これはもはや“勝ちパターン”に入ったと言っても過言ではないだろう。
どうするブッチャー
最後に、ラストで登場したビリー・ブッチャーの行動にも注目したい。ブッチャーはグレイスとインディラの会話を聞いて森に潜入したのだとすれば、その狙いはウィルスなのかもしれない。ウィルス自体は第7話でニューマンが持ち去ったが、第8話ではケイトは森に感染者たちを残していった。ブッチャーが森内の感染者からウィルスを回収すれば、ブッチャーらはウィルスを手に入れることができる。
スープスを無差別に倒せるウィルスをブッチャーが手に入れれば、スープスからすればブッチャーはヴィランそのもの。ウィルスが広まった場合、罪のないライアンのような子どもやスターライト、そしてキミコのような仲間の能力者まで危険に晒してしまうことになるだろう。
『ザ・ボーイズ』シーズン4であり得る展開は、ゴドルキン大学内での接吻や性交渉によって能力者の間でウィルスが広まってしまい、ブッチャーらがその状況を利用するか、ワクチンの完成に協力するかで葛藤するというものだろう。その状況は、新型コロナウィルスによるパンデミックやエイズの流行といった実社会の出来事と重ね合わせることもできる。
気になるのは、ブッチャーが「見事なクソどもだ」と言った対象について。森にあるのは人間の死体と能力者の感染者だけだと考えられ、前者を見てそう言ったのだとすればケイトらへの賞賛であり、後者だとすればウィルスを開発したインディラへの賞賛ということになる。ブッチャーが今回の事件をどう見ているかも気になるところだ。
スープス同士の衝突が起きた今回の事件。もしかしたら、スターライトと同じように善意のスープスであるマリーらをザ・ボーイズに入れるという展開もあり得る。スターライトがザ・ボーイズに加わった今、セブンとザ・ボーイズは人材を取り合う競合同士になっていくのかもしれない。
そもそも『ジェン・ブイ』では、ゴールデン・ボーイことルークの死やサムの実験など、まだ明かされていないことは多い。『ザ・ボーイズ』シーズン4につながりつつ、『ジェン・ブイ』シーズン2へと繋がっていく見事なフィナーレを見せたシーズン1最終話。皆さんはどのように観ただろうか。
今はとにかく、ストライキ中の米俳優組合の要望に対し、スタジオ側が公正な内容で合意することを願ってやまない。また、現在イスラエルがガザ地区で行っている虐殺についても強く抗議する。『ザ・ボーイズ』では紛争地に派遣されるスーパーヒーローの姿も描かれ、直接的に戦争についても描かれている。少なくとも「ザ・ボーイズ」フランチャイズは、コンテンツをエンタメとして消費するだけでなく、現実の問題と向き合うように促してくれる作品だ。現実と向き合うことなく「ザ・ボーイズ」を楽しむことはできないはず。『ジェン・ブイ』シーズン2または『ザ・ボーイズ』シーズン4が配信されるまでに、私たちが現実で抱える問題を一つでも減らしていこう。
『ジェン・ブイ』はAmazonプライムで世界独占配信中。
『ザ・ボーイズ』原作コミックの日本語版は、G-NOVELSから発売中。
『ジェン・ブイ』のベースになったチャプター〈We Gotta Go Now〉(23話〜30話)は日本語版の第2巻に収録されている。
第7話「病」のネタバレ解説&考察はこちらから。
第1話「ゴルドキン大学」のネタバレ解説&考察の記事はこちらから。
第2話「初日」のネタバレ解説&考察の記事はこちらから。
第3話「#ブリンク追悼」のネタバレ解説&考察の記事はこちらから。
第4話「真実の全貌」のネタバレ解説&考察の記事はこちらから。
第5話「モンスタークラブへようこそ」のネタバレ解説&考察の記事はこちらから。
第6話「ジュマンジ」のネタバレ解説&考察はこちらから。
『ジェン・ブイ』シーズン2についてはこちらから。
「ザ・ボーイズ」フランチャイズの更なるスピンオフ展開についてはこちらの記事で。
『ジェン・ブイ』のキャストに『ザ・ボーイズ』のキャストが送ったアドバイスについての記事はこちらから。
『ザ・ボーイズ』シーズン3最終話のネタバレ解説はこちらから。
シーズン3までの経緯とYouTube配信のスピンオフ番組の内容、アニメ版の注目エピソードはこちらの記事で。
『ザ・ボーイズ』シーズン4についての情報はこちらから。