『ゴジラxコング 新たなる帝国』で描かれる共同戦線とは?
「ゴジラ」シリーズ70周年、モンスター・ヴァース10周年を記念したアダム・ウィンガード監督作『ゴジラxコング 新たなる帝国』が2024年4月26日(金)に全国公開された。『ゴジラvsコング』(2021)の続編である『ゴジラxコング 新たなる帝国』では、本格的にゴジラとコング、2体の怪獣王の共同戦線が描かれることになる。
本記事では『ゴジラxコング 新たなる帝国』で描かれるゴジラとコングの共同戦線と2体の前に立ちはだかる敵怪獣について、解説と考察、感想を述べていこう。なお、本記事は『ゴジラxコング 新たなる帝国』のネタバレを含むため、本編視聴後に読んでいただけると幸いである。
以下の内容は、映画『ゴジラxコング 新たなる帝国』の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
怪獣と共存する世界の『ゴジラxコング 新たなる帝国』
2027年の地球
2027年の地球。その地下空洞で、コングはワートドッグという凶暴な生物に追われていた。高い知力を活かしてワートドッグをコングは罠に嵌め、その1体を高い腕力で八つ裂きにして追い払う。ワートドッグを駆除して地下空洞の平穏を保ったコングだったが、その心は孤独に苛まれている。
その頃、イタリアのローマではタカアシガニのような体躯に頭足類に似た頭と触手を持つ怪獣スキュラが暴れまわっていた。本来はアリゾナ州セドナの油田地帯に棲息しているはずのスキュラの出現に、地上の怪獣の王であるゴジラが目覚める。激闘の末、スキュラを倒したゴジラはコロッセオを新たな棲み処にするのだった。
地下空洞の怪獣の王コングと地上の怪獣の王ゴジラの存在により、自然の調和が保たれているとモナークの人類言語学者アイリーン・アンドリュース博士は解説している。アンドリュース博士はコングとゴジラは人類の守護者だと熱弁するが、世界各国は地下空洞の資源に興味津々だった。ゴジラとコングが自然の調和を保ち、モナークと世界各国が地下空洞について駆け引きをする。それが2027年の地球の現状だった。
謎の電波信号
その頃、地下空洞のモナーク第1前哨基地ことコング観察班は、謎の電波信号をキャッチする。その電波信号をキャッチしているのはモナークだけではなかった。アンドリュース博士の義理の娘であり、髑髏島のイーウィス族最後の生き残りであるジアもそれをキャッチしていた。イーウィス族には怪獣と繋がれるテレパシーがあるとされ、ジアは謎の電波信号に悩まされる。コングを心配するジアも孤独を感じていた。
ジアが感じ取った謎の電波信号をモナークの解析班は取り合わない。業を煮やしたアンドリュース博士は「大怪獣の真実」という配信をしている陰謀論者のバーニーに依頼する。バーニーは『ゴジラvsコング』でメカゴジラの存在にいち早く気付いた人物だ。
しかし、メカゴジラ発見とエイペックス・サイバネティクスの秘密研究の告発という功績はモナークによってもみ消されてしまったとバーニーは解説する。それでもガルガンチュア保険という怪獣専門の保険会社がスポンサーに付くなど、バーニーはそれなりに配信界隈で成功しているようだ。
アンドリュース博士はモナークの地上の前哨基地にバーニーを案内するが、そこには犬歯が虫歯に蝕まれたコングが倒れていた。コングの虫歯の治療のためにアンドリュース博士と旧知の仲の未知動物学者のトラッパーが呼び出される。トラッパーはコングに抜歯を行ない、車のエンジンにも使われている素材で造られた義歯を装着した。
壊滅したコング観察班と備えるゴジラ
バーニーは謎の電波信号によってゴジラが目覚めたことと、この信号が『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(2019)でのモンスターゼロことギドラ復活の際にも観測されたことから、怪獣に向けたSOSだと考察する。地下空洞でのSOS信号の発信の主を探るため、麻酔から目覚めたコングの誘導で地下空洞に向かう。
『ゴジラvsコング』や『モナーク: レガシー・オブ・モンスターズ』(2023-)で解説されたが、地下空洞に向かうには怪獣の誘導が必要不可欠である。放電する翼竜ヴァータシーンの群れに紛れてアンドリュース博士、トラッパー、ジア、バーニー、そして探査艇ヒーヴのパイロットのミケルたちは地下空洞の世界を冒険していく。そこで地下空洞のモナーク第1前哨基地ことコング観察班が壊滅しているのを発見する。
アンドリュース博士が地下空洞を冒険していた頃、地上ではゴジラがフランスのモンタニャックに上陸していた。モンタニャックの原子力発電所を襲撃したゴジラは、そこで核物質を貪る。そしてジェネラル・アトミックス・エアロノーティカル・システムズ社製のものらしき無人攻撃機(UCAV)を撃墜させ、青白く輝く背びれから体内放射を放つのだった。その様子を見て、モナークはゴジラが何かに備えていると考察する。
更にゴジラはスペインのカディスを経由して北極海に向い、そこに棲息するティアマットを倒しに行く。伝承のティアマットはメソポタミア神話における原初の海の女神である。神話で「大洪水を起こす竜」とも形容されるティアマットのデザインは『海底軍艦』(1963)のマンダを想起させる。モンスター・ヴァースのティマットが棲息する北極海は太陽風を受ける場所とされており、ゴジラはそのエネルギーを狙っていると解説されている。
地下空洞の悪の独裁者
スーコとの出会い
地下空洞に戻ったコングは異常を感知し、陥没穴の中に降りていく。そこには無数の結晶体が広がっており、それに反応してゴジラ族の背びれで造られた斧が光る。そこにはコング族の頭蓋骨が落ちており、コングは孤独に打ちひしがれる。そのとき、コングはミニコングのスーコに出会い、そして同種のグレイト・エイプに襲われる。コングはその怪獣たちを退けるが、その感情は攻撃された怒りと同種を見つけた喜びが混ざっていたと考察できる。
スーコはコングを警戒しながら、地下空洞の未知開拓エリアを案内する。そこでコングを湖に誘導するスーコだったが、コングはそこで水蛇型の生物ドラウンヴァイパーに襲撃される。大蛇に襲うか、襲われるかでコングとゴジラが対比になっていると考察できる。
ドラウンヴァイパーを倒したコングはスーコを許し、ドラウンヴァイパーの肉を分け与える。共に食事を取ることでスーコはコングに心を許していく。これは人間と同じ共同飲食によるコミュニケーションであり、コングの社会性の高さを表現している描写だと考察できる。
地下空洞に広がる文明
一方、アンドリュース博士たちはジアの伝えた謎の電波信号の発信地である崖へと向かっていた。ミケルが捕食されるなど事故は起きたが、ようやく崖に辿り着くことのできたアンドリュース博士たち。そこにはイーウィス族よりも古い人類による遺跡が残されていた。遺跡は古いが苔などが生えていないことから今も使用されていることが考察でき、壁画として怪獣の女王であり、ゴジラの古き友であるモスラが描かれている。
ジアが何かに導かれるように遺跡を造る石を押すと、その瞬間に水路に水が流れ始め、生体物質で創られた壁が姿を現す。それに触れると電気信号で壁は輝く。そして、その壁を開くと、結晶体のピラミッドなど巨大な文明が広がっていた。地上への抜け道も存在しており、怪獣たちと共存している痕跡が見られるその文明を生んだのは、全滅したはずのイーウィス族だった。
地下空洞のイーウィス族の女王とジアはテレパシーで通じ合う。そして、地下空洞のイーウィス族が結晶体のピラミッドを利用して、とある伝承をもとに地上の怪獣へSOS信号を発信していたことをアンドリュース博士たちは知るのだった。
イーウィス族の伝承、スカーキング
ここで、石室に残されたイーウィス族の伝承が解説される。イーウィス族の伝承では、古代の地球では人類と怪獣は共存していた。そこではコング族は人類の守護者であり、自然の調和は保たれていた。しかし、地上侵略を画策する怪獣が現れる。それがスカーキングであり、スカーキングは他のグレイト・エイプを従えて地上に侵攻した。
スカーキングは氷河期を引き起こした古代怪獣シーモを痛みで支配しており、最初はスカーキングが優勢だった。それを覆したのが地上の怪獣の王であるゴジラであり、ゴジラによってスカーキングは地下空洞の火山地帯である火の国に幽閉された。それでもスカーキングは未だに地上侵略を狙っているのである。
スーコに案内されて火の国に辿り着いたコングは、グレイト・エイプたちが奴隷のように働かされているのを目撃する。弱ったグレイト・エイプを虐げるスカーキングの手下を殴り飛ばすコングだったが、それによってスカーキングに目を付けられる。スカーキングはコングの義歯を笑う。これは捕食者にとって武器である犬歯が欠けたことを嘲笑っただけではなく、このようなことができるのは人間だけであり、コングが人間に従属していると笑ったのだと考察できる。
コングを連れてきたスーコをスカーキングは攻撃するが、それを1体のグレイト・エイプが庇う。そのグレイト・エイプは溶岩に落とされて殺されてしまう。当然、コングとスカーキングは戦闘になり、コングはスカーキングの振るう背骨で出来た鞭に苦しめられる。その鞭の先には青い結晶体が付いており、それをつかって古代怪獣シーモを操り、コングに冷凍光線を浴びせる。コングは斧でそれを受け止めるが、それでも冷凍光線は防ぎ切れず、コングは右手に神経に達するまで深い凍傷を負い、斧まで失うのだった。
ゴジラとコングの共同戦線
イーウィス族の伝承には続きがあった。それはスカーキングが再び地上侵略を行なうときに、髑髏島のイーウィス族によって怪獣の女王モスラが復活するというものだった。髑髏島のイーウィス族で生き残っているのはジアだけである。それに加えて同じイーウィス族と親しげに過ごすジアを見て、育ての親であるアンドリュース博士はジアが地下空洞に残るのではないかと心配していた。
そこに負傷したコングがスーコに連れられてイーウィス族のピラミッドへ訪れる。その右腕の凍傷はあまりにも深く、これではゴジラと協力してもスカーキングと古代怪獣シーモを倒すことが出来ない。そこでトラッパーが提案したのがパワーハウス計画の再起動だった。パワーハウス計画とは『ゴジラvsコング』でのメカゴジラの攻撃を受けて、人類の守護者であるコングを強化しようというものであった。
しかし、コントロールできないコングを強化するのは危険という判断から凍結されたパワーハウス計画だったが、スカーキングを倒すために試作品をコングに装備させる決断をする。コングは生体強化された解剖メカ型激震性サンダー・グローブを右腕に装着する。そしてコングはスカーキングを倒すため、ゴジラの縄張りを侵してまで、ゴジラとの共同戦線を依頼しに地上へと向かう。
コングはギザのピラミッドの傍から地上へと現われる。そこで背広がピンク色になり、ティアマットの巣で太陽風のエネルギーとティアマットのDNAを取り込んで通常時より20倍へとパワーアップを果たしたゴジラは縄張りを侵されたとコングを攻撃する。ギザのピラミッドを破壊しながらもコングは説得を試みるが、ゴジラには通じない。
地球最大の決戦
そのとき、ジアによって結晶体のピラミッドから復活したモスラが黄金の光と共に現われると、ジアと共にゴジラを説得した。この演出は『三大怪獣 地球最大の決戦』(1964)がモデルだと考察でき、アダム・ウィンガード監督が語っていた「筋金入りのファンのためのイースター・エッグ」だとも考察できる。
その頃、地下空洞にはスカーキングが古代怪獣シーモに跨り、配下のグレイト・エイプを引き連れてイーウィス族を襲撃しようとしていた。イーウィス族が重力を反転させて時間を稼ごうとするが失敗する。その代わりにトラッパーが放電翼竜ヴァータシーンの放電で攪乱作戦をする。
そして、ゴジラとコングが地下空洞に到着。ゴジラとコング、スカーキングと古代怪獣シーモが激突しようとした瞬間に重力が反転し、怪獣たちは空中戦を繰り広げる。そこにミニコングやモスラも参加し、戦いは乱戦を極める。そのままゴジラとコング、スカーキングと古代怪獣シーモはブラジルのリオデジャネイロへと続く穴へと落ちていき、コングの斧は穴の壁に突き刺さったままとなった。
リオデジャネイロの街を破壊するスカーキングと、地上を氷河期に変えようとする古代怪獣シーモだったが、ゴジラとコングも2体を追って現れる。コングはスカーキングの顔を殴り飛ばし、それによってスカーキングの歯が抜ける。それを見てコングは義歯を笑ったことへの意趣返しだと言わんばかりに笑みを浮かべるのだった。
ゴジラとコングの連携攻撃によって、スカーキングの武器である背骨で出来た鞭が吹き飛ばされ、ゴジラの熱線によって砕け散る。スカーキングは古代怪獣シーモを操る青い結晶体だけでも取ろうとするが、コングがそれを食い止める。
そしてコングの斧を持って現れたスーコが青い結晶体を叩き割った。それによって自由になった古代怪獣シーモがゴジラの命令でスカーキングを凍らせ、コングが砕いた。そしてゴジラが放射熱線を空に放つことで気候を戻したことで、古代のイーウィス族の伝承から続くスカーキングの地上侵略の野望は打ち砕かれたのだった。
すべての戦いを終え、ゴジラはローマのコロッセオを新たな棲み処とする。コングはスーコと古代怪獣シーモを連れて、迷えるグレイト・エイプたちの王になる。これによってコングは文字通りキングコングとなり、スカーキング亡き後のグレイト・エイプをまとめ上げて新たな帝国を築くのだった。ジアはアンドリュース博士と共に暮らす道を選び、生体物質の壁はモスラの糸によって修復される。アンドリュース博士たちは地下空洞を去り、物語は幕を閉じた。
『ゴジラxコング 新たなる帝国』は綺麗なエンディングを迎え、ミドルクレジットやポストクレジットなども無かった。そのため、『ゴジラxコング 新たなる帝国』は単体でも完結している作品だが、アダム・ウィンガード監督は3部作を構想している。また、『ゴジラxコング 新たなる帝国』は世界興行収入も好調なため、続編制作にも期待できる。今後の『ゴジラxコング 新たなる帝国』に注目だ。
『ゴジラxコング 新たなる帝国』は2024年4月26日(金)より全国公開。
『ゴジラxコング 新たなる帝国』のサウンドトラックは発売中。
『ゴジラvsコング』の完全数量限定生産4枚組Blu-rayも発売中。
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