映画『DUNE/デューン 砂の惑星』公開
『メッセージ』(2016) 『ブレードランナー 2049』(2017) で知られるドゥニ・ヴィルヌーヴ監督による最新作、映画『DUNE/デューン 砂の惑星』が2021年10月15日(金)より日本で公開された。10月22日(金)の全米公開を前にリリースされた日本では、賛否様々な声があがっている。
特に話題の中心になっているのは、本作が「パート1」として制作され、続編ありきの内容となっていたことだ。フランク・ハーバートの原作小説は長大なボリュームで構成されており、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督はかねてより小説『デューン 砂の惑星』を複数作にまたがって制作したいという意向を示していた。
それにしても……という声も聞こえてくるほど、映画第一弾は原作小説の“途中”でストーリーが終わってしまった。第二弾への期待も高まるが、気になるのは、155分(2時間35分)の上映時間を使って、なぜ“あそこ”で終わったのかということだ。これについて、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は米Entertainment Weeklyのインタビューで説明している。
以下の内容は、映画『DUNE/デューン 砂の惑星』(2021) の内容に関するネタバレを含みます。
映画『DUNE/デューン』はどこで終わった?
まず、映画『DUNE/デューン 砂の惑星』では、どこまでのストーリーが描かれたのだろうか。
本作の後半部分では、砂の惑星アラキスに入植したアトレイデス家を、以前の統治者であるハルコンネン家が襲撃する。帝国と連携したアトレイデス家は、夜間の奇襲によって、オスカー・アイザック演じるレト・アトレイデス公爵を手中におさめる。
レトは、チャン・チェン演じるドクター・ユエに託された毒薬で最後の抵抗を行うが、ステラン・スカルスガルド演じるウラディミール・ハルコンネン男爵は仕留めることができなかった。
レトの息子で、ティモシー・シャラメ演じる主人公のポールは、レベッカ・ファーガソン演じる母レディ・ジェシカと共に“声”を使って生き延びる。また、ジェイソン・モモア演じるダンカン・アイダホは身をていして二人を守り、シャロン・ダンカン=ブルースター演じるリエト・カインズ博士の助言を受けて、この惑星の先住民であるフレメンの居住区を目指す。
道中でサンドワームに襲われそうになったポールとジェシカだったが、ハビエル・バルデム演じるリーダーのスティルガーが率いるフレメンの人々に助けられる。ポールは、二人をフレメンの仲間に入れることを拒んだバブス・オルサンモクン演じるジャミスとの一騎討ちを迫られる。夢で見たゼンデイヤ演じるチャニから受け取ったナイフで戦ったポールはこの決闘を制し、フレメンの民と、アトレイデスの生き残りとなったポールとジェシカは砂漠を歩くのだった。
アトレイデス家の人間が次々と沈み、主人公のポールと母のジェシカが窮地に追い込まれ、ようやく“受け入れ先”が見つかったところで幕を閉じる映画『DUNE/デューン 砂の惑星』。早川書房から刊行されている原作小説『デューン 砂の惑星〔新訳版〕』(酒井昭伸 訳) で言うところの真ん中(上・中・下巻の中の真ん中)あたりまでが描かれている。つまり、ちょうど原作小説の前半部分ということである。
監督が途中で終わらせた意図
ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が物語をここで“止めた”意図は、どのようなものだったのだろうか。同監督はEntertainment Weeklyにこう話している。
(『デューン 』の)小説は非常に密度が濃いんです。細部にこそ強さが宿っている物語です。ですから、私が(製作会社の)レジェンダリーに最初に言ったことの内の一つは、1本の映画を作るのではなく、2本の映画を作るべきだということでした。問題は「どこで前半を終わらせるか」ということです。これを決めるのには時間がかかりましたね。観客の皆さんがポール・アトレイデスの一つの旅、一つの章を見たと感じられるように、同時にこの後に何かが待っていると感じられるようにエンディングを決めていきました。
リブート版「デューン」フランチャイズの第一弾である映画『DUNE/デューン 砂の惑星』は、前後編で作ることを前提として、「どこで終わるか」ということを吟味した上で制作されたのだという。小説としては一作品の物語を二つに分けるのだから、簡単な判断ではなかったはずだ。
ポールが夢で見ていたチャニとようやく出会い、決闘を経てポールとジェシカがフレメンに受け入れられることで、一つの“旅”が終わる。そして、アトレイデス家とフレメンが合流したことで、新たな戦いを予感させて「パート2」へと繋いでいく、というのがドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が選んだ「終わり方」だった。
確かに“決戦”のようなクライマックスが待っていたわけではなかったが、原作の物語を崩さずに「終わり」と「始まり」を提示する区切り方としては、考え抜かれた判断だったと言える。
しかも、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は「細部にこそ強さが宿っている物語」として、原作小説から“不要”な部分を削ぎ落としつつも、出来る限りの尺を使って「デューン」の世界を描くことを選んだ。その結果が、155分をかけて前半部分を描くという判断につながったのだ。
続編はいつ?
では、『DUNE/デューン 砂の惑星』の続編はいつ公開されることになるのだろうか。実は続編の製作はまだ正式には決定していない。続編製作は興行収入次第とされている一方で、米国ではコロナ禍における対策として、劇場公開と同時にHOB Maxでの配信が始まる。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督はこの方針によって興行収入が低下し、続編製作が打ち切りになる可能性を懸念しており、10月22日(金)に控えた全米公開の結果に注目が集まる。
製作が決定していない作品の制作を進めるのは勇気がいることだ。2021年4月の時点で、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督と共同で脚本を手掛けたエリック・ロスが続編の脚本執筆のドラフトは完成していると明かしている。さらに、同年8月には続編脚本の執筆を進めていると、同監督は語っている。裏を返せば、脚本はまだ完成していないということである。
前述のEWのインタビューでは、チャニを演じたゼンデイヤは「わがままを言えば、友人たちと楽しい時間を過ごすために(続編を)やりたい」と、第1作目の制作スタッフ及びキャスト陣と再び撮影に臨むことを熱望している。俳優との契約やスケジュール調整も行っていない可能性を踏まえると、続編製作には少し時間がかかるはずだ。
第1弾では、多くのキャラが死んでしまったため、続編では主要キャラを除いて新キャストを揃えることはできるだろう。1984年のデヴィッド・リンチ監督版でスティングが演じた人気キャラクターのフェイドのキャストが発表されていない理由は、続編の製作が正式に決定していないからだと考えられる。
キャストの問題がクリアできても、これだけのSF超大作を製作するには相当な時間が必要となる。パンデミックによるロックダウンを経て完成させた『DUNE/デューン 砂の惑星』は、2019年3月に撮影を開始し、2020年8月に追加撮影を行い、撮影作業を終了させた。撮影自体は1年ほどで完了するようだが、順調に続編が公開されることになっても、早くて2023年以降の公開となるだろう。
ドラマ版にも注目
一方で、「DUNE/デューン」はドゥニ・ヴィルヌーヴ監督だけのものではない。ワーナー・ブラザースは、パンデミック前に「DUNE/デューン」のアニメシリーズやドラマシリーズを含む“フランチャイズ化”を発表していた。
2021年7月には、ドラマ『デューン:シスターフッド(原題)』の脚本・製作総指揮・ショーランナーにダイアン・アデム=ジョンが就任することが発表されている。こちらの作品では、ポールの母レディ・ジェシカの出身の修道会ベネ・ゲセリットに焦点が当てられる。
詳細はこちらの記事で。
「DUNE/デューン」はどこまで続く?
では、『DUNE/デューン 砂の惑星』で始まった「DUNE/デューン」シリーズのリブートは、続編の「パート2」で終わるのだろうか。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は既に映画シリーズ第3弾の制作まで構想している。
前述のドラマ版は「デューン」の原作者フランク・ハーバートの息子であるブライアン・ハーバートとケヴィン・J・アンダースンの共著をベースにした作品と考えられている。一方、フランク・ハーバート自身が手がけた「デューン」の小説も計6作品あり、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は映画第3作目で小説第2作目の『デューン/砂漠の救世主』(1969) を映画化することを希望している。
映画第3作目の構想についての詳細はこちらの記事で。
フランク・ハーバート自身による小説は、第3作目『デューン/砂丘の子供たち』(1976)、第4作目の『デューン/砂漠の神皇帝』(1981)、第5作目の『デューン/砂漠の異端者』(1984)、第6作目の『デューン/砂丘の大聖堂』(1985) まで出版されており、数千年にわたる物語が描かれる。
先述の『Sisterhood of Dune』(2012) を始め、ブライアン・ハーバートとケヴィン・J・アンダースンによる「デューン」シリーズは既に前日譚12作品と続編2作品が刊行されており、既に13作目の前日譚の発売が決まっている。つまり、映画「DUNE/デューン」の続編は、作ろうと思えばどこまでも作ることができるのだ。
こうなればもはやドゥニ・ヴィルヌーヴ監督だけの話ではなくなるが、同監督の第1作目とその続編が「デューン」フランチャイズの成否の鍵を握ることは確かだ。「デューン」はここから、「スター・ウォーズ」やMCUのようなフランチャイズを築くことができるのだろうか。
追記:米時間の2021年10月26日、『DUNE/デューン 砂の惑星』の続編製作が正式に発表された。詳細はこちらから。
映画『DUNE/デューン 砂の惑星』は2021年10月15日(金)より劇場公開。
Source
CBC’s Radio Canada
フランク・ハーバートによる小説第1作目『デューン 砂の惑星』は、酒井昭伸による新訳版が上中下巻でハヤカワSF文庫から発売中。
ハンス・ジマーが手がける『DUNE/デューン 砂の惑星』のサントラ情報はこちらから。
ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が語った「SF映画を作る理由」はこちらの記事で。