SF作品を撮り始めたドゥニ・ヴィルヌーヴ監督
近年、『メッセージ』(2016)『ブレードランナー 2049』(2017)『デューン』(2020)と立て続けに大作SF映画の指揮をとっている映画監督の存在をご存知だろうか。カナダ出身のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督だ。かつてはモントリオール理工科大学での銃乱射事件を題材にした『静かなる叫び』(2009)、ワジディ・ムアワッドの戯曲を実写化した『灼熱の魂』(2010)といった作品でジニー賞 (カナダの映画賞) を受賞するなど、SFとは異なる畑の映画監督として知られていた。
ハリウッド進出後も『プリズナーズ』(2013)や『ボーダーライン』(2015)といった非SF作品を監督している。ところが、2016年にSF小説家テッド・チャンの短編小説「あなたの人生の物語」(1998)を実写化した『メッセージ』、2017年にはフィリップ・K・ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』(1968)を原作にした映画作品の続編『ブレードランナー 2049』と、立て続けに大作SF映画の監督を務める。
そして米国で2020年12月の公開を予定している『デューン』では、フランク・ハーバートが1965年に発表した原作小説を36年ぶりに劇場映画化する壮大なチャレンジに挑む。
カナダから登場し、ドラマ映画を作り続けてきたドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は、今、なぜハリウッドで大作SF映画を撮っているのだろうか。
SFの世界に「帰ってきた」
2020年7月25日から8月2日にかけて開催された第23回上海国際映画祭で公開されたインタビューの中で、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督がその理由を語っている。
どうしてSFの世界に来たのってよく聞かれるのですが、私はこう言うんです。「(SFの世界に) 行ったのではなくて、帰ってきたんです」って。サイエンス・フィクションが大好きなんです。小さい頃からSFを撮るのが夢でした。
良質なSFを創り出すためには、多くの要素をマスターする必要があります。私にとってはタフなジャンルの一つです。SFを作れるようになるためには、他のジャンルで自分の武器を使いこなせるようになる必要がありました。夢により深く入り込むために、現実に近づいていくということです。
それに、より大きなバジェットを得ることができるようになったので、SF映画を撮ることができるようになりました。より大きなクルーと、より複雑なVFXをこなせるチームと仕事ができるだけの経験も積みました。もしこれが初めての映画だったら、『デューン』のような作品を作ることができなかったでしょう。(『デューン』が初めての映画だったら) 今頃死んでますよ。
SFに「行った」のではなく「帰ってきただけ」と、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は語る。しかし、上質なSF映画を撮るために20年も映画監督としてキャリアを積んだ覚悟は並大抵のものではない。そしてその積み重ねがあってこそ、十分なバジェットが付いた大作SF映画の撮影に臨むことができたのだ。
テッド・チャン、フィリップ・K・ディック、そしてフランク・ハーバートといったSF小説家の原作を次々手がけるドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は、“ホーム”であるSF映画界で順調に新たなキャリアを積み重ねている。
ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が手がけるリブート版『デューン』は、米国で2020年12月18日公開予定。