『ロキ』と『デッドプール&ウルヴァリン』の繋がりをネタバレ解説
映画『デッドプール&ウルヴァリン』が2024年7月24日(水) より日本で公開された。ライアン・レイノルズ演じるデッドプールと、ヒュー・ジャックマン演じるウルヴァリンがMCUに合流する作品とあって大きな注目を集めている。
一方、熱心にMCU作品を追っているファンにとって気になるのは、『デッドプール&ウルヴァリン』とドラマ『ロキ』(2021-) の繋がりについてだ。『デッドプール&ウルヴァリン』には、最初の予告編から『ロキ』に登場するTVA(時間変異取締局)が登場しており、デッドプールとウルヴァリンのMCU合流に『ロキ』での出来事が絡んでいることは確実視されていた。
『デッドプール&ウルヴァリン』の劇場公開を迎えた今、本作と『ロキ』はどのように繋がっていたのかをネタバレありで解説していこう。『デッドプール&ウルヴァリン』を見てイマイチ理解できなかったという方も、この機会にドラマ『ロキ』をより深く理解していただく機会になれば幸いである。
なお、以下の内容は、『デッドプール&ウルヴァリン』の結末までのネタバレを含むため、必ず劇場で本編を鑑賞してから読んでいただきたい。ドラマ『ロキ』についてはシーズン2の結末までのネタバレを含むのでご注意を。
以下の内容は、映画『デッドプール&ウルヴァリン』およびドラマ『ロキ』の内容に関するネタバレを含みます。
『デッドプール&ウルヴァリン』に登場したTVAとは
『デッドプール&ウルヴァリン』では、ドラマ『ロキ』シーズン1と同じように、TVAの職員が本作の主人公をTVAに連行したことが物語の発端となっている。サプライズで誕生日パーティーを開いてもらっていたウェイド・ウィルソンのもとにTVAのミニットマンと呼ばれる実働部隊が送り込まれ、ウェイドはTVAに連行される。
TVAのオフィスがある空間は多くの人が暮らしている時間軸とは異なる時間の流れ方をしており、MCUの世界におけるすべての出来事を監視している。過去にも未来にも介入できるのがTVAなのだ。
デッドプールをTVAに連れてきたミスター・パラドックスは、デッドプールが暮らすアース10005が消滅することを予告し、デッドプールにMCUのメインユニバースであるアース616へ行って崇高な使命を果たすよう告げる。仲間達がいるアース10005を守りたいデッドプールはこのオファーを蹴り、そのユニバースの重要人物で、いなくなるとアースの崩壊を招く“アンカー”であるウルヴァリンをアース10005へ連れてくることを決意している。
一方のミスター・パラドックスは、時間軸に介入しない現行のTVAのやり方に不満を持っている様子。上司に内緒でタイムリッパーと呼ばれる装置をアース10005の地下鉄内に開発しており、その装置を使っていずれ消滅する時間軸を消し去ろうとしていた。
と、ここまで書くとドラマ『ロキ』を見ていない人は何が何だかさっぱりで、『ロキ』を観た人もピンとこない部分もあったかもしれない。では次に、ドラマ『ロキ』で何が描かれたのかを確認しておこう。
『ロキ』で何が起きたのか
まず、TVAという組織はドラマ『ロキ』シーズン1とシーズン2で大きく変わっている。かつてTVAは、征服者カーンの変異体(特異な行動をとって分岐した違うユニバースの自分)である“在り続ける者”が支配しており、“神聖時間軸”と呼ばれるユニバース(アース616)以外の時間軸の分岐を剪定(=破壊)する役割を担っていた。そのせいで、MCUには一つのユニバースしか存在していなかったのだ。
在り続ける者が神聖時間軸以外の時間軸を剪定していた理由は、自分の変異体であるカーン達が起こすマルチバース間の戦争を防ぐためだった。しかし、ロキの変異体で、幼い頃に剪定されそうになったシルヴィが復讐を果たす形で在り続ける者を殺害し、時間軸の分岐は抑えることができなくなった。これによってアース616以外の時間軸が存在できるようになり、MCUのマルチバース展開が始まることになる。
一方で、『ロキ』シーズン2では、時間軸の分岐が安定せず、『デッドプール&ウルヴァリン』のアース10005のように、スパゲッティ化して消滅する時間軸も現れ始めた。また、分岐が増えすぎたことで、“TVAの心臓”とされ、時間軸を安定させていた“時間織り機”への負荷が臨界点に達しようとしており、TVAが崩壊の危機を迎えた。
『デッドプール&ウルヴァリン』のクライマックスでは、カサンドラがタイムリッパーのエネルギーを使ってすべての時間軸を破壊しようとした際に、世界が徐々にスパゲティ化していっている。これは『ロキ』シーズン2で時間軸が消滅するときと同じ演出になっている。
また、『デッドプール&ウルヴァリン』のラストでパラドックスを逮捕しに現れたのはB-15だ。『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019) で逃げ出して時間軸を分岐させ、変異体となったロキを捕まえに赴いた人物である。B-15は、ドラマ『ロキ』での出来事によって実働部隊からTVAオフィスのリーダー格の存在に昇格している。
ミスター・パラドックスの不満の種
『ロキ』シーズン2のラストでは、ロキが自分自身を犠牲にして全ての時間軸を束ねる役を買って出た。時間軸の束が安定するように人柱となり、あらゆる物語を司る「物語の神(God of Stories)」となったのだ。以降、公式の名称は「ゴッド・ロキ」となっている。シーズンフィナーレでは、ロキを中心に置く新たなTVAが誕生し、これまでの剪定という仕事から、在り続ける者(カーン)の変異体を追うという仕事にシフトしたことが示唆されている。
映画『デッドプール&ウルヴァリン』では、ミスター・パラドックスがかつてTVAでは時間軸を剪定していたがそれをやらなくなり、消滅するのを見守るだけになったと不満を漏らしていた。パラドックスはその“見守るだけ”のTVAでの仕事に満足できず、タイムリッパーを極秘に開発して時間軸の剪定を自ら行おうとしていたのである。
つまり、MCUがマルチバース化したのは『ロキ』の物語が原因で、今回の『デッドプール&ウルヴァリン』の事件が幕を開いたのも『ロキ』の物語が原因ということになる。フェーズ4以降のマルチバース・サーガでは、いつもロキが中心にいる印象だ。
虚無とは?
『デッドプール&ウルヴァリン』では、ミスター・パラドックスに剪定されたデッドプールとウルヴァリンが“虚無”と呼ばれる空間へ飛ばされる。デッドプール自身も発言している通り、虚無は『ロキ』シーズン1第5話から舞台になった場所だ。TVAに剪定された人々は消えると思われていたが、“時の終わり”とされている虚無へと投棄されていたのである。
虚無には在り続ける者が操り、マルチバース間の戦争を終わらせたアライオスという怪物がおり、剪定された人々はアライオスの餌になっていた。『デッドプール&ウルヴァリン』ではカサンドラ・ノヴァが小さい頃に剪定されて虚無に来たが、ここが気に入ってアライオスに餌をやりながら住み着いていることが明かされている。
『ロキ』シーズン1では虚無に城を構えていた在り続ける者が殺されたため、アライオスは主人がいない状態になっている。それもあって、カサンドラが餌付けして共存しているという状態が成立しているのかもしれない。
『ロキ』の虚無には、キッドロキやワニロキ、クラシックロキなど、たくさんのロキが暮らしていた。『デッドプール&ウルヴァリン』の虚無には、ナイスプールにドッグプール、レディプールにキッドプール、ヘッドプールなどがいた。ロキもデッドプールも、様々なユニバースで厄介者扱いを受けて剪定されていたのだろう。
「マーベルの神」は誰?
ドラマ『ロキ』シーズン2のラストでは、ロキはすべての時間軸を司る“物語の神”となり、世界を見守るようになった。ドラマ『ロキ』は悪戯の神が本物の神様になるまでの物語だったのだ。そうなると気になるのは、今回の『デッドプール&ウルヴァリン』の一件もロキは見守っていたのかということだ。
おそらく答えはイエスだ。ロキは見守っていたけれど、デッドプールとウルヴァリンによって危機は免れると判断して干渉しなかったのだろう。あるいは、デッドプールとウルヴァリンがラストで「原始レベルで粉々になる」と言われたのになぜか生き残っていた展開に一枚噛んでいたのかも?
もう一つ気になるのは、ロキと同じく厄介者扱いを受けてきたデッドプールが、『デッドプール&ウルヴァリン』で繰り返し「マーベルの神」を自称していたことだ。20世紀スタジオさんから来られたデッドプールには申し訳ないが、「マーベルの神」の座はロキがすでに頂いている。
だが、「マーベルの神」という言葉は、英語では「Marvel’s Jesus(マーベルのキリスト)」になっており、デッドプールも途中で「MJ」と略したりしている。地下室で自己犠牲を払うときにも「俺ちゃんはマーベルのキリストだ」と言い、自己犠牲を払って人類の罪を償ったイエス・キリストの物語に重ね合わせている。
『デッドプール&ウルヴァリン』では、デッドプールはブレイド、エレクトラ、ガンビット、ローラという旧20世紀フォックス出身の“なかったこと”にされたヒーロー達と共に戦った(『ブレイド』だけはワーナー系のニュー・ラインシネマ製作)。最後にはこのメンバー達を元のユニバースに返してあげるオマケ付きだ。
となると、マーベルではTVAで無数の時間軸を束ねて安定させるゴッド・ロキと、様々なユニバースを自らの足で渡り歩いて善行を重ねるマーベル・ジーザスことデッドプールの二人が存在することになるのではないだろうか。元々ヒーローではなかった二人が周囲の人々の助けを借りてMCUを救おうとしている。マルチバースのヒーローが集結するとされている2027年5月公開予定の『アベンジャーズ:シークレット・ウォーズ(原題)』の中心には、この二人が立っているのかもしれない。
TVAが大きく関わった映画『デッドプール&ウルヴァリン』にロキが登場しなかったことは少し残念だったが、まぁ、神が簡単に出てきても価値が下がってしまうだろう。今はMCUのどのユニバースを舞台にしたどんな作品でもロキがその物語を見守っているはず。その前提を忘れないようにしつつ、“その時”を待とう。
『デッドプール&ウルヴァリン』は2024年7月24日(水) より全国の劇場で公開。
デッドプール誕生30年の歴史を振り返るムック本『デッドプール 30th Anniversary Book』は、7月26日(金) 発売。
『デッドプール&ウルヴァリン』のオリジナル・サウンドトラックは発売中。
ダニエル・ウェイ&スティーブ・ディロンによるコミック『デッドプール VS. ウルヴァリン』は、吉川悠による邦訳版が発売中。
『デッドプール』『デッドプール2』は2枚組のBlu-rayコレクションが発売中。
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