2023年公開の映画『翔んで埼玉2 〜琵琶湖より愛をこめて〜』
『翔んで埼玉 〜琵琶湖より愛をこめて〜』は、2023年に公開された二階堂ふみ&GACKT主演の映画。魔夜峰央の漫画『翔んで埼玉』(1982-1983) を実写映画化した『翔んで埼玉』(2019) の続編で、前作に続き武内英樹監督、徳永友一脚本で制作されている。
武内英樹監督、徳永友一脚本のコンビは、興行収入50億円を突破した2024年公開の映画『はたらく細胞』でもタッグを組んでいる。『翔んで埼玉』の原作は未完で、前作の時点で多くの追加設定を加えて大ヒットを記録した。続編の『翔んで埼玉 〜琵琶湖より愛をこめて〜』では、どんな物語が描かれたのだろうか。
今回は、『翔んで埼玉 〜琵琶湖より愛をこめて〜』をネタバレありで解説し、感想を記していこう。なお、筆者は大阪府生まれである。以下の内容は重要なネタバレを含むので、必ず本編を視聴してから読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『翔んで埼玉 〜琵琶湖より愛をこめて〜』の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
映画『翔んで埼玉2 〜琵琶湖より愛をこめて〜』ネタバレ解説
前作では?
前作『翔んで埼玉』では、20世紀を舞台に埼玉県人や千葉県人が通行手形がなければ東京に入れなかった時代の物語が描かれた。東京都知事の息子である壇ノ浦百美は、埼玉差別撤廃を掲げる埼玉解放戦線のメンバーである麻実麗と恋に落ち、埼玉を解放するための戦いに身を投じることになった。
百美の父で東京都知事の壇ノ浦建造は、千葉県出身の執事・阿久津翔に千葉県人の通行手形制度撤廃をちらつかせて、埼玉解放戦線と千葉解放戦線の戦いを扇動した。しかし、百美によって建造が通行手形制度を撤廃する意思がないこと、闇手形を発行して荒稼ぎしていることが明らかになり、埼玉解放戦線と千葉解放戦線は共同戦線を組んで都庁に迫った。
『翔んで埼玉』のラストでは、壇ノ浦建造は不正が暴かれて失脚。百美と麗は埼玉解放戦線と共に「日本埼玉化計画」を推進する。埼玉発祥の安楽亭やしまむら、栄光ゼミナール、ファミリーマートが全国に拡大し、埼玉は勢力を広げていった。
そして数年後、地下施設の大衆の前で百美と麗が「世界埼玉化計画」を発表したところで『翔んで埼玉』は幕を閉じている。このシーンには現代編でラジオドラマを聞いていた菅原家も登場しており、舞台が現代まで進行したように描写されている。
阿久津に何があった?
一方で、映画『翔んで埼玉 〜琵琶湖より愛をこめて〜』でも、カーラジオから都市伝説が流れてきて、朝日奈央、和久井映見、アキラ100%が演じる内田家が埼玉の伝説を聞くという形が踏襲されている。『翔んで埼玉 〜琵琶湖より愛をこめて〜』で描かれるのは、前作のラストでダイジェスト的に描かれた「日本埼玉化計画」の中身なのだ。
伝説パートでは、麗が埼玉の横のつながりが薄いことを嘆き、武蔵野線の開通を提案している。現実には、武蔵野線は1973年に開通して1978年に全通している。このストーリーは「翔んで埼玉」のパラレルな歴史ということである。
前作で東京や千葉に自由に往来できるようになった余波で、埼玉県人たちの心がバラバラになっていた。そんな中、埼玉県人の心を一つにするために麗は「埼玉に海を作る」と宣言。麗と埼玉県人が砂浜を手に入れるために和歌山の白浜を目指すことで物語は幕を開ける。
ちなみに前作で千葉解放戦線を率いていた阿久津翔は、『翔んで埼玉 〜琵琶湖より愛をこめて〜』では登場しない。船出に際して千葉解放戦線員のサザエとアワビは阿久津の帽子と杖を持っており、麗は帽子を手に取り「阿久津に何があった!?」と声をあげる。
このくだりは阿久津翔を演じる伊勢谷友介が2020年9月に大麻取締法違反の容疑で逮捕され、有罪判決を受けて俳優業を自粛していたことを示唆したものと思われる。伊勢谷友介は、3年の執行猶予期間が明けた後、2024年3月公開の映画『ペナルティループ』で俳優業に復帰している。
関西の小ネタを解説
「翔んで埼玉」といえばBLの要素も有名だが、今回、麗の新たなパートナーに立候補するのは東京出身の杏演じる滋賀解放戦線の桔梗魁(ききょう・かい)だ。魁は滋賀出身だがパリに渡り革命を学んだといい、アメリカに留学していた麗と近い背景を持っている。魁がパリで革命を学んだというのは、フランス革命の歴史を指しているのだろう。
魁は、麗がたどり着いた白浜は大阪府知事の嘉祥寺晃(かしょうじ・あきら)によって支配されていると語る。大阪府知事を演じるのは、大阪市堺市出身の片岡愛之助だ。妻の神戸市長を演じるのは兵庫県西宮市出身の藤原紀香で、二人は実生活でも夫婦である。
京都市長は京都市生まれの川﨑麻世が演じる。京都市長の背中には「洛中」という文字が入っているが、洛中(らくちゅう)とは京都の中でも中心街を意味しており、京都市長は洛中出身であることを誇示している。
白浜のリゾート地への通行手形を持っているのは京都、芦屋、神戸に住む住民だけという設定になっている。この3都市は関西で“オシャレ”な都市として認識されている。
大阪府知事は“アポロンタワー”の中で滋賀県人に信楽焼を割らせるなど、他県の人々を見世物にしている。アポロンタワーのモデルは、おそらく大阪のショーパブビルであるアポロ1ビルだろう。信楽焼は滋賀県の名産で、車で滋賀に近づくと巨大な信楽焼の狸の置物が次々と現れることが知られる。
その他にも、「和歌山に生息しているパンダ」が登場するが、これは和歌山アドベンチャーワールドが長年ジャイアントパンダの繁殖研究に取り組み、繁殖を成功させていることを表現したものだろう。また、「鹿だらけの奈良」も登場するが、『翔んで埼玉 〜琵琶湖より愛をこめて〜』の奈良県の描写はこのシーンのみである。
また、魁が滋賀発祥の“とびだしとび太”に遭遇したことで滋賀に入ったことを確信するシーンがある。現実には、とびだしとび太の看板は全国にあるが、設置数は滋賀県がナンバーワンである。
大阪甲子園球場に意外な名前
麗は、砂をとってくるはずだった白浜が大阪の領地であったことから、関西圏の通行手形制度を廃止することを目指す。差別のない国づくりが「日本埼玉化計画」の目的だと明かすのだ。
そうして麗と魁は大阪府知事が観戦に訪れている甲子園へ。『翔んで埼玉 〜琵琶湖より愛をこめて〜』では、阪神甲子園球場ではなく大阪甲子園球場という名前になっている。阪神タイガースは兵庫にある甲子園が本拠地なのに大阪人から愛されていることを揶揄したジョークだ。ちなみに2023年6月には、吉村洋文大阪府知事と維新の会が推薦した斎藤元彦兵庫県知事が二人で甲子園での阪神戦の始球式を務めている。
大阪甲子園球場には、「バース」「掛布」「岡田」など、阪神の往年の名選手や、「桑田」「斎藤(佑樹)」ら甲子園で活躍した選手と共に、「殿馬」「岩鬼」と、漫画『ドカベン』の甲子園で活躍したキャラクターのネームプレートも置かれている。
地下の粉物工場では、奈良出身のゆりやんレトリィバァ演じる労働者が登場。『チャーリーとチョコレート工場』(2005) に登場するウンパ・ルンパのワンシーンのパロディーを披露している。
魁は麗を差し出す代わりに同志と姫君を返してもらう取引を大阪府知事と交わしてたが、それを反故にされてしまう。幽閉されていた同志から助けられた麗は平和堂のHOPカードをもらって甲子園から逃げ出すことに。平和堂は滋賀発祥のスーパーだ。
麗と魁の関係は?
麗は京都で滋賀県出身の堀田真由演じる近江美湖(おうみ・みこ)と出会う。美湖は甲賀生まれで忍の末裔、滋賀解放戦線のメンバーだった。ちなみに甲賀忍者で有名な甲賀は滋賀の東南部に位置している。
このシーンでは、「建前と本音が違う京都人」のイジりが見られる。京都出身の山村紅葉が演じる京女将が、京都府山科から来た客に本心では山科は京都じゃないと悪態をつくのだ。「ぶぶ漬け出したろか?」というセリフは、京都ではぶぶ漬け(お茶漬け)が出たら「帰れ」の合図という誇張された都市伝説を取り上げたものだ。
魁からの謝罪を受け、麗は琵琶湖疏水を通って滋賀へ。琵琶湖疏水は滋賀県の琵琶湖から京都市へと水を流すために明治時代に作られた人工の水路である。魁が紹介する「琵琶湖周航の歌」と学習船「うみのこ」は実在するもので、滋賀の小学生は5年生になると、うみのこに乗船して体験学習を行う。
また、麗が幼少の頃に過ごしたマイアミビーチだと思っていた場所はマイアミ浜だったというネタも登場。マイアミ浜は琵琶湖に実在するエリアだ。麗は小さい頃にここである人物から滋賀県を救うよう言われており、その人物とは初代滋賀解放戦線のリーダー、滋賀のジャンヌダルクと呼ばれていた魁の母だった。
そして、魁の父は滋賀に流れ着いた埼玉デュークであり、麗と魁は滋賀のジャンヌダルクと埼玉デュークを両親に持つ兄弟であることが明らかになる。これは、麗を演じる沖縄出身のGACKTが中高生時代を滋賀で過ごしていたことに由来する映画オリジナルの設定だ。
埼玉デュークと麗は埼玉の、滋賀のジャンヌダルクと魁は滋賀の平和を実現するために、その後離れ離れになったという。麗は「救世主となれ」という母の遺言を守るため、滋賀のために戦う決意を新たにするのだった。
滋賀のジャンヌダルクを演じたのは高橋メアリージュン。滋賀県大津市出身で、びわ湖大津ふるさと観光大使を務めている。また、滋賀のジャンヌダルクが持っている旗には、滋賀発祥のスーパー平和堂のロゴがデザインされており、2羽の鳩が描かれている。
大阪ブーム&都構想の元ネタは?
埼玉に残っていた百美は、大阪府知事が大阪を首都とする都構想に敗れて全国大阪植民地化計画を企んでいること、日本全土が大阪になるピンチであることを麗に伝える。
訪れた「阪流ブーム」では、『愛の不時着』が元ネタの『大阪に不時着』、『梨泰院クラス』が元ネタの『心斎橋クラス』、『冬のソナタ』が元ネタの『冬の西成』、『東京ラブストーリー』が元ネタの『大阪ラブストーリー』がヒットしている。最初の3作は大阪市出身の北村一輝が、『大阪ラブストーリー』は元ネタの織田裕二のモノマネ芸人・山本高広が主演を務めている。
また、『大阪に不時着』と『心斎橋クラス』の女性俳優はそれぞれ「島田やすよ」と「海原珠代」なっている。これは島田珠代と海原やすよという大阪の人気ベテラン芸人の名前を入れ替えた名前である。
大阪府知事が全国大阪植民地化計画にこだわる理由は、元府知事のオカンが悲願であった都構想に失敗したからだった。元大阪府知事を演じたのはお笑い芸人ハイヒールのモモコだ。モモコは大阪市阿倍野区の出身である。
維新の会が掲げた大阪都構想は現実でも失敗しており、2015年と2020年の2度住民投票が行われたが反対多数で否決された。都構想は廃案となったが、2024年6月には維新の馬場代表(当時)が住民投票のルールを変更して3度目の都構想に挑戦する意向に言及。2024年12月には新代表の吉村洋文府知事が都構想の制度案を再検討する考えを示した。
民主的なプロセスを否定された過去を引きずり、執念を燃やす姿は『翔んで埼玉 〜琵琶湖より愛をこめて〜』の府知事と似ている。
魁のスピーチと出身地対決
そんな大阪に対し、滋賀解放戦線は粉物の原料である「粉の実」の生育を止めるために、琵琶湖の水を止めることに。「琵琶湖の水止めるぞ」は、滋賀県民が関西他県にマウントを取る時に使われるセリフで、それを実際にやるというネタになっている。
だが、『翔んで埼玉 〜琵琶湖より愛をこめて〜』では、瀬田川の水門を止めれば滋賀が水没するという現実的な問題も取り上げている。また、このシーンでは、三重県は「近畿」という括りでは滋賀と大阪と並ぶが、「関西」には入らず「中部」に分類されることにも触れられている。
魁は、集めた滋賀・奈良・和歌山の解放戦線の同志に、過疎地帯と蔑まれていること、それを受け止めていることを叱咤。「今のままでもいい」と現状を受け入れる人々に対する、「差別を受けたままで良いわけない」という魁の言葉は痺れる。
戦が始まる時に京都市長が「応仁の乱以来の戦」と言うのは、京都人が「先の戦」と言う時には世界大戦ではなく応仁の乱を指しているというネタが元になっている。神戸市長は「竹生島だけは欲しい」と参戦。竹生島は琵琶湖の北部にある無人島で、日本三弁財天の一つに数えられる宝厳寺や都久夫須麻神社、国宝に指定されている唐門や重要文化財の観音堂がある。
滋賀解放戦線は、とび太や鮒寿司を総動員して大阪の軍勢を迎え撃つ。この一連のシーン、大阪府知事がずっと現場で陣頭指揮をとっていて、なかなか良い上司に見えてくる。
そして、「翔んで埼玉」シリーズでお馴染みになった出身地対決では、大阪府箕面市出身の菅田将暉、滋賀県彦根市出身の西川貴教、神戸市出身の戸田恵梨香と北川景子、奈良県のマスコットキャラクターで全国的な知名度を持つ“せんとくん”、奈良県大和高田市出身の加護亜衣、和歌山生まれの奈良育ち明石家さんまらの写真が登場する。
京都代表の隠し球は第五十代・桓武天皇。794年に長岡京から平安京(京都)へ都を移した人物だ。オチでは、神戸市長役の藤原紀香が和歌山県紀の川市で、初代・紀の川市フルーツ大使を務めていたことが明かされる。藤原紀香は兵庫出身だが両親は和歌山出身で、和歌山を「第二の故郷」と呼んでいる。
『翔んで埼玉2 〜琵琶湖より愛をこめて〜』ラスト ネタバレ解説
ダイアン津田はどこに?
毎年琵琶湖で開催される鳥人間コンテストのネタも挟みつつ、ついに琵琶湖の水が大阪に流れるのを止めたことで、滋賀は琵琶湖に沈んでいく。このシーンでは、琵琶湖に浮かぶ観光名所の白鬚神社の湖中大鳥居も沈んでいるのが分かる。
この隙に麗が甲子園の同志を解放。同志を解放した麗が降っている旗は、母が持っていた平和堂の鳩の旗になっている。
彦根城に避難した滋賀解放戦線のメンバーは、沈む滋賀を見つめながら「琵琶湖周航の歌」を歌う。「思い出の地が琵琶湖の底へと……」と言っているのは、お笑い芸人のダイアン・津田篤宏。美湖の兄・晴樹は野性爆弾のくっきー!が演じているが、野性爆弾とダイアンはコンビ揃って滋賀県出身である。
現実になった「行田タワー」
麗は、和歌山の姫君から大阪が全ての粉をミサイルに搭載して発射するつもりだと知らされる。麗は大阪府知事に捕まり“乳首ドリル”をされるが、これは吉本新喜劇のすっちー演じる“すち子”と吉田裕の芸が元ネタだ。
麗は、多様性を損なえばこの国は衰退すると大阪府知事に抗議。ここも名シーンだが、大阪府知事は大阪・関西万博に集まる外国人も粉漬けにする「世界大阪植民地化計画」をぶち上げる。今回の大阪は徹底的にヒールだ。
大阪府知事は通天閣をロケットにして粉物を東京へ向けて発射。だが、これを止めたのは埼玉のタワー型迎撃ミサイルだった。百美は路線族に託して迎撃ミサイルの行田タワーを発射させたのだった。
行田タワーは田んぼアートを見るために作られた展望タワーということになっているが、現実には古代蓮会館の展望室である。『翔んで埼玉 〜琵琶湖より愛をこめて〜』の公開後、2024年8月に名称を映画に合わせて「行田タワー」にすることが発表され、2025年3月から正式名称が「行田タワー」になる。
ちなみに行田タワー発射の暗証番号を手旗信号で伝える際に、「命」のポーズをとっているJR京浜東北線代表は埼玉出身のゴルゴ松本が演じている。
沈んだ滋賀とノアの方舟
大阪は敗れ去り、都構想失敗の怨念が込められた水晶玉を割ると和歌山の姫君は真の姿を見せる。それを演じるのは和歌山県出身の天童よしみで、VC-3000のど飴の「舐めたらあかん」の関西弁のCMでも知られている。
大阪府知事・京都市長・神戸市長は逮捕され、関西の通行手形も撤廃されることに。知事たちは、自分の地域の人々が悪い人ばかりではないと言い残している。これは関西の視聴者へのささやかな配慮だろう。
滋賀は沈んだが、近江米や近江牛といった滋賀の名産物の種は“うみのこ”に積んでいるという。『聖書』で神が大洪水を起こす際に雌雄一対の動物たちを乗せて種を生き延びさせたという“ノアの方舟”を題材にした展開だろう。そして、麗と魁は兄弟で埼玉と滋賀の平和を守ることを約束して別れを告げるのだった。
ラストの意味は?
現代パートでは、綱引き大会の決勝で浦和と大宮の対決に決着が引き分けで幕を閉じる。内田家の父が熊谷の暑さを利用した収斂火災を起こして綱を切り、ドローに持ち込んだのだ。浦和と大宮は2001年に与野市と共に合併して、さいたま市となったが、ライバル関係にあるとされており、両地域の決着をつけることは御法度とされている。
朝日奈央演じる依希は出産の時を迎え、助産師だった大阪出身の女性に助けてもらう。この助産師を演じるのは、お笑いコンビ・クワバタオハラの くわばたりえ。芸人の永野の「クワバタオハラがおったら、そこは大阪や」というネタが有名だが、クワバタオハラで大阪出身なのはくわばたりえのみで、小原正子は神戸市出身だ。
伝説パートのラストでは、武蔵野線の開通が開通し、ネズミーランドまで直通となったことが明かされる。麗は白浜から白い砂を持ち帰り、滋賀は復興。埼玉は勢力を伸ばして日本の埼玉化を進めていた。その最大の実績として、現在の埼玉県深谷市出身の渋沢栄一が1万円札の顔となったことが挙げられている。渋沢栄一は2024年7月から1万円の顔になっている。
麗と百美は武蔵野線から直接乗り入れる電車に乗ってネズミーランドへ。「埼玉県民の日」という文字が浮かんで『翔んで埼玉 〜琵琶湖より愛をこめて〜』は幕を閉じる。結局遊びに行くのは埼玉県外という自虐でありつつ、前作で千葉との和解があったからこそのラストでもある。過剰に内向きにならず、外を志向する良いエンディングだ。
最後に流れる曲は、はなわ「ニュー咲きほこれ埼玉」だ。
エンドロールでは、お笑いコンビ・ミルクボーイによる滋賀県を題材にした漫才が披露される。ミルクボーイは元々滋賀県のネタを持っていたが、映画『翔んで埼玉 〜琵琶湖より愛をこめて〜』のためにアレンジが加えられている。
ミルクボーイといえば「オカンが言うには」という絶対的な型を持ったコンビだが、この型のベースにあるのは“あるある”もとい“偏見”である。駒場が出すヒントに、内海が「だとすれば〇〇か」「だとすれば〇〇じゃない」と分類しながら偏見を披露していく仕組みになっており、「翔んで埼玉」のギャグと重なるところが多いのである。
映画『翔んで埼玉2 〜琵琶湖より愛をこめて〜』ネタバレ感想&考察
大阪をヒールに据える好判断
映画『翔んで埼玉 〜琵琶湖より愛をこめて〜』は、原作が未完であるため、今回はほぼオリジナルの内容で制作されている。関東が舞台になった前作から、関西まで範囲を広げるということで、製作陣もかなり努力を重ねたようだが、その痕跡が見える絶妙なバランスの“イジり”になっていた。
特に大阪を完全な悪役に置く判断は正解だったように思う。大阪府知事の陣営にはビジュアル的に維新の会を思わせる要素はないが、繰り返された都構想の失敗や万博への野心など、世間的に悪役と見られるに足る状況が揃っている。印象を上手く使うという意味でも大阪の描き方は成功したと言って良いだろう。
続編はある?
気になるのは『翔んで埼玉3』があるかどうかというところだ。興行収入の面では、第1作目『翔んで埼玉』は37億円、『翔んで埼玉 〜琵琶湖より愛をこめて〜』は23億円超という結果になっている。2作でシリーズ累計60億円は十分に大ヒットした作品と言える。
『翔んで埼玉 〜琵琶湖より愛をこめて〜』が公開された2023年11月には、第1作目の撮影時点で武内監督は第3弾までやると発言していたことが明かされている。二階堂ふみもパート3に意欲を見せているが、GACKTはパート3は「きっとやると思う」と言いながらも自身の役には代役を立てることを提案している。
『翔んで埼玉3』があるとすれば、東北、北海道、四国、東海など、舞台の選択肢は様々だが、主演のGACKTと二階堂ふみの出身地である沖縄と九州を絡めたストーリーも見てみたい。一方で、北海道もそうだが、本当の植民地主義による歴史的な背景もあるため、コメディである「翔んで埼玉」でどこまで扱えるのかという点は微妙なところだ。
更なる続編の障壁の一つは、「翔んで埼玉」の製作委員会にフジテレビジョンが入っていることだろう。フジテレビ的な“不謹慎なお笑い”への世間の拒否感だけでなく、企業としての経営状況も映画製作に影響を与える可能性もある。今後の展開を注視しよう。
映画『翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~』はBlu-rayが発売中。
原作漫画『翔んで埼玉』は発売中。
映画『翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~』公式ガイドブックも発売中。
『小説 翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~』も発売中。
2045年の大阪を舞台にした『大阪SFアンソロジー:OSAKA2045』、観光地の向こう側の京都をテーマにした『京都SFアンソロジー:ここに浮かぶ景色』は発売中。
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