映画『はたらく細胞』公開
清水茜の人気漫画『はたらく細胞』と、そのスピンオフで清水茜が監修を務めた原田重光原作・初嘉屋一生作画の『はたらく細胞BLACK』を原作にした実写映画版『はたらく細胞』が、2024年12月13日(金) より全国の劇場で公開された。赤血球役に永野芽郁、白血球役に佐藤健を迎えた本作は、「翔んで埼玉」シリーズで知られる監督・武内英樹、脚本・徳永友一のコンビが手がけた話題作だ。
今回は、実写映画版『はたらく細胞』のラストについて、ネタバレありで解説&考察と感想を記していこう。以下の内容は結末に関する重要なネタバレを含むため、必ず劇場で本編を鑑賞してから読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『はたらく細胞』の結末に関するネタバレを含みます。
Contents
『はたらく細胞』ネタバレ解説
豪華キャストで描かれる二つの世界
実写映画版『はたらく細胞』は、人体の中で働く細胞たちの姿を描きながらも、原作漫画で描かれなかった人間側のストーリーも描かれる。芦田愛菜演じる漆崎日胡(うるしざき・にこ)の体内にいる赤血球を永野芽郁、白血球を佐藤健が演じている。
日胡の父で阿部サダヲが演じる漆崎茂の体内は、タバコや酒で毒されているのだが、この体内環境は『はたらく細胞BLACK』の内容がベースになっている。こちらの新米赤血球は板垣李光人、先輩赤血球を加藤諒が演じている。ちなみに芦田愛菜と阿部サダヲは「マルモのおきて」に続く親子役だ。
『はたらく細胞BLACK』を実写化した昭和っぽい体内は妙にリアルで見応えがあった。漆崎茂の体内で苦しむ細胞を見ていると、自分の身体を労ってあげなければと思わされる。そうして苦労していた新米赤血球は、茂が輸血をしたことで日胡の体内へと移ることになる。輸血で舞台が変わるというのは原作の『はたらく細胞BLACK』でも描かれている展開だ。
豪華キャストの細胞によるアクションも見どころ。『仮面ライダー電王』(2007) や「るろうに剣心」シリーズで知られる佐藤健の白血球、大河ドラマ『新選組!』(2004) などで知られる山本耕史演じるキラーT細胞、『時をかける少女』(2010) や『TOKYO MER〜走る救急救命室〜』(2021) で知られる仲里依紗演じるNK細胞、『仮面ライダー電王』で佐藤健演じる野上良太郎の姉・野上愛理を演じた松本若菜演じるマクロファージらが体内を舞台に活躍を見せる。
現実パートでは、父子家庭の漆崎家に加藤清史郎演じる武田新を加え、大病を患った日胡と父・茂の絆が描かれる。一方で、体内パートではファンタジックな演出で迫り来る身体の危機が演出され、細胞たちのアクションが繰り広げられるという構成になっている。
映画『はたらく細胞』ラストのネタバレ解説
感動の闘病描写
映画『はたらく細胞』のラストでは日胡が白血病にかかり、人間パートも細胞パートも大変なことになる。人間パートは母を病気で亡くした父子家庭という背景もあり、非常に泣けるものに。コミカルな演技を見せてきた阿部サダヲが、妻を失い、娘まで失おうとしているのに何もできない茂をシリアスに演じあげる。
自分の体調は摂生で改善きても、他者の身体にできることは多くない。寄り添うことしかできない茂だが、病室で日胡と母の思い出の水族館を再現すると、新と共に「世界一好きなのは日胡の笑顔」と伝える。涙なしでは見れない名シーンだ。
細胞の方はFukase演じる白血病細胞が登場。Fukaseは人気バンドSEKAI NO OWARIのメンバーとして知られ、映画『キャラクター』(2021) で俳優デビューを果たしている。『はたらく細胞』では見事にメインヴィランの役を演じ、圧倒的な存在感を示している。
白血病は血液のがんのこと。白血病細胞によって日胡の体内が冒されていく中、永野芽郁演じる赤血球は他の細胞に酸素を届け続ける。この実直で健気な赤血球は永野芽郁のハマり役と言える。ファンタジーだが地に足がついていて好感を持てる存在としての赤血球を見事に演じた。
けれど、細胞世界は感動パートになるとそのバックグラウンドが薄いこともあって、なかなか共感しづらいようにも思えた。人間世界では、「父子家庭」という状況だけで様々な困難が想像できるが、人体の機能の一部でしかない細胞たちは与えられた仕事を果たすだけだ。だから、白血病細胞が自分が排除されることに異議を唱えても、白血球はそれに対して返す言葉を持たない。
そんな中でも山本耕史演じるキラーT細胞と仲里依紗演じるNK細胞のドラマパートは見事だった。二人の名優によって、わずかな時間でライバル関係を構築し、その最後まで感動的に描き切ったのは、山本耕史と仲里依紗の演技力の賜物だろう。
ラストの意味は?
日胡は放射線治療を経て、骨髄移植に臨む。放射線治療では、放射線でがん細胞を破壊することができるが、それ以外の細胞も破壊される。その後に、ドナーの骨髄を注入し、日胡の体内は新たな日の出を迎えることになる。
人間世界では日胡は元気になり、無事に大学の医学部に合格できたようで、三人は入学式に向かおうとしている。元々日胡の体内にいた細胞たちは死んでしまったが、日胡が元気になった後には新たな細胞たちが生まれていた。そして、白血病との戦いの中で最後まで酸素を運び続けていた赤血球のAE3803は、新しく生まれてくる赤血球たちに手紙を残していた。
そこには、戦える白血球と違い自分は酸素を運ぶことしかできないこと、以前は悩んでいたが、今ではこの身体を守る一員だと感じられているということが綴られていた。自分たちが「はたらく細胞」であることを次世代の細胞に伝え、その手紙は新しい赤血球のRB2525が読んでいる。「25」というのは「日胡(にこ)」のことを示しているのだろう。
大きくなったRB2525は、日本刀を振るう白血球と出会う。同じ身体で生きている二人は、生まれ変わってまた巡り合うことができたのだ。白血球を演じる佐藤健が日本刀を振るう姿は「るろうに剣心」シリーズのパロディだろう。実写版『はたらく細胞』のアクション監督は、実写「るろうに剣心」でスタントコーディネーターを務めた大内貴仁が担当している。
最後に白血球はスギ花粉に挑み、赤血球は酸素を運ぶ仕事に戻り、実写映画版『はたらく細胞』は幕を閉じる。エンディングで流れる曲はOfficial髭男dism「50%」。
『はたらく細胞』ネタバレ感想
欠点はあるが広い層に届く作品
実写映画『はたらく細胞』は、豪華キャストと体内を舞台にしたアクション、そして人間世界を舞台にした親子の闘病ストーリーが見事な作品だった。前半部分は退屈にも感じたが、子どもにも分かりやすい教育的な内容になっており、冬休み映画としてより広い層へのリーチを意識した結果だろう。
後半部分は親子のストーリーが泣ける泣ける。その反面、細胞たちの死や衝突は人体の機能として「そういうもの」として捉えられてしまい、キャストの演技力頼りになっていた感は否めない。だが、それを成り立たせるくらいの実力キャストが揃っていることが『はたらく細胞』の特徴で、ある意味“チート”とも言えるほどの祝祭感を帯びていた。
それはさておき、映画『はたらく細胞』を観て切に感じたのは、「自分の身体を大切にしよう」ということだ。あんなにリアルに細胞が苦しむ姿を見せられては、不摂生してはいられない。同時に、他者の身体に対して医者以外ができることは少なく、だからこそ献血やドナーに積極的に協力しようという気にもさせられた。
教育的・社会的な作品としても、長く観られるファンタジー作品が誕生したと言える。とりあえずはこの年末年始、私たちも自分の細胞を労わって摂生を心がけよう。
映画『はたらく細胞』オフィシャルブックは発売中。
原作漫画『はたらく細胞』は全6巻、『はたらく細胞BLACK』は全8巻が発売中。
【ネタバレ注意】『劇場版ドクターX FINAL』ラストの解説&感想はこちらから。
『踊る大捜査線 N.E.W.』の展開予想はこちらの記事で。