東京都23区を舞台にしたデスゲーム
2004年に放送開始され、2024年に20周年を迎える大人気番組『逃走中』。その実写映画版である『逃走中 THE MOVIE』が2024年7月19日(金)に全国劇場公開された。人気グループであるJO1からは川西拓実、木全翔也、金城碧海、同じく人気グループFANTASTICからは佐藤大樹、中島颯太、瀬口黎弥が参加して主演を務める。『逃走中 THE MOVIE』は人気グループと人気番組がタッグを組んだ形となる。
本記事では、『逃走中 THE MOVIE』のラストについて解説と考察、感想を述べていこう。なお、本記事は『逃走中 THE MOVIE』のラストのネタバレを含むため、必ず劇場で本編を視聴後に読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『逃走中 THE MOVIE』の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
『逃走中 THE MOVIE』ネタバレ解説
『逃走中』20周年記念大会
『逃走中』の放送20周年を記念し、『逃走中』を運営するクロノス社は最大規模の『逃走中』を実施することを決めた。クロノス社とは番組『逃走中』のドラマパートに登場する2900年の企業で、『逃走中 THE MOVIE』では実在の企業とされていると考察できる。
賞金や刺激など様々な理由で参加する参加者たち。そこには元陸上部の主人公たちの姿もあった。橘大和、大澤瑛次郎、伊香賢、北村勇吾、西園寺陸、寺島譲司の6人は陸上部で同じミサンガを持つ親友だったが、全国大会に向けたインターハイ予選でエースである譲司が失踪。補欠で出場した瑛次郎のバトンミスにより予選敗退してしまい、6人はバラバラになってしまった。
賞金1億円をかけて開催された『逃走中』。そこで陸は方言を理由にからかわれて心を閉ざした小学生の本郷カイとその姉の本郷マリと出会う。ミッションが開始され、過熱していく『逃走中』だが、クロノス社が何者かによってハッキングされる。新たなゲームマスターKの存在により捕獲した人間を消滅させるワイルドハンターが投入されて陸が犠牲となり、賞金100億円をかけたデスゲームが開催されることになる。
ゲームマスターKによるデスゲーム
157人を50人へと篩に掛けるミッションが行なわれ、失踪したはずの譲司と再会した大和はインターハイ予選の日に譲司が失踪した理由を知る。それは譲司の父親の会社が前日に倒産し、借金取りから逃げるために一家で夜逃げしたというものだった。高校卒業直後に父親が亡くなったことで工場を引き継ぎ、その借金に追われる勇吾は譲司に共感する。しかし、譲司はそのような同情をされてほしくなかったため、何も言わずに失踪したのだった。
ゲームマスターKは参加者に逃げ切りボタンとリセットボタンの存在を明かす。それは逃げ切りボタンを押した場合は生存者で100億円を山分け、リセットボタンを押した場合はすべてがリセットされるというものだった。参加者は金と命を天秤にかけさせられる。
次に行なわれるゲームは5人一組で開催される21ゲームだった。21ゲームとは一人3つまで数字を順番に言っていき、最後に21を言ってしまった人間が負けになるゲームだ。数学科の秀才の瑛次郎に期待が寄せられるが、賢の裏切りによって瑛次郎、大和、マリのいずれかが21を言わなければならない状況になる。デスゲームを前に友情ごっこは終わりだと賢は言い、他人を蹴落とすことに何の躊躇もないスズキと共にその場を去るのだった。
裏切りに次ぐ裏切り
瑛次郎は死の間際、6人に招待状がいくように応募したのは自分だと明かす。瑛次郎は『逃走中』で走ることにより6人の友情を取り戻すことが狙いだったが、デスゲームとなってしまったことで後悔し、自分が犠牲になると21を言う。大和はまた1人、親友を失い、すべてをリセットするために次のステージに進む道を選ぶ。
最後のゲームは密告ゲームというもので、参加者の居場所をワイルドハンターに10人密告することで逃げ切りボタンとリセットボタンの入った箱の鍵が手に入るというものだった。スズキは容赦なく密告していき、あっさりと鍵を手に入れる。そのようなスズキに賢は拳銃を渡し、取り入るのだった。
その頃、ワイルドハンターに追い詰められた譲司は勇吾に助けられる。そして似た境遇であることを語り、裏切られたという思いが解消されたことを告げるのだった。譲司と勇吾は別れて逃げることにするが、勇吾はワイルドハンターに追い詰められてしまう。そして逃げ切ることで工場の借金を返すことも考えるが、友情のミサンガを悩んだ末に優先し、落としたミサンガを拾ってワイルドハンターに捕ってしまう。
スズキは部下も裏切り、鍵を手に次のステージに向おうとするもそこにワイルドハンターが現われる。拳銃で対抗しようとするが、それは偽物であり、最初から賢はスズキから鍵を奪う計画だった。鍵を手にした大和たちは最後のステージへと向かう。
命のバトン
最後のステージに到達したとき、大和たちは小学生のカイを危険な状況に巻き込まないために彼に隠れるように言う。そして大和たちは最後のステージに挑むのだった。そこでは鍵を持つ人間が優先的に狙われるというルールになっており、残った参加者たちも鍵を守るために命を落としていく。
鍵を持っていた賢はギリギリまでワイルドハンターを引き付けてから、鍵を譲司に渡す選択を選ぶ。賢が『逃走中』で賞金100億円に執着するのには理由があった。株やFXに手を出している賢だったが、すでに借金が膨らみ、首が回らなくなっていたのだ。
賢が投資を始めたのは親友たちへの嫉妬からだった。陸上のエースだった大和と譲司、勇敢な勇吾、秀才の瑛次郎、ムードメーカーの陸。彼らと比べて自分には何もないと感じていた賢は、状況を一変させるために投資に手を出したのだった。そのような賢に大和は重圧から自分も陸上を辞めてしまっていることを明かす。心の澱が昇華した賢は譲司にすべてを託す。
譲司もワイルドハンターに捕まることを覚悟で大和に鍵を渡す。過去の陸上のバトンミスから始まり、『逃走中 THE MOVIE』はバトンタッチというものがテーマになっていることが考察できる。命のバトンである鍵を託された大和はリセットボタンを押すべくワイルドハンターのボスBに挑む。
リセットボタン
1人で隠れていたカイは陸から託されたお守りの中身がUSBであることを知る。配布されているデバイスで再生すると、それは初めて会った際に陸がカイに話すように怒鳴ってしまったことを謝罪する内容だった。そして、録画された陸はカイは強いと背中を押す。デバイスには次々と消滅の通知が来ており、カイは自分も『逃走中』に参加すべく立ち上がる。
大和は逃げ切りボタンとリセットボタンの入った箱に鍵を挿入するところまでは成功したが、最後の最後でボスBに確保されてしまった。カイはその命のバトンを引き継ぎ、ボスBから逃げる。姉のマリも犠牲になってしまい、逃げ続けるカイ。カイはリセットボタンを押そうとするが、そのときゲームマスターKのホログラムが現われる。
ゲームマスターKはホログラムを通して100億円という大金を手にすれば権力者になれるとカイに語る。それでもカイはそれを拒否し、方言そのままの言葉でみんなを返すように言うとリセットボタンを押すのであった。それを見てゲームマスターKは「結果は100年後にわかる」と言い残す。
『逃走中』が開始された朝。時は戻り、勇吾の借金は解決され、6人の絆も戻っていた。カイも方言そのままで話せるようになり、クラスメイトと馴染めるようになる。そのようなカイの姿を謎の男が見つめていた。
『逃走中 THE MOVIE』ネタバレ感想&考察
繋げられていくバトン
『逃走中 THE MOVIE』のテーマはバトンリレーだと考察できる。それは生き残ることや鍵など、様々な形でキャラクターからキャラクターへと繋げられていく。それをわかりやすく表現しているのが主人公たちの元陸上部という設定だ。
最初のバトンリレーであるインターハイ予選は失敗に終わった。その後、『逃走中』でのバトンリレーは成功する。その理由としてはお互いに本音を明かしたことがあると考察できる。特に譲司はそれが顕著で、譲司は同情されたくないという理由で親友相手にも自分の弱みを明かすことができなかった。
他にも勇吾は工場の未来を背負うあまり、学生である大和や賢に強いところを見せようと必死であるように見える。しかし、実は譲司も同じ境遇であると知ると肩の荷が下りたように顔つきが変わる。強く見せなくても良いと知り、弱みを共有することができたのだ。賢はコンプレックスから投資で成功しているように見せようとしており、主人公たちは本音や弱みを明かすことが出来ずにいることがわかる。
そのようにして各々が弱みを共有することではじめてバトンパスは成功する。バトンパスとは共同作業であり、心を重ねる必要があるのだ。最初のインターハイ予選では譲司が急遽失踪したことで団結が揺らいだ。しかし、今回は弱さを共有することで団結が強まったのだと考察できる。
クロノス社は実在するのか
ここで気になってくるのがクロノス社の存在だ。クロノス社は『逃走中』を運営しているという設定の架空の企業で、2900年の未来から過去の人間を利用してゲームショーを公開しているとされている。しかし、『逃走中 THE MOVIE』の世界ではテレビ番組として『逃走中』が放送されている。
そのため、『逃走中 THE MOVIE』の世界ではフジテレビ系列のテレビ番組として『逃走中』が放送されているのだ。もし、2900年の企業であるクロノス社が『逃走中 THE MOVIE』の世界に実在している場合、主人公たちは未来の番組を見ていることになる。
しかし、そのようなことを説明する展開は『逃走中 THE MOVIE』で見られない。どちらかと言えば『逃走中 THE MOVIE』の主人公たちはクロノス社をテレビ番組の設定として受け入れているように見える。それにもかかわらず、ハンターはクロノス社の人工物として扱われ、クロノス社へのハッキングやワイルドハンターの登場に関して主人公たちは番組の設定ではないのかと疑わない。
不思議なことかもしれないが、次の場面では登場人物全員がクロノス社とそれをハッキングしたゲームマスターKを番組の設定ではなく、実在の存在として考えているように見られる。最初にハンターと参加者がワイルドハンターに捕獲されるところを見ているという理由もあるのかもしれないが、『逃走中 THE MOVIE』の世界では現実と番組設定が曖昧なものとされているのだ。
説明不足な部分
クロノス社同様、気になってくるのがスズキの存在だ。スズキは『逃走中 THE MOVIE』において、友情や命より金を優先する存在の代表である。そのため、密告ゲームにも積極的に参加している。だが、何故スズキはリセットボタンを押すことですべてを元に戻せることを知っていたのだろうか。
最初はかつての参加者などの可能性があったが、とくに説明されることもなく退場する。他にも全体を通して『逃走中 THE MOVIE』は説明不足な印象だ。たとえば会話のできないカイがどのようにして21ゲームを勝ち抜いたのだろうか。彼の持つブザーに21までの数字が入っているとは思えない。
また、何故リセットボタンを押すことで勇吾の借金問題が解決したのかについても説明されることはない。ゲームマスターKの「結果は100年後にわかる」という発言も、クロノス社が存在していた場合、クロノス社は2900年の企業であるため、2124年にはまだ『逃走中』を開催していないはずである。最後に登場する謎の男も文字通り謎のままだ。
全体的に説明不足の面が強く、デスゲームでありながらグロテスクな場面は省略されるなど、ご都合主義な部分も多かった『逃走中 THE MOVIE』。これらの設定は続編で説明されるのだろうか。すべては興行成績次第なのだろう。『逃走中 THE MOVIE』の今後に注目していきたい。
映画『逃走中 THE MOVIE』は2024年7月19日(金)より全国劇場公開。
映画『逃走中 THE MOVIE』のオリジナル・サウンドトラックは発売中。
百瀬しのぶによる『逃走中 THE MOVIE』のノベライズ版は8月2日発売で予約受付中。