ネタバレ解説 映画『THIS MAN』ラストの意味は? あの男の正体は? 考察&感想 | VG+ (バゴプラ)

ネタバレ解説 映画『THIS MAN』ラストの意味は? あの男の正体は? 考察&感想

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映画『THIS MAN』公開

海外発の都市伝説「This Man」を天野友二朗監督が映画化した『THIS MAN』が2024年6月7日(金) より劇場で公開された。主人公の八坂華を演じた出口亜梨沙は本作で初主演、夫の義男を『仮面ライダーW』(2010) の照井竜/仮面ライダーアクセル役で知られる木ノ本嶺浩が演じる。

「This Man」とは多くの人が夢の中で同じ男が登場する夢を見るという都市伝説で、映画『THIS MAN』ではそれに独自の解釈を交えたストーリーが展開される。今回は、そのラストの展開について解説および考察をしていこう。以下の内容は本作の結末に関する重大なネタバレを含むため、必ず劇場で本編を鑑賞してから読んでいただきたい。

ネタバレ注意
以下の内容は、映画『THIS MAN』の結末に関するネタバレを含みます。

映画『THIS MAN』ネタバレ解説&考察

「あの男」の正体とは?

映画『THIS MAN』では、「あの男」を夢で見た者は必ず死ぬという設定が加えられた。そして、あの男の正体とは、かつて国家転覆を試みた呪術師・天海(てんかい)だったというのが『THIS MAN』のオリジナル設定だ。

渡辺哲演じる呪術師の雲水は呪術師協会をやめて中山功太演じる弟子とともに個人でお祓いを行っていた。あの男を夢で見た華は夫の義男と共に雲水を頼り、“あの男”の正体がかつて欲望に飲まれて国家転覆を実行しようとし、処刑された呪術師だったという事実を知る。天海の魂は阿鼻地獄に封印されたという。

ちなみに阿鼻地獄というのは仏教における八大地獄の第八の地獄で、その苦しみは通常の地獄の一千倍とされている。呪術師たちの力が弱まる一方で、悪霊になった天海は力を強めて人間界に帰ってきていた。次々と起きる怪死は、人間界を滅ぼそうと企む天海の仕業だったのだ。

映画『THIS MAN』の序盤では、「あの男」の夢を見て死ぬ犠牲者は女性ばかりだったが、天海が欲望に飲まれたという設定から、天海は意図的に女性を狙っていたと考えられる。彼はミソジニー(女性蔑視)を抱える呪詛師だったのだろう。

その呪いを完全に祓うことはできず、他の誰かに移すことしかできないと聞かされた華と義男は、それでも構わないと除霊を受けることに。しかし、その直後に愛する娘の愛を事故で失い、その部屋には愛が描いた“あの男”の絵が残されていた。華の呪いは愛に移ってしまったのだ。

自分が助かるためならばととった行動が、大事な誰かを傷つけてしまう。その場しのぎの自己中心的な手段では、本質的な解決には至らないというメッセージが読み取れる。

コロナ禍と重なるシチュエーション

雲水は自分の行いによって幼い子どもを死なせてしまったことを悔やみ、その身を捧げてでも天海を封印しようと弟子と共に修行を積む。その中ですれ違ったのが般若演じる協会側の呪術師だ。般若演じる呪術師は、「一人でできることなんてない」と雲水に諦めるよう促している。この言葉はラストの展開を後押しするものとなっている。

華は夫の義男と妹の玲の支えもあり、娘を失った喪失から徐々に回復していた。一方で、心の傷は残っており、このモノローグのシーンでの「自分の身に降りかかるまでは他人事」という言葉は重い。映画『THIS MAN』は私たち人類が共通して経験したコロナ禍でなすすべなく人が死んでいく状況をベースにした作品とされている。それをより強調するのが、劇中で描かれる政府の無策さだ。

『THIS MAN』の序盤で不審死が続き話題になり始めた頃、政府は対応を検討しながらも具体的な対応ができていなかった。序盤では政府与党の初動の遅さが示されており、終盤では政府がは「自殺ピルの配布」というとんでもない解決策に乗り出したことが描かれる。ただ死ぬのを待つよりも、早く苦しみを終わらせる選択肢を与えるというのだ。

確かにコロナ禍はいつ誰が死ぬか分からないという危機的な状況であり、「あの男」が現れる『THIS MAN』の状況と似ている。そんな中で政府は迅速かつ積極的な対処をするのではなく、事業者や市民がただゆっくりと死んでいくのを待つような、後手の対応が続いていた。経済的にも苦しい思いをした映画や演劇業界の人々は、より実感を持って感じていることだろう。

そして、津田寛治演じる上司の刑事は政府が用意した自殺ピルを飲んで死んでしまう。このシーンの描写から、「あの男」の呪いによって先に妻を亡くしたことが示唆されている。校條拳太朗演じる部下の刑事・天辻新は諦めずに捜査を続けていたが、こちらも路上で刺殺されてしまう。『THIS MAN』の序盤は刑事サスペンスものの雰囲気もあったが、刑事たちは真相にたどり着くことなく命を落としてしまった。この展開も、公的機関の無力さを示しているようでもある。

スーパー戦隊x仮面ライダーxハンバーグ

そんなある日、ついに義男が「あの男」の夢を見てしまう。義男はそれを黙って出勤、華は玲を家に呼んでディナーを一緒に食べることにしていた。華が予定より遅れて帰宅すると、玲はハンバーグを作って待っていた。このシーンの皿の数を見れば玲は義男の分のハンバーグを作っていないということが窺える。

鉄のような匂いに気にしながらも、華がハンバーグにナイフを入れると、そこに入っていたのは義男の婚約指輪だった。玲はこの時点で既に天海に操られており、早く帰宅した義男を殺すと、その肉をミンチにして人肉ハンバーグにしていたのだ。衝撃の展開だが、玲役の鈴木美羽による怪演が光るシーンでもある。

鈴木美羽は2024年3月から『爆上戦隊ブンブンジャー』で志布戸未来/ブンピンクを演じている。義男役の木ノ本嶺浩は『仮面ライダーW』の照井竜/仮面ライダーアクセル役で知られており、奇しくもこのシーンはスーパー戦隊が仮面ライダーを人肉ハンバーグにするという衝撃的なシーンになっている。

華が義男が残した遺書を読んでいると、部屋のライトが点滅する。モールス信号だろうか。中盤のシーンでは華が義男が死んだらと心配し、義男は死んでも天国からライトを点滅させてメッセージを送ると話していた。これを実行に移したのだろう。

ラストの意味は?

娘も夫も失い、意を決した華は雲水のもとを訪れ、自分を犠牲にしてもいいから天海を地獄に落としたいと申し出る。最初にお祓いをしてもらう場面でも雲水は「封印には生け贄が必要」と話していたが、その時は華も義男も名乗り出ることができず、「呪いを誰かに移す」という方法を選んだ。そのせいで多くの人が犠牲になる展開となり、その「誰か」が自分の大切な人々になってしまった。華はその他人任せのループを終わらせるべく、最後の戦いに挑むのだ。

雲水が唱える「ノウマクサンマンダ」の呪文で空海と戦うが、空海は強力な呪いで弟子は死んでしまう。しかし、そこに現れたのは般若演じる呪術協会の呪術師だった。「お前一人じゃ無理だ」「仲間だろ」という言葉は、先ほどの「一人でできることなんてない」という言葉を回収するものだ。

この術師はどこかで雲水のことを気にかけていたのだろう。それに仲間の大切さを知っていたからこそ協会に所属して“クルー”たちと生きる道を選んでいたとも考えられる。意を決することができた人間でも、ことを成すためには誰かの助けが必要なのだ。

力を合わせれば生け贄はなくても大丈夫らしく、弟子たちと唱えた呪文によって天海は地獄へと帰っていく。程なくして世間には平和が戻り、華は自分の行動が世界を変えたのかもしれないと考えていた。一人の行動が世界を良い方向へ向けることもあるというメッセージが読み取れる。

そして華は釈放された玲を迎え入れる。残された唯一の家族だ。おそらく天海の力で加害者となった人々は罪に問われず釈放されたものと思われる。そして、映画『THIS MAN』はこれ以上大切な人を亡くす人が増えてほしくない、というメッセージで幕を閉じる。一方で最後に映った天海の姿は、私たちが油断すればいつでも「あの男」は帰ってくると語りかけているようでもある。

映画『THIS MAN』ネタバレ感想

オカルト/ホラー/風刺

映画『THIS MAN』はオカルト映画であり、今流行りの呪術を扱った日本特有のホラー映画であり、一方でコロナ禍を経た現代社会に対する強いメッセージを持った風刺映画でもあった。ある日突然理不尽に殺されるという恐怖、その恐怖が人々を自殺に追いやる、というコロナ禍で人類が味わった経験がベースになっているようだ。

刑事と華の夫婦、呪術師の物語が進行する一方で、各々の動きはバラバラなように見える。だが、バラバラであったが故に主人公たちはなかなか解決にたどり着くことができなかった。刑事の天辻と義男はジムで出会って仲良くなり、愛の遺体の身元確認でも再会したが、おそらく義夫は呪いを“移した”ことを天辻に共有しなかったのだろう。その話はしていたとしても、生け贄がいればあの男を封印できるという話はしなかったはずだ。

真相を他人と共有せず、それぞれがバラバラに動いたことで、多くの命が奪われた。一方で、華が意を決したこと、雲水が罪を認めたこと、呪術協会の呪術師が雲水を助けると決めたことで状況が変わることになった。人任せにせず、けれど人を助けることで世界はよくなるというメッセージが読み取れる。

『THIS MAN』には、アキラ100%演じる植松が「あの男」の報道について話すシーンで、円安と消費税率にも触れている。政府の無策や市民生活の切り捨てはパンデミックとともに去ったわけではない(パンデミックも完全に去ったわけではないが)。人類が新たな危機に直面する中で、これからも問題と向き合い、手を差し伸べる姿勢を忘れてはいけない、さもなくば“あの男”が私たちの弱さにつけ入る——『THIS MAN』はそんなメッセージを届けてくれる作品だった。

映画『THIS MAN』は2024年6月7日(金)より、新宿ピカデリーほか全国ロードショー。

『THIS MAN』公式サイト

【ネタバレ注意!】『陰陽師0』ラストのネタバレ解説はこちらから。

【ネタバレ注意!】『マッドマックス:フュリオサ』ラストのネタバレ解説はこちらから。

【ネタバレ注意!】『猿の惑星/キングダム』ラストのネタバレ解説&考察はこちらの記事で。

齋藤 隼飛

社会保障/労働経済学を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で4年間、教育業に従事。アメリカではマネジメントを学ぶ。名前の由来は仮面ライダー2号。 訳書に『デッドプール 30th Anniversary Book』『ホークアイ オフィシャルガイド』(KADOKAWA)。正井編『大阪SFアンソロジー:OSAKA2045』の編集担当、編書に『野球SF傑作選 ベストナイン2024』(Kaguya Books)。
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