日本語予告になかった重要な視点『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』と『ブルービートル』が描く二人のラテン系ヒーロー | VG+ (バゴプラ)

日本語予告になかった重要な視点『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』と『ブルービートル』が描く二人のラテン系ヒーロー

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『ブルービートル』『スパイダーバース』の共通点

米時間2023年4月3日(月)から4月4日(火)にかけて、米国でワーナーのDC映画『ブルービートル(原題:Blue Beetle)とソニーのマーベル映画『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』の予告映像が公開された。異なる会社の実写とアニメのスーパーヒーロー映画という両作だが、米国と中南米ではある共通点に注目が集まっている。

『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』と前作『スパイダーマン:スパイダーバース』(2018) に共同脚本として参加しているフィル・ロードは、『ブルービートル』の予告編公開を受けて自身のTwitterに、9bcollectiveTiago Datrintiが制作した一枚の画像を投稿した。

そこには、「二人のラテン系ヒーローのビッグトレーラーが公開された」という文章と、『ブルービートル』の指揮をとるアンヘル・マヌエル・ソト監督へのメンションと共に、『ブルービートル』の主人公ハイメ・レイエスと「スパイダーバース」の主人公マイルス・モラレスがグータッチを交わすイラストが添付されている。

『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』のマイルス・モラレスは、“初の黒人スパイダーマン”という点が強調されがちだが、母親はプエルトリコ系であり、ラテン系のヒーローでもあるのだ。そして、映画『ブルービートル』の主人公ハイメ・レイエスを演じる俳優のショロ・マリデュエニャは、メキシコ、キューバ、エクアドルにルーツを持っており、DC映画では初のラテン系の主人公ということになる。

今回のツイートを投稿した「スパイダーバース」の脚本を務めるフィル・ロードはキューバ系で、『ブルービートル』のアンヘル・マヌエル・ソト監督はプエルトリコ出身である。白人監督・白人主人公に偏りがちだったスーパーヒーロー映画の世界で、ラテン系のクリエイターとヒーローが輝くモーメントに、企業の枠を越えたメッセージが届けられたのだ。

日本語予告になかった視点

実は、4月4日に公開された『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』の予告編の内、日本語の予告は「インターナショナルバージョン」となっており、これとは別に米国版が公開されている。米国版にはヴィランのスポット (The Spot) とマイルス・モラレスが遭遇するシーンもあるのだが、重要なのはその後の展開だ。

マイルスはスポットとの戦いを抜け出してスクールカウンセラーと両親を交えた面談に臨むのだが、全体的な成績は良いとされている。体育の成績では「A」の評点を取っているが、スペイン語の授業では一ランク下がる「B」の評点になっていることが明かされる。5段階評価の「4」であり、決して悪い成績ではないのだが、スペイン語が母語であると思われるマイルスの母リオはショックを隠せない。

前述の通り、リオはプエルトリコ系であり、前作でもマイルスとリオはスペイン語で言葉を交わす場面があった。家庭内では英語だけでなくスペイン語の教育もしているのだろう。それに、“マイルス”はアメリカの黒人男性に多い名前だが、“モラレス”というラテン系の母の苗字を引き継いでもいる(父の名はジェファーソン・デイビス)。

リオからスペイン語で叱責されたマイルスは、窓の外にスポットの姿を見つけて部屋を飛び出す。そして、スクールカウンセラーは「彼はあなた方に嘘をついています。分かってると思いますが」と告げるのだった。

もう一つのアイデンティティ

これらの演出から、マイルスはもう一方のアイデンティティであるラテン系の自分に背を向けているように思える。前作『スパイダーマン:スパイダーバース』では、ノートリアス・B.I.G.など往年のクラシックHIPHOPを聴く叔父のアーロンの影響が色濃く描かれ、ブラックカルチャーの表現者としてのマイルス・モラレスの姿が描かれた。

だが、今回マイルスが対峙するのは、原作コミックにおいて“初のラテン系スパイダーマン”となったミゲル・オハラだ。初の黒人スパイダーマンであり、二人目のラテン系スパイダーマンでもあるマイルス・モラレスは、二つのアイデンティティを持って「スパイダーマンの運命」と対峙することになる。

今回の予告編では、マイルスは「犠牲を払って多くの人々を救う」というスパイダーマンの運命と向き合うことが示唆されている。それは「大いなる力には大いなる責任が伴う」というスパイダーマンのアイデンティティにも通じるテーマであり、マイルスはその運命に抗うことが予想される。

ラテン系のアイデンティティに背を向けつつある思春期のモラレスが、スパイダーマンとしてのアイデンティティとも対峙し、一方で初代ラテン系のスパイダーマンであるミゲル・オハラと衝突するというのが、『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』で描かれる物語なのだろう。

米国には6,000万人以上のヒスパニックの人々が暮らしており、米国版予告ではマイルスのスペイン語との向き合い方を通してラテン系の物語が同時に描かれることが強調されていた。残念ながら日本語版を含むインターナショナル版ではこのくだりはカットされているが、物語の根幹にも影響する大事な設定だと考えられる。

活躍続くラテン系ヒーロー

そして今回、DCUのリニューアルの命運を背負うブルービートルとグータッチを交わしたマイルス・モラレス。アンヘル・マヌエル・ソト監督もフィル・ロードと同じ画像を投稿し、両映画のハッシュタグをつけて“ラテン系ヒーローの時代”を印象付けている。

MCUにおいては、近年はラテン系俳優がヒーローを演じるケースが増加傾向にあった。「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」シリーズのガモーラ役を演じたドミニカ・プエルトリコ系のゾーイ・サルダナはもちろん、『エターナルズ』(2022) のエイジャック役でメキシコ系のサルマ・ハエック、アメリカ・チャベス役でメキシコ系のソーチー・ゴメスや、単独主演では『ムーンナイト』(2022) のグラテマラ生まれでキューバ系のオスカー・アイザック(『アクロス・ザ・スパイダーバース』ではミゲル・オハラの声優)、『ウェアウルフ・バイ・ナイト』(2022) のメキシコ人俳優ガエル・ガルシア・ベルナルなど、枚挙にいとまがない。

ジェームズ・ガン共同CEO指揮下のDCUの新たな幕開けとなる映画『ブルービートル』では、ドラマ『コブラ会』(2018-) のミゲル役で知られるショロ・マリデュエニャが主演を務める。ビッグスクリーンで単独主役を務めるラテン系のニューヒーローの活躍には大いに期待したい。

映画『ブルービートル(原題:Blue Beetle)』は2023年8月18日米公開。映画『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』は2023年6月16日(金) より全国の映画館で公開。

「スパイバース」公式サイト

映画『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』最新予告の解説&考察はこちらの記事で。

映画『ブルービートル』予告編の解説&考察はこちらから。

 

『スパイダーマン:スパイダーバース』のレビューはこちらの記事で。

DC10年計画『神々と怪物』の前作紹介はこちらから。

齋藤 隼飛

社会保障/労働経済学を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で4年間、教育業に従事。アメリカではマネジメントを学ぶ。名前の由来は仮面ライダー2号。 訳書に『デッドプール 30th Anniversary Book』『ホークアイ オフィシャルガイド』『スパイダーマン:スパイダーバース オフィシャルガイド』『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース オフィシャルガイド』(KADOKAWA)。正井編『大阪SFアンソロジー:OSAKA2045』の編集担当、編書に『野球SF傑作選 ベストナイン2024』(Kaguya Books)。
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