ネタバレ考察『すずめの戸締まり』閉じ師の設定や神話との繋がりを深掘り ダイジンの行動の意味は? | VG+ (バゴプラ)

ネタバレ考察『すずめの戸締まり』閉じ師の設定や神話との繋がりを深掘り ダイジンの行動の意味は?

©2022「すずめの戸締まり」製作委員会

他作品と他神話と『すずめの戸締まり』の共通点

第46回日本アカデミー賞ではアニメーション作品賞を受賞し、第96回アカデミー賞長編アニメ映画賞の出品作となった『すずめの戸締まり』(2022)。その物語は岩戸鈴芽という少女の旅を通して描かれる成長譚だ。そこでは様々なメッセージが登場する。

本記事では『すずめの戸締まり』の設定を他作品や日本国外の神話と比較し、考察と解説をしていこう。なお、本記事は『すずめの戸締まり』のネタバレを含むため、本編視聴後に読んでいただけると幸いである。

ネタバレ注意
以下の内容は、アニメ『すずめの戸締まり』の内容に関するネタバレを含みます。

『すずめの戸締まり』の根底にはギリシャ神話?

忘却の椅子

物語の核を握る『すずめの戸締まり』の要石は日本神話におけるタケミカヅチノミコトの伝承がもとになっていると考察できる。雷、剣の神であり、相撲の開祖であるタケミカヅチノミコトは地震の原因である大鯰を鎮める神として描かれることが多い。江戸時代には大鯰を踏みつけるタケミカヅチノミコトの浮世絵なども残されている。一見すると祝詞の内容などから日本神話が中心になっていそうな『すずめの戸締まり』だが、設定に注目すると日本神話ではなくギリシャ神話を想起させるものも多いと考察できる。

ギリシャ神話に忘却の椅子という存在が登場する。椅子は『すずめの戸締まり』において宗像草太が変身してしまう重要なものだ。ギリシャ神話の忘却の椅子は冥府の更に奥のタルタロスに存在する椅子で、座ると記憶をすべて失ってしまう恐ろしい椅子だ。ギリシャ神話ではペイリトオスという青年と英雄テセウスが座り、記憶を失って4年間座り続けた。そして、テセウスは救われたがペイリトオスは救うことが出来なかった。

ペイリトオスを救おうとしたのはかの有名な英雄ヘラクレスだ。ヘラクレスは十二の功業の1つである地獄の番犬ケルベロスの生け捕りの際、タルタロスへ降りてきたところでペイリトオスとテセウスを見つけた。テセウスを救い出すことには成功したが、ペイリトオスを救い出そうとすると地震が起きたことで救出を諦めた。この展開は『すずめの戸締まり』における宗像草太が置かれた立場と同じだと考察できる。

名前というアイデンティティ

名前など個人を示すアイデンティティを喪失することで無力化するという文化のは世界各地で見られ、古くは古代エジプトでも本当の名前を隠すことで、アイデンティティを奪われないように身を守る文化があったと言われる。名前も何もかも忘れ、要石として地震を封印し続ける草太はペイリトオスとよく似ている。それを踏まえると、宗像家は長年人柱となってミミズを封じてきた一族かもしれないと考察できる。

もしかすればダイジン(大尽)とサダイジンは名前も忘れてしまった宗像家の祖霊なのかもしれない。草太の祖父であり、閉じ師の師匠である宗像羊朗の羊朗の名前に入っている「羊」は西洋の神話では生贄の象徴であり、羊郎もまた要石の候補だったのかもしれないと考察できる。

アトラスとダイジン

また、ダイジン(大尽)は草太を代わりの要石にしようとしている。その設定は同じくギリシャ神話のアトラスを想起させる。アトラスはティターン神族という古い神々の一柱であり、ゼウスたちとの戦いで敗北すると世界の西の果てで天空を支える役割を担うことになった。

ここでも関わってくるのがヘラクレスだ。ヘラクレスは十二の功業の1つのヘスペリデスの黄金の林檎を取る際に、アトラスを頼った。アトラスは天空を背負い続けるという重荷から逃げるため、一時的にヘラクレスと役割を交代した。ヘラクレスはアトラスに騙され、目的を果たすまでというところで天空を背負い続けるはめになった。

この点でも要石代わりを変わってほしいと考えていたダイジン(大尽)とギリシャ神話に関連性があると考察できる。そのことからも、『すずめの戸締まり』は東日本大震災と日本神話の用語を使っているが、その根底にはギリシャ神話がある可能性を考察できる。

『すずめの戸締まり』の閉じ師と他作品の共通点

境界線を越える旅路

『すずめの戸締まり』は境界線を象徴する描写が多いと考察できる。“戸締まり”というタイトルは扉を想起させる。主人公の姓は日本神話で有名な「天岩戸」と同じ岩戸だ。天岩戸は太陽神アマテラスオオミカミが閉じこもった扉の名前で、『すずめの戸締まり』にぴったりのキャラクター名と言える。そして、天岩戸でも取り上げられている“扉”という存在は空間と空間を隔て、出入り口にもなる存在だ。他にも舞台になる浜辺は海と陸の境界線でもある。

また、主人公の岩戸鈴芽は十代という不安定な時期にある。『すずめの戸締まり』には大人と子供の境界線に置かれているティーンエイジャーが旅を通し、心の問題などを乗り越え、再出発するというヒーローズ・ジャーニー(英雄の旅)の要素もあると考察できる。ヒーローズ・ジャーニーは宗教学などで用いられる用語で、主人公が非日常の最大の試練を乗り越え、日常に帰るまでの旅路のことだ。

ヘラクレスの十二の功業は有名なヒーローズ・ジャーニーの1つでもある。伝承の英雄からアクション映画の主人公に至るまで、多くの冒険譚がこの類型に当てはまると言われている。

そのヒーローズ・ジャーニーで重要な役割を果たすのが閉じ師という存在だ。閉じ師は人々がいなくなった後の場所にできる「後ろ戸」を閉めることで、災害を防ぐ職業だ。一族代々受け継がれていく閉じ師は、後ろ戸を閉める際に祝詞を唱える。それが以下のようなものだ。

かけまくもかしこき日不見(ひみず)の神よ
遠つ御祖(おみや)の産土(うぶすな)よ
久しく拝領つかまつったこの山河
かしこみかしこみ、謹んでお返し申す

これは日不見の神、『すずめの戸締まり』における「ミミズ」の出現に対して、土地の神である産土の神に土地を返すことで災いを鎮める願いを込めた言葉である。『すずめの戸締まり』において土地や自然は神に借りているものであり、それを返すことで人間にとって自然の負の面である災いを鎮めることが出来るのだ。

音撃戦士と閉じ師

閉じ師の設定は他作品で言えば、「仮面ライダー」シリーズの『仮面ライダー響鬼』(2005-2006)に登場する猛士に所属する鬼の設定を想起させる。鬼は音撃戦士とも呼ばれ、「清めの音」により、自然界の力によって生み出された悪しき存在、自然の負の面である魔化魍(まかもう)を倒す存在である。

『仮面ライダー響鬼』では鬼は人間が修行によって心身を鍛えた末に辿り着く境地であり、鬼もまた自然が生み出した存在である。そして、猛士という組織は例外こそあるものの一族代々役割を受け継ぎ、表向きは別の職業に就きながらも鬼やそのサポーターとして活動している。

猛士は表向きではオリエンテーリングのNPO団体であるTAKESHIと名乗り、アウトドア用品の製造と販売を行なっている。閉じ師も、それだけでは食べていけないため、宗像草太は教師を目指すなど表向きには別の職業に就いている。

自然の中の悪意

自然の負の側面に立ち向かう存在よりも共通点を感じさせたのは、その中に入り込む悪意の存在である。『仮面ライダー響鬼』には童子と姫といった魔化魍を育てる存在が登場する。彼らは土塊や落ち葉が集まった魔化魍に人間という餌を与え、成長するように促す。猛士は童子と姫たちに対して、「何か悪意を感じる」と語っているなど、魔化魍とは異なる脅威だ。

『すずめの戸締まり』では後ろ戸に案内するダイジン(大尽)も、時折悪意のようなものを垣間見せる。終盤では岩戸鈴芽と叔母の岩戸環の心に溜まっていた澱みを爆発させている。震災で母親を喪った鈴芽と、彼女を育てるために人生を犠牲にしたという環の感情を爆発させる様子は自然的なものではない悪意を感じる。

『すずめの戸締まり』は旅路を通して、鈴芽が様々な人々と触れ合うことで、そのようなドロドロとした澱みを心に抱えていても良いという結論を出してくれていると考察できる。そこで重要になるのが旅であり、それを象徴するのがヒーローズ・ジャーニーだ。

ヒーローズ・ジャーニー(英雄の旅)

また、草太は当初、鈴芽に対して閉じ師のことを忘れるように話すが、これも『仮面ライダー響鬼』でも見られた演出だ。『仮面ライダー響鬼』では第1話で「屋久島のツチグモ」との戦いを目撃した明日夢少年に対して、響鬼はこのことを忘れるように語る。しかし、明日夢少年は忘れられるはずもなく、受験勉強そっちのけで響鬼のことに夢中になる。

鈴芽も閉じ師のことを忘れることなどできず、結果的にだがダイジン(大尽)を追う旅をすることになる。大きな出来事に巻き込まれ、それによって旅や更なる経験を果たす。これは『仮面ライダー響鬼』と『すずめの戸締まり』に共通する少年少女の成長譚、ヒーローズ・ジャーニーだと考察できる。

『仮面ライダー響鬼』と同じ自然観や、ヒーローズ・ジャーニーを持ちながら、ギリシャ神話の要素も持つ『すずめの戸締まり』。第96回アカデミー賞の出品作として選ばれたのも、そのような国内外で通じるメッセージがあったからと考察できる。そこに注目して、もう一度『すずめの戸締まり』を観てみると新しい発見が得られるかもしれない。

『すずめの戸締まり』公式サイト

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『すずめの戸締まり』ラストの解説はこちらから。

『すずめの戸締まり』の声優キャストまとめはこちらから。

『君の名は。』の声優キャストまとめはこちらから。

『天気の子』の声優キャストまとめはこちらから。

鯨ヶ岬 勇士

1998生まれのZ世代。好きだった映画鑑賞やドラマ鑑賞が高じ、その国の政治問題や差別問題に興味を持つようになり、それらのニュースを追うようになる。趣味は細々と小説を書くこと。
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