映画『すずめの戸締まり』公開
2016年公開の映画『君の名は。』、2019年公開の映画『天気の子』に続く新海誠監督の最新作『すずめの戸締まり』が2022年11月11日(金)より全国の劇場で公開された。本作では主人公・鈴芽の声を1,700名以上が参加したオーディションで選ばれた原菜乃華が演じ、物語のキーキャラクターとなる草太の声をSixTONESのメンバーである松村北斗が演じた。
大きな注目を集める中公開された本作は、新海誠監督の集大成とも言える作品になっている。今回は、少々戸惑ったという人も散見されるそのラストについて解説と考察をしていこう。以下の内容は『すずめの戸締まり』の結末に関するネタバレを含むため、必ず劇場で本編を鑑賞してから読んでいただきたい。
また、本作には地震の描写と津波に関連する描写、震災についての描写があり、本記事でもそれについて触れているので注意していただきたい。
映画『#すずめの戸締まり』
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以下の内容は、映画『すずめの戸締まり』の結末に関するネタバレを含みます。
『すずめの戸締まり』ラストはどうなった?
『天気の子』とは異なる最後
映画『すずめの戸締まり』は、宮崎県で叔母の環と共に暮らす鈴芽が、“閉じ師”として全国を周る草太との出会いをきっかけに、日本各地の“後ろ戸”を閉じながら旅をするロードムービーだった。草太は、日本列島の地下でうごめく“ミミズ”、放置された集落の“扉”から飛び出して地震を起こす前に扉を閉じることを家業としていた。
鈴芽が日本に二つある要石(かなめいし)の一つを抜いてしまったことで、要石は猫の姿をした“ダイジン”となり、その役割を草太に引き継がせてしまう。鈴芽は、東京に住む100万人の人々と草太のどちらを取るか選択を迫られ、草太の説得もあり草太を要石にしてミミズを鎮めることを選ぶ。この展開は、雨で海に沈む東京よりも陽菜を選んだ『天気の子』における帆高の選択と対になっている。
しかし、「セカイ<きみ」という選択で終わった『天気の子』と「セカイ>きみ」という選択を選んだ『すずめの戸締まり』が決定的に異なる点は、本作では鈴芽がここで草太のことを諦めなかったことだ。鈴芽はここから要石になった草太を救うため、迎えに来た叔母の環と颯太の友人の芹澤と共に再び旅に出る。
震災と向き合う
鈴芽が目指したのはかつて、鈴芽が母と住んでいた東北の地だった。その故郷はかつての大震災で廃墟になっていた。鈴芽がそこで見つけた自分の絵日記には、3月11日を最後にページは真っ黒に塗りつぶされていた。これは明らかに2011年3月11日に発生した東日本大震災を題材にしている。
新海誠監督は、映画『君の名は。』では震災ではなく“隕石の墜落”という設定で災害を描いた。この時は時を超えて被害を食い止めようとする主人公の姿が描かれた。『天気の子』では豪雨という災害によってセカイが壊れていくことを受け入れる主人公の姿が描かれている。『すずめの戸締まり』では、既に起きてしまった災害、それも現実に起きた大震災にどのように向き合うかということが描かれている。
鈴芽は震災で母を失い、叔母の環のもとで育てられていた。また、草太が姿を変えた椅子は母の椿芽が鈴芽に作ってくれたものだった。鈴芽にとって椅子になった草太を失うということは、草太の喪失と共に母の唯一の形見である椅子を失うことも意味していた。なお、原作小説では、鈴芽は母を見つけたと絵日記に書きたかったがそれは叶わず、その事実をなかったことにするために日記を黒く塗りつぶしていたとされている。
鈴芽は小さい頃に後ろ戸から常世に迷い込み、そこで母と思われる人物に出会っていた。その後ろ戸を故郷で見つけた鈴芽は、これまでダイジンが後ろ戸を開けて回っていたのではなく、開いた後ろ戸の場所まで自分達を案内してくれていたことに気が付く。環に「好きな人のところ」へ行くと告げた鈴芽は、遂に後ろ戸を通って常世へと入っていくのだった。
常世で見たもの
常世では街が燃えており、ミミズが後ろ戸から飛び出そうとしていた。旅の途中で合流したもう一つの要石であるサダイジンは、巨大なミミズと戦い鈴芽を助ける。サダイジンの元ネタは神社の随身門の左側に置かれる神像の“左大神”だと考えられる。となれば、ダイジンの方も対となる“矢大臣”が元ネタの可能性もあるが、大きさや役割的に対になっている訳ではなさそうなので、一般的な“神様”を意味する“大神”を指しているものと思われる。
サダイジンが巨大なミミズを食い止めている間に、鈴芽は黒い丘の上で光る椅子となった草太を見つけて駆け寄る。鈴芽は草太を引き抜こうとして、ダイジンは一度はミミズが解放されると忠告するが、自分が代わりに要石になると言う鈴芽をダイジンは手伝い、遂に草太が解放される。
今まで自分を犠牲にしてきた草太は、初めて「君に会えたから」「生きたい」と自分の正直な気持ちを吐露する。鈴芽も同じ気持ちであることを認めると、鈴芽は椅子に口づけをして草太を要石から解放したのだった。王子さまがお姫様にキスをして解放する古い童話的な物語を逆転させた展開で、草太はようやく人間の姿に戻ることになる。
声を聞くこと
ダイジンは再び要石になることを選ぶ。「鈴芽のこにはなれなかった」とは、序盤で鈴芽がダイジンに言った「うちのこになる?」という問いかけが元になっている。この言葉は母を失った鈴芽が環から言われた言葉でもある。ミミズと戦ってきたサダイジンも要石になり、鈴芽と草太はミミズに要石を突き刺すことに成功する。
この最後の戦いの背中を押したのは、あの日まで、この町で生きていた人々の「いってきます」「いってらっしゃい」という声だった。亡くなった人々に思いを馳せ、その声を聞こうと努力すること。それは『すずめの戸締まり』という作品全体のメッセージとも言える。
ラストシーンの意味は?
戦いを終えた鈴芽は、常世で過去の自分の姿を見つける。かつて、後ろ戸を通って常世に迷い込んだ幼い頃の自分だ。幼い頃の鈴芽は、母に作ってもらった椅子をここで拾っていたのだ。そして鈴芽は何度も夢で見ていた光景の真実を知る。
夢で見ていた幼い自分の前に立つ母と思われていた人物は、未来の自分の姿だったのだ。幼い頃に後ろ戸を通って常世に来てしまった鈴芽は、今、再び同じ後ろ戸を通って常世に来た。また会えると思っていた母は母ではなく、未来の自分自身だった。
「お母さん?」と聞き、母がまだ自分のことを探していると主張する過去の自分に対して、鈴芽は「本当はもう分かってた」と母の死を受け入れる。泣きじゃくる幼い自分を抱きしめると、鈴芽は「鈴芽はこの先ちゃんと大きくなる」と言い、いつか人を愛し、人から愛されるようになり、光の中で大人になっていくと約束する。
『すずめの戸締まり』屈指の名シーン。“未来から来た自分”というSF設定を用いながら、未来が見えない過去の自分に未来を“約束”してあげる。『すずめの戸締まり』は、『君の名は。』や『天気の子』のように「ぼく」が「きみ」を救う物語ではない。誰かに救われるのではなく、亡くなった人の死を受け止めながら、自分で自分自身を救うのだ。
それが、『すずめの戸締まり』が新海誠監督の集大成とも言われる所以だろう。鈴芽のラストシーンまでのアシストを務める芹澤を、『君の名は。』で主人公・立花瀧の声を演じた神木隆之介が演じている点もポイントだ。芹澤はあくまで優男として鈴芽を手伝うに過ぎず、最後に鈴芽が向き合うのは自分自身であり、旅のゴールは自分自身なのだ。
その後の旅
鈴芽は「いってきます」と言って後ろ戸に鍵をかける。これは過去を(捨てるのではなく)大事にしまい、未来へと歩き出していくことの比喩だろう。芹澤は二万円を貸していたのではなく借りていたことを明かし、草太は戸締まりをしながら東京に帰るために電車に乗って鈴芽と別れる。草太は再び鈴芽に会いに行くことを約束している。
鈴芽は環と共に新幹線で宮崎へ戻るのだが、このエンディングでは鈴芽が各地で出会った女性たちとの再会が描かれる。神戸では二人の子ども育てながらスナックを経営するルミと、愛媛では鈴芽と同じ高校2年生の千果と再会し、その度に環がお世話になった人々に頭を下げている。40代の環も含め、それぞれ年代と境遇にある女性に助けられながら達成したのが今回の鈴芽の旅だった。
宮崎に帰った鈴芽は勉学に励み、母の仕事だった看護師を目指している。そんなある日、見慣れた人影が宮崎の坂道を上がってくる。草太だ。鈴芽は「おかえり」と声をかけ、『すずめの戸締まり』は幕を閉じる。
以上が『すずめの戸締まり』のラストについての解説と考察だ。様々な評価のある本作、皆さんはどのように捉えられただろうか。
映画『すずめの戸締まり』は2022年11月11日(金)より全国の劇場で公開。
『すずめの戸締まり』は小説版も発売中。
サントラも発売中。
『すずめの戸締まり』の声優キャストまとめはこちらから。
『君の名は。』の声優キャストまとめはこちらから。
『天気の子』の声優キャストまとめはこちらから。