『ゴジラxコング 新たなる帝国』の幻の怪獣について解説&考察
ゴジラとコング、更にはモスラも登場するなど、「ゴジラ」シリーズ70周年記念とモンスター・ヴァース10周年に相応しい映画となっている『ゴジラxコング 新たなる帝国』。そこでは様々な怪獣が登場しており、正しく怪獣のお祭り映画となっている。だが、映画を製作する際には予算や決められた時間内に作品を収める必要性がある。
そのため、沢山怪獣を出そうとしても制約というものはついて回る。『ゴジラxコング 新たなる帝国』も例外ではなく、登場せずに終わってしまった怪獣が存在しているのだ。本記事では、『ゴジラxコング 新たなる帝国』において幻の怪獣となってしまったキャラクターについて解説と考察を述べていこう。なお、本記事は『ゴジラxコング 新たなる帝国』のネタバレを含むため、本編視聴後に読んでいただけると幸いである。
以下の内容は、映画『ゴジラxコング 新たなる帝国』の内容に関するネタバレを含みます。
『ゴジラxコング 新たなる帝国』で幻となった怪獣“フォスフェラ”
怪獣の女王モスラに鳥人の影
かつて地上を侵略しようとしたスカーキングとその配下との戦いを描いた『ゴジラxコング 新たなる帝国』。その中でも観客を驚かせたのは、怪獣の女王であるモスラの登場だろう。モスラはイーウィス族の守護者の怪獣、通称プロテクターである。地下空洞のイーウィス族の伝承では、スカーキングが再び地上を侵略したときに髑髏島のイーウィス族によって復活すると解説されている。
髑髏島のイーウィス族の最後の1人であるジアによって復活したモスラは、コングの説得を無視してギザのピラミッドで暴れまわるゴジラを説得して、共同戦線を張ることを成功させた。しかし、このモスラの活躍の裏に幻の怪獣がいるのはご存じだろうか。その怪獣は鳥人の姿をした怪獣フォスフェラだ。
モスラの補欠怪獣?
この幻の怪獣フォスフェラの登場に関して、『ゴジラxコング 新たなる帝国』の監督であるアダム・ウィンガードは米The Wrapのインタビューで解説している。「モスラの代わりにフォスフェラという別のキャラクターがいました。しかし、脚本では常にモスラを中心に書かれていました」とのことだ。
『ゴジラvsコング』(2021)でもモスラを登場させる予定が存在しており、そこでは『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(2019)に登場した双子のモナークの考古人類学者姉妹アイリーン・チェン博士とリン・チェン博士を小美人の代役として登場させるはずだった。『ゴジラxコング 新たなる帝国』では、アダム・ウィンガード監督がようやくモスラ登場を叶えた形になっていると考察できる。アダム・ウィンガード監督は更に以下のように続けた。
ネット上では、このモスラではない怪獣のフォスフェラが試写会で酷い評価を受けたというデマが流れています。しかし、計画は常にモスラでした。でも、モスラを出演させられるどうかはわかりませんでした。試写会した後、その前のバージョンがあって、その時には事態は解決していて、モスラを出演させることができたのです。
それというのも、このフォスフェラを見れば、モスラがやるようなことはすべてやっていますし、言っていますが、モスラではない別の怪獣になってしまうからです。最終的に、モスラを登場させることができなかったとしたら、とても残念なことです。最初からモスラを登場させる計画がなかったと考える人がいるのが気に入りません。脚本の最初の草稿を見ると、必ずモスラと書いてあるのです。
ストーリーに残されたフォスフェラのエッセンス
モスラ出演によりフォスフェラは幻の怪獣となったが、イーウィス族の神殿の壁画などでフォスフェラの名残りが存在している。それでも、モスラは最初から登場予定であり、フォスフェラはあくまでも補欠の怪獣であったことは確かなようだ。だが、『ゴジラxコング 新たなる帝国』でのモスラの活躍を見ると、そこにフォスフェラの要素を感じ取ることができる。
地下空洞の壁画で描かれたフォスフェラは頭に紋章があり、背中には羽毛のある翼、大きな三角形の尾を持った鳥人として描かれている。この鳥人の姿はエジプトの豊穣の女神イシスを想起させる。イシスは背中にはトビの翼、頭部に牛の角と太陽円盤を持った女性として表現されることが多い。そして、フォスフェラが担うはずだった場面ではピラミッドが印象的なものとして描かれている。
最初は地下空洞での結晶体のピラミッド、その次がギザのピラミッドである。特にギザのピラミッドでは髑髏島のイーウィス族のジアと共にゴジラを説得しているが、ゴジラを説得する場面のために北極海に眠っていたゴジラはエジプトまで移動している。エジプトにこだわったのはフォスフェラがイシスをモデルにした怪獣だったからではないだろうか。
東宝は怪獣を実在の俳優のように扱っており、その出演権などには慎重な姿勢を示している。そのことから、モスラの出演権が獲得できなかった可能性をレジェンダリーやワーナーは危惧し、エジプト神話から着想を得た怪獣フォスフェラを誕生させたと考察できる。しかし、幸運にもモスラの出演権が獲得できたため、フォスフェラは幻の怪獣となった。そこで、エジプト神話の要素だけが脚本に残ったとも考察できる。
モンスター・ヴァース怪獣から見る東宝怪獣へのオマージュ
フォスフェラについて、このような保険の産物だったと考察すると、モンスター・ヴァースにおいて重要な要素が見えてくる。それはモンスター・ヴァースのオリジナル怪獣は東宝怪獣が出演できない際の代役怪獣が存在しているという可能性である。そのため、怪獣が多数登場した『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』や『ゴジラxコング 新たなる帝国』で登場したモンスター・ヴァースのオリジナル怪獣のいくつかは東宝怪獣の代役だったと考察できる。
たとえば、東洋の龍を思わせるデザインを持つティアマットは『海底軍艦』(1963)でデビューした東洋の龍に似た海底のムウ帝国の守護神マンダを想起させる。古代怪獣のシーモのデザインには『ゴジラの逆襲』(1955)で初登場し、それ以降はゴジラの舎弟扱いされているアンギラスを想起させる。このように、様々なモンスター・ヴァースのオリジナル怪獣の中に東宝怪獣のオマージュを読み取ることが出来るのだ。
すべてはイースターエッグ?
それは怪獣のデザインだけではなく、ストーリーからも読み取ることが出来る。類人猿型の怪獣同士が戦うのは『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』(1966)を想起させる。アダム・ウィンガード監督は昭和後期の「ゴジラ」シリーズのファンであることを公言しており、そのファンに向けてイースターエッグを仕込んでいることも解説していることから、コングvsスカーキングという構図自体がイースターエッグだったとも考察できる。
幻の怪獣から様々なイースターエッグやオマージュを読み取ることが出来る『ゴジラxコング 新たなる帝国』。映画としての興行成績も良く、アダム・ウィンガード監督自身も『ゴジラvsコング』と『ゴジラxコング 新たなる帝国』に続く作品をつくることで三部作にしようと考えているなど、続編制作の可能性は高いと考察できる。そこでは東宝怪獣が登場するのか、それともそこから発展させたモンスター・ヴァースのオリジナル怪獣が登場するのか。期待したいところだ。
『ゴジラxコング 新たなる帝国』は2024年4月26日(金)より全国公開。
『ゴジラxコング 新たなる帝国』のサウンドトラックは発売中。
『ゴジラvsコング』の完全数量限定生産4枚組Blu-rayも発売中。
Source
The Wrap
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