『アントマン&ワスプ:クアントマニア』にサノスの影?
映画『アントマン&ワスプ:クアントマニア』は、『アントマン』(2015)、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016)、『アントマン&ワスプ』(2018)、そして『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019) に続いて、アントマンの活躍が描かれる作品になる。
それ以外にも、アントマンことスコット・ラングは、ドラマ『ミズ・マーベル』(2022) や映画『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』(2022) でも小ネタとしてその名前が登場している。『ワカンダ・フォーエバー』では自伝の朗読ツアーを継続するというニュースがテレビのテロップに映し出されていた。
そのように、他のMCU作品との接点も多いことで知られるアントマンだが、映画『アントマン&ワスプ:クアントマニア』では、意外なところでサノスとサム・ウィルソンに関連する描写が登場している。今回はそのシーンについて紹介していこう。なお、以下の内容は『クアントマニア』本編のネタバレを含むので注意していただきたい。
以下の内容は、映画『アントマン&ワスプ:クアントマニア』の内容に関するネタバレを含みます。
『アントマン&ワスプ:クアントマニア』の注目シーン
そのシーンは、『アントマン&ワスプ:クアントマニア』の冒頭にある。『アベンジャーズ/エンドゲーム』で世界を救ったアントマンことスコット・ラングは、“その後”の人生について揚々と語りだす。その中で、ワスプことホープ・ヴァン・ダインは父ハンク・ピムが創業したピム・テックを継いだことが明かされている。
ピム・テックは映画『アントマン』でハンクの弟子でCEOを任せていたダレン・クロスに社名も“クロス・テック”にされそうになったが、イエロージャケットの技術を破壊するために本社もろとも爆破することで難を逃れた。ハンクとホープがサノスの指パッチンによるデシメーションで5年間消えていたこともあり、その後のピムテックがどうなったかは不明だった。
しかし、『クアントマニア』では、ピム・テックをホープが引き継ぎ、その社名も「ピム・ヴァン・ダイン財団」に変更されている。アメリカは選択的夫婦別姓であり母の苗字を選んで名乗っていたホープが、父ハンクと母ジャネットの両方の名前をつけたのだ。事業としては新規に立ち上げたのかもしれないが、その実はピム粒子を活用した事業を展開している。
この描写がどのようにサノスに絡むのか。それは、ドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』(2021) を観ている人には伝わる内容になっている。スコットは、現在のホープが取り組んでいる事業について、「住宅や食料問題に取り組んでいる」と説明する。
食料問題については、この後のシーンでハンク・ピムがピム粒子を使ってピザを拡大している場面があり、確かにこれで食料問題は解決できそうだ。ハンクは「8ドル節約できた」と言っており、それではピザ屋が困るのではないかとも思うが、ここでは話を住宅問題にフォーカスしよう。
MCUの住宅問題
MCUで重要になるのは、同じくホープが取り組んでいる「住宅問題」の方だ。MCUの世界では、サノスの指パッチンから5年後に人々が復帰し、住宅の問題が発生していることはドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』で語られている。同作ではデシメーション(指パッチンによる人口半減)から復帰した人々の“再定住”を支援する世界再定住評議会 (GRC) が登場した。
デシメーションから復帰した人々の中には、もう戻ってこないと思われていた人も多くおり、世界では住宅の問題が発生した。住むところがない人々は難民になり、ラトビアの再定住キャンプからは、『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』のメインヴィランであるカーリ・モーゲンソウが率いるフラッグ・スマッシャーズが生まれた。
ドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』では、帰る家がない人々と政府がどう向き合うかがテーマの一つとして描かれた。そして、映画『シャン・チー/テン・リングスの伝説』(2021) でもケイティの家に貼られていたポスターで復帰した人々への公的な支援がオファーされていたし、ドラマ『ホークアイ』(2021) では5年間消滅していたエレーナの苦悩も描かれた。ドラマ『ムーンナイト』(2022) でも再定住評議会の広告が入ったバスが映り込んでいる。
解決に取り組む二人
『エンドゲーム』後のMCUにおいては難民の問題は常に存在しているのだが、『アントマン&ワスプ:クアントマニア』では、ただ問題があるという表現ではなく、その問題に取り組む人々の姿が描かれた。ホープはピム・ヴァン・ダイン財団を通して住宅問題に取り組んでいるとされていたが、これはデシメーションから復帰した人々の再定住に協力しているということだろう。
『アントマン&ワスプ』で何度も描かれたように、ピム粒子があれば小さな家を大きくしたり、大きな家を小さくして別の場所に移動させたりすることができる。同作のラストでは量子世界から復帰したジャネットのために、ハンクがピム粒子を利用してビーチに一軒家を出現させたシーンが印象的だった。
確かにアントマンことスコット・ラングはデシメーションから人々を復帰させてサノスを倒す原動力になったが、ワスプことホープ・ヴァン・ダインはサノスが残した傷痕から世界を回復させる役割を担っていたのだ。さらにスコットの娘のキャシーはホームレス状態にある人々のためにデモに参加しており、二人は『エンドゲーム』後も世界を良くするために活動に取り組んでいることが分かる。
だからこそキャシーは、セミリタイアしたスコットに苛立ちを覚えていたのだろう。大きな敵は一時的にいなくなったが、世界が抱える課題は山積みなのだ。ホープにとっても会社でまだまだ取り組むべき仕事があるというのは、明らかにサノスが残した傷痕の戦後処理のことである。
また、ドラマ『ホークアイ』ではホークアイことクリント・バートンがピム・テックのロゴが入った特殊な矢を使っている場面もあった。これもおそらく、かつてピム・テックの会長として活躍したホープの意向と権限によって提供されたものだと思われる。政府の公的機関としてのアベンジャーズが存在しない中で、ホープは積極的に世の中の役に立とうとしているように思える。
サム・ウィルソンとアントマン
ホープの取り組みを賞賛したところで、今後注目したいのは新たなキャプテン・アメリカに就任したサム・ウィルソンと、アントマンことスコット・ラングの絡みだ。サム・ウィルソンはドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』で、暴力的な手段に訴えざるを得ない難民の人々の側に立った。そしてスコットは『アントマン&ワスプ:クアントマニア』で住宅問題に取り組むホープとキャシーからヒーローとしての行動についてインスパイアされている。
この二人は映画『アントマン』で対決した因縁の仲でもある。かつてファルコンとしてアントマンに敗れたサム・ウィルソンも、今ではキャプテン・アメリカを継ぐ立場にある。スコットは『アントマン&ワスプ』でも『クアントマニア』でもあれだけスティーブ・ロジャース時代の“キャップ”と戦ったことを誇りに思っていたわけで、新キャプテンへの対応が気になるところだ。
サム・ウィルソンを主人公にした『キャプテン・アメリカ:ニュー・ワールド・オーダー(原題)』は2024年5月3日(金) に全米公開される。ここでもサノスが残した傷痕である住宅問題に触れられることになるかもしれないが、果たして……。
映画『アントマン&ワスプ:クアントマニア』は2023年2月17日(金) より劇場公開。
スコット・ラングを主人公にしたコミック『アントマン:セカンド・チャンスマン』は邦訳版が発売中。
ハンク・ピムのオリジンを描くコミック『アントマン:シーズンワン』も邦訳が発売中。
征服者カーンことナサニエル・リチャーズを主人公に据えたコミック『征服者カーン』も邦訳が発売中。
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