『ジェン・ブイ』最終回目前
Amazonドラマ『ジェン・ブイ』は、人気ドラマ『ザ・ボーイズ』(2019-) のスピンオフドラマ。腐敗したスーパーヒーローチームに一般人が挑む『ザ・ボーイズ』に対し、『ジェン・ブイ』ではスーパーヒーローを目指す能力者の大学生たちの物語が描かれる。
今回は、最終話直前となった『ジェン・ブイ』第7話の各シーンをネタバレありで解説と考察していこう。第7話は視聴対象が18歳以上になっており、露骨な残虐描写が含まれる。また、第7話については自傷及び自殺の描写を含むため、視聴には注意していただきたい。また、以下の内容はネタバレを含むので必ずAmazonプライムビデオで本編を視聴してから読んでいただきたい。
以下の内容は、ドラマ『ジェン・ブイ』第7話の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
『ジェン・ブイ』第7話「病」ネタバレ解説
ヴィクトリア・ニューマン登場
『ジェン・ブイ』シーズン1はいよいよ最終回直前に。前回はケイトの力が人を操るだけでなく、思考を読み取ることもできる(現在はインディラの薬で抑制している)こと、ビジョンを見せられることが明らかになった。そしてラストではインディラが能力者たちを殺すためのウイルスを開発させていたことも明らかになっている。
第7話の冒頭では、カルドーサがインディラの指示通りに能力者だけを殺すウイルスに感染力をつけて実験を行っていた。インディラはこれを空気感染にするよう指示。事実上の能力者への無差別攻撃だ。本当にそれをヴォートが望んでいるのかどうか疑うカルドーサは、ここでようやくインディラの個人プレーであることを知るが時すでに遅し。既にカルドーサはウイルス開発者であるという弱みを握られてしまうのだった。それにしてもウイルス開発に成功したカルドーサは相当優秀な人材だと言える。
ケイトはインディラを呼び出すが市内で用事があって帰りは遅くなるという。インディラはケイトに薬を飲むよう言うが、ケイトは同意しつつももう薬は飲んでいない。周囲の人々の思考が聞こえてしまうという副作用はあるが、それでもメディケーションを利用した支配から逃れようとしている。
テレビではゴドルキン大学の集会にヴィクトリア・ニューマンがやってくることが報じられている。ヴィクトリア・ニューマンは『ザ・ボーイズ』本編で登場した下院議員で、スーパーヒーローたちの問題に対処するFBSA(連邦超人問題局)を運営していたが、実際には自身も能力者だった。マリーと同じくレッド・リバー研究所の出身で、ヴォート社の元CEOスタン・エドガーに引き取られて容姿になった過去を持つ。
ヴィクトリア・ニューマンの来学を伝えているのはヴォートのケーブル局で放送されている「キャメロン・コールマン・アワー」。YouTubeで配信された「Vought News Network: Seven on 7」から冠番組に格上げされたキャメロン・コールマンが司会を務めている。
やはりその内容は偏っていて、英語ではキャメロン・コールマンはニューマンのことを「historically unpopular and phony socialist scammer=歴史的不人気のイカサマ社会主義詐欺師」と呼んでいる。言い過ぎである。さらにニューマンとジョージ・ソロスの関係についての噂も紹介しているが、ジョージ・ソロスは世界三大投資家の一人でブラック・ライブス・マター (BLM) の出資者でもある。様々な政治運動に支援を行っており、2018年にはトランプ支持者から爆発物を送りつけられている。
ちなみにこのテレビの周りにはスターライトなどのFUNKO POPフィギュアが置かれている。ご丁寧にAmazonのラベルが貼られているものもある。
ニューマンの現在地
また、ヴィクトリア・ニューマンは現在副大統領候補であることにも触れらているが、これは『ザ・ボーイズ』シーズン3でニューマンとホームランダーがディープを使って副大統領候補だったラマー・ビショップを殺害したからだ。シーズン3のラストでは大統領候補のダコタ・ボブことロバート・シンガー大統領候補がニューマンを副大統領候補に指名している。
ケイトはマリー、ジョーダン、アンドレにインディラを呼び出したことを伝えるが、もはや三人はケイトを信用していない。思考を読み取れてしまうケイトは自分が信用されていないことを知るが、ジョーダンは思考を読み取られていることに反発して立ち去ってしまう。この時ジョーダンは男性に変身してから強い物言いをしており、後にマリーからそれを咎められることになる。
ジョーダンは、ケイトに頼らずに森やサムの情報を暴露すればいいとマリーに提案するが、マリーは黒人女性とバイジェンダーのアジア人能力者が発信しても信用されないと反論。そこでマリーは世間的には反ヴォートの急先鋒として知られるヴィクトリア・ニューマンに頼ることを提案するのだった。
このシーンではキャンパス内の壁に「SINGER NEUMAN」と書かれたポスターが貼られている。大統領選へ向けたアピールのポスターだと思われるが、大統領候補のロバート・シンガーもニューマン人気を活用しようとしていることが窺える。また、ニューマンのポスターには「SUPES LIVES MATTER」と落書きがされており、ニューマンが能力者たちから憎まれていることも示されている。
繋がるあの事件
エマは連れ帰ったサムを自由の身にしようとしていた。サムはエマの大人のオモチャを発見するが、その一つはスターライトのディルドだ。エマは服を処分して食べ物を買いに行く間にサムに部屋にいるよう告げるが、サムはこれまで味わえなかったキャンパスライフの誘惑に負けて外に出てしまう。そしてサイキックのルーファスに連れられてニューマン参加の集会に出てしまうのだった。
マリーとジョーダンはインディラのオフィスに忍び込み、あるファイルを発見していた。そのファイルには123名を乗せた飛行機が大西洋に墜落した事件の資料で埋め尽くされていた。この墜落したトランス・オーシャニック37便とは、『ザ・ボーイズ』シーズン1第4話でホームランダーが墜落させた便である。ここに来て『ザ・ボーイズ』のあの事件と繋がるとは。
この事件は、ハイジャックされた飛行機でホームランダーがコクピット内でビームを発して墜落を招いた結果、ホームランダーが全員を助けるのは無理だと判断し、墜落する飛行機と乗客を見捨てたというもの。世間的には救助に必要な認可を得るのに時間を費やして助けられなかったと公表された。『ザ・ボーイズ』シーズン2ではこの時に機内で撮影された動画が残っており、クイーン・メイヴはホームランダーの弱みとしてそれを握っていた。
そしてマリーは、この飛行機に11歳のリリー・シェティと46歳のポール・シェティが搭乗していたことを発見。インディラの娘と夫はホームランダーの凶行の犠牲になっていたのだ。ここにタイミングよく入ってきたカルドーサ博士は、酔っ払ってウイルスのことを独り言で全て話してしまい(やや強引だが)、マリーとジョーダンは新たな事実を知るのだった。
さらに意外なアノ人も
そのインディラは意外な人物と会っていた。『ザ・ボーイズ』本編でお馴染みのグレイス・マロリーだ。マロリーは元CIA副長官でザ・ボーイズの創設者。セブンでザ・ボーイズのスパイになっていたランプライターの裏切りにあい、ランプライターにマロリーと間違えて孫を殺されている。インディラはそのマロリーをウイルス活用のために頼ろうとしたのだ。
しかし、マロリーはこれを「戦争犯罪」「虐殺」として拒否する。確かにインディラがやろうとしていることは、特定の人種を狙った生物兵器の散布である。更にマロリーは「いくら殺してもあなたの夫と娘は戻らない」と、インディラの事情を知っていることも明かす。インディラは「あなたの孫も」とやり返すが、マロリーはまさにそのことを言っていて、『ザ・ボーイズ』シーズン2第6話では、マロリーは復讐のために孫を殺したランプライターを殺そうとしたところをフレンチーからの説得で踏みとどまっている。
「でも誰かを救える」と食い下がるインディラに、マロリーは「私の部下であなたと同じ英国人が同じ怒りを抱いてる」と話す。ブッチャーのことだ。マロリーはそのせいでブッチャーは抜け殻同然になっており、インディラに同じ轍を踏まないよう助言。ブッチャーをザ・ボーイズに引き込んだのはマロリーだが、今マロリーはもう一人のブッチャーを生まないようにしようとしている。
マロリーはインディラとの協力を断る。マロリーは全ての能力者を葬りたいと考えているわけではないだろう。マロリーはホームランダーの息子で能力を引き継いだライアンを匿って育てたこともある。マロリーは、ニューマンが表向きにやっているように見える能力者の監視に実務的に取り組んでいるものと考えられる。
インディラと決裂したマロリーだったが、マロリーはこの会話を録音しており、電話で誰かにインディラの監視を続けるよう指示。電話の相手はブッチャーらザ・ボーイズだろうか。
エマの部屋でサムが暇を持て余すシーンで流れている曲はGustaf「Best Behavior」(2021)。「これが私のベストな態度」「私は良い子」と歌われている。
サムが学生たちの廊下で遊ぶ際に流れている曲はアレックス・レイヒー「Spike The Punch」(2021)。「spike the punch」とはジュースにお酒を入れることで、「ジュースにお酒を入れて、みんなを家に帰して二人で踊り続けよう」と歌われている。
ニューマンへの皮肉な反応
アンドレの父で大学理事のポラリティは「キャメロン・コールマン・アワー」に出演。ニューマン議員について、「能力者を管理する者が登壇すべきか?」というテーマでインタビューを受けていた。ケイトとアンドレはそれをテレビで観ているが、ケイトはニューマンの登壇について、「能力者自身が管理側に問うべき」とインディラが進めた企画であることを明かしている。
大学の真実を知ったアンドレはもはや父を信じていなかったが、インタビュー中に異常が発生しポラリティは倒れてしまう。電気系統にも異常が起きているが、これはおそらくポラリティの磁力を操る能力が制御できなくなって発生したものだろう。その後の救急車内でもポラリティは痙攣を続け、金属が勝手に動き出すのを同じ能力を持つアンドレが抑えている。
ニューマンの登壇はポラリティに代わってキャメロン・コールマンが司会を務めることに。サムを連れてきたルーファスは「MAGA (Make America Great Agein)」キャップを思わせる「KEEP AMERICA SAFE(アメリカを安全に保つ)」と書かれた真っ赤なキャップを被っている。
コールマンは管理局がストームフロントの公聴会やソルジャー・ボーイの暴走に際して何もしなかったと非難。メチャクチャな言いがかりな気もするが、ニューマンは数字を元に冷静に反論。「人間と能力者の間の暴力件数」を過去最低に抑えたと話す。単に「能力者による暴力事件」としないところに巧みな配慮がある。
実は能力であるニューマンを、能力者ではないコールマンが能力者側に立って詰問するという間抜けな状況なのだが、更にニューマンはシンガー陣営が当選すれば能力者に政府内での地位を約束すると表明。やはりニューマンは非能力者の側に立ちながら政権に能力者を浸透させていく路線をとっているように思える。
マリーをニューマンの集会場に入れるためにジョーダンはエマの能力をアウティングしたジャスティンに喧嘩を売ることで騒動を起こす。ランキングに執着していたジョーダンが自ら騒ぎを起こすとは、これまでの7話の中で大きな変化を遂げたと言える。
ニューマンはホームランダーが『ザ・ボーイズ』シーズン3ラストで起こした一般人殺害事件の責任について質問を受ける。息子を侮辱した一般人にビームを放ってしまったホームランダーは現在裁判中であり、YouTubeではヴォート社が全面的にバックアップすることが語られている。
アシュリーCEOは「アメリカの司法を信じています」とコメントしているが、ここではニューマンも司法が判断すると答えており、結局両者は同じスタンスということになる。しかし、ルーファスが「一般人が裁くな」と主張したことから会場のボルテージが上がっていく。「Supes Lives Matter」と叫ぶ学生もいるが、これは現実においても黒人の命の保護を掲げた「Black Lives Matter」をマジョリティの側が「All Lives Matter」などと言い換えて簒奪したことを踏襲している。
ニューマンは能力者にも市民権があると弁明するが、学生たちの批判は止まらない。結局のところ、ニューマンが能力者だと分かっていれば、その主張は能力者寄りで能力者たちに権利を認める内容になっている。だが、やはり聴衆は「誰がそれを言っているか」で判断するのだ。
ルーファスはサムに「俺たちの能力を奪い抑制しようとしてる」と言うが、英語では「They are trying to limitus, take away our power, but Homelander is right.」と言っており、「ホームランダーは正しかった」まで飛躍した理論を展開している。
最後にニューマンはロバート・シンガーと共に共存の道を探究すると話しているが、ロバート・シンガーは別名ダコタ・ボブと呼ばれる大統領候補である。ダコタ・ボブは原作コミックに登場する大統領の名前でもあり、ロバート・シンガーが当選すれば能力者のニューマンが副大統領の職につくことになる。繰り返しになるが、ニューマンの狙いは政権内での能力者の地位確立なのだろう。
インディラの“母の檻”
エマはようやくサムと合流。能力者の学生たちとの交流を楽しんだサムは能力者のコミュニティに帰属意識が芽生えていた。危険な匂いがする中、インディラはケイトが待つ自宅に帰宅。ケイトはインディラから支配を受けていたことを告発するが、インディラは一緒に大学を離れることを提案する。これはケイトがアンドレに提案していたことの反復になっている。
実際、夫と娘を亡くしたインディラはケイトを本当の娘のように思い、愛していた。インディラは心を読めるケイトの素手の手を握るが、ケイトはこれがインディラの本心だと確信。けれど、その愛が本心であり、その上で愛する者を支配しようとするから人間は厄介なのだ。
マリーに凸されたニューマンはマリーの存在を知っており、二人で話すことに。マリーに「会ったことを娘に嫉妬される」と笑顔で話し出す。ここでニューマンが母の顔を見せるのは、この直前に母としてのインディラの姿を見せた演出から繋がっている。
ニューマンの能力
気さくに話すニューマンは、「血のムチや剣は疲れるでしょ」とマリーの能力について熟知しているように語る。そしてニューマンがマリーに血中の物質を読み取るよう促すと、マリーはニューマンの血の中にコンパウンドVが流れている能力者であることを知る。
ヴィクトリア・ニューマンはマリーと同じ能力を持っていたのだ。第5話の解説記事で考察した通り、マリーがルーファスの性器を破裂させたのは、ニューマンが得意とする人の頭を破裂させる技の縮小版だったと考えられる。
また、ニューマンが『ザ・ボーイズ』本編で見せた能力は頭爆破だけだったが、ニューマンも血中の物質を読み取って相手が能力者かどうかを見抜くことができると思われる。それに血を武器にすることはもちろん、止血などもできるのだろう。
ニューマンは、お互いに理解できると考えてこれをマリーに明かしたと話す。レッドリバーの資料でマリーの能力を知ったのだという。そして、「危険な能力と言われて育った」「気味悪がられて養子にもなれない」とその経験を共有する。だからこそ自分を養子にしたスタン・エドガーに恩義を感じていたのだろう。
ニューマンがレッドリバー育ちであることも知り、「あなたは特別でずば抜けてる」と言われて目に涙を浮かべるマリー。マリーからすれば初めて出会ったロールモデルだ。第5話では、マリーを研究対象に従ったカルドーサに対し、インディラが「後援者がいるから彼女はダメ」と拒否していた。おそらくこの後援者とはニューマンのことだったのだろう。また、インディラはおそらくニューマンのことを非能力者の政治家だと思っているので協力的なのではないだろうか。
そしてマリーは能力者を殺すウイルスが大学の地下で開発されていることをニューマンに明かす。ヴォートがしていることを全て明かすべきだと主張するが、ニューマンはこれに「対処する」と言いマリーに手を引かせるのだった。ニューマンは成功例を生み出し続けなければレッド・リバーの子ども達に未来はないと話し、SNSでの発信の影響力も大学のマーケティングあってのものだと厳しい現実を突きつける。
ニューマンの人生哲学は“本物の力”を手に入れること。世間的には理想主義者のように映っているが、勝ち筋をまっすぐに進む現実主義者なのだ。ニューマンは自分が政治の世界でそうしたように、マリーにはセブン入りして副大統領の友達になるよう促す。そして、ニューマンは「アナベスが見つかるかも」と助言。アナベスとはマリーの生き別れの妹のことである。
ゴドルキン大学の真実
倒れたポラリティを見舞うアンドレがケイトからの召集を無視する一方、エマ・サム・マリー・ジョーダンはケイトが待つインディラ宅に到着。そこでは意外にもケイトがインディラを操った状態で立たせていた。「愛してるのは知ってる。それでも最低だということは変わらない」というのがケイトの結論だった。ケイトはあの後、インディラからの最後の依頼として「森の全員を殺す」ことを頼まれ、そこで完全に手を切ることを決めたという。
そしてインディラはケイトの操作によって、ゴドルキン大学を作った行動科学者ゴドルキンの目的が能力者の研究だったこと、大学は学生達を人ではなく被験者として研究していることを明かす。一方のインディラの目的はウイルスをばら撒いて能力者を消し去ることであることも明かされ、インディラはその理由を「ホームランダー」だと答えるのだった。
エマは「スターライト支持者を焼き殺したから?」と言っているが、これはシーズン3最終話での出来事。インディラが夫と娘を失ったのはシーズン1第4話での出来事だ。心当たりがあり過ぎる……。これを聞いたマリーは、ホームランダー飛行機を墜落させて家族を殺したという真実に思い至る。
しかし、インディラはホームランダーだけでなく、マリーが両親を殺してしまったように全ての能力者が本質的に破壊をもたらすと指摘。全ての能力者の抹殺を企むインディラに対し、ケイトは先制攻撃を宣言し、まずはインディラを自害させるのだった。能力者を恨む一般人からの攻撃を受け、一般人を恨むようになる能力者というのは、「X-MEN」に代表されるようにヒーローものの王道のストーリーだ。だが、「ザ・ボーイズ」フランチャイズは一旦能力者達を悪として描いているから複雑で面白い。
首から血を流すインディラの姿を見て、マリーは母の死を思い出す。やはり今回は“母”にスポットライトを当てたエピソードになっている。しかし、マリーはケイトの操作で動きを止められインディラを助けることができない。
一方でこの場面で気になるのは、ケイトのインディラに対する態度が前のシーンから急変していることだ。ケイトはやはりインディラに協力することにしており、このインディラの自殺シーンもケイトが見せているビジョンだという可能性はないだろうか。森の中にいる非検体を全員殺すという仕事についても、ケイトに依頼する内容ではない気もする。
いずれにせよインディラの死を受けてサムは「正義だ」と言い、ケイトは「私たちのための」と付け加える。サムはこの直前にインディラに「人間より優れてる」とも言っており、ホームランダー的な思考に陥っている。もちろん被験体になってきた過去が大きな影響を与えているのだろうが、無垢な状態でルーファスらの強硬な思想に触れてしまったことも問題だったのだろう。戦争の予感を感じさせて、『ジェン・ブイ』第7話はラストシーンに入っていく。
衝撃のラスト
インディラが死んだ頃、カルドーサは開発したウイルスをニューマン議員に引き渡していた。ニューマンがマリーに約束した「対処」のシーンだ。カルドーサの「思いやって管理する (Compassionate control)」という標語を気に入った様子のニューマンは、カルドーサに証人保護を与えることを約束し、カルドーサがウイルスを作れる唯一の人であることを確認する。
しかし、カルドーサに手渡された名刺は両面白紙。ウイルスを手に入れたニューマンは天下の宝刀の頭部破裂でカルドーサを殺したのだった。まさか『ジェン・ブイ』でもニューマンのアレが披露されるとは。『ザ・ボーイズ』シーズン2以降、毎回便利な解決方法として活用されてきた頭部破裂。第4話ではマリーにもその力があることが明かされた。最終回目前で状況は一層混沌としてきた。
このシーンで気になったのは、カルドーサの肉片がニューマンの手に付着したことだ。カルドーサは現時点のウイルスの感染は「体液に触れて感染する」と話していた。カルドーサは血中にコンパウンドVがないのでウイルスを持っていても発症しないが、もしニューマンがここでカルドーサの肉片からウイルスに感染した場合、ニューマンの命の方が危なくなってしまうが……。
『ジェン・ブイ』第4話のエンディング曲はヤー・ヤー・ヤーズ「Heads Will Roll」(2009)。「heads will roll」とは、直訳すると「頭が転がる」になるが、そこから転じて「首が飛ぶ」「クビになる」「厳しい処分が下される」という意味がある。歌詞では「死ぬまで踊れ」と繰り返し歌われており、MVの最後にはバンドメンバーの身体がバラバラになる演出がある(閲覧注意)。
『ジェン・ブイ』第7話ネタバレ考察&感想
母娘の物語
『ザ・ボーイズ』本編では父と息子の物語が強調して描かれてきたが、『ジェン・ブイ』では母と娘の物語が強調されている。その代表格がインディラ・シェティ学長であり、ケイトやマリーら身寄りを失った若い学生を懐柔する姿が描かれた。一方で第7話で示された通り、インディラはビジネス的に動いているわけではなく、そこには本当の愛情もあった。しかし、愛があっても人は支配に走るというのが『ジェン・ブイ』が示した真理だろう。
優しく対応して自分の手元に置いておこうとするインディラは、いわゆる“母の檻”の見本になっている。『ザ・ボーイズ』では乗り越えるべき存在として立ちはだかる“父の壁”が描かれる場面もあったが、スピンオフで反対に位置する類似テーマを扱っているのは面白い。
ヒーロー vs 一般人
さらに興味深いのは、『ザ・ボーイズ』で描かれた一般人 vs ヒーローの戦いが反転して描かれている点だ。私たちは『ザ・ボーイズ』本編で一般人の立場からどうすればスーパーヒーローたちを倒せるかと悩んできたのに、『ジェン・ブイ』では能力者の学生たちの立場で反能力者の兵器が出回らないように願っている。
マイノリティの能力者の中には悪い奴もいて、だけど共存を目指す能力者達が主人公になる、というのは過去のSF作品で繰り返されてきたお話だ。けれど、「ザ・ボーイズ」フランチャイズの場合は、先に本編で腐敗したヒーローを見せてからスピンオフの『ジェン・ブイ』で逆の立場を見せているから面白い。
マーベルの「X-MEN」では反人類の急先鋒は磁力を操るマグニートーだったが、『ジェン・ブイ』では磁力を操るアンドレはいまいちパッとせず、今やケイトが反人類の戦争を仕掛けるリーダーになりつつある。第1話で死んだルークはサムの兄であり、ケイトの恋人だった。最終話第8話の予告では、この二人が先陣を切って“森”を解放する展開が示唆されている。
いよいよ迎える最終話の第8話。『ジェン・ブイ』シーズン2とて『ザ・ボーイズ』シーズン4にどのようにつながっていくのか、ラストの展開に注目しよう。
『ジェン・ブイ』はAmazonプライムで世界独占配信中。
『ジェン・ブイ』の詳細はこちらから。
『ザ・ボーイズ』原作コミックの日本語版は、G-NOVELSから発売中。
『ジェン・ブイ』のベースになったチャプター〈We Gotta Go Now〉(23話〜30話)は日本語版の第2巻に収録されている。
最終回第8話「ゴドルキン大学の守護者たち」のネタバレ解説&考察はこちらから。
第6話「ジュマンジ」のネタバレ解説&考察はこちらから。
第1話「ゴルドキン大学」のネタバレ解説&考察の記事はこちらから。
第2話「初日」のネタバレ解説&考察の記事はこちらから。
第3話「#ブリンク追悼」のネタバレ解説&考察の記事はこちらから。
第4話「真実の全貌」のネタバレ解説&考察の記事はこちらから。
第5話「モンスタークラブへようこそ」のネタバレ解説&考察の記事はこちらから。
『ジェン・ブイ』シーズン2についてはこちらから。
『ザ・ボーイズ』の更なるスピンオフ展開についてはこちらの記事で。
『ジェン・ブイ』のキャストに『ザ・ボーイズ』のキャストが送ったアドバイスについての記事はこちらから。
『ザ・ボーイズ』シーズン3最終話のネタバレ解説はこちらから。
シーズン3までの経緯とYouTube配信のスピンオフ番組の内容、アニメ版の注目エピソードはこちらの記事で。
『ザ・ボーイズ』シーズン4についての情報はこちらから。