映画『名探偵コナン 紺青の拳』をネタバレ解説
『名探偵コナン 紺青の拳』は、2019年に公開された人気アニメ『名探偵コナン』(1996-)の劇場版第23作目。2015年公開の『業火の向日葵』以来の怪盗キッドが登場する劇場作品となった。シンガポールを舞台にした『紺青の拳』は、シリーズ初の女性監督となる永岡智佳が指揮をとった。脚本は推理作家の大倉崇裕が手掛けている。
海外を舞台にしていることもあり、様々な意味で異色作となった『名探偵コナン 紺青の拳』だが、その展開についてはやや難しいとの声も聞かれる。今回はラストの展開について、犯人の正体や動機、トリックなどをネタバレありで解説していこう。以下の内容は本作の結末に関する重大なネタバレを含むため、必ず本編を鑑賞してから読んでいただきたい。
以下の内容は、『名探偵コナン 紺青の拳』の結末に関する重大なネタバレを含みます。
Contents
映画『名探偵コナン 紺青の拳』ラストの意味は?
怪盗キッドの狙いは?
映画『名探偵コナン 紺青の拳』ではシンガポールを舞台に、工藤新一に変装した怪盗キッドと江戸川コナンが共闘する展開に。毛利蘭に変装した怪盗キッドに拉致されてシンガポールに密入国させられたコナンは、パスポートを持っていないため怪盗キッドに協力しないと日本に帰れないという状況に立たされたのだ。怪盗キッドがコナンを頼ったのは、シンガポールの殺人事件現場に自分にカードが残されており、殺人の濡れ衣がかけられていたからだ。
コナン=新一は、テレビシリーズの「ホームズの黙示録」と「紅の修学旅行」編で蘭と正式に付き合うことになっており、新一に扮した怪盗キッドと蘭の距離感にコナンはヤキモキしている。一方で、怪盗キッドも園子の恋人である空手家の京極真との対決を余儀なくされる。怪盗キッドと京極真はテレビシリーズの「怪盗キッドvs京極真」でも対決しており、『紺青の拳』では再戦という形になっている。
今回の怪盗キッドの狙いは、“紺青の拳(フィスト)”と呼ばれるビッグジュエル。怪盗キッドはずっと世界に散らばるビッグジュエルと呼ばれる大きな宝石を狙っており、その中の一つである「パンドラ」と呼ばれる伝説の宝石を探している。パンドラは手に入れると不老不死の力が得られると言われている。
ちなみに怪盗キッドがパンドラを狙っているのは不老不死になるためではない。怪盗キッドの父で初代怪盗キッドである黒羽盗一はある組織に殺されたとされているのだが、その組織もパンドラを狙っており、組織の正体を探るためにキッドもパンドラを狙っているのである。そのため、怪盗キッドはビッグジュエルを盗んでもパンドラではないとわかると、宝石を持ち主に返してしまう。『名探偵コナン 紺青の拳』でも、紺青の拳がパンドラかどうかという点が最後に明かされる。
3つの要素と、背後にあった壮大な計画
『名探偵コナン 紺青の拳』が少々複雑なのは、①紺青の拳をめぐる争い、②怪盗キッドにかけられた濡れ衣、③紺青の拳を管理するレオン・ローの計画、この三つが交差しているからだ。しかし、この三つは全て繋がっている。
元警察で犯罪行動心理学者、警備会社を運営するレオン・ローは、空手大会の優勝賞品となった紺青の拳を狙っており、優勝候補・京極真のスポンサーとなった弁護士のシェリリンを殺害した。そして、何者かによってその濡れ衣が怪盗キッドに被せられることになる。レオンが紺青の拳を狙っていた理由は、紺青の拳を欲しがっている海賊にある大規模な計画への協力を要請するためだった。
その計画とは、海賊にタンカーをシンガポールのマリーナ・ベイに突っ込ませてシンガポールを破壊するというものだ。海賊の長であるユージーン・リムは紺青の拳を欲しがっており、レオン・ローは海賊との交渉のために紺青の拳を手に入れようとしていたのだ。
ダイイングメッセージ「She」の意味
コナンは日本にいる灰原哀の協力を得て、タンカーがマリーナ・ベイに向かっているという情報を掴む。怪盗キッドは、レオンの金庫に紺青の拳を盗みに入った際、レオンの秘書レイチェルの死体を見つけ、そこには「She」というダイイングメッセージが残されていた。
レイチェルはレオンの計画を手伝っており、「She」という言葉はタンカーのことを伝えるために書かれたものだった。英語では、古くから船のことを「She」と呼ぶ習慣がある。また、タンカーは中富海運のものが使用されていたが、レイチェルは毛利小五郎に中富海運のメダルを渡しており、タンカーのことを伝えようとしていたことが分かる。
先に述べた通り、紺青の拳は空手大会の優勝賞品となっており、レオンは自分のボディガードを務めるジャマルッディンを大会にエントリーしていた。そこにシェリリン・タンサンがスポンサーとなって京極真が出場することになり、レオンはシェリリンを殺すことを決めた。シェリリンはエレベーターの中で殺されたかに思われていたが、実はレオンの秘書レイチェルによってホテルの廊下で眠らされ、部屋の中でレオンに殺害されていた。レイチェルはレオンの共犯者だったのだ。
レオンはシェリリンの遺体をスーツケースに入れると、レイチェルはシェリリンに変装してエレベーターで一階に降りる。レオンは別のエレベーターでおりたことでアリバイが成立。シェリリンに変装したレイチェルはホテルの一階で倒れ込んだ後、停電に紛れて姿を消し、レオンがスーツケースから本物のシェリリンの遺体を取り出して偽の死亡現場が完成する。
この時、レイチェルはシェリリンの遺体を見て驚きの表情を見せており、まさかレオンが本当にシェリリンを殺すとは思っていなかったようである。だからレイチェルは毛利小五郎に全てを話そうと近寄ったが、それに気づいたレオンはレイチェルを殺してキッドが現れるであろう金庫に死体を置いた。そうして、レイチェル殺害の被疑者もまた、紺青の拳を盗みに入ったキッドとなったのだった。
明らかになる黒幕と過去
『名探偵コナン 紺青の拳』のクライマックスでは、レイチェルがダイイングメッセージで伝えようとしたタンカーの突入が迫る。しかし、ホテルの屋上で計画が実現しようとしていたレオンの前に現れたのはリシ・ラマナサンだった。リシはレオンの一番弟子だった予備警察官。小五郎たちに殺人事件の捜査協力を依頼していた人物だ。
タンカーが港で座礁する中、リシは自らが全ての黒幕だったと明かす。ここでずっと閉じられていたリシの目が初めて開かれている。だが、レオンに銃を向けるリシに割って入ったのは怪盗キッドとコナンだ。キッドとコナンはリシが黒幕であることに気づいていて、リシを泳がせていたのだ。
二人には、①殺人現場に残された怪盗キッドの予告状に警官が気付いたのはリシが現場に到着した後だったこと、②レオンの動向の予想を聞かれたリシが「国外に逃げた」と言ったことが引っかかっていた。
①については、つまり、最初の殺人事件の現場にキッドのカードを置いたのはリシだったのだ。リシはレオンの計画を阻止するためにシェリリンに京極真のスポンサーになるよう仕向けたが、シェリリンが殺されたため、事件に怪盗キッドを巻き込むことでキッドにレオンの計画を邪魔させようとしていた。そして、その目的は達成されることになった。
②については、自惚れの強いレオンが現場で計画の達成を見届けないはずがなく、リシはそれをよく知っていた。だが、予定になかった高校生探偵・工藤新一(怪盗キッドの変装)が、リシがレオンに復讐を果たす場に現れないように嘘の予想をして誘導していたのだが、コナンはその嘘を見破っていた。
レオンの動機とは
いよいよ、レオンがシンガポールを破壊しようとした理由が明かされる。その理由とは、過去にレオンが実業家たちにシンガポールの再開発を提案したが嘲笑され、却下されたことにあった。そして、シンガポールを破壊するためには、①海賊を動かすための紺青の拳と、②海賊に突っ込ませるタンカーが必要になる。
レオンはこれを同時に手に入れるため、タンカーを持つ中富海運の社長・中富禮次郎のクルーザーでリシの父である海洋学者をはねて殺させた。リシの父はいち早く紺青の拳が眠る沈没船を発見しており、レオンは紺青の拳を奪われないように事故死を装ってリシの父を殺害したのだ。
当時刑事だったレオンは、別の犯人を仕立て上げ、シェリリンがその弁護士となって偽の犯人に有罪を認めさせた。それにより、クルーザーを運転していた中富禮次郎は無罪となり、レオンに借りができたために計画に協力してタンカーを提供したのだった。
圧巻のアクションパート
なかなか複雑だが事件の全容が明らかになり、ここからはアクションパートに突入。上陸した海賊がホテルに到着すると、形勢は逆転したかに思われたが、紺青の拳を手に入れた海賊はレオンに銃を向ける。海賊たちはリシから鈴木財閥の令嬢である鈴木園子を人質にとればより稼げると吹き込まれており、レオンを裏切ったのだ。
その園子は、警察予備官のリシに部屋から出ないように言われたことで、一人でまだホテルの部屋にいた。それを助けに来たのは京極真だ。だが、京極真は武装した海賊に対して拳を振るうことができない。その理由は、レオンにミサンガをつけられて、それが切れるまで拳を使わないよう助言されたからだ。ここに来て京極真の実直な性格が仇になっている。
一方のキッドとコナンは、リシが強がるレオンに対して感情的になった隙をついて煙幕を張り脱出。海賊に対しては蘭が空手で、毛利小五郎が柔道で対応している。蘭は空手の達人だが、小五郎は柔道の達人である。
マリーナベイ・サンズにロケットランチャーが撃ち込まれる中、空を飛んで難を逃れていた怪盗キッドとコナンは、屋上で戦う京極真の腕のミサンガに気付く。キッドはトランプ銃の最後の一発を、京極真のミサンガを切るために使うと、京極真は覚醒する。京極と戦うことを望んでいたジャマルッディンと戦うことに。しかも園子を背負ってのハンデ戦だ。
一方、コナンは蘭を、怪盗キッドは紺青の拳を助け出している。最後にキッドは囮の人形を使い、海賊にマリーナベイ・サンズの屋上部分の基幹部分にロケットランチャーを撃ち込ませることに成功。シリーズでも指折りのド派手なシーケンスだ。
京極真とジャマルッディンは、沈みゆくマリーナベイ・サンズの屋上で、最後の勝負に挑み、京極の勝利で決着。マリーナベイ・サンズの屋上部分は海へと落ちるが、コナンたちは無事だった。
エンディング&ポストクレジットの意味は?
怪盗キッドは紺青の拳を手に入れたが、自分が探していた「パンドラ」ではなかったため、これをレオンに返している。自分が作ったルールに忠実なのがキッドらしいところだ。一方の園子は京極真の左眉の脇についた剥がれかけた絆創膏を取り、その裏に園子とのプリクラを貼っていたことを知る。京極真がいつも絆創膏をつけていた理由は、お守りとして園子の写真を肌身離さずに身につけていたからだったのだ。
意外な一面が明らかになり、流れるエンディング曲はHIROOMI TOSAKA「BLUE SAPPHIRE」。「引き寄せられて運命が/輝くたびに巡り合う」という歌詞は、キッドとコナンの関係を象徴しているようでもある。
エンドロールでは、京極真はまたアメリカへと武者修行に旅立っている。そしてポストクレジットシーン。空港に着いた蘭は新一に変装したキッドと腕を組んでピッタリくっついているが、これは蘭がキッドの変装を見破っており、空港で待ち伏せしていた中森刑事が率いる警察隊にキッドを引き渡すためだった。
蘭は、新一に変装したキッドが毛利小五郎のことを「おっちゃん」と呼んでいたことから、この新一が偽物であることを見抜いていたのだ。キッドはコナンが小五郎を「おっちゃん」と呼んでいることから、そのまま「おっちゃん」呼びしていたのだが、実際の新一は小五郎のことを「おじさん」と呼んだりしている。
確保されたかに思われたキッドだが、偽物の腕を残して逃走。コナンはこのゴタゴタの間にスーツケースから抜け出して着替えを済ませ、蘭の前に登場する。「寂しくなかった?」と聞く蘭に、コナンは心の中で「バーロー、ずっと一緒にいたっつうの」と呟いて『名探偵コナン 紺青の拳』は幕を閉じる。
エンドロールの直前にはコナンがリシに「江戸川コナン、探偵さ」と言っていたり、ポストクレジットでお馴染みの「バーロー」が聞けたりと、『紺青の拳』は最後にファンサービスを詰め込んだ印象だ。いつものことではあるが、本作も最後の最後まで楽しめる作りになっている。
『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』へ
『名探偵コナン 紺青の拳』の永岡智佳監督、大倉崇裕脚本のタッグは、2021年公開の『名探偵コナン 緋色の弾丸』でも実現している。そして、この二人が三度目のタッグを組むのが2024年4月12日(金) 公開の『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』だ。
『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』では『紺青の拳』以来4年ぶりに怪盗キッドが劇場版に登場する。そこで明かされる怪盗キッドの真実とは……。『100万ドルの五稜星』を観た後では、『紺青の拳』の印象も変わるような、そんな重要作となっている。ぜひ劇場で「真実」を確かめていただきたい。
『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』は2024年4月12日(金) より全国の劇場で公開。
『名探偵コナン 紺青の拳』はBlu-ray&DVDセットが発売中。
サントラも発売中。
コミック版も発売中。
【!ネタバレ注意!】『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』ラストの解説はこちらから(必ず劇場で本編を観てから呼んでください!!)。
『名探偵コナン 黒鉄の魚影』ラストのネタバレ解説はこちらから。
服部平次と怪盗キッドのこれまでの接点はこちらの記事で。