2023年2月1日、現在のDCスタジオのジェームズ・ガン共同CEOより発表された大規模なDCEU(DCエクステンデッド・ユニバース)をDCU(DCユニバース)へと変革(リランチ)するDC10年計画。その第一章として「神々と怪物(Gods and Monsters)」と題された作品群が発表された。
その発表以前は『アロー(2012-2020)』を筆頭に『フラッシュ(2014-2023)』に『レジェンド・オブ・トゥモロー(2016-2022)』などで構成されたテレビドラマを中心とした「アローバース」の作品群が相次いで打ち切りとなっていたことで、18年ぶりに続編の制作が発表されていた『コンスタンティン2(原題:Constantine 2)』(仮題)の計画頓挫もファンの間で不安視されていた。
しかし、ジェームズ・ガン共同CEOはロバート・パティンソン主演、マット・リーヴス監督作品『THE BATMAN-ザ・バットマン-』(2022)と『ザ・バットマン パート2 (原題:The Batman Part II)』を中心としたバットバースや、ホアキン・フェニックス主演、トッド・フィリップス監督作品『JOKER』と『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ (原題:JOKER:Folie à Deux)』を中心とした「ジョーカー」シリーズなどはDCエルスワールドというDCUとは異なる別作品群として存続されることを発表した。
その中で、米ワーナー・ブラザースの広報担当者により2023年2月に入って計画継続が発表された『コンスタンティン2』。その主人公であるジョン・コンスタンティンと前作である『コンスタンティン』(2005)、そしてこれまで実写映像化されてきたコンスタンティンについて振り返って考察していきたい。
『コンスタンティン』(2005)のヒットと続編制作
もしかすると映画『コンスタンティン』という作品がDCコミックス原作だということを知らなかった人もいるかもしれない。コンスタンティンはもともと1985年にコミック誌に登場し、『ヘルブレイザー(原題:Hellblazer)』(1988)で主人公を務めたアンチ・ヒーローである。
魔術などオカルト的な脅威に立ち向かうジャスティス・リーグ・ダークにも所属することのあるコンスタンティン。彼は、未成年の頃から煙草を吸うヘビースモーカーで、映画『コンスタンティン』のキリスト教のカトリック的世界観では、過去の自殺未遂から地獄行きが確定しており、肺がんで死んだ後に地獄に堕ちることを回避するために勝手に悪魔祓いをする霊能力者だ。
『コンスタンティン』の世界では現実世界以外に天界と地獄が存在しており、神と悪魔が存在も存在している。双方とも現実に直接介入できないために天使や悪魔ではなく、彼らと人間の中間的存在「ハーフ・ブリード」を介して人間たちが善行を為すのか、悪行を為すのか見ていた。ジョン・コンスタンティンはこれを『旧約聖書』の『ヨブ記』になぞらえ、神とサタンが人間の魂で賭けをしていると評していた。
『旧約聖書』の『ヨブ記』は神が自身への信仰心を裏切らないと信頼するヨブに対し、人間は堕落すると考えたサタンとの意見の対立から始まり、サタンは神の許可の下でヨブに数々の災いをもたらして信仰心を試すというものだ。ジョン・コンスタンティンは聖書などで悪魔祓いをするものの聖句を一つも覚えておらず、神に対して信仰心を一欠けらも抱いていないような人物として描かれる。映画内は聖遺物を溶かして造った銃弾やヨルダン川の聖水などキリスト教の要素にあふれ、ジョン・コンスタンティン(John Constantine)という名前もイニシャルがイエス・キリスト(Jesus Christ)と同じになっている。
「マトリックス」シリーズで世界的大ヒットを収め、今も第一線を走り続けるキアヌ・リーブス氏がジョン・コンスタンティンを演じ、MCUにも出演しているレイチェル・ワイズ氏演じるイザベラとアンジェラのドットソン姉妹やジャイモン・フンスー氏演じるパパ・ミッドナイト、ティルダ・スウィントン氏演じる天使のハーフ・ブリードのガブリエルなど豪華な出演陣が揃い、売り上げに反して熱狂的なファンを生んだ映画『コンスタンティン』。『コンスタンティン2』でもキアヌ・リーブス主演で行われると発表され、フランシス・ローレンス監督にプロデューサーのアキヴァ・ゴールズマンたちの復帰も2021年の初発表時に発表されるとファンは熱狂と歓喜に包まれた。
ここまでバトンを繋いできた“コンスタンティン”たち
公開時期は未定だが十数年ぶりに映画『コンスタンティン』の続編計画が動き出したが、何も「ジョン・コンスタンティン」というキャラクターが常に埋もれ続けていたわけではない。企画が噂されていた『ジャスティス・リーグ・ダーク(Justice League Dark)』の存在もあったが、何よりも実写作品としアローバースの作品としてマット・ライアン氏主演のドラマ『コンスタンティン』(2014-2015)があげられる。アローバース版『コンスタンティン』は1シーズンで打ち切られてしまったものの、グリーンアローの実写ドラマである『アロー』への客演や『レジェンド・オブ・トゥモロー』でのレギュラー入りなど、アローバース内で活躍してきた。
それまでSF的な作品が中心だったアローバースにおいて、「命のトーテム」を引き継いだヒーローのビクセン/アマヤ・ジウィなどと共に魔術やオカルト的要素の風を吹き込んでいった。これによってアローバース全体の作品の幅は広がっていった。『アメリカン・ゴッズ』(2019-2021)や『グッド・オーメンズ』(2019)でも知られるニール・ゲイマン氏の生み出した『サンドマン』(1989–1996)に登場するロサンゼルスにいる堕天使で悪魔のルシファー・モーニングスターを主人公にした『LUCIFER/ルシファー』(2016-2021)などとアローバースとのクロスオーバーなどにも一役買っている。
アローバース以外でもDCコミックの中でも異色の実写作品であるニール・ゲイマン氏原作のNetflix制作ドラマ『サンドマン』(2021)でも、原作コミックでジョン・コンスタンティンであった役割を担うジョハンナ・コンスタンティンが登場している。ジョハンナ・コンスタンティンはジョン・コンスタンティンとの親族関係であり、同じオカルトや魔術に特化した探偵業を営む女性だ。
ジョハンナ・コンスタンティンを演じたのは世界的SFドラマ『ドクター・フー』(1963-)で主人公のドクターと共に時間と宇宙を旅する狂言回し的存在であるコンパニオンの「あり得ない女の子 (Impossible Girl)」であるクララ・オズワルド役のジェナ・ルイーズ・コールマンだ。ジェナ・ルイーズ・コールマン演じるジョハンナ・コンスタンティンはサンドマンことモルフェウスと人間を繋げることに一役買い、こちらでも狂言回しのようなポジションを務めた。
「神々と怪物」におけるジョン・コンスタンティンの役割は何か
今回のDC10年計画第一章「神々と怪物(Gods and Monsters)」の中でも、ジョン・コンスタンティンというキャラクターは重要な立場の可能性がある。あくまでもキアヌ・リーブス氏主演の「コンスタンティン」シリーズはDCUではなくDCエルスワールドに属する可能性が有力だろう。しかし、それでもジェームズ・ガン共同CEOが“アウトサイド”な作品として最後に紹介した『スワンプシング(Swamp Thing)』の存在がジョン・コンスタンティンというキャラクターとDCUを繋げる可能性があるのだ。
そもそもジョン・コンスタンティンは、沼地で突然変異を起こした科学者で植物の守護者であるスワンプシングを主人公にした『スワンプシング(Swamp Thing)』に登場する新キャラクターとして1985年に初登場し、その後に独立したコミックとしてコンスタンティンが主人公の『ヘルブレイザー』がはじまったのだ。ジョン・コンスタンティンとスワンプシングは時に対立しながらも同じジャスティス・リーグ・ダークに属すなど、腐れ縁のような関係性を見せることがある。
特に『スワンプシング』はDCUの中でも“アウトサイド”な作品であり、ホラーテイストの作品として「神々と怪物」の「怪物」を担う作品だ。DCUの転換点に属する可能性のある『スワンプシング』と熱狂的なファンを持つ「コンスタンティン」シリーズ。ホラー作品も得意とするジェームズ・ガン共同CEOがこの二つのホラー要素のある作品の重要度を見逃すとは思えない。現在も監督や脚本家が交渉中の両作品。今後の展開に注目していきたい作品たちだ。
ジェームズ・ガンが発表したDCU10作品の全作解説はこちらから。
映画『コンスタンティン』(2005) Blu-rayが発売中。
Netflix制作ドラマ『サンドマン』(2022) はこちらから。
Netflix制作ドラマ『LUCIFER/ルシファー』(2016-2021) はこちらから。
海外ドラマ『コンスタンティン』のワーナー公式ページはこちらから。
『ザ・フラッシュ』が予告公開にこぎつけるまでの経緯まとめはこちらから。
実写化される『ヒックとドラゴン』の過去のミュージカルとSF要素の解説はこちらの記事で。
映画『トランスフォーマー/ビースト覚醒』での「トランスフォーマー」リブートの詳細はこちらから。