中国初のSF大作映画『流転の地球 (さまよえる地球)』アメリカでの評価は…? | VG+ (バゴプラ)

中国初のSF大作映画『流転の地球 (さまよえる地球)』アメリカでの評価は…?

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『さまよえる地球』アメリカでの評価は!?

中国国内で3億ドル突破!

中国初のSFブロックバスター映画『さまよえる地球 (原題: 流浪地球、英題: The Wandering Earth)』(2019年2月、邦題は『流転の地球』に決定)が、2019年2月8日(金)より、SF映画大国・アメリカでも公開された。春節 (旧正月) 中を含む休暇期間6日間の中国での興行収入は、3億ドル (約330億円) に達しており、中国国内では高い人気を得ている。では、SF大作映画を浴びるように鑑賞してきたアメリカの記者達は、『流転の地球 (さまよえる地球)』をどう評価したのだろうか。本編のネタバレとならない範囲でご紹介していこう。

「字幕が……」

Science fiction.comのDave Taylor記者は、5点満点中3.5点の評価。「最近の観客は、物理の法則を無視した場面を容易に発見できる」と批判しつつも、「ワクワクするコンセプトと重厚なストーリー」を評価。一味違ったSF大作を体感すべきだ、と読者に呼びかけた。

そんなTaylor記者が気になったのは、言葉の問題だ。アメリカで上映されている『流転の地球 (さまよえる地球)』では、劇中の会話はマンダリンで交わされ、英語の字幕がついている。字幕を読みながら映像を見ることに慣れていないせいか、「字幕が早すぎる!」と不満を漏らしている。セリフの細かいニュアンスを吟味する時間がないというのだ。だが、それも作中の映像美を楽しみたいという想いから出た指摘。同記者は、『流転の地球 (さまよえる地球)』で映し出される美しい描写の数々を絶賛している。この映像美を十分に堪能できるように、将来的に吹き替え版が出るのを待つか、すぐに中国語を勉強するようSFファンに呼びかけた。

中国中心の設定、でもそれって……

Cinema Escapistの Richard Yu記者は、トレイラーの中でも見られるように、作中で2044年のオリンピックが上海で開かれていたり、中国が世界政府の中で中心的な役割を担っていたりと、中国産らしい設定となっていることを紹介。一方で、アメリカが世界の中心にいないという設定は、近年アメリカが国外の軍事拠点を縮小していることや、国際条約から次々と離脱していることにインスパイアされたのではないかと予測した。

また、『流転の地球 (さまよえる地球)』が、世界中の政府が団結して気候変動などの諸問題に取り組むことの必要性を説いたという点に、重要な価値があると評してる。そして、“中国の軍隊が中国の科学者や市民とともに世界を救う”という設定は、ほかでもないアメリカがハリウッドで行ってきたことの裏返しだと指摘することも忘れなかった。

中国とアメリカの文化の違いが鮮明に

ピーター・トライアスも参戦した短編SFシリーズを公開しているThe Vergeは、Tasha Robinson記者によるレビューを公開。ロシア産の宇宙映画『サリュート7』(2017) を例に挙げ、『流転の地球 (さまよえる地球)』もまた、アメリカと中国の文化の違いを提示したとしている。

“家族との絆の大切さ”“自己犠牲の気高さ”といったアメリカの観客に馴染み深い感覚も登場するとしながら、アメリカの観客にとっては馴染みの薄い“国際的協調”や、個人の意思よりも“集団の意思”に強くフォーカスした場面も登場すると紹介している。

最後には、「(アメリカ人の観客は) 『流転の地球 (さまよえる地球)』を、過去のSF映画のマッシュアップベスト作品として楽しめるだろう」と、やや辛口。“アメリカのSF映画と同じように”、見やすく、スリルがあって、万人ウケするものだと評価している。また、中国がブロックバスタービジネスに参入したことによって、中国が自分たちの声と才能を国際市場に持ち込むことができる、と『流転の地球 (さまよえる地球)』が製作されたこと自体を歓迎した。

「中国のSF映画界にとっては偉大な一歩だが——」

Screen DailyのJohn Berra記者は、「『ゼロ・グラビティ』(2013)、『インターステラー』(2014)、『オデッセイ』(2015) といった宇宙SF映画のヒットが『流転の地球 (さまよえる地球)』のヒットの予兆となった」、「(『流転の地球 (さまよえる地球)』の作品性は) クリストファー・ノーランというよりはマイケル・ベイ」と、現行のSF映画界の流れを踏まえた上で、同作について論じた。

一方で、既存の大作SF映画と並べて論じられてしまうこと自体に、少々不満があったようだ。「中国のSF映画界にとっては偉大な一歩だが、SFというジャンルにとってはそうではない」と、伝記映画『ファースト・マン』(2018)が日本でも公開されたニール・アームストロング船長の名言をもじって結論づけた。

以上が、『流転の地球 (流浪地球/The Wandering Earth/さまよえる地球)』の北米上陸から3日目の時点で公開されている、主なアメリカでのレビューだ。やはり作中のシーンについても、アメリカのSF映画と重ね合わせて語る論調が強い。「〇〇が××するシーンは、『△△』(ハリウッド映画作品) からの引用だろう」「〇〇という設定は『△△』(ハリウッド映画作品) で馴染みあるもので、目新しいものではない」といった具合だ。SF大国として、“新人”の登場を楽しんでいるようにも見える。

『流転の地球 (流浪地球/The Wandering Earth/さまよえる地球)』は、IMDbでは、2,570名の投票があり、☆8.0/10の評価を受けている (2019年2月11日(月)現在)。ニューヨーク・タイムス紙は、2019年2月4日に「中国映画界はついに宇宙競争に参加した」と題した記事を、英ガーディアン紙は、2019年2月11日に「中国は自前のSFブロックバスターでハリウッドに挑む」と題した記事を公開した。

世界中の注目を集める『流転の地球 (さまよえる地球)』——もう一つのSF大国、日本での公開を待とう。

追記 (Feb. 27, 2019):
Netflixが世界190ヶ国での配信を決定。日本での配信も決定した。

Source
The Verge / Screen Daily / Cinema Escapist / Science Fiction.com

VG+編集部

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