Contents
中国SF映画が変わる!
興行収入74億円を突破
中国初のSFブロックバスター映画『さまよえる地球 (原題: 流浪地球、英題: The Wandering Earth)』(2019年2月、邦題は『流転の地球』に決定)が、破竹の勢いを見せている。Deadlineが報じたところによると、2月4日の深夜上映も含め、6日までに6,800万ドル (約74億6,400万円) の興行収入を叩き出したという。中国は現在、国内最大のホリデーシーズンである春節 (旧正月) に入っており、この数字は更に伸びると予想されている。Deadlineのナンシー・タータグリオーネ記者は、『流転の地球 (さまよえる地球)』を「確かに勢いを増し、話題を呼んでいる」と評価した。
北米での公開も決定
『流転の地球 (流浪地球/The Wandering Earth/さまよえる地球)』は、北米とオーストラリアでも公開が決まっている。同作は、太陽の爆発が迫り来る世界で、“地球ごと”太陽系の脱出を目指す壮大な宇宙スペクタクル作品。アメリカでは2019年2月8日(金)から公開される予定で、その評価にも注目が集まっている。
『流転の地球 (さまよえる地球)』に注目が集まる理由は明らかだ。どのメディアの報道でも、枕詞に「中国初のブロックバスター/大作SF映画」という言葉が踊る。香港メディアのSouth China Morning Postは、「『流転の地球 (さまよえる地球)』は中国のSF映画製作に活気を与える映画となるだろう」と題した特集を掲載。同作が中国のSF映画製作の流れを変える作品になる可能性について言及している。
苦しんできた中国SF映画
同誌のElaine Yau記者は、『カンフーサイボーグ』(2009) や『未来警察 Future X-cops』(2010) といった過去の中国SF映画は、“SF的要素”がメインプロットにも組み込まれていない「恥ずかしい作品」であったと回顧している。一方で、外国産のSF映画は中国国内で高い人気を誇っており、2012年以来、輸入映画の三分の一がSF作品になっているという。そんな中国SF映画界の状況を、なぜ、今になって『流転の地球 (さまよえる地球)』が変えてしまうと言い切れるのだろうか。
2019年は“中国SF映画元年”に
South China Morning Postによると、『流転の地球 (流浪地球/The Wandering Earth/さまよえる地球)』に出演したウー・ジン (呉京/ジャッキー・ウー) は、「『流転の地球 (さまよえる地球)』の公開で、2019年は中国にとってSF映画元年になる」とコメントしている。ウー・ジンは、2017年の『戦狼 ウルフ・オブ・ウォー』で主演兼監督を務め、同作を8億7,400万ドルの大ヒットに導いた手腕の持ち主。「若い世代の為になるなら」という条件で、フラント・ゴゥ (郭帆/Frant Gwo) 監督からのオファーを受託したという。
大作を生み出した援助と執念
ウー・ジンが『さまよえる地球』への参加に出した条件は、意外なものだった。
「あなたが成功した後に、新しいタイプの映画を作ろうとする若手をサポートするのであれば、私はあなたの助けになります」—— (ゴゥ監督に) そう伝えました。
実は、ウー・ジン自身はSFファンというわけではなく、むしろ同作に出演することで、SFというジャンルについて学んだのだという。ウー・ジンは『流転の地球 (さまよえる地球)』の製作過程についても、こう振り返っている。
映画制作の資金が厳しい状況になった時、私は監督に「ギャラはいらない」と伝えました。31日間で撮影を終わらせたのですが、その後、資金は尽きました。私はゴゥに、「同じ船に乗ったんだ。この映画に費やした努力を無駄にはしたくない」と伝え、出資者の一人に加わったのです。
ウー・ジンは「若い世代の為に」と乗り込んだ船を、最後まで走らせたのだ。だが、同時に見えてくるのは、制作に妥協を許さなかったゴゥ監督の姿勢である。「予算の範囲内に抑えよう」という発想では、『流転の地球 (さまよえる地球)』のような大作SFを完成させることはできなかっただろう。ゴゥ監督の執念と、それを支えた周囲のサポートが、中国SF映画の歴史にブレイクスルーを生み出そうとしているのだ。
「7,000人のSF映画製作に関する教養を育んだ」
そして、ウー・ジンは、『流転の地球 (さまよえる地球)』という映画が中国のSF映画制作に与える影響について、大きなヒントとなる言葉を残している。
7,000人もの人々がこの映画の製作に携わりました。少なくとも7,000人の人々のSF映画製作に関する教養を育んだということです。
『さまよえる地球』は、空前の大ヒットを記録することで中国SF映画の歴史を変えるわけではない。同作は、中国SF映画史上最高額の予算で製作され——つまり、より多くのスタッフが携わり——ハリウッドのクオリティに劣らないハイレベルな作品を生み出した。ウー・ジンが言うように、『流転の地球 (さまよえる地球)』が制作されたことにより、膨大な数の人々がSF映画製作に参加し、“本物のSF映画”を創り出すという経験を得たのだ。
数年後、十数年後、「自分は『『流転の地球 (さまよえる地球)』の制作現場にいた」と胸を張って中国から世界に挑戦する映画人が数多く現れるはずだ。2019年という年を、“中国SF映画元年”として記憶しておいて損はない。「成功した後、若手をサポートする」——ゴゥ監督がウー・ジンと交わした約束を実現する日も、そう遠くないだろう。
Source
South China Morning Post