予告公開の『ザ・フラッシュ』 DCスタジオで現実となってしまった「フラッシュ・ポイント」の経緯まとめ | VG+ (バゴプラ)

予告公開の『ザ・フラッシュ』 DCスタジオで現実となってしまった「フラッシュ・ポイント」の経緯まとめ

©2023 WBEI TM & ©DC

今日、アメリカン・フットボール最高峰のイベント『スーパーボウル』に合わせて、大作映画の予告が公開されることはもはや風物詩となっている。その中でも特に注目を集めたのが『ザ・フラッシュ』(2023)の予告編だろう。バットケイブに立つ新しいスーツのフラッシュというポスターも公開され、DCコミックだけではなく、ワーナー・ブラザーズ・ディスカバリーにとっての目玉企画となった『ザ・フラッシュ』。しかし、その「注目」という言葉は良い意味だけではない。

主演のエズラ・ミラー氏の相次ぐ不祥事や犯罪行為とそれを黙認していたワーナー・ブラザーズ・ディスカバリーの上層部、キャストの一部が製作現場に横行していたハラスメントを告発して去っていく、更には「神々と怪物(原題:Gods and Monsters)」と題されたDC10年計画によるすべてのリセット――その中で、良くも悪くもDCコミックの映画史に一つの終止符を打つかもしれない『ザ・フラッシュ』。予告から明らかになったことを振り返ってみたいと思う。

現実となってしまったフラッシュ・ポイント

「母親のノラ・アレンを殺され、無実にも関わらず妻殺しの汚名を背負って投獄された父親のヘンリー・アレン。その歴史を変えるためにフラッシュことバリー・アレンは過去へと遡り、歴史を改変することに成功する。だが、それはヒーローの消滅と世界滅亡の危機を招いてしまう――」予告映像で明かされた大まかなストーリーラインは「フラッシュ」シリーズでも人気が高く、コミック全体の世界の再編成(リランチ)を行い、コミックをNew52という新時代に突入させた『フラッシュ・ポイント』と同じ流れだ。

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『フラッシュ・ポイント』後の世界ではスーパーマンことクラーク・ケント/カル=エルはケント夫妻の牧場に落ちずに政府に監禁されて痩せ細っている。ウェイン夫妻と息子のブルース・ウェインは路地裏で強盗に襲われるが命を落としたのはマーサ・ウェインとブルース・ウェインで、妻子を喪ったトーマス・ウェインは復讐を決意してバットマンとなる。アクアマンことアーサー・カリーはアトランティス人を率いて地上を侵攻、ワンダーウーマンことダイアナ・プリンス率いるアマゾネス軍と戦争になり世界は滅亡寸前。人類の希望である「鋼の男(マン・オブ・スティール)」はスーパーマンではなくサイボーグことビクター・ストーンが務めている。

これはすべてコミック上の話だ。フラッシュによる時間軸の改変によって世界が変化し、ヒーローたちがいなくなるという展開が映像化されると聞いてファンは沸き立った。しかし、『フラッシュ・ポイント』は悲しい形で始まった。最初にいなくなったヒーローは『フラッシュ・ポイント』後の新世界の希望の星であったはずのサイボーグだった。

サイボーグを演じるレイ・フィッシャー氏は『ジャスティス・リーグ』(2017)撮影時のハラスメントを告発し、スタジオを去ったのだ。サイボーグはDCEUの歴史から時間改変されたかの如く消え、『ピースメイカー』(2022)では集結したジャスティス・リーグからシルエットごといなくなっていた。

ヒーローたちの消失は止まらず、「ワンダーウーマン」シリーズで主人公であるワンダーウーマンを演じたガル・ガドット氏もハラスメントを告発。シリーズは空中分解をはじめ、DCEUという同一のユニバースであるにも関わらず、「ワンダーウーマン」シリーズと「アクアマン」シリーズは別々の道を行き、スタジオはDCUへとリランチするために映画だけではなく『アロー』(2012-2020)や『フラッシュ』(2014-2023)に『スーパーガール』(2015-2021)らで構成されたアローバースというドラマ内でのユニバースを畳み始めた。アローバースは貧困問題と銃規制、人種差別に移民問題、ジェンダー差別などをヒーローと絡めて取り扱い、人気もあったため、この知らせはファンを大いに悲しませた。

出現したリバース・フラッシュ

文字通り色も性格もフラッシュとは正反対のヴィラン、リバース・フラッシュ。その正体はイオバード・ソーンという人物で、フラッシュと敵対する一方、フラッシュを偶像化するような性格からファンの中では「フラッシュの一番のファンなのでは?」と揶揄されることすらある。そのようなリバース・フラッシュだが、現実にも最悪の形で出現してしまった。ヒーローとは正反対の行動を起こす存在。それはフラッシュを演じるエズラ・ミラー氏自身だったのだ。

役者と役者が演じるキャラクターは分けて考えるべきだが、エズラ・ミラー氏に関しては簡単に割り切れなかった。彼は『ザ・フラッシュ』の企画を持ち込み、その映画化を熱心に推し進めていた。だが、女性への暴行事件に酒の強盗、子供たちを大麻や銃などのある不適切な環境に置き、酔って一般人を殴るなど問題行動を繰り返した。エズラ・ミラー氏の不祥事と犯罪に関する報道は一時期、堰を切ったように連日続いた。

ヒーローとは”正反対”の問題行動を繰り返すエズラ・ミラー氏にコミックファンのみならず、映画ファンも失望した。更にはワーナー・ブラザーズ・ディスカバリーの上層部がこれを黙認していたことで、レイ・フィッシャー氏やガル・ガドット氏の告発も相まって、『ザ・フラッシュ』への不信感は高まった。

なお、皮肉なことだが、これらの問題を黙認していたワーナー・ブラザーズ・ディスカバリーの上層部と対立していたレイ・フィッシャー氏が演じていたサイボーグはフラッシュと友人であり、問題が大きくなる前にアローバースにエズラ・ミラー氏が出演したときには、「サイボーグの言っていたことは正しかった!」という台詞があった。

希望はどこに?

この騒動によって姿を消したヒーローの一人に市民の希望、鋼の男と呼ばれたスーパーマンがいた。彼を演じていたヘンリー・カヴィル氏は『ジャスティス・リーグ:ザック・スナイダーカット』(2021)以降、スーパーマン/クラーク・ケント/カル=エルを演じることはなく、映像作品に残された現役のスーパーマンはタイラー・ホークリン氏が演じる「アローバース」シリーズと『スーパーマン&ロイス』(2021-)のみとなった。

その矢先、ヘンリー・カヴィル氏がスーパーマンに復帰するという電撃的な発表が映画ファンとコミックファンの間に走った。それは相次ぐ不祥事の報せばかり聞いていた人々にとってまさしく希望だった。

そして『ブラック・アダム』(2023)で主演を務めたロック様ことドウェイン・ジョンソン氏の尽力も合わさってヘンリー・カヴィル氏のスーパーマン復帰が叶ったのだ。特にヘンリー・カヴィル氏が大ファンと公表し、はまり役とまで言われていた『ウィッチャー』(2019-)の主人公、リヴィアのゲラルトから降板したこともあり、本格的な復帰が期待された。

しかし、その希望もまた露と消える。DCとワーナー・ブラザーズ・ディスカバリーは映画全体のリセットとDC10年計画第一章「神々と怪物(Gods and Monsters)」を発表し、それに伴いヘンリー・カヴィル氏はスーパーマンから降板させられることが発表された。この時点のDCUは上層部と現場が嚙み合わず、ガル・ガドット氏とパティ・ジェンキンス監督が『ワンダーウーマン3』への意気込みを語った直後に『ワンダーウーマン3』の白紙化が発表されるなど散々だった。

世界最高の探偵はこの難問を解けるのか

しかし、今回の『ザ・フラッシュ』の最大の目玉はベン・アフレック氏演じるバットマン/ブルース・ウェインとアース-89からやってきたマイケル・キートン氏演じるバットマン/ブルース・ウェインの二人の共演だ。特にティム・バートン監督作『バットマン』(1989)の首の曲がらないバットマンが再び登場したとき、感動したファンも少なくなかった。そこにマントを広げ、ティム・バートン版『バットマン』のBGMと共に飛び降りて敵を制圧するさまは理想そのものだった。世界最高の探偵の異名を持つ二人のバットマンの登場――それによって『ザ・フラッシュ』は一つなぎになるのだろうか。

『フラッシュ・ポイント』のスーパーマンの役割はサッシャ・カジェ氏演じるスーパーガール/カーラ・ゾー=エルに変更された。これはスーパーガールの出演が告知されていた以上、ファンも予想していたが、その後にヘンリー・カヴィル氏版スーパーマンが戦ったマイケル・シャノン氏演じるゾッド将軍が現れると、心のどこかでヘンリー・カヴィル氏の再登板を期待してしまうのがファンの心理だ。

だが、DC10年計画の中で『スーパーマン:レガシー(原題Superman:Legacy)』の計画が存在すること、その脚本を担当するジェームズガンDCスタジオ共同CEOの「ガル・ガドット氏は残るが、ヘンリー・カヴィル氏は自分のスーパーマンと合わなかった」という言葉で夢は夢のままだと知った。

そしてDC10年計画の中で何度も語られたリセットという言葉。それがサッシャ・カジェ氏による初のラテン系スーパーガールも、マイケル・キートン版バットマンも、すべてが消えるかもしれないという「現実の『フラッシュ・ポイント』」の恐怖がファンの中で広がっていった。不祥事と犯罪報道の続くフラッシュと彼をかばう会社上層部、畳まれた多くのヒーローとその企画。この問題の解決にワーナー・ブラザーズ・ディスカバリーが選んだのは『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』で劇的な復活を遂げたマイケル・キートンとティム・バートン版バットマンだったのかもしれない。

エズラ・ミラー氏だけではなく、ジェームズ・ガン共同CEOに対して好意的で、DC10年計画への過剰なバッシングに涙を流していたザッカリー・リーヴァイ氏も「インセル(恋愛やセックスの相手を欲しているが叶わず、その原因は女の側にあると考えるサブカル系インターネットコミュニティの女性蔑視主義者)コミュニティのヒーロー」と呼ばれるジョーダン・ピーターソン氏のイベントに列席し、反ワクチンともとれるツイートも行うなど、問題行動を行う人物が絶えないDCU。

ドラマ版『フラッシュ』の最終話「THE FINAL RUN」が公開される中、こちらのフラッシュは最後まで走り抜けられるのか。予告映像だけではなく、『ザ・フラッシュ』を100周年記念映像の最後に持ってきたワーナー・ブラザーズ・ディスカバリーとDCの今後の対応を注視したい。

映画『ザ・フラッシュ』は2023年6月16日(金)日米同時公開。

『ザ・フラッシュ』公式サイト

ドラマ『THE FLASH / フラッシュ』は <ファースト・シーズン>コンプリート・ボックスが発売中。

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ジェームズ・ガンが発表したDCU10作品の全作解説はこちらから。

ヘンリー・カヴィルを巡るDCの人事が大きな話題になった経緯はこちらの記事で。

『バッドガール』のお蔵入り問題の経緯の解説はこちらから。

鯨ヶ岬 勇士

1998生まれのZ世代。好きだった映画鑑賞やドラマ鑑賞が高じ、その国の政治問題や差別問題に興味を持つようになり、それらのニュースを追うようになる。趣味は細々と小説を書くこと。
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