“スパイダーマン大国” 中国での大ヒットで、“本家超え”なるか
日本では堂々の首位発進
11月2日(金)、映画『ヴェノム』が日本でも公開され、オープニング興行収入・観客動員共に堂々の第1位を獲得した。全世界の累計興行収入は約612億円を突破。『ヴェノム』は製作費1億ドル (約113億円)と、「スパイダーマン」シリーズ関連作では“史上最安”の予算で製作されており、“本家”を超える利益率をマークすることは間違いなさそうだ。
中国での公開で“本家超え”も
だが、忘れてはいけないのは、今や映画市場の主役に躍り出ようとしている中国での『ヴェノム』公開が、11月9日(金)に迫っているということだ。中国での公開で、興行収入7億ドル (約791億円) 突破は確実。『アメイジング・スパイダーマン2』(2014)の7億900万ドル、『アメイジング・スパイダーマン』(2012)の7億5,800万ドル超えにも期待がかかる。
中国版タイトルは『毒液 : 致命守护者』
『ヴェノム』による“本家超え”の命運を握る中国では、『毒液 : 致命守护者』というタイトルで公開される。“毒液”はヴェノムを指しており、中国独自のサブタイトルとして、「致命守护者 (致命守護者)」が付けられた。ヴェノムが「致命的な守護者」とは、言い得て妙である。そもそも、英単語“venom”は、日本語でも“毒液”を意味する。“悪意”という意味も含まれているが、なぜこれがヴェノムというキャラクターにそぐわないのかということは、以下の記事に詳しい。
独自主題歌に賛否も…
そんな中国で話題になっているのは、中国版で独自の主題歌が設定されていることだ。2018年6月に結成されたアイドルグループ・Rocket Girls 101 (火箭少女101) が歌を担当。『ヴェノム』本編の見せ場が大胆に詰め込まれたMVも公開されている。
「バラバラホン (BALA BALA HONG)」というフレーズが印象的なこの曲、YouTubeでは多くの高評価が付いている。一方で、困惑しているのは中国のマーベルファンだ。China Film Insiderが伝えたところによると、SNS・微博 (Weibo) には、「劇場で流すのはやめてほしい。どうやって楽しめばいいのか、本当に分からない」と、マーベルファンの本音が投稿されている。
だが、マーケティング戦略上、主題歌をローカライズすることは何も珍しいことではない。近年では日本でもお馴染みの光景だ。日本版『ヴェノム』も、吹き替え版の主題歌には、UVERworldの「GOOD and EVIL」が使用されている。ローカライズもまた、その環境に適用しようとする『ヴェノム』の生存戦略なのだ。
日本を逆転した“スパイダーマン大国”
同時に、中国独自の展開に反発が生まれるということは、中国のファンの間で、原作への愛情が強くなっているということの証でもある。何を隠そう、中国での「スパイダーマン」シリーズの興行収入は、『スパイダーマン』(2002)から『スパイダーマン : ホームカミング』(2017)に至るまで、驚異的なペースで上昇し続けているのだ。以下の表に注目して頂きたい。
日中における「スパイダーマン」シリーズの興行収入
作品タイトル | 年 | 日本 | 中国 |
スパイダーマン | 2002 | 5,600万ドル (75億円) | 500万ドル |
スパイダーマン2 | 2004 | 5,900万ドル (67億円) | 600万ドル |
スパイダーマン3 | 2007 | 5,800万ドル (71.2億円) | 1,900万ドル |
アメージング・スパイダーマン | 2012 | 3,900万ドル (31.6億円) | 4,900万ドル |
アメージング・スパイダーマン2 | 2014 | 3,000万ドル (31.4億円) | 9,400万ドル |
スパイダーマン : ホームカミング | 2017 | 2,500万ドル (28億円) | 1億1,600万ドル |
(参考:Forbes.com)
お分かりだろうか。日本での興行収入は、数字の上では下降しているが、中国では上昇し続けている。もちろん、上記の結果は、決して日本で「スパイダーマン」シリーズの人気に陰りが出てきたということではない。サム・ライミ版の三部作がとてつもない大ヒットだったということだ。それに比べ、中国での動きが鈍過ぎた。だが、中国ではこの15年間、マーケットの成長と共にグングンと「スパイダーマン」シリーズの興行成績を伸ばしてきた。『アメージング・スパイダーマン2』(2014) では、遂に“スパイダーマン大国”であった日本を逆転している。
この結果を見れば、中国での『ヴェノム』の大ヒットに大きな期待がかかるのは当然だと言える。『ヴェノム』は中国のマーケットも食い荒らし、歴史にその名を刻むのだろうか。
Source
China Film Insider / Forbes.com