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至極のSFドラマ『ウエストワールド』
エミー賞21部門にノミネート
ジョナサン・ノーランとリサ・ジョイ夫妻が製作を手がける『ウエストワールド』(2016-)は、”ホスト”と呼ばれるアンドロイドの自我と人間の欲望を描く設定で、大きな話題を呼んでいる。2018年9月に開催された第70回エミー賞では、ドラマ部門の作品賞を含む21部門にノミネート。シーズン2第5話「あかねの舞 (Akane No Mai)」がメイクアップ賞とヘアスタイリング賞を受賞した他、ホストのメイヴを演じたタンディ・ニュートンが助演女優賞を受賞している。『ウエストワールド』は、今最も注目を集めているSFドラマの一つなのだ。
ノーラン兄弟はそれぞれの道へ
製作と脚本を務めるジョナサン・ノーランは、何を隠そう世界的に有名な映画監督であるクリストファー・ノーランの弟だ。クリストファーのハリウッドデビュー作である『メメント』(2000)も、名作『ダークナイト』(2008)を含む「ダークナイト」トリロジーも、二人で脚本を手がけてきた。だが、『インターステラー』(2014)を境に、二人はそれぞれの道を歩むことになる。兄のクリストファーは、エンターテイメント性の高い作品から、『ダンケルク』(2017)のようなリアルな映像表現を追求する映画製作にシフト。弟ジョナサンは、J・J・エイブラムス監督の後ろ盾の下、『ウエストワールド』をはじめとするテレビドラマ製作の世界へ進んだ。そして、ジョナサンはここでも新たなパートナーとタッグを組むことになる――。
ジョナサン・ノーランの新たなパートナー
“様式”を描くリサ・ジョイ
ジョナサン・ノーランの映像作品制作における新たなパートナーとなったのは、妻のリサ・ジョイだ。リサ・ジョイはこれまでに、ドラマ『バーン・ノーティス 元スパイの逆襲』等で脚本を手がけてきた。詩を書くことからライティングの世界に入ったというリサ・ジョイは、『ウエストワールド』では主に人間やホスト間の関係性を描く部分を重点的に手がけている。つまり、キャラクターの感情を司る部分だ。『ウエストワールド』公式サイトで公開されているインタビューでは、リサ・ジョイはこの作品について以下のように述べている。
表面的な懺悔の物語は書きません。”様式”を書きたいんです、特にこの番組ではね。巨大で詩的な様式の神話。それは“人間らしさ”の鏡でもある。
by リサ・ジョイ
インタビューでの言葉選びからして詩的である。人間とアンドロイドの”心”を扱う『ウエストワールド』は、リサ・ジョイの豊かな感受性が反映された作品なのだ。
引き継がれた”ノーラン流”の緻密さ
一方で、『ウエストワールド』の緻密で複雑な構成を担っているのは、夫のジョナサン・ノーランだ。英BFIが2018年6月に公開したジョナサン・ノーランとリサ・ジョイへのQ&A企画では、「パズルTV」とも称された同作の複雑な構成について、リサ・ジョイは「この複雑な構成については、私は何もしてません」と笑顔で答えている。一方でジョナサン・ノーランは、「僕の最初の映画は逆向きに進む物語でしたからね」と、兄のクリストファー・ノーランと脚本を手がけた『メメント』での演出を比較。多くの映画ファンを驚かせてきた”ノーラン流”の緻密で大胆な構成が、『ウエストワールド』にも引き継がれているのだ。
良作を生み出し続けるコンビネーション
このように、完成するのは一つの物語であっても、テクニカルでメカニカルな側面をジョナサンが手がけ、感情的で詩的な側面をリサが手がけていることがうかがえる。兄弟でありながら育った国が異なる(クリストファーはイギリス育ち、ジョナサンはアメリカ育ち)ノーラン兄弟は、その違いを活かして、登場人物の二面性を描く映画作品を作り続けてきた。兄と離れた後も、ジョナサンは妻のリサと共に、見事なコンビネーションで映像作品を作り続けているのだ。
クリストファー・ノーランは弟夫妻の活躍をどう見ている…?
弟夫妻に言及した貴重なコメント
そんな弟夫妻のことを、ジョナサンのかつての相方、クリストファー・ノーランはどのように思っているのだろうか。公の場で、クリストファーがジョナサンについて言及することは多くない。だが、2017年7月に公開されたロサンゼルス・タイムズ紙のインタビューでは、映画とテレビ作品の違いについて語る中で、このように話している。
私は、テレビドラマにも素晴らしい作品が存在していると思っています。私の弟(ジョナサン)と義理の妹(リサ)の作品(『ウエストワールド』)がその一つです。テレビドラマをけなしたくはないんです。素晴らしい作品が作られていると思っています。ただ、映画とは全く異なるものなんです。
by クリストファー・ノーラン
上記は決して弟夫婦の活躍をテーマとした話題ではなく、映画とドラマ製作にまつわる話の中で、二人の名前が登場したにすぎない。それでも、ジョナサンとリサが作り上げた『ウエストワールド』を、さりげなく”素晴らしい作品”の一つとして挙げているのだ。クリストファーはこのインタビューで、ジョナサン・ノーランと『ウエストワールド』の製作総指揮であるJ・J・エイブラムスを例に挙げ、映画とドラマの作品両方を手がけることができる才能を称えてもいる。弟夫妻の活躍を暖かく見守るクリストファー・ノーランの姿が、眼に浮かぶようである。
日本では、『ウエストワールド』シーズン2のDVD&Blu-rayが2018年12月5日に発売される。また、シーズン3の製作が既に決定している。ジョナサン・ノーランとリサ・ジョイの活躍は、まだまだ続きそうだ。
Our own new world.#Westworld is now available on @HBO. pic.twitter.com/Yt7kkm6sqv
— Westworld (@WestworldHBO) 2018年7月3日
Source
DARK HORIZONES © 1997-2018, Dark Futures Pty. Limited. / HBO © 2018 Home Box Office, Inc. / BFI on YouTube ©2018 British Film Institute.