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『ウエストワールド』のタンディ・ニュートンにエミー賞助演女優賞
So f******g blessed!!! 😳 😂 What a thrill. Could not be more proud of @westworld and #Maeve. Humbled and full of love. Will work hard to earn it xxxxxxxxxxx pic.twitter.com/PFLX56pO57
— Thandie Newton (@thandienewton) 2018年9月18日
同賞唯一の黒人候補者
アメリカ時間の9月17日、ロサンゼルスで第70回エミー賞の授賞式が開催され、2018年を代表するドラマ作品と俳優が決定した。SF界からは、『ウエストワールド』(2016-)でメイヴ・ミレイを演じるタンディ・ニュートンがドラマ部門助演女優賞に選ばれた。今年のドラマ部門助演女優賞では、7名のノミネートに対して『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』(2017-)から3名の候補者が選出されていた。タンディ・ニュートンと、『ストレンジャー・シングス 未知の世界』(2016-)から選出されたミリー・ボビー・ブラウンを含むと7名中5名がSF作品からのノミネート。そんな“SF激戦区”を勝ち抜いたタンディ・ニュートンは、受賞後のインタビューで、黒人の少女たちに向けて「私たちには価値がある」と呼びかけた。同賞の候補者の中では、タンディ・ニュートンが唯一の黒人俳優だったのだ。
「ハン・ソロ」でも話題に
タンディ・ニュートンは、30年近いキャリアを持つイギリス出身のベテラン女優。1991年に『ニコール・キッドマンの恋愛天国』でデビューを果たし、『ミッション:インポッシブル2』(2000)でヒロイン役を務めた。2005年には『クラッシュ』で英国アカデミー賞助演女優賞を受賞し、『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』(2018)では、「スター・ウォーズ」シリーズで初めてメインキャラクターに据えられた黒人女優として話題を集めた。
過去にはスター・ウォーズに関する発言で炎上
バックラッシュの標的に
一方で、「スター・ウォーズ」に関するタンディ・ニュートンの発言は、思わぬバックラッシュを呼ぶことにもなった。ガーディアン紙のインタビューにおいて彼女が発した「スター・ウォーズの主要キャラにおいて、最初の“黒い肌 (dark-skinned)”の女性」という表現が、ネット上で炎上。曰く、白人の父親を持つニュートンは、“黒い肌 (dark-skinned)”には当たらないというのだ。『ブラックパンサー』(2018)でナキアを演じたルピタ・ニョンゴが、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(2015)、『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』(2017)にモーションキャプチャーで出演していることも引き合いに出された。ルピタ・ニョンゴは両親共にケニア人で、ニュートンよりも“黒い肌”を持っているからだ。
タンディ・ニュートンのアンサーは…
これらの批判を、とるに足らない揚げ足取りだと一蹴することもできるだろう。だが、これらの批判に対して、タンディ・ニュートンは以下のようにツイートした。
Eugh I need to stop with the yap yap yappin’ and just BE the change in the world I wish to see 😔 @StarWarsMovies #Colorism pic.twitter.com/DeFya1Yo9z
— Thandie Newton (@thandienewton) 2018年5月20日
ペチャクチャお喋りすることは、やめないといけませんね。私が望む世界の変革に“なる”ことが必要なようです。
発信することで揚げ足を取られ炎上するくらいなら、ただ行動あるのみということだろう。今回、エミー賞というドラマ賞最高の栄冠を手にしたタンディ・ニュートンだが、今回も黒人女優として発信することはやめなかった。エミー賞の受賞インタビューにおいては、彼女は“黒い肌 (dark-skinned)”という言葉は用いず、“brown little girls”という表現を用いて、より幅広い“黒人”の少女達へ向けてメッセージを発した。例えバックラッシュに遭おうが、信じた道を行くその姿勢は、『ウエストワールド』で彼女が演じたメイヴの姿と重なる。彼女の役者としての力量はもちろん、人としての芯の強さがもたらした今回の受賞だったのではないだろうか。
“人間らしさ”を問う衝撃のSFスリラー『ウエストワールド』
アンドロイドを演じたタンディ・ニュートン
HBOが製作するドラマ『ウエストワールド』は、J・J・エイブラムス製作総指揮、ジョナサン・ノーランとリサ・ジョイの夫妻が脚本とショーランナーを務めるSFドラマ。人間が欲望のままに行動できるテーマパーク、“ウエストワールド”を舞台に、そこに住む“ホスト”と呼ばれるアンドロイドと客である人間の対話と衝突を描いたSFスリラーだ。
タンディ・ニュートンが演じるメイヴ・ミレイは、娼館の女主人という“役柄”のホスト。自分の記憶に疑いを持ち始め、“外”の世界を志向するようになる。エヴァン・レイチェル・ウッドが演じるヒロイン、ドロレスと対をなすキャラクターだ。
日本の江戸時代を舞台に、日本語にも挑戦
今回、タンディ・ニュートンが受賞した助演女優賞の対象となったのは、『ウエストワールド』のシーズン2。第5話の「茜の舞」は、真田広之、菊地凛子、TAO、祐真キキといった日本の俳優陣も登場する“ショーグン・ワールド”が舞台。江戸時代をモチーフにした美しいセットで、ニュートンも着物に身を包んでの演技に望んだ。ニュートンは、『ウエストワールド』公式サイトのインタビューで以下のように話している。
役者としては、“aww…”という感じよ。最高のセットで、衣装も完璧。
劇中では日本語のセリフにも挑戦。
劇中で使われた日本語は、現代語ではなく伝統的な日本語なの。今までで、一番強烈で没入したフィールドトリップよ。
どのような環境にも適応する役者としてのスキルは、まさにエミー賞の栄冠に相応しいものだと言える。
人間が普遍的に共有するもの
このエピソードでは、メイヴは菊地凛子演じる茜と、娘への愛情を共有する。言語や環境を超えて“人間”同士が共有しているものを提示するのだ。
視聴者は、私たちが共有してるものに気づかされるの。言葉や境遇が違っても、どこにいても普遍的な類似性があるということに。
by タンディ・ニュートン
黒人女優として、プライドを持って俳優活動を行ってきたタンディ・ニュートン。エミー賞助演女優賞を受賞した『ウエストワールド』シーズン2では、一つの枠組みを超えたメッセージを発信した。江戸時代の日本という時間も空間も、そして言葉をも超えた世界においても、通じ合うことができる“人間”としての姿を提示したのだ。
そのような重要な役割を果たしたタンディ・ニュートンの姿を、彼女が語りかけた少女達の目にはどのように映ったのだろうか。大人になった彼女達が活躍を見せる未来は、そう遠くないだろう。
Source
HBO.com / The Guardian / Atlanta Black Star