クリストファー・ノーラン監督の脚本力の裏に「もう一人の天才」。弟ジョナサン・ノーランの才能に迫る | VG+ (バゴプラ)

クリストファー・ノーラン監督の脚本力の裏に「もう一人の天才」。弟ジョナサン・ノーランの才能に迫る

via: Warner Bros. France on YouTube

イギリスからアメリカへ。クリストファー・ノーラン監督の成功への道のり

今や、押しも押されもせぬ名監督の地位を揺るぎないものとしたクリストファー・ノーラン監督。21世紀に入り、『バットマン ビギンズ』(2005)、『ダークナイト』(2008)を始めとする「ダークナイト・トリロジー」や、『プレステージ』(2006)、『インセプション』(2010)といった名作SFを次々生み出してきた。近年では、『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』(2016)や、『ジャスティス・リーグ』(2017)で製作総指揮を務め、DCEU(DCエクステンデッド・ユニバース)には欠かせない人物になっている。

不遇のイギリス時代を越えて

via: Summit Entertainment

そんなクリストファー・ノーラン監督も、デビュー前のイギリスでは苦汁を嘗めた不遇の時代を過ごした。イギリス時代のストーリーについては別の機会に譲ることにするが、ノーラン監督はそれを実力で乗り越え、アメリカに進出することになる。海を渡り、ハリウッドデビュー作『メメント』(2000)を製作する為の予算獲得にこぎ着けることになるのだが、実は、そのサクセスストーリーの影には「もう一人の天才」の存在があった。

もう一人の天才

それは、『メメント』の原案を起案したクリストファー・ノーランの実弟、ジョナサン・ノーランの存在だ。ジョナサンが執筆した『メメント』の原案に、クリストファー・ノーラン監督が加筆を行ったものが製作会社の目に留まったのである。『メメント』は、妻を殺された主人公が10分しか記憶が続かないという記憶障害を負いながら、妻を殺した犯人への復讐を目指す物語。物語の終盤から始まりへ向けてストーリーが進んでいく演出は、ハリウッドデビュー作ながら高い評価を受けた。この作品で、二人は兄弟揃ってアカデミー賞脚本賞にノミネートされることになり、ノーラン兄弟の映画人生は順風満帆な船出となったのだ。今回は、クリストファー・ノーラン監督作品の脚本執筆において、大きな役割を果たしてきたジョナサン・ノーランのストーリーをご紹介する。

ノーラン兄弟の意外な生い立ち

そもそも、ノーラン兄弟の父はイギリス人コピーライターであった。その影響を受けてか、クリストファーはイギリスのユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンで英文学を学んだ。一方、アメリカのジョージタウン大学に入学したジョナサンは、同大学で学生新聞のスタッフを務めながら、英語を専攻としていた。イギリス人の父とアメリカ人の母を持つノーラン兄弟は、実はイギリスとアメリカで別々に育っている。クリストファーはロンドン育ち、ジョナサンはシカゴ育ちの為、英語のアクセントが異なるのだとか。国籍の違う両親を持ち、兄弟共にイギリスとアメリカの二重国籍——そうした境遇について、ジョナサンはMovies Onlineのインタビューで、このように語っている。

二つのパスポートを持っていて、母はアメリカ人、父はイギリス人。この二つの国の間柄だからね。お互いの国に対する自然な親近感があって、そういう(二重性についての)議論は何年も平行線だよ。大きな違いがあるわけじゃないんだよ、でも確実に”一貫性のない”物事の見方は育まれたな。

by ジョナサン・ノーラン

共存する「二つの顔」

ノーラン兄弟の作品を知る読者なら、「一貫性のない=schizophrenic」という表現にしっくりくることだろう。『メメント』のヒット後、ジョナサンがクリストファーと共同で脚本を手がけた『プレステージ』(2006) 、『ダークナイト』では、やはり「二面性」や「二つの顔」といったキーワードが作品内に散りばめられている。兄弟で異なるバックグラウンドを持って育ちながらも、互いの国のアイデンティティを併せ持つ二人の共同脚本が、人間の内面を問う上質なSF作品を作り上げたのである。

クリストファー・ノーランの弟」を越えて

2014年に収録されたMovies Onlineのインタビューで、監督業への関心を聞かれたジョナサンは「興味はあるけれど、まだまだ脚本執筆について学ぶことがたくさんある」と話している。同年に公開されたクリストファー・ノーラン監督、ノーラン兄弟共同脚本の『インターステラー』も大ヒットを記録した。同作はサターン賞最優秀SF映画賞と脚本賞を同時受賞している。こうして兄弟二人三脚で順風満帆なクリエイター人生を送っているように見える二人だが、実は、近年は互いに違う道を歩み始めている。

歩み始めたそれぞれの道

まず、クリストファー・ノーラン監督が製作総指揮として携わったDCEU作品には、ジョナサンの名前は登場していない。そして最新作の『ダンケルク』(2017)では、クリストファー一人で脚本を執筆している。もちろん、それ以前の作品でも一人で脚本を執筆した作品や監督のみ務めた作品も存在しているが、ここで注目するべきポイントはむしろ、近年のジョナサンの動向の方だ。

ジョナサンの新たな挑戦と新たなタッグ

『ダークナイト』の脚本家としても大成功を収めたジョナサン・ノーランだが、そんな彼に舞い込んできたのはテレビドラマシリーズ『PERSON of INTEREST 犯罪予知ユニット』(2011-2016)の原案・脚本・製作総指揮の仕事だった。このSFクライムサスペンスシリーズの陣頭指揮を執ったのは、『スタートレック』(2009)、『スター・ウォーズ/フォースの革命』(2015)のJ・J・エイブラムス監督だ。ジョナサンにとっては初めてのテレビドラマシリーズの仕事となった。

J・J・エイブラムスが与えた影響

このシリーズでジョナサンが刺激を受けたのは、映画とテレビ双方の業界で活躍を見せるJ・J・エイブラムス監督の姿勢だったという。Colliderからインタビューを受けたジョナサンは、一度の公開で完結する映画作品に対して、テレビシリーズはまるで“マラソン”だと語る。映画とテレビシリーズの双方、つまり短距離走と長距離走の双方で卓越した記録を叩き出すのがJ・J・エイブラムス監督なのだという。

兄クリストファーから離れ、映画・テレビ業界の先輩の姿に感銘を受けたジョナサンは、6年間 (5シーズン) に渡ったシリーズを見事に完走してみせた。2016年からは、マイケル・クライトン監督の同名SF映画を基にした『ウエストワールド』のドラマシリーズで脚本・製作を担当。この作品でも、製作総指揮を務めるJ・J・エイブラムス監督から声を掛けられての参加となった。シーズン開始後、J・J・エイブラムス監督は多忙な為、ジョナサンがディレクションを任されているという。『ウエストワールド』では「人間の条件」を問う重厚なSFドラマが展開されており、エミー賞にノミネートされるなど高い評価を受けている。

 

それぞれの道を歩みだした、二人の「ノーラン」。兄クリストファーは着実に名作映画を生み出し、弟ジョナサンは脚本執筆を極めるべく、名監督の下でSFドラマシリーズを手がける。今はそれぞれの活躍を楽しみながら、いつか再び二人のコラボレーションを見られる日が来ることを期待しよう。

Source
Collider / Gizmodo / Movies Online

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