ドラマ『デアデビル:ボーン・アゲイン』第8話はどうなった?
ドラマ『デアデビル:ボーン・アゲイン』は2025年のMCUドラマ第1弾として3月より配信をスタート。かつてNetflixで配信されていたドラマ『デアデビル』(2015-2018) のストーリーを引き継ぎながら、本格的にMCUに合流する作品だ。
これまでのMCUドラマとは一味違うシリアスなテイストで高い評価を受けている『デアデビル:ボーン・アゲイン』。だが、全9話で構成されているシーズン1もまもなくフィナーレを迎える。今回は、最終回目前となる第8話の展開について、ネタバレありで解説&考察していこう。以下の内容はネタバレを含むため、必ずディズニープラスで本編を視聴してから読んでいただきたい。
以下の内容は、ドラマ『デアデビル:ボーン・アゲイン』第8話の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
ドラマ『デアデビル:ボーン・アゲイン』第8話ネタバレ解説
ブルズアイのブルー
ドラマ『デアデビル:ボーン・アゲイン』第8話「歓喜の島」の監督を務めるのはジャスティン・ベンソン&アーロン・ムーアヘッド。ドラマ『ロキ』(2021-) や『ムーンナイト』(2022) に携わってきた監督コンビで、『ボーン・アゲイン』では第1話と第8話、第9話の監督を務める。
第8話冒頭の印象的な青い薔薇のシーンで流れる曲は、ノルウェーのアーティストHanne Kolstøの「Stillness and Panic」(2013)。「静寂と錯乱」という意味のタイトルだが、庭に咲く青い薔薇を見つめていたのはブルズアイことポインデクスター(デクスター)だった。デクスターは第1話でフォギーを殺害。死刑を禁止しているニューヨーク州では最も重い終身刑が言い渡されていた。
独房から連れ出されたデクスターは、ESHだから上訴するまでは監禁のはずだと疑問視している。ESH (Enhanced Supervision Housing) とは、実際にニューヨークのライカーズ刑務所で運用されている制度で、危険とみなした受刑者を特別な監視体制の下で収容するルールのことだ。
デクスターは釈放されるかと思いきや、他の囚人達と同じ一般房へと送られる。ここで「ポインデクスター捜査官」と呼ばれている通り、デクスターは『デアデビル』シーズン3ではFBI捜査官だったが、ウィルソン・フィスクにコントロールされて闇に堕ちたキャラクターだ(元々おかしいところはあったけど)。
つまり、ニューヨークの刑務所には、FBIのせいで逮捕された囚人が山ほどいて、元FBI捜査官のデクスターにとっては一般房は安全な環境ではないのである。恨みを持つ受刑者達の的(=ブルズアイ)となったデクスターだが、状況に反して、照明はブルズアイのコスチュームのカラーである青に染まっていくのだった。
原作コミックのブルズアイは、黒いコスチュームの印象が強いが、第8話冒頭の青い薔薇も含め、MCU版ブルズアイのイメージカラーを青にしたいという制作側の意図があるのだろう。デアデビル=レッドに対峙するブルズアイ=ブルー。シーズン1ラストを飾る第8話と第9話はブルズアイにフォーカスして進められていくことを示唆して、第8話は幕を開く。
桜の季節
ウィルソン・フィスクは、問題が多発している港のレッド・フックに民間からの投資を受けることをヴァネッサに伝える。フィスクは第6話でニューヨークの上流階級の人々と交流したが、マウントを取られるばかりだった。それでも、結局フィスクは支援を手にしたようだ。
フィスクは、ヴァネッサの前から一時的に消えた件について、捨てていない、転換だと説明。そして、前回ラストでルカを返り討ちにした作戦がヴァネッサの協力のもとで行われていたことが明らかになる。ヴァネッサにとっても、変革を求めてきたルカが目障りだったらしい。確かに銀行強盗も失敗しているし、あまり出来のいい幹部ではなかった。
ちなみにこのシーンでは二人の背後に桜の花が映り込んでいる。二人の服装は寒そうだが、第5話の舞台が聖パトリックデー=3月17日だったので、もう桜のシーズンなのだろう。桜は映画『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』(2025) でも印象的に使用されていたが、あるだけで舞台となっている大体の時期が分かるのでありがたい。
対照的な二つのカップル
前回ミューズを射殺したヘザーはショックを受けており、暴力がデアデビルからミューズ、ミューズから自分に連鎖したと肩を落としている。デアデビルとミューズを共に「未熟な子供」「マスクで自分を良く見せている」と非難するのだ。
フィスクと同じような主張をするようになったヘザーに、マットは、デアデビルはミューズからヘザーを助けたと弁明するが、ヘザーは自力で助かったと聞き入れない。敏腕弁護士のマットも、なぜかデアデビルの弁護だけはうまくいかない。
そして、そこにフィスク夫妻の右腕であるバック・キャッシュマンが訪ねてくる。キャッシュマンはフィスクとヴァネッサの夫婦カウンセリングを手配するためにヘザーの出版イベントに赴いており、その時、名刺を受け取っていた。
一方のフィスクはアダムを監禁していた地下室へとヴァネッサを案内していた。そして、アダムはまだ生きていた。殺さないという誓いは守ったのだという。第7話のラストでは、デアデビル/マットもミューズ殺害を踏みとどまったが、フィスクもまた(結果的に、かもしれないが)アダムを殺しはしなかったようだ。
フィスクは、ヴァネッサと一緒でないと生きていけないと告白。側から見れば幼稚な姿にも見えるが、自由にしてくれれば黙って姿を消すと主張するアダムよりは愛が感じられる。そしてヴァネッサはアダムを射殺。結局フィスクは手を汚すことなく、二度と離れないと愛を誓うのだった。
キャッシュマンがヘザーに持ってきたのはフィスクからの招待状で、ミューズと戦ったことへのお礼としてヘザーを舞踏会に招待するという。マットはキャッシュマンがヘザーの居場所を知っていることに疑心暗鬼になり、それに拍車をかけるようにキャッシュマンがいやらしく部屋の中を覗き込む。見てる方も「なんじゃこいつ」と思ってしまうくらい、良い味を出している。
マットは、なぜヘザーがキャッシュマンを知っていて、フィスクと繋がりがあるのかを問い詰めるが、ヘザーは職務上の守秘義務もあって答えない。しかしマットは、自分だけだと思っていたフィスクとの関係が、自分たちの人生に関わっていると知り、動揺を隠せない。
さらに、港湾プロジェクトに賛同する皆さんを舞踏会に招待という言葉に、マットは舞踏会に出席すればフィスクのナラティブ=物語に利用されると主張。だが、ヘザーはヴィジランテが危険というフィスクの主張には賛成だと反論するのだった。
極端なリーダーの出現でカップルや家族間の政治的主張が食い違う場面は、現実でも日常茶飯事だ。それは、移民に関する議題だったり、セクシュアルマイノリティの権利に関する議題だったりもする。個人の経験から来る偏見はある程度あるものだが、それを公的な立場から肯定して煽るようなリーダーが現れれば、社会の分断は驚異的なスピードで進められていく。
ヘザーは、同伴者一人は認められているとして、マットに一緒に来るよう求めるが、マットは表面的な返事をして出かけてしまう。秘密を共有して愛を深めたフィスク夫妻と、秘密を隔てて壁が生まれるマット&ヘザー。第8話では対照的な二組の姿が描かれている。
ちなみにフィスク夫妻がハグした後に映る絵は第4話でも解説したドラマ『デアデビル』からのアイテムだ。シミが付いているのはシーズン3最終話でデアデビルがフィスクの顔面を殴打して飛んだ血が付着したからだ。
その後、デアデビルはヴァネッサが犯罪に加担したことを黙っておく代わりに、フォギーとカレンに手を出さないことをフィスクに約束させた。今ではフォギーとカレンはいなくなったが、フィスクはデアデビル=マットという秘密をバラさないというカードは持っている。
あの絵と血は、フィスクがヴァネッサの秘密を守るために生きていくということを示す象徴でもある。今回ヴァネッサはアダムを射殺するというより直接的な犯罪に手を染めた。血に塗られた新たな秘密を共有することになったのだ。
見たことのある光景
キルスティンは、一般房に移されたポインデクスターがマットとの面会を要請していると話す。しかも、デクスターを一般房に移したのは市長であるフィスクだという。そんな権限まであるのか……。
市長室では、特別部隊の結成後にヴィジランテの犯罪が30%減少したこと、メディアも好意的な反応に切り替わったことが報じられている。前回ダニエルに脅されたせいか、BBも大人しくしているらしい。
フィスクは人権委員会の警告は無視し、ダニエルを市長代理に任命。議会との交渉を任せるという。どこかで見たことがある光景だ。
現実ではドナルド・トランプ大統領が政治の素人であるイーロン・マスクを大統領上級顧問に任命。政府効率化省(DOGE)を通じてコストと人員の削減を主導させた。
周囲の反対を押し切って結託するフィスクとダニエルは、トランプとイーロンのミニチュア版を思わせる。だが、制作時期的にはここまで現実と重なることは製作陣も予期していなかっただろう。
そしてフィスクは、市長室のデスクが1934年から1945年まで市長を務めたフィオレロ・ラガーディアのものだったと話す。第2話では、フィスクはラガーディアは父が唯一尊敬した人物だと話していた。伝統への憧れ/執着と、仕組みや手順の軽視。今の“エセ保守”の姿をうまく捉えている。
デアデビルになる理由
マットは横柄な顧客のマディソンと面会。マットは心臓の鼓動でマディソンが嘘を言っているのを見抜き、偽証教唆(=嘘の証言をさせること)はしないと突っぱねる。フィスクとミューズ、それにポインデクスターの件が重なり、マットは精神的にかなり追い込まれている。
キルスティンに問い詰められたマットはようやく正直な気持ちを吐露する。デクスターを有罪にしても平穏は訪れず、ヘクターを無罪にしても殺され、ヘクターを殺した警察は野放しで、貧困に喘いでいたリロイはポップコーン窃盗で投獄、ヘザーはヴィジランテを取り締まるフィスクに賛同、依頼人のマディソンは偽証で金を奪おうとしている。
「いくら努力しようが空しいだけ」——ここまで来るのに8話かかったが、これこそマットがデアデビルとして活動する根源的な理由であり、人々から共感を集める所以だ。日本でもほとんどの裏金議員は逮捕されないが、貧窮しておにぎり一個を盗んだ老人が逮捕される。法のもとで正義が果たされるなら、デアデビルはいらない。
キルスティンは共感を示すが、マットは「行かないと」と事務所を出ていってしまう。マットは、ヘザーにもキルスティンにも同じような態度を見せている。理不尽な社会が目覚めさせた自分の中のデビルを、これ以上抑えることができないのだ。
オメルベニーの真実
マットが訪れたのは、廃墟のような外装となったジョージーズだった。ジョージーズは『デアデビル』からお馴染みの酒場で、『ボーン・アゲイン』第1話でフォギーが殺された現場でもある。
ジョージーズの店主は、店の再開も考えたけどご近所が喜ぶか分からなかった、市長室からはローンの案内があったが1セントたりとも借りたくないと語る。リアルなニューヨーク市民の声が丁寧に挿入されるのも『デアデビル:ボーン・アゲイン』の魅力だ。
そして、キルスティンからマットを見ておくよう言われたチェリーが登場。マットは、フィスクがポインデクスターを一般房に戻したことについて、フィスクやデクスターは全て繋がっているはずだと語る。
第1話でフォギーを殺したデクスターの目的は、フォギーやカレン、マットへの報復ではないと、マットは踏んでいた。すると店主はフォギーが最後に頼んだ酒として、オメルベニーを取り出す。第3話では、マットとフォギーの間では、オメルベニーは「勝った時だけ飲む」と語られていた。
マットは、フォギーが最後にオメルベニーを頼んでいた事実に引っ掛かりを覚える。そして、当時フォギーが抱えていたベニーという人物のケースについて、フォギーは勝利を確信して前祝いをしていたが、勝てないようにするため何者かがデクスターを雇ってフォギー殺したという結論に辿り着く。
ベニーは第1話でフォギーが匿っていた人物で、フォギーはベニーが何者かから脅迫を受けていることをマットに黙っていた。その理由は、マットがデアデビルとして動く口実を与えたくなかったからだが、その結果としてフォギーは殺されてしまっている。結局、マットはフォギーのオメルベニーを飲まず、店主だけ乾杯を捧げている。マットにはまだ仕事があるのだ。
マットが明言
マットはデクスターと面会。フォギー殺しを命じたのはフィスクかと問い詰めるが、デクスターは証言を餌に自身の弁護を要求する。司法取引を持ちかけるつもりなのだ。マットはすでにデクスターによるフォギー殺しの目的が復讐ではないこと、雇い主がいることを見抜いている。
フィスクが主犯だと口を割らせたいマットだが、デクスターは「こんな俺じゃ弁護できない?」「善人ならできるよな。最悪の敵だろうと」と食い下がる。親友を殺した宿敵が、弁護士としてのマット・マードックに正論を突きつける。同時にデアデビルのテーマも流れる屈指の名シーンだ。
マットは、檻から出られたらフィスクが雇い主かどうかを話すと言って譲らないデクスターの顔面を机に打ちつけ、看守には自傷行為を始めたと嘘をつく。最後にははっきりと「F○○k You!」と言い放っている。
映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』(2023) ではMCUで初めてFワードが登場したとして話題になり、映画『デッドプール&ウルヴァリン』(2024) でも多用されたが、ここまでシリアスな形でFワードが使われたのは、MCUでは初めてではないだろうか。
「黒と白の舞踏会」の元ネタ
マットがらしからぬ面会を終えた頃、ウィルソン・フィスク市長主催の「黒と白の舞踏会(ブラック&ホワイト・ボール)」が開催されている。「黒と白の舞踏会」は、1966年に作家のトルーマン・カポーティがニューヨークで開催した伝説の舞踏会の名前だ。
不遇な幼少期を過ごしたカポーティは、作家として成功を収めたのち、ニューヨークの有力者達を集めてこの会を開催した。招待された500人のゲストはニューヨーク・タイムズの紙面で公開された。そうして「招待されなかった人」が明らかになったことも含めて、トルーマン・カポーティがニューヨークの社交界の中心にいることを誇示するイベントになった。
『デアデビル:ボーン・アゲイン』第8話の黒と白の舞踏会でも、500名のゲストが招待されたことが明かされている。ニューヨークの有力者達——今度はフィスクが恣意的に選んだゲスト達——をワンショットで映し出していくカメラワークが巧い。
ダニエルはBBに、誰かに止められるまで突っ走ることにしたと語り、そのはるか後方では第6話でフィスクに辛辣な態度を見せた上流階級のアルテミスとジャックが話をしている。アルテミスはすっかりフィスクに怯えており、夫のアーサーは行方知れずになっているようだ。
フィスクは裏の力を使って上流階級もコントロールし始めたらしい。その背後ではヘザーが舞踏会に現れないマットに電話をかけている。ニューヨークを舞台にした群像劇として、これまでに登場した人々の人生が交差する、まさにパーティーのようなワンシーンだ。
しかし、今回のパーティーの主役はウィルソン・フィスクである。紅白歌合戦の司会者のような装いで登場したフィスクとヴァネッサだが、この衣装にも意味がある。フィスクが原作コミックと旧『デアデビル』でお馴染みの白スーツに身を包んだことは、キングピンの復権を意味している。ヴァネッサがまとった赤の意味については後述しよう。
ソーズマンの正体は…
その頃、ポインデクスターは身の回りのもの全てを武器に変えて脱獄に成功。マットがデクスターの顔を机に打ちつけたことで、デクスターは医務室に連れて行かれ、チャンスを得たのだ。マットがデクスターの弁護を即決しなかったことで生じた結果とも言える。そして、医務室のライトはブルズアイの色である青に染まる。
舞踏会では、ヴァネッサは夫婦カウセリングを受けていたヘザーに、夫妻がお互いの過去の過ちを葬ることができたと報告。そこにマットが現れ、デアデビルvsキングピン勃発の緊張が高まっていく。
そんな中、フィスクはジャックと個室で面会。ジャックはフィスクを見くびっていたと謝罪するも、港湾のプロジェクトに出資する気はないと突っぱねる。だが、フィスクはジャックがソーズマンとして自警活動をしているという情報をちらつかせて脅しをかける。
やはりソーズマンの正体は原作コミック通りジャック・デュケインだったようだ。ドラマ『ホークアイ』(2021) の出来事を踏まえて整理しておくと、クリント・バートンはローニンとしてキングピンに雇われマヤ・ロペスの父を殺害、その弟子ケイト・ビショップはフィスクを倒して新たにホークアイを襲名したが、その母エレノアはフィスクの下で働いており最後には逮捕され、エレノアの新恋人ジャックはソーズマンとして自警活動をしている……。本当に皆、活動的だ。
エレノアの娘のケイトから見たジャックは“変なおじさん”だったが、フィスクと対峙するジャックはなんだかカッコいい。噂がどうであれ投資とは関係ないと突っぱね、堂々とした態度を変えない。この後も個室から出てくる人物の表情と比べると雲泥の差だ。『ホークアイ』で殺人容疑で逮捕された時も、翌日には釈放されたジャック。やはりなかなかの大物と見える。
ガロとBBの違い
そんな中、パウエル巡査ら特別部隊は潜り込んでいた記者を拷問。ガロ本部長が止めに入るが、フィスクの指揮下にある部隊は言うことを聞かない。ニューヨーク市の暴力装置はとんでもないところまで来てしまっている。
BBは「権力者には真実を突きつけろ」というおじの言葉をダニエルに紹介すると、ガロ本部長を直撃。特別部隊を止められなかったガロと、ミューズ殺害をフィスクの手柄として報じたBB。互いを牽制し合う二人だが、ガロは親衛隊=特別部隊を仕切っているのは自分ではないと真実を述べ始める。
さらにガロは、フィスクがBBのおじであるベン・ユーリック殺害の容疑者だったことを告げるが、BBはすでにそれを知っていた。ドラマ『デアデビル』ではベンはカレンと共にフィスクの父親殺しの真相に近づいたが、それが仇となりフィスクによって葬られた。
BBはその事件の真相を掴むためにフィスクを追っていた。家族を人質に脅され、フィスクに屈服したガロは、若いBBも同じようにフィスクに屈したと思っていたのだろう。だが、BBは真の目的を達成するために一時的に爪を隠していただけだったのだ。BBをみくびっていたガロの表情がみるみる変化していくのが分かる。
BBは、フィスクに一撃を与える情報を送るようガロに求め、ガロはノース巡査部長を見やった上で、汚職警官のファイルがあると話す。笑顔を作り、「仕事に戻ります」と言ってダニエルの元に帰るBB。ガロはここで警察としての仕事ができていなかったが、BBはずっと目的を持って動き続けていたのである。
赤、白、そして青
マットとヘザーは対フィスクについて口論になるが、マットはフィスクのもとへと近づいていく。腹を叩いて満足そうな顔を見せるフィスクがマットと接触しそうになったその時、ヴァネッサが割って入ってダンスタイムが訪れる。
ウィルソン・フィスクとヴァネッサのダンスを長々と見せられるのはこれが初めてではない。『デアデビル』シーズン3最終話では、二人が結婚式を挙げ、この時は白のスーツとドレスで踊っている。『ボーン・アゲイン』第8話のフィスクはその時よりも陽気で楽しそうだ。
イケイケのフィスクに対し、マットはヘザーを連れてダンスホールへと踏み出す。給仕のトレイに流れるようにステッキを置く姿がクールだ。マットが耳がいいことを知っているフィスクは、遠くからマットに語りかけ、「報いを受けるぞ」と警告を与える。
そんな中、キャッシュマンにポインデクスター脱獄の報が入り、警察の服を着たデクスターは先ほど記者が暴行を受けたキッチンから会場内のバルコニーへと上がっていく。キャッシュマンがフィスクとヴァネッサにデクスター脱獄を伝えると、ヴァネッサはフィスクに何かを伝えようとする。フィスクはこれを止めているが、マットに聞かれてしまうと考えたのだろう。
マットは、デクスター脱獄の報告を受けて心拍数が上がるヴァネッサの鼓動を聞き、全てを察する。デクスターを雇ってフォギーを殺させたのはヴァネッサだったのである。フィスクが不在だった間にヴァネッサが動いたのだ。
マットはすぐさまヴァネッサのダンスパートナーとなり、ヴァネッサを問い詰める。赤いドレスを着るヴァネッサを“赤い悪魔”であるデアデビルが問い詰め、本件とは無関係だったヘザーとフィスクが共に白い装束で佇んでいる。その4人を見下ろしているのは、青い照明に照らされたブルズアイことポインデクスターだ。
赤と白に差し込まれる不確定要素の青。シラを切り続けるヴァネッサに、マットはフィスクがこのことを知っているのかと問うが、ヴァネッサは逆に、ヘザーはマットがデアデビルだと知っているのかと切り返す。
もう一度おさらいしておくと、『デアデビル』シーズン3の最終回では、マットはヴァネッサとフィスクの前でデアデビルのマスクを外している。マットはヴァネッサがFBI捜査官殺害に関与したことを漏らさないこと、フィスクはデアデビルの正体を漏らさないことと、フォギー&カレンの安全を保障することで相互に対して抑止を確立した。
これらの抑止のカードは、整理すると以下のような状況になっている。
フィスクのカード
フォギー ×(死去)
カレン △(サンフランシスコ)
デアデビル ○
マットのカード
ヴァネッサ ○
罪は償ってもらうと迫るマットに、ヴァネッサは「落ち着いて (You need to relax)」と答える。フォギー殺害の裏に何か事情があるのだろうか。そうしている間にバルコニーのブルズアイが銃弾を装填。Florida Mass Choirによる「Storm Clouds Rising」が流れる中、ブルズアイはフィスク目掛けて銃弾を放つ。
だが、咄嗟にフィスクを庇ったマットが胸で弾丸を受け止め、赤い血を流すマット/レッドが真っ赤なライトで照らされる中、『デアデビル:ボーン・アゲイン』第8話は幕を閉じる。マットはデクスターに言われた「善人なら、最悪の敵だろうと守る」という言葉を実行したのだった。
『デアデビル:ボーン・アゲイン』第8話ネタバレ考察&感想
7話を費やした見事なミスリード
なんというエピソード。今回も完璧と言っていいクオリティだった。特に第8話は、『デアデビル:ボーン・アゲイン』シーズン1で描かれてきた要素と、旧『デアデビル』の要素、そしてユニバースとしてのMCUの要素が全て詰め込まれていながら、破綻するどころか綻びもないという極めて貴重なエピソードだった。
例えば、今回持ち上がったブルズアイがキングピンに雇われていたのではないかという疑惑。ドラマ『ホークアイ』で過去にキングピンに雇われていたクリントが、「俺たちは兵器だ」と、怒りに身を任せると簡単に利用されてしまうとマヤに語ったことを想起させる。
それにブルズアイ/ポインデクスターは『デアデビル』シーズン3ではフィスクのために働いており、様々な前提がフィスク黒幕説を後押しする。そうした視聴者の偏見を利用し、ヴァネッサが指示役という意外と単純な結論でどんでん返しやってのけたのである。
マットのフィスクへの執着が、真実を見誤った原因の一つだ。もちろんフィスクはフィスクで悪いことをしているし、市長失格なのかもしれないが、全てがフィスクの仕業であるという考えもまた陰謀論になってしまう。
けれど、マットは咄嗟のところで「宿敵でも守る」という英雄(ヒーロー)的な行動に出ることができた。ラストの展開は2024年7月のトランプ狙撃を想起させるが、『ボーン・アゲイン』ではマットがその危機を救った。
公衆の面前でマットに命を救われたフィスクは、弁護士・マットを英雄として祭り上げ、脱獄したブルズアイを「ヴィジランテ」と呼んで自警団の取り締まりを強化するだろう。「ヴィジランテ」という言葉は便利で、ヒーローだろうがヴィランだろうが、「己の正義で勝手に動く迷惑な奴」くらいの意味で権力者は「ヴィジランテ」のレッテルを貼ることができてしまう。
第8話のラストでマットは重傷を負ったと思われるが、最終回となる第9話では、パニッシャーとの共闘もあるだろうか。第2話と第3話はホワイト・タイガー編、第4話と第5話はリロイ・ブラッドとMCUカメオ編、第6話と第7話はミューズ編、第8話と第9話はブルズアイ編という分け方ができそう。セットになっているエピソードは、2話続けて同一の人物が監督を務めている。
ブルズアイ/ポインデクスターの狙いは?
気になるのは、ポインデクスターの動機だ。『デアデビル』シーズン3のラストでは、デクスターは逮捕された後、胸椎にコグミアム・スティールを移植された。身体は強化されたと見られているが、どのようにして出所したのかは明らかになっていない。
もしデクスターがローニンのようにヴァネッサに雇われ、思想もなくフォギーを殺したとして、デアデビルが現れて逮捕されることは想定外だったのだろう。デクスターはフィスクによって一般房に入れられたとされていたが、それも自身の関与を隠したいヴァネッサが仕組んだのではないだろうか。
デクスター脱獄の報を受けたのはバック・キャッシュマンで、電話を受けてすぐに「奴は死んだか?」と聞いていた。キャッシュマンはルカ達ギャングに対しても、フィスク市長からの指示であるかのように振る舞い、ヴァネッサのために動いている。
デクスター自身はかつて対立したフィスクが自分を殺そうとしていると考え、脱獄した後にフィスク暗殺を試みたのかもしれない。『デアデビル』シーズン3では、デクスターはフィスクの下で働いていたが、最終的には愛していた人を殺されて対立している。
この考察が当たっていれば、残された謎はなぜヴァネッサがフォギーを殺さなければならなかったのかということだ。フォギーを失うことは、フィスク夫妻にとっては対マットの有力なカードを一枚失うことになる。
ヴァネッサはポインデクスター脱獄の報を聞いた時、フォギー殺害についての背景をフィスクに伝えようとしていたようにも思える。背後により大きな事件が絡んでいることは確かだろう。
シーズン1最終話では、デアデビルとキングピンの共闘もあり得るだろうか。そして、すでに配信が決定しているシーズン2にはどのように繋がるのか。『デアデビル:ボーン・アゲイン』シーズン1のフィナーレとなる最終回の配信を楽しみに待とう。
ドラマ『デアデビル:ボーン・アゲイン』はディズニープラスで独占配信中。
フィスク役ヴィンセント・ドノフリオやジャック役トニー・ダルトンのインタビューも掲載されている『ホークアイ マーベルドラマシリーズ オフィシャルガイド』(齋藤隼飛 訳)は発売中。
第7話のネタバレ解説&考察はこちらから。
第6話のネタバレ解説&考察はこちらから。
第5話のネタバレ解説&考察はこちらから。
第4話のネタバレ解説&考察はこちらから。
第3話のネタバレ解説&考察はこちらから。
第2話のネタバレ解説&考察はこちらから。
第1話のネタバレ解説&考察はこちらから。
これまでの『デアデビル』でデアデビルの正体を知っている人物のまとめはこちらの記事で。
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