『デアデビル:ボーン・アゲイン』配信開始
ドラマ『デアデビル:ボーン・アゲイン』が2025年3月5日(水) よりディズニープラスで配信を開始した。本作はMCUドラマ最新作でありながら、ABC制作、Netflix配信のドラマ『デアデビル』(2015-2018) の正統な続編とされている。
主人公デアデビルことマット・マードック役をチャーリー・コックスが再演。MCUでは映画『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(2021)、ドラマ『シー・ハルク:ザ・アトーニー』(2023)、『エコー』(2024) に続く出演となる。
今回は、MCUで再スタートを切った『デアデビル:ボーン・アゲイン』の第1話についてネタバレありで解説&考察を記していこう。以下の内容は『デアデビル:ボーン・アゲイン』第1話と『デアデビル』シーズン3ラストまでのネタバレを含むので、ご注意を。
以下の内容は、ドラマ『デアデビル:ボーン・アゲイン』第1話の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
ドラマ『デアデビル:ボーン・アゲイン』第1話ネタバレ解説
マット、フォギー、カレンの幸せなひととき
ドラマ『デアデビル:ボーン・アゲイン』第1話はマンハッタンのウェスト51ストリート(西51丁目)から幕を開ける。この地域がマンハッタンの中でも通称「ヘルズ・キッチン」と呼ばれる場所で、かつては治安の悪さが広く知られていた。現在は治安は改善すると共に地価も高騰している。
同じニューヨークの中でもスパイダーマンがクイーンズを拠点にしているのに対し、デアデビルはヘルズ・キッチンの犯罪を取り締まってきた。弁護士であるマット・マードックが法律で裁けない悪人を裁くというのが『デアデビル』シリーズのこれまでだった。
『デアデビル:ボーン・アゲイン』第1話冒頭にはマットの親友であるフォギー・ネルソンとカレン・ペイジが登場。二人は旧『デアデビル』以来の登場で、シーズン3のラストで三人は法律事務所「ネルソン、マードック&ペイジ」を立ち上げることを決めていた。二人ともマットがデアデビルであることを知っている。
カレンによるとこの2年で警察は3割減ったというが、“別の方法”で街は守られているという。つまり、マットはデアデビルとして自警活動を続けているということだ。『デアデビル』シーズン3ではマットは自警活動は行なっておらず、キングピンを倒すことに心血を注いだ。
ドラマ『エコー』では、サノスの指パッチンで人口が半減している時期にデアデビルがキングピンの組織を監視する姿も見られた。マットはカレンとフォギーと三人で法律事務所を運営しながら、デアデビルとしても活動するという充実した期間を過ごしたようだ。
だが、『デアデビル:ボーン・アゲイン』第1話のタイトルが「天国のひととき」であることからも分かるように、本作はそんな幸せな時期の終焉から始まる。ドラマ『デアデビル』でも三人の行きつけだったバー、“ジョージーズ”に集ったマット、カレン、フォギーは事件に巻き込まれてしまうのだ。
ちなみにマットとカレンは恋仲にあるが、『デアデビル』ではフォギーはマーシ・スタールと同棲していた。だが、『ボーン・アゲイン』第1話ではフォギーは検事のキルスティン・マクダフィーと良い感じの仲になりつつある。
バーには、新キャラクターのチェリーという名の警察官の姿も。チェリーは刑事のキムに、未来はデアデビルやホワイトタイガーのようなヴィジランテが担うと語っている。ホワイトタイガーは『ボーン・アゲイン』で初めて登場するキャラクターだ。アベンジャーズなき時代にニューヨークの平和を守っているようだ。
フォギーは格好つけて自分達の法律事務所「ネルソン、マードック&ペイジ」のことを「N・M&P」と呼んでいる。元々フォギーとマットの事務所は大学時代からの友人だった二人が「ネルソン&マードック」という名前で立ち上げたが、『デアデビル』シーズン3のラストでカレン・ペイジを加えて「ネルソン、マードック&ペイジ」を立ち上げている。
ちなみにカレンは「ネルソン&マードック」の最初のクライアントで、その後、事務員として事務所を手伝った後に新聞記者に転身した。失踪したマットが帰還し、キングピンの打倒をしたことで三人は新たに「ネルソン、マードック&ペイジ」を立ち上げたのだった。
ポインデクスター登場
そんな平和な夜だったが、倉庫荒らしの容疑がかけられ、フォギーが匿っていたベニーからの連絡で物語が動き始める。フォギーが着信を受けた時にマットがフォギーの会話を聞き取れているのは、マットが持つ“超感覚”の力だ。
マット・マードックは幼少の頃に自動車事故に巻き込まれ、トラックから落ちた化学物質が目に入り視力を失った。その一方で、師匠のスティックに訓練を受けたこともあり、視覚以外の感覚が超人的に発達している。
フォギーは脅迫を受けたと主張するベニーを匿っていたが、ベニーの元には何者かが現れていた。フォギーはベニーが脅迫されていたことを「口実を与えたくなくて」マットに黙っていたと話しており、この件について知ればマットがデアデビルとして動くであろうことを予見していたことを示唆している。
マットがデアデビルとして出動するシーンでは、旧『デアデビル』にはなかったMCUらしい演出が見られる。夜の街をスウィングするデアデビルはまるで夜のスパイダーマンだ。
ベニーはやってきた人物にフォギーの居場所を聞かれて教えてしまったといい、スナイパーライフルの標準を覗く人物が登場。『デアデビル』シーズン3に登場したヴィランのベンジャミン・ポインデクスターである。
ポインデクスターはウィルソン・フィスクを担当していたFBI捜査官だったが、フィスクに弱みをつかれて支配された。幼い頃は優れた投手で、驚異的な投擲技術と狙撃の腕を武器としている。俳優のウィルソン・ベセルが演じたポインデクスターはシリーズでも特に人気なキャラの一人だった。
ポインデクスターはマットと同じく何らかの外的な要因によってスーパーパワーを得たわけではない。だが、『デアデビル』シーズン3のラストではウィルソン・フィスクに背骨を折られた後、ポストクレジットシーンで“オーヤマ博士”によって脊椎にコグミアム・スティールという金属を入れられる様子が描かれた。
そのシーンの最後には目を開いたポインデクスターの瞳が射的の的の模様になっており、原作と同じく“ブルズアイ(的の中心の意)”というヴィランになったことを示唆していた。ポインデクスターの覚醒は明確なクリフハンガーだったが、回収されないまま『デアデビル』は3シーズンで終了。実質的に『デアデビル』シーズン4である『ボーン・アゲイン』の第1話でポインデクスターが登場することになった。
まさかの冒頭15分
ブルズアイ/ポインデクスターはフォギーを狙撃。ポインデクスターが「やあ、カレン」と話しかけるのは『デアデビル』シーズン3からのサンプリングだ。同作ではポインデクスターは偽デアデビルとして新聞社でカレンの同僚を皆殺しにして「やあ、カレン」と語りかけた。今度はフォギーを撃って同じ言葉をかけたのだ。
そこにデアデビルが到着して戦闘になるが、ブルズアイはさらにバーにいた客や建物の住人達を無差別に殺していく。それでもデアデビルはブルズアイを屋上で追い詰めるが、マットは心臓付近を撃たれたフォギーの心臓音が消えゆくのを耳にする。
旧『デアデビル』を観てきた人にとっては耐え難いシーンだったことだろう。カレンが寄り添う中、フォギーは息を引き取ったのだ。怒りに震えるマットはポインデクスターを屋上から突き落とす。デアデビルが一線を越えた瞬間だ。
マットは父の死後に牧師に育てられており、敬虔なカトリック教徒であることから殺しはしないという誓いを自らに課してきた。『デアデビル』シーズン3ではウィルソン・フィスクを殺すことを決めたが、それでも最後には踏みとどまっている。
ポインデクスターはかつてカレンの同僚だけでなく、マットを育てたラントム神父も殺している。そして、親友だったフォギーまで殺されたマットの怒りは計り知れない。フォギーの再登場を楽しみにしていたこちらもマットの心情とリンクするように怒りが湧いてくる展開だ。
『デアデビル:ボーン・アゲイン』第1話、まさかの冒頭15分。思わずマスクを取ったマットの姿をチェリーが目撃し、倒れていたポインデクスターが目を開くと共に、デアデビルのマスクが屋上から落ちていくシーンでオープニングタイトルへ突入する。
オープニングタイトルではデアデビルのマスクが石化し、法を司どる正義の女神の像とカトリックの教会の建物にひびが入っている。法秩序とマットが支えとする倫理観が崩壊していくのだ。
同時にウィルソン・フィスクの像の拳もひび割れ、自由の女神も崩れ落ちる中、最後にはデアデビルの像だけが復活する。『デアデビル:ボーン・アゲイン』の物語を示唆する映像だ。
舞台は2025年?
オープニングタイトル後には、ニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズ「Into My Arms」(1997) が流れる中、佇むマットの姿が描かれる。この曲では「私は干渉してくる神は信じないが、あなたは干渉してくる」「できるなら、干渉しないでくれと頼み込むだろう」と歌われている。クリスチャンのマットらしい心の叫びだ。
そして、「ONE YEAR LATER(1年後)」と表示されるのだが、英語が1ワードずつ表示されるのは映画『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019) での「FIVE YEARS LATER(5年後)」と同じ演出だ。まだ『デアデビル:ボーン・アゲイン』のタイムラインは不明確だが、少なくともフォギーの死から1年後から本編が始まることになる。
テレビでは、リコールに伴うニューヨーク市長選が行われると報じられている。現実ではニューヨーク市長にリコール制度はなく、州知事のみ市長を解任することができる。通常、市長選は4年に1度、11月に開催されるが、リコールに伴う選挙ということで時期をフレキシブルに設定できるように工夫がなされている。
なお、2025年5月を舞台にしたと思われるドラマ『エコー』では、ニューヨーク市長選の準備が進められているが有力候補が不在であると報じられていた。取り急ぎ『デアデビル:ボーン・アゲイン』の本編は2025年5月以降の物語と考えてよいだろう。
市長選には15人が出馬を表明しているといい、その中にはコメディアンも含まれており、知事は「社会制度の崩壊」と嘆いているという。2024年の東京都知事選を思い出す展開だ。
『ホークアイ』『エコー』との繋がり
そして、『デアデビル』の時と同じように朝食にオムレツを嗜むキングピンことウィルソン・フィスクが登場。だが、トレードマークの白いスーツを着るのではなく、意外にもグレーのジャケットを手にとる。ウィルソン・フィスクはMCUでもドラマ『ホークアイ』では白いスーツを着ていた。
この後の会議のシーンでルカという人物がジャージを着ており、それを揶揄されているのは、ドラマ『ホークアイ』でジャージ・マフィア(トラックスーツ・マフィア)がウィルソン・フィスクの傘下に入っていたことを踏まえている。だが、今この組織と取引を仕切っているのはヴァネッサだった。
ヴァネッサはドラマ『デアデビル』でウィルソン・フィスクと結婚した人物で、フィスクはヴァネッサを溺愛している。フィスクの唯一の弱点だが、『デアデビル』シーズン3では自らもフィスクの事業に関わることを決意。FBI捜査官の暗殺を指示して犯罪に手を染めていた。
その後ヴァネッサは事業をうまく仕切っているようだ。『デアデビル』シーズン3ではフィスクがみかじめ料の支払い方法を聞かれるシーンがあったが、『ボーン・アゲイン』ではヴァネッサは自ら支払い方法を指示してオプションも提示している。組織運営においては明らかにヴァネッサの方が一枚上手だ。
そして、そこに現れたのは就活生のようなスーツを着たウィルソン・フィスクだった。その影響力は健在のようで、フィスクがヴァネッサと話したがっていると判断したマフィアのメンバーは一斉に席を外している。
ヴァネッサは、回復を願って付き添った自分を置き去りにしたとウィルソン・フィスクを非難するが、フィスクはその理由を言わない。この会話は、『ホークアイ』でマヤ・ロペスに頭を撃たれたこと、『エコー』で5ヶ月後に回復しマヤが潜伏するオクラホマ州タマハを訪ねていたことを意味しているのだろう。
タマハでは、フィスクは父を殺した過去から解放するために自分を殺すようマヤに懇願することもあった。最終的にスーパーパワーに目覚めたマヤが傷を癒す能力を使い、ウィルソン・フィスクを癒している。過去の傷に苦しんでいたフィスクの変化が示唆されていたが、フィスクはその話をヴァネッサに共有できていないようだ。
ウィルソン・フィスクは自分を取り戻すために何ヶ月も格闘したと語るが、これが『エコー』の話を指しているのか、『エコー』後の話をしているのかは微妙なところだ。だが、『エコー』のラストでフィスクが市長選の話を耳にし、今出馬しようとしていることを考えれば、この「格闘」はマヤ・ロペスと自分の過去に向き合ったことを指していると仮定できる。
フィスクは出馬に向けて2万5,000人の署名が集まったことを示唆。事業が違法と見做されては困るとずいぶん勝手なことを言っている。ヴァネッサからすれば急にいなくなったフィスクに代わって事業を引き継ぎ成功させたのに、違法性について心配されるなんて失礼な話である。
マットの誓いとカレンのその後
ウィルソン・フィスクとヴァネッサの間に微妙な緊張感が流れる一方、BB・ユーリックがレポートする“BBレポート”で街の人々の声が紹介される。『デアデビル:ボーン・アゲイン』の特徴は、これまでSNSで表現されていた世間の声が、BBレポートやマットの“耳”を通して伝えられるという点だ。これは“世間”が“世界”ではなくニューヨークに限定されていることから取られた手法だと考えられる。
街の声では、デアデビルが消えて治安が不安定になっていることが伝えられる。一方でマットはマードック&マクダフィーという法律事務所を立ち上げていた。マクダフィーはフォギーが最後に話していた元検事だ。マードックとマクダフィーは二人ともイニシャルが「M」で、事務所のロゴは二つのMを組み合わせたものになっている。
マットはフォギーを殺したポインデクスターの裁判に証人として出廷。ポインデクスターには終身刑が言い渡される。ニューヨーク州は死刑を禁止しているため終身刑が最も重い刑だ。「正義を果たせなくても罰(パニッシュ)は与えられる」「罰を与えることで正義に近づける」というマットの証言は、どこかパニッシャーの信条を思わせるものでもある。
この裁判にはカレンも出席していた。今はサンフランシスコに住んでいるそうで、マットとも距離を置いているようだ。サンフランシスコといえばアントマンことスコット・ラングやシャン・チーが住んでいる街だ。
マットはまだカレンに未練があるようだが、フォギーの死を経験して二人の関係も壊れてしまっていた。物理的にフォギーを失い、精神的にカレンも失ったマットは、すべてを法の裁きに任せ、もうデアデビルにはならないと誓っていた。
だが、カレンはジョージーズで拾ったデアデビルの角を残して去っていく。カレンがマットから離れた背景には、マットがデアデビルとしての顔を捨てたことにも理由があるのかもしれない。
キッチンに響く警告
自宅で料理をするマットは、ニュースでウィルソン・フィスクの出馬表明を耳にする。ヘルズ・キッチンを拠点にしていたマットだが、料理をするシーンは珍しい。フィスクの宣言の主旨は、自警団(ヴィジランテ)を危険視し、街に秩序を取り戻すというものだった。フライパンが焦げ、キッチンに警報が鳴るショットは、ヘルズ・キッチンに危険が迫っていることの比喩だろう。
選挙コンサルタントから説明を受けるウィルソン・フィスクだが、ダニエル・ブレイクという若いスタッフはフィスクがネットでバズってミームになっていると語る。「フィスクが正す」というスローガンが人気だというが、英語では「Fisk can fix it」という耳触りのいい音になっている。
昔より柔軟になった様子のフィスクはこのダニエルという若者の言葉に耳を傾け、ダニエルはフィスクの魅力を「実行力」と語る。ダニエルはそれを「You get shit done.」と表現しているが、「Getting Things Done=GTD」はハッカー文化から生まれた発想で、物事を成し遂げるための思考法や管理手法を指す。
近年、この考え方はドナルド・トランプやイーロン・マスクに代表されるように、物事を進めるためには手続きや倫理を無視してよいという方向で暴走する傾向も見られる。ダニエルの「この人なら街を変えてくれるはず」という無邪気な意見は、強いリーダーシップを求める世論の危険性を示すものでもある。
マットの新たな出会い
街が市長選とフィスクの出馬で賑わう中、マットはキルスティン・マクダフィーの策略でヘザー・グレンというセラピストと会うことに。マットは弁護の依頼、ヘザーはセラピーの希望と聞いてやって来たが、キルスティンは二人を引き合わせたかっただけだったのだ。
ちなみにヘザーはクイーンズ出身ということになっている。スパイダーマンことピーター・パーカーと同じだ。映画『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』では、マット・マードックは弁護士としてクイーンズにあるピーター・パーカーのアパートを訪れている。
このシーンでマットは最近はヘルズ・キッチンよりもクイーンズの方が危険だと語っている。デアデビルがコミックで誕生した時代と現在では環境が異なることを強調する会話だ。
マットが名前を挙げる「サル・クリス&チャーリーズ」は実在するサンドイッチ店で、マットの出身校というエグゼビア高校も実在する高校だ。不本意な出会い方をした二人だが、同じニューヨーク出身ということもあって良い感じに。マットも新しいスタートを切ろうとしている。
事務所に戻ったマットは、調査員として雇った元刑事のチェリーからフィスクに関する報告を聞いていた。冒頭でデアデビルの正体を知ったチェリーは、『ボーン・アゲイン』ではマットの新たなサイドキックとして活躍することになりそうだ。
チェリー曰くフィスクの金は綺麗に洗浄されているといい、妻のヴァネッサの力によるところが大きいらしい。チェリーはヴァネッサを「投資の魔術師」と、同じニューヨークに住むドクター・ストレンジを想起する言い回しで呼んでいる。
BBレポートは街の人々のフィスクへの評価が真っ二つに割れていることを伝えている。これもやはりトランプの選挙戦を思わせる。ここで語られる「頭を潰した」というフィスクのエピソードは、『デアデビル』シーズン1で激昂してアナトリーという人物の頭部を車のドアで何度も挟んで切断した件を指している。
市長選の討論会に出たウィルソン・フィスクは、ヴィジランテから暴力を受けてきたと被害者ぶって、頭を撃たれたとも語る。実際にはフィスクの頭を撃ったのは当時部下だったマヤ・ロペスである。だが、フィスクは自分の顔に残った傷も利用しようとしているようだ。
フィスクの対抗馬は自警団の登録制度を掲げているらしい。ヒーローを国連の管理下に置くソコヴィア協定を想起させる制度だ。フィスクはこの案を「癌に蝕まれる」と非難し、「浄化が必要」と、ヴィジランテの一掃を掲げている。ソコヴィア協定の時とは規模は異なるが、ヒーローにとってはこれまでより一層強硬な主張が登場したと言える。
マット vs フィスク
不正を見つけられなかったマットは一旦調査を打ち切るも、正々堂々とウィルソン・フィスクの前に現れ、話をすることに。二人が路上で並ぶシーンを遠方からズームしていき、『デアデビル』のテーマが流れる演出は痺れた。
ウィルソン・フィスクとマット・マードックの5分間の対話は『デアデビル:ボーン・アゲイン』第1話のハイライトだ。あれだけ互いを削りあっていたマットとフィスクが向き合い、上辺だけだったとして時折笑顔を見せながら会話する姿は感慨深い。
子どもについて話が及ぶと、フィスクは「手塩にかけた者はいた」「我が子同然だった」と語る。これはマヤ・ロペスのことだが、マヤの父はフィスクの依頼でローニン(クリント・バートン)に殺され、身寄りがなくなったマヤの面倒をフィスクが見ていただけである。
それを見透かしてか、マットは「彼女はあんたの顔を撃ったんだろ?」と突き放す。さすがの情報通だ。父にコンプレックスを持つフィスクは、マヤには父のように振る舞いたがる傾向を見せており、それを今はスタッフのダニエルを可愛がるという行為で代替しているのかもしれない。
フィスクはフォギーが殺された件には関係していないとし、「約束は守っている」と主張する。この約束とは、『デアデビル』シーズン3最終回で交わされたものだ。その内容は、①フィスクはデアデビル=マットという秘密を守り、カレンとフォギーに手を出さない、②マットはヴァネッサがFBI捜査官暗殺の指示を出したという秘密を守り、ヴァネッサに手を出さない、というものだ。
フィスクからすると、フォギー殺しの黒幕がフィスクだと思われるとヴァネッサに危害が及ぶと心配しているのである。しかも、フォギーを失い、カレンもサンフランシスコに引っ越した今、ディール的にはマットが優位な立場にある。マットはもうデアデビルとして活動していないし、デアデビルとしての過去がバレることさえ気にしなければフィスクは恐るるに足りない。
フィスクはニューヨークを離れ、人と違う道を進み、ニューヨーク市長という新たな自分の姿が見えたと語る。やはりここでも『エコー』での一件に触れているようなので、『エコー』を未視聴の方はぜひ全5話を一気見してみていただきたい。
そして、マットはデアデビルとしての活動をやめた理由を「一線を越えた」と語る。マットは親友のフォギーを失い犠牲を出してしまったことを意味していたが、フィスクはあの夜にポインデクスター/ブルズアイを殺しかけたことを「一線を越えた」と捉えているようだ。ちなみにフィスクが「デックス」と言っているのはポインデクスターのあだ名である。
マットは、人の善性を信じるというクリスチャンとしての一面と、復讐を果たすというデビルとしての一面をフィスクに見せた上で、「一線を越えたら許さない」と警告を与える。フィスクの声がデカすぎて周りに話が聞かれていないか心配になる中、「フィスクが一線を越えるならマットも一線を越える」「マットが活動を再開すればフィスクが報いを受けさせる」というたらればの平行線で対話は決裂。互いを監視し合う新たな約束が生まれたことになる。とことん奇妙で魅力的な関係である。
新たな市長と新たな時代
マットはセラピストのヘザーとのデートの帰りに、ウィルソン・フィスクがニューヨーク市長に当選したことを知る。53%の得票で第112代ニューヨーク市長に就任したという。現実ではエリック・アダムス現市長が第110代で、2025年11月に行われる市長選で新市長が当選すれば第111代市長が誕生する。
ウィルソン・フィスク市長が誕生し街が騒ぎになる中、フィスクはヴァネッサに「アダムのことは知っている」と告げる。おそらくアダムはヴァネッサの不倫相手だろう。フィスクが消えた間にヴァネッサは前に進もうとしていたものと思われる。
ヴァネッサはフィスクがアダムを殺すのではと心配しているが、フィスクは過去の自分とは違うと言い否定する。やはりフィスクの唯一の弱点であるヴァネッサの存在が本作のキーとなりそうだ。
フィスクは就任演説で街に平和と希望が訪れると宣言。マットが疎外感を感じている様子は、トランプの勝利で敗北を味わった人々に刺さる演出になっている。ヘザーの助言も「自分がいなくても街は回る」というもので、マットとヘザーは社会から逃避するように口づけをかわすのだった。
フィスクは最後に世界的に知られるニューヨークの標語「ニューヨークを愛してる/I love New York」を宣言。街を見下ろすフィスクの顔を青いライトが照らし、それを見上げるマットの顔をデアデビルを思わせる赤いライトが照らす中、『デアデビル:ボーン・アゲイン』第1話は幕を閉じる。
ラストシーンで流れている曲はTV オン・ザ・レディオ「Staring at the Sun」(2004)。抽象的な歌詞が並ぶ曲だが、「あなたは太陽を見つめている」という歌詞は、危険な結末を予期する内容と捉えることもできる。
『デアデビル:ボーン・アゲイン』第1話ネタバレ感想&考察
逆転したマットとフィスク
『デアデビル:ボーン・アゲイン』第1話は、これまでのMCUドラマとは一味違い、コミカルさを排した大人な魅力に溢れる作品だった。冒頭でフォギーが死んだ時は「なぜこんな酷い仕打ちを」と思ったが、ラストでは新たな物語に期待してしまうダイナミックさも兼ね備えていた。
『デアデビル:ボーン・アゲイン』は『デアデビル&キングピン』というタイトルでも良いくらいにマットとフィスクを並行して描いている作品でもある。歳を重ねた二人は俳優の名演も手伝って良い味が出ている。
表舞台に立ったフィスクが窮屈になっていく一方で、ほとんど“無敵の人”になりつつあるマットの方が危険な香りがするあたりは、これまでの関係性が反転していて面白い。マットはほとんど失うものがないが、フィスクにはどんどん守るべきものが増えていっている。
鍵になるのはフォギーとヴァネッサ?
一方で、今後鍵になるのは、フォギーが殺された事件の真相とヴァネッサの動向だろう。フォギーの死については、フォギーが匿っていたベニーが何者かに脅迫されていたこと、フォギーがそれを黙っていたこと、最終的にフォギーがポインデクスターに狙われていたことが謎として残っている。
ちなみにフォギーが死んだことは確実だが、旧『デアデビル』では“蘇り”をやった前例がある。フィスクも『ホークアイ』で殺されたかに思われていたが生きており、今後の展開はまだ分からない。
ヴァネッサにはアダムというボーイフレンドがいるようで、アダムはヴァネッサの弱点になり得る。また、フィスクの弱点であるヴァネッサに何かあればフィスクはまた過去のキングピンに戻ってしまうかもしれない。
ニューヨークの街を舞台に様々な登場人物の物語を新たに描き出す『デアデビル:ボーン・アゲイン』。引き続き、同時配信された第2話を観ていこう。
ドラマ『デアデビル:ボーン・アゲイン』は2025年3月5日(水) よりディズニープラスで独占配信。
第2話のネタバレ解説&考察はこちらから。
第3話のネタバレ解説&考察はこちらから。
これまでの『デアデビル』でデアデビルの正体を知っている人物のまとめはこちらの記事で。
『キャプテン・アメリカ:BNW』と『デアデビル:ボーン・アゲイン』までのMCU時系列まとめはこちらから。
『デアデビル:ボーン・アゲイン』の配信スケジュールはこちらから。
『デアデビル:ボーン・アゲイン』は物語を仕切り直す話もあったという。詳しくはこちらから。
ドラマ『エコー』最終回のネタバレ解説はこちらから。
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