フランスのマンガ賞ACBD批評グランプリ2021が発表!
最優秀賞はジェンダーSFの『Peau d’Homme(男の皮)』!
年末から年始にかけて、フランスではこの1年に刊行された優れたバンド・デシネ (フランス語圏マンガ) を表彰するいくつかのマンガ賞が開催されている。
その中で昨年末に最優秀賞が発表されたのが、ACBD批評グランプリである。バンド・デシネの批評家とジャーナリストの協会(ACBD:l’Association des Critiques et journalistes de Bande Dessinée)が主催するマンガ賞で、ノミネート作品20作品の中から最終ノミネート5作品が絞られ、2020年12月4日にグランプリが発表された。
ノミネート作品が発表されたタイミングで、当店のYoutubeチャンネルでもライブ配信した。どのような作品がノミネートされているのかを紹介しているので、よかったらご視聴いただきたい。
【YoutubeLive】海外マンガ紹介#35「ACBD批評家賞2021ノミネート作品をみてみよう」
グランプリに選ばれたのはHubert作、Zamzin画の『Peau D’Homme (男の皮)』(2020, Glénat) というジェンダーSF。
ルネサンス期のイタリア、主人公のビアンカは良家の子女で、結婚を間近に控えていた。結婚相手がどのような人物かを知りたいと思ったビアンカは代々女性にのみ継承される「男の皮」をかぶり、美青年ロレンツォに変身して、婚約者に会いに行く。女性は立ち入り禁止の酒場に出入りしたり、結婚相手とロレンツォが愛人関係になったりと、絵本のような可愛いらしい描画のスタイルながら、複雑で皮肉の効いた大人のおとぎ話になっている。
『Peau d’Homme』もジェンダー観を揺さぶられるような快作だが、最終ノミネート作品の中にひときわ人目を惹く作品があった。
Mathieu Bablet (マチュー・バブレ) の『CARBONE & SILICIUM (カーボン・アンド・シリコン)』(2020、Ankama) である。
『CARBONE & SILICIUM(カーボン・アンド・シリコン)』
フランスで注目の若手SF漫画家マチュー・バブレが高齢化社会のアンドロイドを描いた『CARBONE & SILICIUM』!
まずはトレイラー・アニメを見ていただきたい。
高齢化社会が進む近未来、老人の世話をするために設計され生み出された二体のプロトタイプ・ロボット、カーボンとシリコン。彼らは外界を見たいという欲求に駆られて逃亡する。気候変動や政治情勢、人間の愚かさといった現実を目の当たりにしながら、自分たちの居場所を探すアンドロイドの物語だ。
なお『カーボン・アンド・シリコン』は、フランスの大手書店Fnacとポップカルチャーの情報発信メディアFrance Interが主催するPrix BD Fnac France Inter 2021を受賞したことが2021年1月6日に発表された。Prix BD Fnac France Interは、書店員や一般読者、ジャーナリストの審査によって毎年グランプリが決定されるフランスのマンガ賞だ。
この作品も詳しくご紹介したいところだが、現在取り寄せ中でまだ手元に届いていない。
読了したら改めてご紹介したいと思う。
1月14日から配信される電子版「月刊ユーロマンガ」でマチュー・バブレのスペースSF『Shangri-La(シャングリ=ラ)』が日本語で読める!
作者のマチュー・バブレは1987年、フランス・グルノーブル生まれ。まだ若手作家ながら、2016年に発表した『Shangri-La(シャングリ=ラ)』(2016、Ankama) が、フランスで最大規模の漫画祭、アングレーム国際漫画祭の公式セレクションにノミネートされるなど、フランス国内で高く評価されている。
『Shangri-La(シャングリ=ラ)』
『シャングリ=ラ』は、数百年後の未来、地球から遠く離れた宇宙ステーションを舞台に、完全なる管理社会のもとで暮らす人類のスペースSFだ。2021年1月14日から配信される新しいバンド・デシネ月刊誌「ユーロマンガ」で日本語版の連載が開始される。気になる方は、ぜひチェックしていただきたい。
マチュー・バブレのデビュー作!虫型エイリアンに侵略された生き残りたちのディストピアSF『La Belle Mort (美しい死)』
そんなマチュー・バブレのデビュー作とも言えるのが、今回ご紹介したい『La Belle Mort (美しい死)』(2011, Anakama) である。なお、この作品は英訳もされている (英題『The Beautiful Death』)。
『La Belle Mort(美しい死)』(英語版)
虫型のエイリアン“インセクトイド”の侵略によって人類が壊滅状態に陥った近未来の地球。生き残った3人の男、ジェレミア、ウェイン、ソハムは、廃墟となった住宅地を転々としていた。見つからない生存者、迫りくる虫たち、限りある食糧を分け合う毎日に、3人は精神を摩耗させていくばかりであった。
そんな男たちの前に、謎の女ロビンが現れる。彼女の登場で物語は大きく動き出す。
次第に明らかにされていく“インセクトイド”の特殊な能力。
彼らを統べる女王の存在。
女王の特殊能力を駆使して惑星を渡り歩きながらその地を征服してきた“インセクトイド”たちの本心。
生き残りの地球人たちに近づいてきたロビンの思惑。
そしてジェレミアたち地球人と地球の運命は……?!
わずか140ページほどの作品ながら、一本の映画を観たような壮大なスケールの物語が展開される。
廃墟好きにオススメしたい!マチュー・バブレの微に入り細を穿つ建物描写!
なかでも注目に値するのが、マチュー・バブレの描く廃墟の描写である。
漢字の看板、空調の室外機が並ぶマンションやコンビニエンスストア……どこか日本の団地を思わせるような住宅街が、これでもかというほど緻密に、執拗に描かれる。
表紙を見ているだけでも時間を忘れてしまうほどなのだが、よく見ると屋上の貯水スペースにはハスの花が咲き、アヒルのおもちゃが浮かんでいる。このように、シリアスな情景の中の随所に、微に入り細を穿つような遊びが盛り込まれており、眺めているだけでも飽きがこないのだ。
ディストピアSFのファンはもちろんのこと、建物好き、廃墟好きにもぜひオススメしたい一冊である。