M・ナイト・シャマラン監督の新作映画『オールド』。原案となった、時間・老い・死がテーマのグラフィックノベル『Sandcastle』を読む | VG+ (バゴプラ)

M・ナイト・シャマラン監督の新作映画『オールド』。原案となった、時間・老い・死がテーマのグラフィックノベル『Sandcastle』を読む

M・ナイト・シャマラン監督の新作映画『オールド』の撮影スタート!

『シックス・センス』(1999)や『アンブレイカブル』(2000)のM・ナイト・シャマラン監督が、2018年の『ミスター・ガラス』以来となる新作映画『オールド(原題:Old)』の撮影を開始したことが、ツイッター上で明らかになった。

あわせて公表されたティザーアートには、砂の代わりに人型のシルエットが零れ落ちる砂時計が描かれている。そして「IT’S A ONLY MATTER OF TIME(時間の問題)」という意味深なメッセージが添えられている。

その後、シャマラン監督のツイッターアカウントでは数日おきに撮影風景の様子がツイートされている。いずれの写真にも崖を背負う海岸が写されていて、新作映画の舞台は砂浜のようだ。

『オールド』にインスピレーションを与えたフレデリック・ペータースのグラフィックノベル『Sandcastle』

Colliderが2020年9月26日に公開した記事によると、シャマラン監督の新作映画『オールド』は『Sandcastle』というグラフィックノベルにインスパイアされたという。

『Sandcastle(仏題:Château de Sable)』は、2010年にスイス・ジュネーブの出版社Atrabileが発行したフランス語のグラフィックノベル。2011年にSelfMade Hero社から英語版が出版されている。脚本はピエール・オスカー・レヴィ。作画のフレデリック・ペータースは2作品の日本語訳が出版されている日本でも人気のある作家だ。

『Sandcastle』(英語版)

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表紙には、上部に気持ちよさそうに海に浮かぶ女性の姿、下に鮮やかな青空と雲が描かれている。海と空の美しいブルーが印象的だが、上下の反転が不穏な空気を漂わせている。

フレデリック・ペータースの作品が大好きな私はさっそくこの作品を読んでみた。かなり衝撃的な作品だったので、ぜひともご紹介したい。

「時間」「老い」「死」をテーマにした、浜辺に閉じ込められた男女の奇妙な物語

『Sandcastle』は、「奇妙な出来事」が起こる砂浜に集う13人の男女を描いた、たった一日の物語だ。

早朝、人のいない浜辺で若い女が全裸で泳いでいる。それを遠くから眺める一人の男。
そこに、海遊びを楽しみにきた三組の家族が到着する。

一組目は30代の若い夫婦。幼い二人の子どもと飼い犬を連れている。
次は、医師でやや差別主義的な夫とその妻、妻の老母、10代の娘と幼い弟という5人家族。
遅れて到着するのは、SF小説の老作家とその娘夫婦。娘の夫は看護師をしている。

海水浴を楽しんでいた彼らは、若い女の溺死体が海に浮かんでいるのを発見する。
それから彼らに「奇妙な出来事」が起こり始める。
携帯電話はつながらず、なぜか浜辺から離れることができない。
砂浜という封鎖された空間で、時々刻々とその「奇妙な出来事」は起こり続ける。

なぜその「奇妙な出来事」が起こるのか、その謎はどこにも明かされない。
登場人物たちは、狼狽し、困惑し、順応し、やがて諦観の域へと達していく……。

早朝から翌日の朝までのわずか一日の出来事にもかかわらず、目まぐるしく物語は進んでいく。息もつかせぬ展開に読者はたちまち惹きこまれていく。

なかでもフレデリック・ペータースの作画がすさまじい。
黒のインクのみで描かれる、ぞっとするような影の描写が、物語の恐ろしさに拍車をかける。

このグラフィックノベルを読んだあとで、シャマラン監督の新作映画情報を振り返ると、目に入るのは『オールド』というタイトル、人型のシルエットが零れ落ちる砂時計のティザーアート、「時間の問題」と書かれたメッセージ……。そう、『Sandcastle』はまさしく、「時間」と「老い」、そして「死」がテーマの物語だ。

シャマラン監督はあくまでインスピレーションを受けた作品と言っているので、登場人物やストーリー展開、ラストなどが同じようになるとはかぎらない。ただこのグラフィックノベルを読んで、果たしてこの不可思議な物語をシャマラン監督がどのように料理するのか、映画『オールド』への期待が否が応にも増す。

映画『オールド』は2021年7月23日全米公開予定だ。

フレデリック・ペータースの作品は日本語でも読める!夢と現実が交差する少女の冒険を描いた『KOMA―魂睡』!

『Sandcastle』の脚本を務めたピエール・オスカー・レヴィはドキュメンタリーの映画監督。作画のフレデリック・ペータースとは彼の自伝グラフィックノベル『青い薬』(2013、青土社)の映画化がきっかけで出会った。
『青い薬』はHIVに感染した女性との恋と生活を描いた作品で、Youtubeで紹介動画を公開している。よければこちらもご視聴ねがいたい。

【インスタLive】海外マンガ紹介#2『青い薬』

『青い薬』

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フレデリック・ペータースはもう1作品、『KOMA―魂睡』(2014、パイインターナショナル)が日本語で読める。
先の読めないストーリーで、ほんとうに面白い作品だ。

『KOMA―魂睡』

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煙突からモクモクと上がる煙で澱んだ空気が広がる町。煙突掃除夫である父親と二人で暮らす少女アディダスは、突然気を失ってしまう謎の発作に悩まされていた。ある日、いつものように父親の仕事を手伝っていたアディダスは、煙突の奥深くに、奇妙なモンスターが住む不思議な世界が広がっていることを知る。

モンスターの正体、モンスターたちが操作する怪しげな機械、アディダスの発作の謎、行方不明の母親……そして物語は夢と現実が交じり合う奇妙奇天烈な世界へと突き進んでいく。

この作品でもフレデリック・ペータースの影の描写が印象的だ。
煤けた薄暗い煙突の向こうの世界。そこに住む、恐ろしいのにどこか愛嬌のある謎のモンスターたちは、暗い影と同化している。
なお、『KOMA―魂睡』はフルカラーの作品なのだが、本国ではこの作品のモノクロ版も出版されているらしい。

少女アディダスの不思議な冒険譚、ぜひ多くの方に読んでいただきたい作品である。

 

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