映画『オールド』ネタバレ登場人物解説!原案グラフィックノベルとの対比で『オールド』をさらに楽しむ! | VG+ (バゴプラ)

映画『オールド』ネタバレ登場人物解説!原案グラフィックノベルとの対比で『オールド』をさらに楽しむ!

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ついに公開!M・ナイト・シャマラン監督の最新作『オールド』

2021年8月27日に日本公開されたM・ナイト・シャマラン監督の新作映画『オールド』。初日にさっそく観に行った感想を記事に書かせてもらった。

映画『オールド』感想! M・ナイト・シャマラン監督最新作 原案グラフィックノベルのリスペクトが嬉しい謎解きタイムスリラー!

この記事の中でも書いたが、私が最も驚いたのは、映画『オールド』のストーリーが意外なほど原案グラフィックノベル『Sandcastle』(仏語オリジナル版:2010、Atrabile。英訳版:2011、SelfMade Hero)に忠実だったことだ。

『Sandcastle』(英語版)

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以下の図をご覧いただきたい。

名前の変更など細かな違いはあるものの、登場人物たちはおおむね原案グラフィックノベルと対比させることができる。

図:書肆喫茶mori

そこで今回は、両者の登場人物たちを比較しながら、映画『オールド』と原案『Sandcastle』の魅力に迫ってみたいと思う。

以下の記事は、映画と原案グラフィックノベルのネタバレを含みます。

チャールズ:プライドが高くていけ好かないレイシストの外科医

原案と映画で唯一同じ名前を持つ人物、それがチャールズだ。

プライドの高い外科医で、黒人のミッドサイズ・セダン(原案ではアルジェリア人の男)に対して差別的な扱いをするレイシストという設定も双方で共通する。

原案では警視長と仲が良いことを強調するようなシーンもあり、ハイステータスを鼻にかけたいけ好かない人物だ。

この人物、映画内では精神の病にかかっており、人の生死がかかった重大な状況で突然、昔の映画作品のタイトルを質問しだすといった突拍子もないシーンが登場する。

そして、幻覚と妄想にとらわれた彼がミッドサイズ・セダンを刺殺し、キャパ夫妻に切りかかる場面は、映画を観られた方にとって恐怖のシーンとして印象に残っているだろう。

原案グラフィックノベルのチャールズは、映画とは異なり、アルツハイマーの症状がある。そして年老いていくにしたがって幼児化していくのだ。

映画の終盤で、朝を迎えたトレントとマドックスが砂の城をつくるシーンがあった。

体は大人になっても心は子どものままだからだろうかと無心に砂遊びする二人。怒涛のラストシーンに向かう前の小休止のような、ほっと心温まるシーンだった。

原案の幼児退行したチャールズも無心に砂の城をつくる。

しかも妻のナタリーが話しかけても完全無視。子どもの遊びの範疇を超えるような巨大な砂の城を黙々と執拗に築き上げるのだ。

彼の虚栄心や自尊心を表すかのように巨大な、しかしもろくも崩れ去る砂の城。

映画とはまた違った恐怖のシーンだ。

キャパ夫妻と2組の夫婦:謎のビーチにとらわれた夫婦の愛の形

ガイプリスカキャパ夫妻は、彼らの子どもたちであるマドックストレントと同様に、映画『オールド』の主役といってもいい存在である。

映画の冒頭では仲の良さそうな四人家族と思いきや、二人は離婚寸前の状態。

保険関係の仕事をしているガイ。博物館で働くプリスカ。未来を見据えるガイと、過去を大事にするプリスカという二人の仕事の対比が、そのまま二人の性格を表しているようでもある。

プリスカは、腹部に腫瘍があるという身体的な不安を抱えており、夫に隠れて別の男性と付き合いはじめ離婚を決意する。今回の家族旅行は、いわば離婚前の思い出作りだった。

しかし、急激に老化する謎のビーチにとらわれたことで運命が変わる。

腹部にあった腫瘍は緊急手術によって取り除かれ、身体的な不安から解放される。

老化によって耳が遠くなるという症状が新たに加わるが、同じく視力が低下したガイとともに、チャールズという脅威に立ち向かった経緯などもあって、最終的に夫婦の愛を取り戻していく。

キャパ夫妻の最後は、本作『オールド』の中でも、珠玉といっていいほどに美しく、穏やかで愛に満ちた印象的なシーンだった。

原案でキャパ夫妻に直接対応するのはロバートマリアンナになる。

夫婦としては当然といえるような言い争いはするものの、基本的に仲睦まじい夫婦として描かれる。

最後も二人、向き合うようにして息を引き取る。

原案グラフィックノベルの中で、夫婦愛という意味でもう一組、特に印象に残るカップルがいた。

看護師のオリヴァーフローレンスである。

映画のジャリンパトリシアにあたる人物だ。

映画のジャリンとパトリシアはそれぞれが悲惨な死を遂げるが、原案グラフィックノベルの中では異なる死が描かれる。

浜辺での夜。やがて互いが老衰で息を引き取るだろう前に、二人は手を固く握りあい、無言で海に入る。

漆黒で塗りつぶされた真っ暗な海を静かに進み、海に沈んでいく二人の姿。

彼らを囲うように拡がる波紋。

海面にはじける水泡だけを遺して二人の姿は見えなくなる。

ロバートとマリアンナとはまた違った愛の結末。

映画のプリスカが、ガイの老衰を看取ったあとに海へと進むシーンがあった。

それは私には、原案のオリヴァーとフローレンスのたどった最期を連想させたのだった。

子どもたち:原案グラフィックノベルで語られる丁寧な描写

映画ではキャパ夫妻の間に姉のマドックス(11歳)と弟のトレント(6歳)、チャールズ、クリスタル夫妻の娘のカーラ(6歳)という3人の子どもが登場する。

時間が異様に速く進むという砂浜の秘密に気づくきっかけになるのが、子どもたちの成長。

あどけない子どもだった3人の体があっという間に成長し大人になっていくさまは、本映画の醍醐味のひとつと言えよう。

そしてビーチに到着した朝の時点で6歳の子どもに過ぎなかったトレントとカーラは、肉体の成長にともない本能的に相手を求めてしまう。カーラの妊娠・出産は、30分で1年が過ぎるという本ストーリー設定の肝を端的に表す印象的なシーンだ。

残念ながら二人の子どもは、急速度で進む時間の流れについていけずに死んでしまう。

原案グラフィックノベルには4人の子どもが登場する。

ロバートとマリアンナの間に姉ゾーイ(5歳)と弟フェリックス(3歳)。チャールズナタリーの間に姉ソフィー(14歳)と弟ルイ(年齢の記載はなかったが10歳くらいと思われる)。

このうちゾーイとルイが映画のカーラとトレントにあたる。急激に成長するお互いの肉体に子どもらしい無邪気さで興味を示していく様子は映画ではあまり詳しく語られなかったが、原案グラフィックノベルでは丁寧に描かれている。

そして二人の間に産まれた娘は死ぬことなく、この奇妙な砂浜に集った、ある意味大きなひとつの家族に団らんのひと時を与える。

面白いのはソフィーの存在だ。子どもとはいっても14歳。反抗期で、家族と距離を置きたがる。

アルジェリア人の男に誘いをかけたり、女性を知らずに死ぬのは嫌だというフェリックスと関係を持ったりする。

映画では、短時間の間に目まぐるしく状況が変化し、大変なことをしでかす大人たちの動向に目が行きがちだったのに対して、原案グラフィックノベルでは不安と好奇心を抑えられない子どもたちの無邪気な描写が丁寧に描かれているようにも思う。

クリスタル:原案では語られない「老い」のネガティブな象徴

原案グラフィックノベルで対応するキャラクターが存在しないのがクリスタルである

チャールズの妻という意味ではナタリーがいるが、チャールズに振り回される心優しき妻という役どころで、クリスタルとはかなり性格が異なる。

ただ「老い」がテーマの本作。ネガティブな意味での「老い」を全面的に体現したのがクリスタルだろう。

若く美しくプロポーションも抜群のクリスタルが、醜く老いていき、それを見られたくないという思いから壮絶な最期を遂げるシーンは、少し笑ってしまうくらいにグロテスクだった。

ミッドサイズ・セダンとアルジェリア人の男:語るものとしての存在

マドックスが感嘆の声をあげた有名なラッパーであるミッドサイズ・セダン。黒人であることからレイシストのチャールズに執拗な攻撃を受けて最期は刺殺される。

原案グラフィックノベルでは、黒人ではなくアルジェリア・カビール族出身の男が登場する。これは原案の作者がフランス人のピエール・オスカル・レヴィであり、舞台もフランスのどこかの海を舞台にしたものだと考えると合点がいく。

このアルジェリア人には、映画にはなかった非常に重要な役割がある。

夜が訪れたときに、子どもたち(肉体は大人だが)を集めて、あるおとぎ話を語るのだ。

むかし、王のもとに死の使者が訪れ、王はもうすぐ死ぬと告げた。王は慌てて7年の猶予をもらうと、堅固な城を築き、妻にも愛する娘にも自慢の息子にも決して会わずに閉じこもった。7年の月日が経って、死の使者は再び王の前に姿を現した。門も固く閉じ、鍵も守っていたのにと王は驚いたが、使者はどこにでも行けるのだった。王は最後に、死んだらどこに行くのかと尋ねた。墓だと使者は答える。この城がお前の墓だと。そして王はベッドに横たわり、永遠に目を閉じる。

彼が話し終えると、子どもたちはみな安らかな眠りに就いているのだった。

このおとぎ話がアルジェリアで有名な物語なのかそうでないのか私は知らないのだが、王が建造した堅固な城は、海辺に築かれた砂の城を投影しているかのようであり、砂浜は登場人物たちの墓となる。

ちなみに映画のミッドサイズ・セダン。ラッパーという設定ながら、残念ながら本編中にその音楽が流れる機会はなかった。だが、言葉をリズムに乗せて語るラッパーと、おとぎ話を語るアルジェリア人が重なるような気がしないでもない。

そしてこのおとぎ話は、「老い」や「死」は人間が避けては通れないものであるという、原案グラフィックノベル『Sandcastle』全編に漂う無常観を見事に言い表している。

時間が速く進む砂浜というトリッキーな設定で人間の生死という哲学的な思索を表現してみせた『Sandcastle』。ヒューマンドラマとしてのエッセンスを残しつつ、原案ではまったく明かされない砂浜の謎にシャマラン監督なりの解答を提示してみせた『オールド』。もちろんそれぞれ単体でも十分に面白い作品だが、両者を見ていくことで楽しさが倍増することは確実だ。

 

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映画『オールド』は全国の劇場で公開中。

映画『オールド』公式サイト

『Sandcastle

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『オールド』の原案コミック『Sandcastle』の紹介はこちらの記事で。

映画『オールド』の感想はこちらから。

森﨑 雅世

大阪・谷町六丁目にある海外コミックスのブックカフェ書肆喫茶moriの店主。海外のマンガに関する情報をTwitter、Instagram、Youtube、noteなどで発信しています。
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