2019年 注目された20の話題【SFウェブメディア VG+ バゴプラ】 | VG+ (バゴプラ)

2019年 注目された20の話題【SFウェブメディア VG+ バゴプラ】

話題になった記事をピックアップ

2019年も様々な話題が飛び交った。VG+はSFウェブメディアとして、今年も様々な情報をお伝えしてきた。全てのSF関連ニュースをカバーできたわけではないが、いくつかの象徴的なトピックを押さえる事はできているだろう。今回は2019年に注目を浴びた話題を振り返ってみよう。

映画部門

1. 中国初のSFブロックバスター映画『流転の地球』公開

中国SFは日本でもかつてないほどに大きな注目を浴びたが、2019年の頭に大きな話題となったのは映画『流転の地球』の公開だ。中国初のSFブロックバスターは大ヒットを記録し、2019年は“中国SF映画元年”となった。日本でも公開を望む声が上がり、4月にはNetflixで配信を開始した。監督を務めたフラント・グォは「(『流転の地球』製作に携わった) 7,000人の人々がSF映画製作に関する教養を育んだ」と、『流転の地球』製作の意義を語っている。

2. MCU3作品公開でフェーズ3完結

怒涛のMCU (Marvel Cinematic Universe) ラッシュが続いた。3月に『キャプテン・マーベル』、4月に『アベンジャーズ/エンドゲーム』、6月に『スパイダーマン: ファー・フロム・ホーム』が公開され、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016) からスタートしたフェーズ3が完結。今振り返ればとんでもないラインナップである。フェーズ1から11年続いた“インフィニティ・サーガ”にも終止符が打たれ、ヒーロー達が世代交代を迎えた。

3. 『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』がヒット

マイケル・ドハティ監督が指揮をとったハリウッド映画『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』が公開。モスラが全米デビューを果たし、シリーズでもおなじみの楽曲が使用されるなどゴジラ愛に溢れる作品に仕上がり、日本のファンからも称賛を浴びた。12月18日にはブルーレイ&DVDも発売され、再び注目を集めている。

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4. 『ジョーカー』が大ヒット

映画界で後半最大のトピックとなったのは、『ジョーカー』の大ヒットだろう。本国アメリカではR指定にもかかわらず、全世界興行収入は10億ドル (約11,00億円) を突破。「バットマン」シリーズのヴィランを主人公に据えた問題作に議論は絶えず、まさに社会現象の域に。貧困や虐待といった社会問題と狂気のヴィランを同時に描き出すトッド・フィリップス監督の手腕とホアキン・フェニックスの演技力が世間の評価を混沌に陥れた。映画『ジョーカー』で使用された楽曲を紹介する記事は、VG+の年間アクセスランキング第一位に輝いている。

なお、2019年、DCコミックスからは『アクアマン』(アメリカでは2018年公開)、『シャザム!』も公開され、2020年には『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』『ワンダーウーマン 1984』が公開される。もはや“MCUの後追い”とは言えない盛り上がりを見せている。

5. 『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』公開

一区切りを迎えたのはMCUだけではない。『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』が12月に公開され、旧三部作・新三部作・続三部作の計9作品からなる「スカイウォーカー・サーガ」が完結した。『スカイウォーカーの夜明け』公開にあたっては、出演者を含む著名人らが「スター・ウォーズ」シリーズに関する思い出や自身の経験について語っている。

小説部門

6. 『三体』発売、フィーバーからロスまで

2019年のSF界はこの話題なしには語れないだろう。劉慈欣によるアジア初のヒューゴー賞長編小説部門受賞作品『三体』の日本語訳が立原透耶監修、大森望、光吉さくら、ワン チャイ翻訳で、遂に発売されたのだ。翻訳SFとしては異例の発行部数13万部突破発売1週間で10刷というフィーバーぶり。一般メディアだけでなくビジネス・経済専門メディアにも取り上げられ、「三体ロス」という言葉も聞かれるようになった。

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なお、次作の『三体II 黒暗森林』はプロローグが2019年12月25日発売の『S-Fマガジン』2月号に掲載されている。

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7. 各SF賞発表

2019年も世界各地でSF賞の発表が行われた。2月に発表された第39回日本SF大賞は山尾悠子『飛ぶ孔雀』、円城塔『文字渦』が、5月に発表された第54回ネビュラ賞では長編小説部門にメアリ・ロビネット・コワルの『The Calculating Stars』、新設されたゲーム部門にNetflixのインタラクティブドラマ『ブラック・ミラー: バンダースナッチ』が選ばれた。

SFファンによって選ばれる第50回星雲賞には日本長編部門に飛浩隆『零號琴』、日本短編部門に草野原々「暗黒声優」、海外長編部門にピーター・トライアス『メカ・サムライ・エンパイア』(中原尚哉 訳)、海外短編部門に劉慈欣の「円」(ケン・リュウ/中原尚哉 訳) が選ばれた。また、星雲賞と同じく7月の日本SF大会で発表された第18回センス・オブ・ジェンダー賞には、大賞に田中兆子の『徴産制』が選ばれている。

8月にはアイルランドのダブリンで開催された世界SF大会 (ワールドコン) でヒューゴー賞の発表が行われ、メアリ・ロビネット・コワルの『The Calculating Stars』がネビュラ賞に続いて長編小説部門を受賞し、二大SF賞を受賞するダブルクラウンを達成した。また、タケダ サナ、マージョリー・リューの『モンストレス』がグラフィックストーリー部門で三連覇を達成したほか、同人作品のプラットフォームであるAO3が関連書籍部門 (Best Related Work) を受賞したことは日本でも話題となった。

10月、第10回目を迎えた中国星雲賞 (全球华语科幻星云奖, 英名: Xingyun Awards) では、長編小説部門に灰狐の『固体海洋』が選ばれ、映画『流転の地球』を大ヒットに導いた郭帆 (フラント・グォ) 監督と「折りたたみ北京」で知られる郝景芳に特別功労賞にあたる華語星雲賞メダルの贈与が行われた。

なお、12月には第40回日本SF大賞の最終候補作が発表された。『三体』フィーバー冷めやらぬ中、国内SF作品として異例のヒットを記録した伴名練 『なめらかな世界と、その敵』や、日本SF大賞を受賞したデビュー作『皆勤の徒』に続き2作連続での最終候補作入りを果たした酉島伝法の『宿借りの星』、2月に全10巻が完結を迎えた小川一水の《天冥の標》シリーズなどが最終候補入りを果たしており、かつてない激戦が繰り広げられることになりそうだ。

アニメ部門

8. 米“アニメアワード 2019”発表

2月、米クランチロールが主催する“アニメアワード 2019 (CRUNCHYROLL ANIME AWARDS presented by Devil May Cry 5)”の発表が行われた。アメリカのアニメファンの投票によって選ばれる同アワードは、最優秀作品賞にあたる“Anime of the Year”に『DEVILMAN crybaby』が選出された。監督を務めた湯浅政明も最優秀監督賞 (Best Director) に選ばれている。ノミネートの時点では『メガロボクス』が最多となる8部門にノミネートされていたが、まさかの無冠に終わる波乱の展開も。
また、7月に放火殺人事件の被害を受けた京都アニメーションの『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』が最優秀アニメーション賞 (Best Animation) を受賞しており、京アニの作品が世界に愛されていることが証明されている。

9. 『スパイダーバース』がアカデミー賞長編アニメ映画部門受賞

米国で2018年12月に公開されたCGアニメーション映画『スパイダーマン: スパイダーバース』が2019年2月に発表された第91回アカデミー賞で長編アニメ映画部門を受賞した。日本では3月に劇場公開され、コミックがそのままアニメになったような脅威のアニメーションと、ヒップホップに重心を置いた音楽センス、現代的なテーマ設定のストーリーで映画ファンを魅了した。
11月には続編の製作も発表されている。

10. 『ラブ、デス&ロボット』が話題に

『スパイダーバース』公開と同じ3月、NetflixからSFアニメアンソロジー『ラブ、デス&ロボット』が公開され、こちらも大きな話題となった。SF作家のジョン・スコルジーやケン・リュウらの作品を短編アニメとして映像化し、SF界における新たなスタンダードの確立を期待させた。6月にはシーズン2の製作が決まったことも明らかになっている。

11. 『日本沈没』がアニメ化、『日本沈没 2020』製作決定

10月、小松左京の名作『日本沈没』がNetflixオリジナルアニメ『日本沈没 2020』として、初めてアニメ化されることが明らかになった。“アニメアワード 2019”を制した『DEVILMAN crybaby』の湯浅政明監督が指揮をとり、オリンピック後の日本を描く。このニュースは、国内外のファンから驚きと期待をもって迎え入れられた。このニュースの直後には、『三体』の著者である劉慈欣が「中国版『日本沈没』を書きたかった」とも話している。

ドラマ部門

12. 『ザ・ボーイズ』がヒット

ドラマ界では7月にAmazonプライムビデオで配信を開始した『ザ・ボーイズ』が大人気に。『アベンジャーズ/エンドゲーム』の余韻も冷めぬ内に、“もしスーパーヒーローがクズだったら”という残酷な世界を叩きつけた。人間臭くヒーローたちに挑む“ザ・ボーイズ”と、掟破りのヒーローたち (特にホームランダー) の人気に火がつき、“ナンバーワン配信ドラマ”のNetflix『アンブレラ・アカデミー』を破るまでの作品となった。
12月にはシーズン2のトレーラーも公開されている。

13. 『高い城の男』が完結

『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』などの作品で知られるフィリップ・K・ディックの同名小説をドラマ化した『高い城の男』そのファイナルシーズンとなるシーズン4が11月に配信を開始した。日本からも尾崎英二郎、吉田真由美らが堂々の演技を見せ、2015年から続いたシリーズが有終の美を飾った。
一方で、ドラマ『高い城の男』のプロデューサーで、フィリップ・K・ディックの娘でもあるイサ・ディック・ハケットが運営する製作会社とAmazonプライムビデオは提携を結んでおり、今後もAmazonプライムビデオでフィリップ・K・ディック作品が配信されることは間違いなさそうだ。

ゲーム部門

14. 『デス・ストランディング』発売

ゲーム界における2019年最大のトピックは、11月に小島秀夫監督の最新作『DEATH STRANDING (デス・ストランディング)』が発売されたことだろう。分断されたアメリカという世界観、起用された有名俳優、“預かった荷物を運ぶ”という全く新しいゲームシステムで世界中の人々を虜にした。

また、SF作家のピーター・トライアスは、『デス・ストランディング』のトレーラーに影響を受けて執筆した短編小説「死亡猶予」を『S-Fマガジン』で発表。VG+では独占コメントを紹介した。

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トピック部門

15. 性差別に声をあげるSF作家たち

日本ではフェミニズムが改めて注目を集める一年となった。海外でもSF作家たちが出版業界に存在する性差別に対して声をあげている。1月には、女性SFファンタジー作家の作品が勝手に“ヤングアダルト”に分類されていることに対し、女性作家たちが次々と意義を唱えた。2月には、のちにネビュラ賞とヒューゴー賞のダブルクラウンを達成するメアリ・ロビネット・コワルのツイートが日本でも話題となった。「女性を主人公にする場合、男性読者に対してどれほど配慮しますか?」という質問に対する見事な回答に称賛が集まった。

一方で、12月には「ハリー・ポッター」シリーズの作者として知られるJ・K・ローリングがトランスフォビアの発言を繰り返していた人物を擁護したことで強い批判を浴びるなど、セクシャルマイノリティの権利を軽視する動きがあったことも指摘しておこう。
日本では、海外のSF界では当たり前になりつつある単数“They”の用法や訳語について議論が交わされ、蓄積され始めている。

16. 幻冬舎が実売数を暴露

国内で話題となったのは、5月、幻冬舎の代表である見城徹が作家・津原泰水の著作の販売数を実数で暴露した事件だ。そもそもの発端は、津原泰水による百田尚樹の『日本国紀』への批判を理由に、幻冬舎が『ヒッキーヒッキーシェイク』文庫版の出版を取り下げたとする一件だ。SF界からも、実数暴露、出版取り下げの双方に批判が集まり、大きな話題となった。

17. ケン・リュウのスピーチが話題に

『三体』の英語版翻訳や『紙の動物園』などの作品で知られるケン・リュウは、今年も注目を集め続けた。日本でも2月に発売された短編集『生まれ変わり』を含む3冊の短編集と1冊の編著の文庫版が発売されている。文芸誌の『文藝』2020年春季号には、初邦訳短編作品が掲載されることも発表された。

だが、作品以外でも話題を集めるのがスター作家のさだめ。8月に世界最大級の仮想通貨イベントで登壇した際には「なぜSFが現実にならないのか」についてスピーチを行った。海外ではほとんど注目されていなかったが、VG+が紹介したことで、日本ではSNSを中心に話題を呼んだ。

18. メディアを超えていくSF作家

SF作家が小説作品にとどまる時代は終わりつつある。4月、ケン・リュウが英語版の翻訳を務めた「折りたたみ北京」の作者・郝景芳は、自身が立ち上げた映像スタジオが順調に資金調達を進めていることが報じられた。郝景芳の郝景芳影视工作室 (Hao Jingfang Film & TV Studio) は、Netflix『ブラックミラー』形式のSFドラマアンソロジーを製作しており、原作は中国のSF作家陣が手がける。

また、N・K・ジェミシンはコミック「グリーンランタン」の原作、ンネディ・オコラファーはAmazonドラマ『ワイルドシード』の共同脚本、劉慈欣は映画『末日拯救』の脚本を手がけることが発表された。前述のアニメアンソロジー『ラブ、デス&ロボット』もそうだが、SFジャンルの映像コンテンツが次々と発表される時代に、SF作家に対する需要が高まっていると言える。

19. 「小松左京展」開催、再び小松左京にスポットライト

日本を代表するSF作家の一人、小松左京の展示会「小松左京展―D計画―」が世田谷文学館にて10月12日から12月22日まで開催された。「小松左京展―D計画―」では、前述のアニメ『日本沈没 2020』の絵コンテや、アーサー・C・クラークからの手紙、幻の『新日本沈没』『日本沈没 1999』資料など、数々の貴重な資料が展示された。

また、NHK Eテレでは、『100分de名著』で「小松左京スペシャル」が放送され、イタリアでは小松左京のSF狂言『狐と宇宙人』が初めて上演されるなど、『日本沈没』のアニメ化も合わせて、小松左京関連のニュースが絶えない一年となった。今でも世界の人々から愛される小松左京とその作品たち。2020年もきっと、新たなニュースを届けてくれるだろう。

20. VG+独占記事を掲載

2019年、VG+はウェブメディアとして、様々な独占記事を公開してきた。VG+1周年を記念したスペシャルインタビュー企画では、アメリカで活躍する俳優の尾崎英一郎、小説家の縞田理理、酉島伝法、ピーター・トライアスの4人に「私とSF」をテーマにお話を伺った。

また、7月に『アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲』が公開され、来日したティモ・ヴオレンソラ監督にもお話を伺った。同監督が「SFと政治」について語る貴重なインタビューを公開した。

7月に埼玉の大宮で開催された日本SF大会“彩こん”でも取材を実施。同大会中に発表された星雲賞とセンス・オブ・ジェンダー賞の結果とともに速報をお届けした。

8月には原則非公開で開催されている「ゲンロン 大森望 SF創作講座」の第4期第3回を取材した。ゲンロンSF創作講座では、3月に『ハローワールド』で第40回吉川英治文学新人賞を受賞したSF作家の藤井太洋、早川書房の編集者で『なめらかな世界と、その敵』を担当した溝口力丸、そして主任講師の大森望によるトークの一部をご紹介した。

番外編

おすすめレビュー・書評

最後に、VG+の執筆陣が2019年に公開したSF作品の書評・レビュー・紹介記事の中から、選りすぐりの記事をご紹介する。

「映画『ジョーカー』を評価できない理由」by 齋藤隼飛

「『ボーダー 二つの世界』原作小説との違いと、各々の作品で問われたもの」by 井上彼方

「小川哲『ユートロニカのこちら側』と「しあわせな監視文化」」by 梅澤亮介

「ゴブリンスレイヤー:自我の物語と関係性の物語」by 岩内章太郎

「【レビュー】『スパイダーマン: スパイダーバース』が示した現代社会を生きるヒント」by 齋藤隼飛

「【書評】田中兆子 著『徴産制』——自分自身の解放のために」by 井上彼方

「SFと核——『メタルギアソリッド ピースウォーカー』と『博士の異常な愛情』が描いた人間と核」by 齋藤隼飛

2020年もVG+はSFウェブメディアとして、SFの“今”をお伝えしていく。

VG+編集部

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