さよならマンスプレイニング——『キャプテン・マーベル』が示した新たなヒーロー像 | VG+ (バゴプラ)

さよならマンスプレイニング——『キャプテン・マーベル』が示した新たなヒーロー像

via: Marvel © 2019 MARVEL

オープニング興収記録を更新

MCUの『キャプテン・マーベル』は、オープニングの興行収入は全世界で4億5,500万ドルに達し、女性単独ヒーロー映画としては『ワンダーウーマン』(2017) を抜いて第一位に躍り出た。オープニング記録としては、『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』(2017)を超える歴代第6位にランクインするなど、快進撃を見せた。

もちろん、『キャプテン・マーベル』のすごさは人気だけではない。権力に挑み、弱者を救い、何度でも立ち上がるという王道的なヒーロー像を提示しながら、“MCU初の女性単独ヒーロー”として、近年注目されるようになったある問題も題材として扱っているのだ。

“マンスプレイニング”がテーマの一つに

指摘され始めた“上から目線”

『キャプテン・マーベル』で扱われた重要な要素の一つが、“マンスプレイニング (mansplaining)”だ。マンスプレイニングとは、“男性”を意味する“マン (man)”と“説明”を意味する“エクスプレイニング (explaining)”を合わせた造語。男性が、相手の女性が無知だという前提で上から目線の解説を施すことを指す。

白人が他人種に説教を施す“ホワイトスプレイニング (whitesplaining)”、年長者から若者への“オールドスプレイニング (oldsplaining)”など、その他の属性にも派生し、権力者が相手を低く見積もる行為を牽制する言葉として広がりを見せている。

第91回アカデミー賞作品賞を受賞した『グリーンブック』にはホワイトスプレイニングの要素が見られ、アフリカ系アメリカ人の著名人らから批判が起こっていた。

典型例となる事件も

2019年3月初旬には、人気女性コミックライターへマンスプレイニングを行った男性ユーザーのツイートが話題になった。コミック『Agent X』の著者であるゲイル・シモンは、「パニッシャー (訳注: 『Agent X』にも登場するアンチヒーロー)はもっと笑ったら可愛いのに」とツイート。

これに対し、ある男性ユーザーがこうコメントしたのだ。

うーーーん。言いたいことは分かるけど、彼の過去と性格を考えると、それは無理な話だよ。彼が笑わない背景には、実は、ちゃんとした設定があるんだ。

ゲイル・シモンは、自身の著作である『Agent X』の中で、他でもないパニッシャーを描いている。自分が話しかけている女性が有名作家だということに気づかないこの男性ユーザーは、この後も他のTwitterユーザーに指摘されるまで、マンスプレイニングを続けた。最後には、このユーザーは自身の過ちと無知について謝罪し、平和的な解決がなされたが、マンスプレイニングを象徴する一件として、Twitter上では広く共有されることになった。

ネタバレ注意
以下の内容は、映画『キャプテン・マーベル』の内容に関するネタバレを含みます。

マンスプレイニングを打ち砕いたキャプテン・マーベル

キャプテン・マーベルのアティチュード

さて、『キャプテン・マーベル』に話を戻そう。キャプテン・マーベルが他のヒーローと明らかに違っていた点は、マンスプレイニングをはねのけたという点だ。男性たちから「出しゃばるな」「頭を使え」と言われ続けながら、そこから教訓を得て成長していくのではなく、彼女は自分の力で立ち上がり、自分の正義を貫いてみせた。

これまで、性別にかかわらずほとんどのヒーローが男性のメンターを持ち、マンスプレイニング(またはオールドスプレイニング)を受けながら、その価値観を内面化することで、“ヒーロー”となっていった。そうした流れに乗らない、男性的な視点、男性的な発想から何も教訓を得ない(教訓はそれ以外のところから得る)というスタンスが、『キャプテン・マーベル』では作品を貫くアティチュードとして示された。

「与えられた力は奪われる」

劇中、マンスプレイニングに絡めたメタ的な表現となっていたのが、「与えられた力は奪われる」というセリフだ。男性社会など、マジョリティから与えられた権力は、マジョリティ側の都合でいともたやすく奪われてしまう。キャプテン・マーベルことキャロル・ダンヴァースは、自ら覚醒させた力でもってヒーローとなり、誰にも支配されない存在になるのだ(後にS.H.I.E.L.D.長官となるニック・フューリーですらも、彼女に頭が上がらない)。

更に、物語の終盤、キャプテン・マーベルは、男性キャラクターから「自分の力を証明してみろ」と挑発を受ける。これに対して彼女は、そのゲームに乗らないという手段でもって、マンスプレイニングを打ち砕いてみせる。決して男にマウントを取らせない、相手の理論を前提とした議論に持ち込ませないというスタンスは、「あんたの戦争は戦わない。終わらせるだけ」というセリフにも現れている。

こうした作品を貫くアティチュードが、『キャプテン・マーベル 』を特別な作品にしている。ヒーロー活劇としては王道でありながら、マンスプレイニングに屈しないという原則を貫いたことが、MCU初の女性単独ヒーロー映画としても、同作を意義深い作品に仕上げたのだ。世界の危機をマンスプレイニングごと打ち砕いたキャプテン・マーベル。今度はアベンジャーズという“男性中心社会”で、どのような活躍を見せてくれるのだろうか。

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