『グリーンブック』のオスカー受賞にSF界からも異論
第91回アカデミー賞受賞作品発表
米時間24日、アメリカでアカデミー賞の受賞作品が発表され、作品賞にはピーター・ファレリー監督の『グリーンブック』が選ばれた。アメコミを原作とした映画で初めての作品賞ノミネートを果たした『ブラックパンサー』が、衣装デザイン症をはじめとする3部門を受賞した他、長編アニメーション賞には『スパイダーマン: スパイダーバース』が選ばれている。
「ホワイトスプレイニング」との批判
多様な人種・性別の受賞者が選ばれた一方で、最大の注目を集める作品賞を『グリーンブック』が受賞したことが、物議を醸している。同作は公開時から、白人が有色人種に上から目線で解説を施す「ホワイトスプレイニング (whitesplaining)」であるとの批判を受けていたのだ。『グリーンブック』の作品賞受賞が発表された時には、『ブラック・クランズマン』のスパイク・リー監督が退席する一幕も。アカデミー賞における多様性を巡る問題が、またも大きな論争を生んでいるのだ。
SF界からも批判
多くの映画評論家、コメンテーターから賛否の声があがる中、アメリカのSF界からは、『グリーンブック』の作品賞受賞に否定的な声があがっている。
コミック『マイルス・モラレス: スパイダーマン』の作者として知られるサラディン・アフメッドは、以下のようにツイートした。
everyone go home and write stories where people of color don’t need to be saved or understood by white heroes
— Saladin Ahmed (@saladinahmed) February 25, 2019
みんな、家に帰って、白人のヒーローに救われたり理解されたりする必要がない有色人種の人々の物語を書こう。
小説『ビンティ (原題: Binti)』の著者として知られるンネディ・オコラファーは、『グリーンブック』の作品賞受賞を一笑に付した後、以下のようにツイートした。
The Oscars are a lot of fun to discuss and are certainly powerful accolades to acquire, but I never forget who the judges mainly are and therefore don’t take them that seriously.
— Nnedi Okorafor, PhD (@Nnedi) 2019年2月25日
アカデミー賞について議論するのは楽しいし、誉れある賞だけれど、誰が審査しているかは忘れない。だから真に受けることもない。
オコラファーはこう述べた上で、アカデミー賞の選考を行う映画芸術アカデミーの会員の内、約85%が白人、約70%が男性であると指摘するジャーナリストのツイートをシェア。その他にも、ヒューゴー賞三連覇を達成したN・K・ジェミシンを始め、SF作家たちが『グリーンブック』の作品賞受賞を揶揄するジャーナリストらのツイートをリツイートしている。
白人優位を風刺するジョークも
また、映画『ブラックパンサー』に声でカメオ出演したコメディアンのトレバー・ノアがアカデミー賞の授賞式で放ったジョークも話題に。ノアは、「(ブラックパンサーこと) ティ・チャラ王の言葉」として、南アフリカのコサ語のフレーズ、「abelungu abazi’ uba ndiyaxoka.」を紹介。「危機にある時、共に戦えば、我々は強くなる」という意味だと説明した。だが実は、このフレーズの本当の意味は、「白人たちは、私が嘘をついていることを知らない」というもの。会員のほとんどを白人が占めるアカデミーを風刺する巧妙なジョークで、今回のアカデミー賞の結果に不満を持つ人々からも賞賛を浴びている。
There’s a good chance you probably missed Trevor Noah’s ‘Black Panther’ joke 😂 #Oscars pic.twitter.com/sfJdO4EpgN
— NowThis (@nowthisnews) 2019年2月25日
ハリウッドとの“ギャップ”
これまでアカデミー賞では、受賞者のほとんどが白人を占めていたことから、近年は“#OscarSoWhite”というハッシュタグを用いた抗議活動が展開されてきた。ハリウッドでは2020年までに賃金や賞レースにおける性差別の撤廃を目指す、“#5050by2020”ムーブメントも展開されている。
一方、近年の米SF界では、最高賞のネビュラ賞、ヒューゴー賞で小説部門を受賞しているのはほとんどが女性だ。2015年にはリュウ・ジキン (劉慈欣) の『三体』がアジア作品として初のヒューゴー賞を受賞しており、人種においても多様性が担保されている。詳しい経緯は以下の記事を参照して頂きたいが、バックラッシュを乗り越え非常に先進的な意識で運営が行われているのだ。
今回、SFクリエイター達は、この“ギャップ”に黙ってはいられなかったというところだろう。実際に危機を乗り越え、多様性を獲得してきた業界から批判の声があがったのだ。今回の議論を、アカデミーはどう受け止めるのだろうか。