デイジー・リドリー「特権はない」発言とジョン・ボイエガの性的ジョークに批判——『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』から学ぶべきこと【ネタバレ】

© Lucasfilm Ltd.

『スカイウォーカーの夜明け』公開

2019年12月20日(金)、『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』が公開された。全世界の興行収入は10日足らずで7億ドル (約760億円) を突破。2019年のSF映画興行収入ランキングでも第7位に滑り込んだ。

収益面では好調な『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』だが、その公開前に主演のデイジー・リドリーが、あるコメントをきっかけに強い批判を浴びていたことをご存知だろうか。

“特権”を否定

それは、Guardianが2019年12月7日(土) に公開した独占インタビューでのデイジー・リドリーの発言だった。裕福な家庭に生まれ育ち、全寮制の名門校に通っていたという自身の生い立ちについて、その“特権”がセレブとして成功するにあたって助けになったと思うかと聞かれ、以下のように答えたのだ。

私が持っている特権……どうしてですか? いいえ、純粋に、どうしてそう思うのですか?

インタビュアーは、その“特権”の中身については「富、階級、教育」としながら、インタビュアー自身も同じようにその特権を享受しているとデイジー・リドリーに説明。これは批判ではない、と付け加えた。だが、この説明に対するデイジー・リドリーの回答は以下のようなものであった。

えぇと、そんなことはありません。なぜなら、そんなことはないからです……。

更にデイジー・リドリーは共演者で『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』でフィン役を演じたジョン・ボイエガを引き合いに出し、こう語っている。

ジョンはペッカムの公営団地で育ちましたが、私と彼は十分に似ていると思います。私が寮生の学校に行ったのも演技を学ぶためです。

9年間私立の学校で教育を受けたことは自信になったのでは? という問いかけには、

いいえ。そうなるまでには少し時間が必要でした。私はいつでも自信を持っていますが、それはよく喋る大家族の一員だからだと思っています。

繰り返し「No」という言葉で否定するデイジー・リドリーは、最後にインタビュアーへ「あなたが間違っていると言いたいわけではないんです。そんなこと、今まで聞かれたことがなかったので、だから『え、そうは思いません』という感じなんです」とフォローした。

このデイジー・リドリーの発言は、日本では表立って報道されることはなかったが、Guardianのインタビューが公開されるや各方面から批判を集めた。SNS上でも「驚きはしないが失望した」「デイジー・リドリーには失望したけど、自分の無知さを学んでくれることを願う」といった声が相次いだ。とりわけ強い批判を浴びたのは、デイジー・リドリーが「スター・ウォーズ」続三部作で共演したジョン・ボイエガと自身の育ちを比較し「似ている」としたことだ。

デイジー・リドリーとジョン・ボイエガの“違い”

デイジー・リドリーはロンドンのウェストミンスターで生まれ、北部のメーダ・ベールで育った。母は銀行家、父は写真家で、母方の祖父は地主階級に属する上流階級の出身だ。大叔父は俳優で劇作家のアーノルド・リドリー。アーノルドの兄弟で、父方の祖父であるジョン・ハリー・ダン・リドリーはBBC (英国放送協会) でエンジニア部門の事務局長を務め、大英帝国勲章を受け取っている。インタビューの中でも触れられていたように、デイジー・リドリーは9歳の頃からロンドン北部の高級住宅街に位置するプライベートスクールのトリング・パーク・スクールに通い始め、18歳で卒業するまで9年間をそこで過ごした。ケン・ローチ監督が描いてきたようなイギリスにおける若者や移民の貧困とは全く別の世界が、そこには広がっている。

対して、ジョン・ボイエガの生まれは古くから労働者階級が住むサウスロンドン。ナイジェリア系移民の家庭に生まれ、障がい者の介護をして働く母とペンテコステ派の宣教師である父のもとで育った。小学校の演劇で演技を披露していたジョン・ボイエガは、9歳の頃にペッカム劇場の監督から声をかけられて劇団に参加するようになる。ペッカム劇場はサウスロンドンの子ども達に演技を学び、表現する場を提供している。ジョン・ボイエガは、金銭的に困窮している人々を援助する基金に援助を申請してペッカム劇場で演技を学んだ。

このような育ちの違いは、とりわけ海外の「スター・ウォーズ」ファンには広く知られていたことだった。白人男性が中心となってきた「スター・ウォーズ」シリーズにおいて、初めて女性が主人公となり、黒人のジョン・ボイエガが準主役として出演し、生まれや育ちの違いを超えて力を発揮できるということは、続三部作が示した象徴的なメッセージでもあった。
にもかかわらず、デイジー・リドリーは境遇の違いは存在しないと、ジョン・ボイエガの貧困を“なかったこと”にしてしまったのだ。

ネタバレ注意
以下の内容は、映画「スター・ウォーズ」シリーズの『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』および『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』の内容に関するネタバレを含みます。

デイジー・リドリーは2019年11月、『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』で明らかになった主人公レイの両親が“何者でもない”という設定について「レイと観客にとって納得できるものではない」Entertainment Weeklyに話している。だがこの設定は『最後のジェダイ』のエンディングシーンでも見られたように、自分のことを“何者でもない”と考えている子ども達に勇気を与えたはずだ。『スカイウォーカーの夜明け』で明らかになった“レイの祖父はパルパティーン”という設定は、上流階級で大英勲章を授与された祖父を持つデイジー・リドリーが自身の姿を重ね合わせられる設定だったと考えられるが、両親が“何者でもない”ということを「納得できるものではない」と表現したこともまた、自らと違う境遇で生きる他者に対する想像力に欠ける発言であった。

ジョン・ボイエガには「ミソジニスト」批判

デイジー・リドリーが強い批判を受けた経緯は以上の通りだが、彼女はこのインタビューが公開された直後に、The Sunに「スター・ウォーズ」出演後に受けたストーカー被害について語っている。数年前、ニューヨークを訪れた際に夜遅くにホテルに向かっている時に男性から後をつけられたのだ。恐怖を感じたデイジー・リドリーが声を上げると男は逃げ出したというが、こうしたストーキングを繰り返し経験した彼女は、その後セラピーを受けている。

一人の人間は社会的強者の一面とそうではない一面の双方を持ちうるということは、上記の件で同情を集めたジョン・ボイエガにも言えることだ。ジョン・ボイエガは2020年1月1日、『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』のレイに関する性的なジョークをInstagram上で投稿し、ファンから「ミソジニスト」との批判を浴びることになった。

ある男性ファンからの「カイロが死んだからレイとデートできるね」とのコメントに、ジョン・ボイエガは「レイが誰にキスをするかではなく、誰とセックスをするかが重要だ」と返答。レイを性的な対象として公の場で揶揄するホモソーシャルなノリに、Twitter上で「セクシスト」「ミソジニスト」との批判が集まった。これに対してジョン・ボイエガは「レイは存在しないじゃないか」「フィクションと現実を混同してはいけない」と非を認めず、「あなたはミソジニストです」というツイートに「あなたはバカです」と返信。性差別を「ただのジョーク」と済ませようとするお決まりの言い訳が、更に人々の怒りを買う結果となった。

一方で、ジョン・ボイエガを擁護する「スター・ウォーズ」ファンは少なくない。フェミニストであるSF作家のN・K・ジェミシンもその一人だ。ジョン・ボイエガは「スター・ウォーズ」出演以降、この5年間で「スター・ウォーズ」ファンからひどい人種差別を受けてきた。白人同士であるレイとカイロを推す“レイロ”と呼ばれるファンダムには、繰り返しジョン・ボイエガへの攻撃を仕掛けるファンがおり、保守系メディアも一斉に今回の一件を取り上げている。白人出演者に対しては寛容で、黒人出演者には容赦ない批判が行われているというのが、擁護派の言い分だ。

批判をやめるべきか

一方で、デイジー・リドリーの「特権はない」発言は、ミソジニストによって彼女を強く批判する手段として利用されている。デイジー・リドリーがこれまでにドナルド・トランプ大統領を批判してきたという経緯もある。この状況は、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」シリーズのジェームズ・ガン監督が幼児への性的虐待に関するジョークの投稿を理由にディズニーから同シリーズの監督を一時解任された件とも重なる。ガン監督の不適切なツイートは、オルタナ右翼が反トランプ派の同監督を叩く理由として利用された。

確かに、デイジー・リドリーの「特権はない」発言はミソジニストに、ジョン・ボイエガのミソジニー発言はレイシストによって利用されているかもしれない。だが、ここでやるべきことは、両方を見逃すことではなく、双方を公平に批判することではないだろうか。もちろん批判の中にミソジニーやレイシズムの感覚が用いられてはいけない。そして、批判する者も自省と自己批判を忘れるべきではない。自分を含む誰もが誰かを傷つける加害者になり得るという意識を持ち、誤った発言にはそれを正すという態度を捨ててしまわないことが重要だ。それが巡り巡って、自分と目の前の大切な人を助け、マシな世界を作り出す第一歩になる。憎悪に屈せず、しかし戦い続けるということの大切さを、『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』は教えてくれたはずだ。

 

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Source
The Sun / Entertainment Weekly / Guardian

齋藤 隼飛

齋藤 隼飛

VG+編集長。1991年生まれ。
社会保障/労働経済学を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で4年間、教育業に従事。アメリカではマネジメントを学ぶ。名前の由来は仮面ライダー2号。
編著書に『プラットフォーム新時代 ブロックチェーンか、協同組合か』(社会評論社)。
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