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ジェームズ・ガン監督解任、スカヨハ降板…デップー2、ハン・ソロに垣間見える「ポリコレ疲れ」と、ファンが取るべき選択肢

ハリウッドに衝撃、ジェームズ・ガン監督解任

過去のツイートが問題に

映画「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」シリーズを手がけてきたジェームズ・ガン監督が、過去に小児性愛や性暴力に関するジョークをツイートしていたことが問題となり、ディズニーはガン監督との契約を打ち切ることを発表した。これにより、ガン監督の「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」シリーズおよびMCU作品からの降板は免れない状況となった。
10年前のツイートが問題視された理由は、右派メディアによる告発だ。ガン監督はこの直前に、トランプ大統領やその周辺の右翼コメンテーターを批判する内容のツイートを行っており、右派メディアから報復を受けることになった。ネット上には、ガン監督を支持する声や、「数年前のツイートが理由でクビになることを想像してみてよ」と、ディズニーの決定を疑問視する声が多く挙がっている。

アメリカ社会を覆う「ポリコレ疲れ」

こうしたガン監督を擁護する反応の背景には、ある理由がある。ドナルド・トランプ大統領誕生の前後から言われ始めている、アメリカ人の「ポリコレ疲れ」である。ポリコレとはポリティカル・コレクトネスの略で、政治的に正しい言動を行うべきという表現の規範を指す言葉だ。多様な人種と性が共存する現代社会においては、必須の感覚である。「メリー・クリスマス」は「ハッピー・ホリデー」と、「インディアン」は「アメリカン・ネイティブ」と言い換えられ、「女性らしく」、「男性らしく」という言説は性差別だと認識されるようになった。多様性のある社会では極当たり前のように思えるこの「配慮」に息苦しさを覚える層が、思い切りよく差別的な発言を行うドナルド・トランプを支持し、その躍進の原動力となったとされているのだ。

パロディにされ始めた「SWJ」とは

この風潮は近年の映画作品にも見られるようになった。『デッドプール2』(2018)では、デッドプールが「過剰に」ポリコレ棒を振り回す(「X-MENはセクシスズムだ!」「X-ピープルと呼ぼう!」といった具合に)ことで、それ自体がシニカルなギャグとなり、観客は笑い出すのだ。『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』(2018)では、ドロイドの権利を主張するL3-37が登場。ドロイドが人間と同じ権利を求め、解放を説く姿は、「笑えるシーン」として映し出された。これらの演出は、アメリカで「SJW」と揶揄される人々のパロディだと解釈されている。SJWとは、Social Justice Worrier(社会正義の為に闘う人)の略で、日本語で言う「ポリコレ棒」と似たニュアンスの言葉である。人を蔑むことでは笑わなくなった世間を、過剰な擁護という形で笑わせる、こうした手法がハリウッドの大作映画においても見られるようになったのだ。

一週間前にはスカヨハの降板劇

今回のガン監督の契約解除とは質の違うものだが、一週間前に世間を騒がせたのが、スカーレット・ヨハンソンの降板劇である。彼女は映画『Rub and Tug』でトランスジェンダーの主人公を演じることになっていたが、トランスジェンダーの仕事を奪っているとして強い批判を浴び、最終的には降板を選んだ。ヨハンソンは以前にも、攻殻機動隊の実写化映画『ゴースト・イン・ザ・シェル』(2017)で、原作でアジア人であった主人公を演じて、アジア人コミュニティから批判を浴びていた。『ゴースト・イン・ザ・シェル』においては、脚本上、人種が問題とならない設定が組まれていたが、『Rub and Tug』では実在したトランスジェンダーの人物を演じるとあって、他者のアイデンティティの扱いを問う声に、降板という決断を下すことになった。ハリウッドでは、スカーレット・ヨハンソンの決断を称賛する声があがっている一方で、当然この騒動をよく思わない人々からは、ポリコレ叩きの声もあがっている。ポリコレという規範の強化と、ポリコレ疲れという相反する潮流がアメリカ社会を渦巻いているのだ。

「パピーゲート事件」から学んだもの

こうした経緯とアメリカ社会を取り巻く感覚が、ガン監督の即時契約解除というセンセーショナルな結果と、解雇に対する大ブーイングを生んだということだ。様々な感情が渦巻くこの様相を、我々はどう捉えるべきなのだろうか。
多くのファンがガン監督の続投を希望し、彼を擁護する一方で、右派の人々からは「右翼を叩いてきた武器(ポリコレ)が自分たちの方を向いたからといって、それを否定してはならない」という声もあがっている。これは「ポリコレ疲れ」している大衆を、より疲弊させようとする扇動である。
ここで思い出されるのは、2015年のヒューゴー賞における、右翼SF作家の団体による反アファーマティブ・アクション運動である。SFファンの投票で決定されるヒューゴー賞において、彼らは集団投票により白人男性以外の作家の作品をヒューゴー賞から締め出そうとした。所謂「パピーゲート事件」である。この時、SFファンは投票において、16部門中5部門を「該当者なし」としてみせる気概を見せ、彼らの目論見を阻止したのだ。

こうした「政治的正しさ」が名誉ある賞を救った例や、我々が日常において気づかない内に、多かれ少なかれポリコレに守られてきたという事実は、矮小化されるべきではないだろう。我々は、自らの自由を制限することで、より自由になることができるという、社会契約の中で生きているのだ。

ファンが取るべき選択肢とは

ガン監督の過去のツイートは擁護のしようがなく、表現者である以上は、過去の発言であれ、既に謝罪したものであれ、報いは受けなければならない。パピーゲート事件の例からも分かるように、政治的な判断を下す時には、「面倒臭い」、「作品が好きなのに」という「感覚」や「感情」からは一定の距離を置かなければならない。右派の人々が声高に叫ぶように、主張の一貫性を欠いてしまっては、ここまで様々な物語を通して築き上げてきた「正しさ」は、無に帰してしまうからだ。

今回の決定にガン監督自身は不満を表明していないという点も、言及しておくべき点だ。大切なのは、禊をすませたガン監督がどのような形で再び社会に復帰できるかということだ。何も彼の命が取られたわけではない。ガン監督を擁護する声はSNS上に溢れており、これは彼の人徳を示すものだろう。ガン監督の「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」への復帰を嘆願する署名活動も始まっている。既に世界中から多数の署名が集まっていることからも分かるように、「作品と作者は別」ではあり得ない。彼のファンであればこそ、まずは、「ガン監督のガーディアンズ・オブ・ギャラクシーが見たい」、という「欲求」を抑え、ガン監督の行為を戒めるべきだ。その上で、署名によって呼び戻すなり、違う形での製作を進めるなり、最善の「正しいシナリオ」を考えるべきだろう。

罪を背負った登場人物が、その罪への償いもなく勝利を収めては味気ない。

 

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via: Screenshot via “The Cast Celebrates the Guardians of the Galaxy Vol. 2 Red Carpet Premiere” ©2018 Marvel All rights reserved.

齋藤 隼飛

齋藤 隼飛

VG+編集長。大学時代に社会保障を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で教育業に従事。アメリカでも夜間に通学し、マネジメントの学位を取得。名前の由来は仮面ライダー2号。
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