「小松左京展」にアーサー・C・クラークからの手紙
2019年10月12日(金)から世田谷文学館で開催されている「小松左京展―D計画―」にて、アーサー・C・クラークから小松左京へ宛てた手紙が公開されている。アーサー・C・クラークは、『2001年宇宙の旅』(1968) などの作品で知られるSF界を代表する作家の一人。今回「小松左京展」で初展示された手紙には、小松左京とアーサー・C・クラークの間で交わされた映画『2010年宇宙の旅』(1984) および『さよならジュピター』(1984) に関する意外なやり取りも記載されている。
『さよならジュピター』完成前の逸話
映画『さよならジュピター』は、1977年の「スター・ウォーズ」の大ヒットを受け、日本での本格的なSF映画誕生を目指して小松左京が企画した映画だ。1979年に完成したシナリオは、世界公開も視野に英文化され、米国での著作権登録も行われている (直後に「スター・ウォーズ」のプロデューサーだったアランラッドJr.から原作買い取りの打診も)。さらに、映画『2001年宇宙の旅』(1968) の原作者として知られるアーサー・C・クラーク出演の可能性をも探っていた。
クラークからの意外な反応
今回「小松左京展―D計画―」に展示されるアーサー・C・クラークの手紙は、小松左京からの出演要請に対する断りの返事とともに『さよならジュピター』のプロットを読んだクラークの驚きが記されている。それは『さよならジュピター』が、当時、クラークの最新作だった『2010年宇宙の旅』と同じく、木星を太陽化するアイデアを使用していたためだ。クラークは手紙の中で、半年早く(『2010年宇宙の旅』の出版時期)受け取っていたなら、ダーウィンがウォーレスからの手紙を受け取った時のように困惑したことだろうと述べている (ダーウィンが進化論を発表する前に、独自に進化論を研究していたウォーレスから手紙を受け取った逸話に基づいたもの)。
クラークの予言
また、アーサー・C・クラークは、『さよならジュピター』のストーリーは非常に興味深いが、映画にするには込み入りすぎているとも指摘し、小説にすることを薦めています。クラークの予言は的中し、映画『さよならジュピター』は、完成後に多くのSFファンや映画ファンから同様の意見を受け、高い評価は得られなかった一方、小説は第14回星雲賞日本長編部門を受賞している。
この書簡は、SFの巨匠クラークと小松左京を繋ぐ単なる手紙ではなく、いずれも映画化を念頭においた二つのSF作品をめぐる、不思議な縁を伝える貴重な資料といえる。
なお、小松左京が手がけた『さよならジュピター』は、元々は立体アニメ作品として企画されていた作品だ。映画『さよならジュピター』製作の経緯は、以下のリンク先の小松左京ライブラリでご覧いただきたい。
世界に影響を与え続けるクラークと左京
アーサー・C・クラークと小松左京は共に世界で愛されるSF作家だ。小松左京は、自身が手がけたSF狂言『狐と宇宙人』が10月19日(土) にイタリアでイタリア人の手によって初上演された。
アーサー・C・クラークもまた、毎年発表される英アーサー・C・クラーク賞を通して人々に勇気を与え続けている。2018年には『三体』(2008) の劉慈欣が国際的な社会貢献を認められ、同賞の授賞式で表彰を受けている。
また、劉慈欣は先日開催された中国のSF大会にて、アジア初のヒューゴー賞を受賞した『三体』について、小松左京の『日本沈没』から影響を受けたことを明らかにしている。
小松左京の代表作の一つである『日本沈没』(1973) は、『DEVILMAN crybaby』(2018) で知られる湯浅政明監督によってNetflixオリジナルシリーズ『日本沈没 2020』としてアニメ化されることが決定している。小松左京展では、『日本沈没 2020』の絵コンテを含む最新資料も展示中。詳細は以下の記事からご確認いただきたい。
初展示となるアーサー・C・クラークからの手紙とともに、『さよならジュピター』の紹介コーナーも設けられている「小松左京展―D計画―」は、世田谷文学館で12月22日(日)まで開催中。
同展示会の詳細は、以下の記事から。
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提供:小松左京ライブラリ