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「手塚治虫はSFで戦争を語った」米歴史家が『鉄腕アトム』を賞賛

戦後日本における手塚治虫の功績

子ども達に戦争を知る機会を提供

シカゴ大学准教授で歴史家、小説家でもあるエイダ・パーマーが、戦後日本における手塚治虫の功績について語った。ジョン・W・キャンベル新人賞のプレゼンターとして壇上に上がったパーマーは、冒頭、世界の検閲の歴史について触れた。戦後の日本においても検閲が行われていたことを指摘し、その様な状況の中でも、手塚治虫はサイエンスフィクション (SF) という手法を用いて、当時の子ども達に、戦争で何が起きたかを知る機会を与えたと賞賛した。

戦後日本における検閲

エイダ・パーマーは、ハーバード大学出身。シカゴ大学でルネサンス期を中心としたヨーロッパの歴史について教えている。パーマー自身、2016年に作家デビューしており、昨年のジョン・W・キャンベル新人賞を受賞した。歴史家としての視点と、作家としての視点を併せ持つパーマーは、戦後日本の状況について、以下の様に語った。

第二次世界大戦後、作家やジャーナリスト達は戦争に関して自由に表現活動を行うことを禁じられました。日本政府とアメリカの占領軍の双方による圧力です。これにより、子ども達は、平和な世界と家族を奪った戦争で何が起きたかを知る機会を失ったのです。

by エイダ・パーマー

検閲を潜り抜けた『鉄腕アトム』

パーマーによると、この状況を打破したのが、手塚治虫の『鉄腕アトム』(1952-1968)だったという。『鉄腕アトム』は、「子ども向けのSF作品」として、日本政府と占領軍による検閲を潜り抜けた。その一方で、『鉄腕アトム』はロボットが市民権を要求する姿を描くと同時に、ロボットに対するヘイトクライムまでをも描いた。パーマーは、ロボットに対する憎しみの感情が国際的な戦争に発展する中、ロボットが立ち上がり、独裁者を打ち負かすというストーリーを紹介。浦沢直樹によって『PLUTO』(2003-2009)としてリメイクされた、「地上最大のロボット」を指したものだろう。

忘却を阻止したSFの力

パーマーによると、検閲を行う側からは、『鉄腕アトム』はサイエンスフィクションなので問題ないと考えられた。SFは終戦直後の時代を生きた人々にとって、第二次世界大戦のルーツを知り、どうすれば平和な未来を築けるかを考えるためのツールとなった。更に、辰巳ヨシヒロや中沢啓治といった、手塚治虫の作品に影響を受けた世代が、よりシリアスな大衆向けの作品を作り出す。中沢啓治の『はだしのゲン』(1973-1985)は、1970年代に入り、ようやく戦争を直接描きだすことができた。パーマーは、彼らクリエイターとその読者達が、異なる現在・過去・未来を想像し、より良い未来を築くための議論を前進させることに貢献してきた、と指摘している。戦争に関する自由な表現が規制された世界で、自由な発想と想像力を活用できるSFというジャンルが、人々を“忘却”から救ったのだ

現在も続く「鉄腕アトム」への注目

現在、「月刊ヒーローズ」では、手塚眞監修の下、アトム誕生の物語を描く『アトム ザ・ビギニング』(2015-)が連載中。アニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』(2012)で総監督を務めた本広克行監督が、アニメ版『アトム ザ・ビギニング』(2017)の総監督を務めた。海外では、このアニメ版がAmazonプライムビデオで配信されており、「鉄腕アトム」が再び注目を集めている。

また、パーマーは、手塚治虫の作品を英語で紹介するTezukaInEnglish.comの創設者としても知られる。今年は、手塚治虫生誕90周年の年にあたり、パーマーのスピーチは、改めて手塚治虫の功績を世界に発信する機会となった。

SFで戦争を学んできた日本

アメリカは第二次世界大戦以後も、20年に一度は大きな戦争を主導しており、20世紀以降、全ての世代がリアルタイムで戦争を経験している。日本は直接戦争に関わることなく戦後73年が経過した。それでも、漫画やアニメ、ゲームといったSF作品を通して、戦争について考える機会が“保障”されてきた。終戦直後からSFを通して戦争を描いた手塚治虫の功績を再評価する流れは、再び人類を“忘却”から守り、未来を創る糧となっていくだろう。

手塚治虫公式サイト

– Thumbnail –
via: © 2018 Ada Palmer, photo credit Gabriel Marchan
– Source –
2018 Hugo Awards Ceremony at Worldcon 76, San Jose, California

VG+編集部

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