メディアを超えていくSF作家たち——ジェミシンはアメコミ原作、劉慈欣は映画脚本を執筆へ | VG+ (バゴプラ)

メディアを超えていくSF作家たち——ジェミシンはアメコミ原作、劉慈欣は映画脚本を執筆へ

Photo by [Luke McGuff on Flickr / Bryan Alexander on Flickr / Brandein University / 36Kr]

活躍の場を広げるSF作家たち

アメコミ、ドラマ、映画……

SF作家たちが次々とメディアを超えて、活躍の場を広げている。今やアメコミ原作は当たり前、ドラマや映画作品のオリジナル原作制作・脚本執筆にまで進出しているのだから、その勢いはとどまるところを知らない。

N・K・ジェミシンの新「グリーン・ランタン」

『第五の季節 (原題: The Fifth Season)』を始めとする「The Broken Earth」トリロジーで前人未到のヒューゴー賞三連覇を達成したN・K・ジェミシンは、人気アメコミシリーズ「グリーン・ランタン」の新シリーズで原作を手がける。「Far Sector」と名付けられたこの新シリーズでは、人口200億人の平和な街・Enduringの警護を任命された主人公ジョーの物語が描かれる。平和な街であるがゆえ、通常のグリーン・ランタンとは違い単独任務を任されたジョーだったが、Enduringの街で初の犯罪が発生し、街に革命が起きようとしていることが発覚する、というストーリー。主人公ジョーの外見は黒人女性に設定されている。N・K・ジェミシンが手がけるグリーン・ランタンの新シリーズ「Far Sector」は、2019年内に公開される予定だ。

ンネディ・オコラファーはアメコミ&Amazonドラマ

N・K・ジェミシンと同じく黒人女性作家で、小説『ビンティ (原題: Binti)』(2015)でヒューゴー賞とネビュラ賞をダブル受賞したンネディ・オコラファーは、2018年にコミック『ブラックパンサー: ロング・リブ・ザ・キング』の原作を担当した。2019年にはブラックパンサーことティ・チャラの妹であるシュリを主役に据えた『シュリ: サーチ・フォー・ブラックパンサー (原題: Shuri: The Search for Black Panther)』を手がけている。

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更に、2019年3月にはAmazonプライムビデオが黒人女性SF作家オクティヴィア・E・バトラーの『ワイルドシード』(1980) のドラマ化を発表、ンネディ・オコラファーが共同脚本を手がけることになった。ケニアにおけるLGPBTの権利を題材にした『ラフィキ』(1980) で知られるワヌリ・カヒウ監督との共作となる。原作者のオクティヴィア・E・バトラーは2006年に逝去。『ワイルドシード』が提示した壮大なSFファンタジーを、ンネディ・オコラファーが復活させる。

とはいえ、ンネディ・オコラファーは決して“転身”したわけではない。今年のヒューゴー賞では、ンネディ・オコラファーの「Binti: The Night Masquerade」が中長編小説部門にノミネートされており、2016年以来となる同賞の受賞が期待されている。

劉慈欣は映画脚本に挑戦

メディアミックスはアメリカだけにとどまらない。アジア初のヒューゴー賞を受賞した『三体』が日本でも発売された劉慈欣 (リュウ・ジキン) は、映画脚本に挑戦する。2019年上半期には、原作の短編小説「さまよえる地球」を手がけた『流転の地球』が、興行収入第4位にいう大ヒットを記録。これに続き、2019年6月に制作が発表された映画『末日拯救』では脚本を手がけることとなった。『末日拯救』は10年以上前に執筆されており、『三体』以前から構想されていた作品だが、劉慈欣自身が脚本まで手がけることになった背景には、中国国内のSF熱の高まりがあるのだろう。

郝景芳は映像スタジオを設立

今最も注目されている中国人作家の一人であり、「折りたたみ北京」で2016年にヒューゴー賞中編小説部門を受賞した郝景芳 (ハオ・ジンファン) は、一風変わった形でメディアの枠を飛び越えようとしている。ヒューゴー賞受賞の2016年に映像スタジオを立ち上げると、その後ベンチャーキャピタルからの出資を次々に獲得している。
郝景芳影视工作室 (Hao Jingfang Film & TV Studio) と呼ばれるこのスタジオでは、Netflixの人気SFドラマアンソロジー『ブラック・ミラー』形式の一話完結型のドラマシリーズを製作しており、公開が待たれている。郝景芳自身もドラマアンソロジー作品の原作を手がけるが、張冉 (Zhang Ran)、宝树 (Baoshu) といった中国のSF作家も原作者として名を連ねる。郝景芳は中国SFごとメディアミックスを推し進めようとしているのだ。

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以上に挙げた4名は、いずれもSF最高賞の一つであるヒューゴー賞を受賞した経験のある作家ばかりだ。SF最高賞という栄誉を手にしてもなお活躍の場を広げていく姿は、誉ある文学賞も通過点に過ぎないと言わんばり。今後も増え続けるであろうメディアの枠を飛び越えていくSF作家の登場に期待しよう。

VG+編集部

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